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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第2章 材料収集編
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冒険者も楽じゃない

 なんとか聖剣に必要とされる宝石を3つ手に入れることができた。

 ただ、残りのシャイアの街が一番の問題だった。

 場所が分からない以上どうしようもない。


「こんにちは。」

「あら、トウキ君こんにちは。今日も宝石の依頼かしら?」

「ええ、ただ今回はちょっと問題があって。」

 俺はリセさんに状況を説明する。


「うーん、シャイアの街は載ってないわねぇ。」

 リセさんは推奨依頼料の為の本をペラペラと捲りながら言う。

「やっぱりですか…。」

「まあ、見つかればうちの人かジョゼちゃんを派遣すれば大丈夫でしょう。ルクレスちゃんもいるしね。」

「ですね。問題はどうやって見つけるかですね…。」


 リセさんは少し悩むとお願いをするように小さめの声で話し出す。

「そうねぇ。もしよかったら、シャイアの街の探索だけ複数人が受注できるようにしてギルドに依頼してくれないかしら。」

「こちらとしては全然問題ないですけど、どうしてですか?」

「実はね。ワーガルのギルドって北部の辺境では唯一のギルドでしょう?それで周辺の街から冒険者になろうって人が20人も集まってくれたの。けどね、所属してる冒険者がジョゼちゃんとうちの人以外はみんなE~Fランクなのよ。」


 確かに、いっつもフランクさんとジョゼは忙しそうにしてるけど、他の冒険者が働いてるところなんて見たことないなぁ。


「なるほど。少しでも経験を積ませてあげたいんですね。」

「それだけじゃなくてね。ジョゼちゃんとうちの人は依頼があるし単価も高いからいいんだけど、他の子は生活するのもギリギリみたいでね。実家の宿屋も付け払いにしてあげて支援してるんだけどね。」


 冒険者は低ランクだと、一仕事1万E前後なんてザラである。

 一人前と認められるCランクになれば100万Eの仕事なども舞い込んでくるようになる。


「そうですか。では、20人全員が受注できるように設定してくれていいですよ。ついでに旅費もこちら持ちで大丈夫です。」

「ほうとうに!ごめんなさいね、無理を言っちゃって。」

「いえいえ、ただ報酬は探索の相場しか出しませんよ?」

「それは当然よ。冒険者はそこまで甘くないわ。」

 俺はリセさんに依頼書を提出してギルドをあとにした。


 ―――――――


「あちぃ…。」

 俺は今、王国西部の砂漠地帯に居る。

 数日前、街で一番金持ちと言われている鍛冶屋のトウキさんが、ギルドに依頼を出した。


『交通費その他実費は依頼者負担!1週間の探索参加で3万E、シャイアの街を発見したら100万E!』


 この依頼に俺を含めたワーガルの冒険者は飛びついた。

 なにせ、実費は負担してくれるので、参加中は生活に困らない。

 ありがたいことだ。


「おーい、アベル!なんか見つけたかぁ?」

「こっちは何にもないぞ!」

 パーティーメンバーの男が声を掛けてくる。

 今回の探索は何があるかわからないとのことで、リセさんが事前に4人パーティーを組ませている。

 ああ、俺も冒険者として名を上げてあんな綺麗な奥さん欲しいなぁ。

 ただ、リセさんに鼻の下を伸ばしていると、カチカチカチというトングの音がどこからともなく聞こえてくる。

 おかげで誰もリセさんには手を出していない。


「はあ…。」

 稼いで来ると言って村から出てきたが、現実は甘くない。

 ギルドでのランクがFの自分では日頃の生活をするのもままならない。


 名前:アベル

 職業:冒険者(ランク1)

 スキル:近接攻撃


 未だに鑑定すら覚えていない自分のステータスを見て落ち込む。

 その時だった。


「な、なんだありゃ!!!」


 1人の男が大声を上げる。

 周囲に居た冒険者たちが声のした方を見る。

 そこには、サンドワイバーンと呼ばれる、砂漠に生息する最低級の竜型モンスターが飛んでいた。

 最低級とはいえ、竜型である。

 Cランク冒険者が3人掛かりでやっとと言われている。


「に、にげろー!!!」


 1人が叫ぶともう混乱は避けられない。

 次々と半べそをかきながら逃げて行った。

 サンドワイバーンはその特徴として飛ぶだけでなく、砂に潜ることができ、かつ、その方が速い。

 逃げる冒険者に向けて、砂の筋が迫る。


「こんなことで逃げてたら話にならない!俺は冒険者でウハウハな生活を送るんだ!」

 俺はなけなしの金で買ったフライパンを手に、サンドワイバーンが砂から出てくるタイミングを狙う。

「いまだ!!!」

 フライパンを思いっ切り振り下ろす。

 砂から飛び出してきたサンドワイバーンの脳天にフライパンが直撃し、サンドワイバーンは光となって消えた。


 結局、シャイアの街を発見することはできず、ワーガルギルドが総力を挙げて行った探索任務は失敗に終わった。


 ―――――――


「結局だめでしたかぁ。」

 俺は依頼の報告を受けるのと報酬の支払のためにギルドを訪れていた。

「トウキ君、ごめんなさいね。」

「いえ、謝ることではないですよ。こりゃ、自分たちで行くしかないですかね。」

「そうね。そうしてもらうと助かるわ。まさか、サンドワイバーンが出るなんて思わなかったわ。」

 すいません。俺のせいですそれ。


「けど、討伐したんですよね?」

「ええ、トウキ君のフライパンを使ってね。ただ、一撃で壊れてしまったから調査を続行することはできなかったわ。」

「まあ、あれは一応・・調理器具ですからね。」

「そう…よ…ね…?」

 いや、なぜ疑問形。


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