冒険において塔の難易度は高いのが相場だった
俺とエリカはルクレスに連れられて、修羅の塔まで来ていた。
周囲は近衛兵ががっちり守っていた。
「高いわねぇ。」
エリカが見上げながら言う。
「高いなあ。けど、てっぺんは地上からでも見えるじゃないか。」
俺はルクレスが登りきれないというから、てっきり天空を貫くようなとんでもない建造物なのかと思っていた。
「なあルクレス、なんでこれが登れないんだ。」
「実際に登ってみるから、見てくれ。」
ルクレスは俺たちを塔の中へと案内した。
塔の中は何もなく、ただ壁に沿ってらせん状に階段が上へ上へと続いているだけであった。
「では、登るぞ。」
ルクレスは英雄らしくドンドン登って行く。
気が付けばもうすぐ中ごろまで行きそうである。
ルクレスの姿はかなり小さくなっていた。
と、次の瞬間。
「き、消えたぞ!ルクレスが消えた!エリカ!見たか!」
「うん。うん。うん。」
エリカは混乱して首振り人形のように何度もうなずく。
先ほどまで順調に登っていたルクレスが突然階段から姿を消したのである。
俺たちが何が起こったのか分からず、固まって見守っていると、階段を降りるルクレスの姿が現れた。
「意味がわかっただろ?」
階段から飛び降りたルクレスが俺たちに問うてくる。
あの高さから飛び降りて、足は大丈夫なのだろうか。
「い、いや。さっぱりわからないんだけど…。トウキはどう?」
「俺も何がなんだか…。途中でルクレスが消えたとしか。」
「むう。ではトウキ殿とエリカ殿も登ってみるといい。」
「「ええっ!」」
「大丈夫だ、死にはしない。」
「ル、ルクレスってすごかったのね…。」
「そ、そうだな。」
俺たちは塔を登っていた。
かなりの時間を登っていたが、まだまだ上を見ると残っている。
「ね、ねえ…。も、もう、結構来たと思うんだけど…。」
「あ、ああ…。それは…思ってた…。」
「なんで…、最近は…、こんな息切ればっかりしなきゃいけないのよ…。もうだめ、休憩。」
「そうしよう…。」
俺はふと下を見てみる。
「ど、どういうことだ!エリカ、下を見て見ろ!」
「な、なによ急に。ってなによこれぇ!」
階下に広がる光景は明らかに、今までの登った高さに合っていなかった。
「もっと登ったはずよね。」
「そのはずだ。」
俺たちは塔を降りることにした。
「降りるときは、視覚のまんまなのね。」
「なるほど。こりゃルクレスでも登りきれないな。」
「どういうこと?」
「つまり、ルクレスが消えた地点があっただろう。あそこからはどんだけ頑張っても上にいけないんだよ。」
「どういうからくりよ。」
「俺が知るわけないだろ。」
「そうよねぇ。」
俺たちはルクレスと合流した。
「おお、2人とも無事だったか。あまりにも遅いから死んだのかと思ったぞ。登った兵士が10人ほど帰ってこないしな!」
「おい。」
「ははは。冗談だ!」
ちくしょう、ルクレスにしてやられた。
なんか悔しい!
「しかし、これどうするかなぁ。」
「あ!そうだ!」
「どうしたエリカ?」
「あの人がいるじゃない!」
「ああ、あの人か。」
「どの人だ?」
ルクレスは首を傾げる。
数日後、俺たちはフランクさんを連れて修羅の塔にやってきた。
リセさんは最初かなり渋っていたが、エリカがトング代をチャラにするといったら、笑顔で送り出してくれた。
「ふむ。この塔の外壁を登って行けばいいのだな。」
「ええ。フランクさんにしかできない芸当ですよ。」
「任せろ。」
そういうとフランクさんは相棒を巧みに使って順調に登り始める。
「おー、すごいなー。」
「ほんとね。」
「英雄にだってできないことがあるのだ。」
「いや、これはできなくていいんじゃない?」
「私もそう思うわ。」
「そ、そうか。」
「あ!」
「あ!」
「あ!」
「フランクさんも消えたね。」
「外壁もダメかぁ。」
「フランク殿はどうするのだ?このままではずっと登っているのでは?」
俺の脳裏にギルドの受付のお姉さんの顔がチラつく。
フランクさん溺愛してるあの人を敵に回すのはやばいよ。
「「フランクさーーーーーん!!!!!」」
俺とエリカは腹の底から声を出して呼ぶ。
俺たちの叫びに反応するように、トングを持ったおっさんが空から降ってきた。
「なんだトウキ。」
「ああ、よかった。フランクさん、生きてたんですね。」
「当たり前だ。ただ、壁を登っていただけだからな。」
「私たちの声が聞こえて本当に良かったです!」
エリカは泣いていた。
「しかし、これで振出か。」
「ねえ、もうさ、この塔折っちゃったら?」
あら、うちの嫁さんったら過激。
「たしかに、エリカ殿の言うことも一理ある。」
わお、姫様も大胆。
「ふむ。登れない以上そうするか。」
やだ、ギルド長も豪快。
「うむ。満場一致だな。なに、国王には私から話を通しておくさ。」
フランクさんとルクレスは近衛兵と塔を倒すための打ち合わせをし始めた。
そういえば、近衛兵もトンデモ装備なんだった。
やがて打ち合わせが終わったのか、ルクレスとフランクさん、数名の近衛兵が塔の片側に集まる。
「トウキさんたちは下がってください。危ないですから。」
近衛兵に誘導されて俺たちは塔から離れる。
「エリカ。」
「なによ。」
「塔に人間が攻撃を始めたぞ。」
「始めたわね。あ、ヒビが入りだしたわよ。」
「すごいなぁ。」
「すごいわねぇ。」
ドスーーーーーーン!!!!!!!
「倒れたわ。」
「倒れたね。」
「「………。」」
無事にスターエメラルドが手に入ってよかったと思いました。




