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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第3章 悲しみの魔王編
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試し切りは魔王で

「さてと、昨日ホルストから設計図も貰ったことだし、始めるかな。」

 俺は設計図を拡げる。

 ホルストから貰ってすぐに確認したところ、3日がかりの作業になることが分かっていたため、早めに休んで翌日から作業に入ることにした。


「頑張ってねトウキ。私もしっかりサポートするから。」

「ありがとう。エリカ。」

 こういうとき、妻の支えがあるのはありがたい。

 作業以外は気にしなくて済む。

「わ、私も応援しているぞ。」

 特にできることのないルクレスは落ち着かないようだ。


 俺が作業を始めてから2日後、それは起こった。

「トウキ殿、大変だ!」

 突然ルクレスが工房に飛び込んでくる。

「どうしたんだ。」

「魔王が、魔王がワーガルに向けて進軍している!」

「なんだって!」

「今、王国軍と近衛兵が足止めをしているが、ワーガルに魔王が到達するのは時間の問題だ。」

「クソ!聖剣はまだ掛かるぞ。」

「ともかく、トウキ殿は聖剣を作ることに専念してくれ。私はギルドやワーガル騎士団とともに対策を考える。」

 ルクレスは工房を飛び出して行った。


「ねえ、トウキ。大丈夫だよね?」

「正直わからない。ともかく、エリカも装備を整えておくんだ。」

「う、うん。分かった。」

 エリカはジャングル以来の完全防備をし始めた。

 さすがに俺は全身甲冑を着て作業をするわけには行かないので、装備はしなかった。


 それからわずか数時間後、「魔王見ゆ」の知らせが騎士団からもたらされた。


「トウキ殿、いるか。」

「ああ、ルクレスか。」

「ついに魔王がやってきた。」

「どうするんだ?」

「騎士団員が相手をしても死人が増えるだけだ。私とフランク、ジョゼ、アベルの4人で時間を稼ぐことにした。」

「…わかった。なんとしてでもその間に聖剣を完成させるよ。」

「頼んだぞ。」


 そういうとルクレスは工房を去ろうとする。


「待って。私も行く。」

「エ、エリカ!何を!」

「だって、私の装備はトウキが作ったトンデモ装備なのよ。時間稼ぎくらいならできるわ。」

「け、けど。」

「エリカ殿、覚悟はできているんだな?」

「はい。できています。」

「なら私からは何もいうまい。それに、かつての勇者のパーティーにも行商人エルスがいたというしな。」

「ええ。その通りよ。じゃあ、トウキ、行ってくるね。」


 俺は見送ることしかできなかった。

 そういえば、これって先祖と一緒で勇者のパーティーに武器を提供したことになるのかな。


 ―――――――


「ふむ。お前のいう通り、なかなか手ごわかったわい。」

「回復に専念なされて正解でしたね。」

「うむ。聖剣も未だ復活しておらぬようだ。」

 ワーガルの手前でアーネストと魔王が話している。


「貴様が魔王か。」

「だれじゃ。」

 魔王が声のする方を振り向く。

 そこには、青髪の刀を持った女、レイピアを構える赤紫の髪の女、背の丈以上の大剣を構える青年、トングを両手に構えるおっさん、北部の街でビキニアーマーを着ている女が居た。

 自分が眠っている間に人間のパーティー編成は変わったのだなと思う魔王であった。


「私は、オークレア国王の娘、ルクレス・オークレアだ。」

「ほう。つまり、あの忌まわしき勇者の末裔か。」

「その通りだ。」

「魔王様、あの娘を侮ってはなりません。かつての勇者と同等以上の力を持っております。」

「フハハハハハ。おもしろいではないか。」

「隙あり。」

 ルクレスが魔王に突然切りかかり、割とキツイ一撃を食らわせた。


「うぎゃ!い、いきなり切りつけてくるとは何事だ!」

「いや、隙だらけだったので。」

「勇者と魔王の戦いの前のやり取りとか憧れないのか!」

「全く。」

「ぐっ。アーネストよ。お前の言う通り、この娘侮れないぞ。」

 内心さすがにここまでヒドイとは思っていなかったアーネストであった。


「ええい!こうなれば、こちらも容赦はせぬ!まずはその商人から狙ってやろう!」

 魔王はエリカを指差す。

「かつての戦いでは商人を攻撃するのは最後にしてやったが、今回はそうはせぬ!そちらが先にやってきたのだからな!」

 魔王は手のひらに黒い球を作り出すと、それをエリカに向けて投げつける。

「魔王の魔法を食らうがいい!」


 かーん


 甲高い音を立てて、エリカに命中した魔王の放った魔法は弾き返された。

「は?」

 魔王は混乱した!

「いまだ!」

 ルクレスの号令にパーティーが一斉に襲い掛かる。


「え、ちょ、まって!アーネスト!助けてアーネスト!」

「すみません。さすがにその乱戦に突入すると私でも死んじゃうので…。」

「おいこら!」


 ―――――――


 なんとか聖剣を作り上げた俺はルクレス達が戦っている街の外まで全力で走っていた。

 頼む、なんとか間に合ってくれ!

 聖剣のおかげで俺はあの日親父の墓から工房へ戻ってきたときと同じスピードで疾走していた。


「みんな!待たせた!」


 なんのことはない。

 全ては杞憂であった。

 俺が見た光景は死ぬまで忘れないだろう。

 武器を捨て投降するアーネストを見張るジョゼとアベル。

 エリカが馬乗りし、フランクさんにトングで押さえつけられ、今まさにルクレスに首を落とされそうになっている魔王。

 聖剣なんていらんかったんや!


「おお!トウキ殿!」

 ルクレスが笑顔で対応する。

 いや、場馴れし過ぎでしょ。

 今まさに首を落とそうとしてるのにその笑顔できるのはすごいわ。


「トウキ!聖剣ができたのね!」

「ああ…。」

 俺はエリカにそういいながら、ルクレスに聖剣を渡す。

「これが本来の聖剣エクスカリバーか…。美しい…。」

「すごいキラキラしてますね。」

 ジョゼ、君ももうそっちの人なのね。

 この状況で冷静な感想ありがとう。


「じゃあ、鑑定するね。」


【聖剣エクスカリバー】

 攻撃力 9999

 光属性

 全ステータス強化(極大)

 状態異常耐性(完全)

 自動回復(極大)

 切れ味保持(永久)


「これは、すごいな。」

 いや、魔王をトングで押さえてる方がすごいと思います。

「俺のグレートソードなんか目じゃないっすね。」

 そうだね。


「では、さっそく試し切りと行こうか。」


 ―――――――


『ルクレス姫、勇者となる!』

「魔王の復活という未曽有の危機に見舞われた人類であったが、伝承と同じく、勇者が魔王を討ち取った。

 魔王を討ち取ったのはオークレア国王の第二王女にして、英雄の職に就くルクレス姫(20)である。

 ルクレス姫は国民の間ではあまり知られていない人物であったが、帝国からは『青髪の英雄』として畏れられるほどの人物であった。

 ルクレス姫はワーガルギルドの冒険者やエルス男爵令嬢と協力して、魔王を討ち取った。

 その際には伝承と同じく、聖剣エクスカリバーが使われたとされている。

 ルクレス姫の勇者としての活躍に加え、勇猛さからはかけ離れた可憐な見た目から国民の間ではルクレス姫フィーバーが巻き起こっている。

 本誌の取材に対してルクレス姫は、『おねがいだ。もうやめてくれ。』と目に涙を浮かべつつ、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに答えてくれた。」


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