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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第3章 悲しみの魔王編
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色んな人の悩み

 聖剣の力の弱体化に付け込んで、かつての腹心の子孫が復活の儀式を成功させた。

 魔王復活の報は瞬く間に大陸全土に響き渡り大陸中の人々が怯えた。

 在りし日にくらべ弱体化していたがモンスターも支配下に置いた。

 すべては順調に行っているはずであった。


「アーネストよ。」

「なんでしょうか魔王様。」

「これはどういうことだ。」

「どういうこととは?」

「帝国なる人間国家への侵攻が順調であるのはよい。しかし、忌まわしき勇者の末裔の王国に対する侵攻は全く進んではおらぬではないか。」

「それは致し方ないかと。」

「なぜじゃ。」

「かの国の兵士はかつての勇者のパーティーに引けをとらない装備をしており、さらに国民が日用品で武装していますから。」

「お前は何を言っておるのだ。人間界に溶け込んでいるうちにおかしくなったのか?」

「いえ、実際にご覧いただきましょう。」


 アーネストはヤカンを手渡してきた。

「これは、ヤカンであるな。」

「はい。王国民の間でいま流行の武器でございます。鑑定をしてみてください。」

「う、うむ。」

 しぶしぶ鑑定をしてみる。


「なんじゃこれは!こんなものを国民が持っておるのか!」

「ええ。今の王国は人類史上最強の集団と言っても良いでしょう。」

「じゃ、じゃが、聖剣がないなら問題なかろう。いくら強いとはいえ、この程度ではワシは倒せん。」

「いえ。それが、すでに王国は聖剣の復活計画を進めているようです。宝石を集め終わった段階だと言われています。」

「なんじゃと!なぜそれを阻止しなかったのだ!」

「この2年間魔王様の復活の儀式に専念していたからですよ。まさか、ここまで復活計画が順調に行くとは私も思いませんでした。」

「むむ。してアーネストよ。どうするべきか。」

「そうですね。聖剣が完成する前に彼らを倒すべきかと。」

「仕方あるまい。行くぞアーネストよ。」


 はあ。なぜ復活早々に人間退治にワシ自ら出向かねばならんのだ。


「魔王様。申し上げにくいのですが、今の魔王様ではここからワーガルの街までたどり着くことはできないかと。」

「なぜじゃ。」

「復活してすぐですので本来の力を取り戻しておりません。加えて王国の善戦により魔王様の力の源である人間の恐怖も予想より低いので、今しばらく回復なさらないと。」

「しかしそれでは聖剣が復活するかもしれないではないか!」

「はい。つまり私たちにできることは魔王様の回復のほうが早くなるように祈るだけです。」


 魔王が祈るとは…。


 ―――――――


 ワーガルの街が順調に発展していく中、悩みを抱えている男がいた。

 ワーガルギルド長のフランクである。


 妻のリセとはおしどり夫婦として名を馳せていた。

 子ども達も手が付けられないくらい元気に成長している。

 武器にだって不満はない。


 悩みとは、ギルドのソファでうなだれている新米冒険者のアベルについてである。

 アベルは先日のサンドワイバーンの討伐で冒険者ランクが7まで上昇していた。

 しかし、ギルドでのランクはDで止まっていた。

 というのも、ランクDまでは各ギルド長の判断で昇級できるのだが、ランクCからは全国共通の課題をこなさなくてはならない。

 ところが、先日のサンドワイバーン戦でフライパンが壊れてしまい、武器が無くなったアベルは昇級はおろか、日々の依頼すらこなせなくなっていた。


「どうしたものか。」

 今でも、妻の実家でワーガルの冒険者たちはお世話になっている状況である。

 この上、アベルに俺が武器を用立ててしまっては、おんぶにだっこ状態である。

 さらにタイミングの悪いことに魔王が復活したことにより武器も日用品も品切れ状態であった。


 ただ、フランクとしてもこの青年をこのまま地元に返すのは避けたかった。

 自分やジョゼに次ぐ冒険者は必要であったし、なによりアベルは熱意だけは相当であった。

 フランクはその辺を気に入っていた。


「こんにちは。」

「あら、エリカちゃん。こんにちは。エリカちゃんが1人で来るなんて珍しいわね。」

「ええ、ちょっと用事があって。」

 ギルドにエリカがやってきた。


「実は、相談がありまして。」

「どうかしたの?」

「いまトウキが聖剣を復活させるために腕を磨いているんです。それで、昨日ついにかなりの逸品を作り上げたんです。」

「まあ!それはすごいわ!」

「けど、それがでかくて邪魔なんですよね。で、鋳潰しちゃうのももったいないのでギルドで引き取ってもらえないかなと思いまして。」


「エリカ!任せてもらおう!」

「フ、フランクさん!?ちょっと!私には愛する夫が!」

 まさに僥倖。

 フランクはエリカの側に駆け寄ると、手を掴んで興奮していた。

「い、いや!違うんだ!誤解だ!リセ!フライパンを下げろ!」


 リセの誤解を解いたあと、アベルを連れて工房へと赴いた。

「ああ、フランクさん。来てくれたんですね。えっとそちらは。」

「アベルだ。Dランク冒険者だ。」

「アベルっす。」

 アベルはトウキにぺこりと頭を下げる。


「それで、作成した武器というのは…これか?」

「はい。」

 そこには人の背丈よりも長い剣が置いてあった。

「鑑定しますね。」

 そういってエリカが剣に触れる。


【オリハルコンのグレートソード】

 攻撃力3500

 全ステータス強化(中)

 切れ味保持(永久)


「なんすかこれ!?」

 アベルが驚きの声を上げる。

「なあトウキ。俺のトングもこれくらいにならないか。」

「さすがに武器じゃないのでならないですよ。それに、これ一撃が重い系なのでトングが弱いとは一概に言えないですよ。」

「ふむ。そうか。よし、アベル外に出て持ってみろ。」

「は、はい!」


 工房の外でグレートソードを構えたアベルはなかなか様になっていた。

「いいじゃないか。」

「けどこれ、めちゃくちゃ重いですよ。」

「それくらい振り廻せるようになれ。」

「うっす。」

「えっと、アベルが引き取ってくれるってことでいいんですよね。」

「もちろんだ。むしろトウキこそいいのか?」

「ええ、次は本番のつもりなので、それに使い道ないですし。」

「そうか。すまないな。」

「トウキさん!ありがとうございます!」


 アベルの眩しい笑顔をトウキはなぜか直視できなかった。


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