冒険において塔の難易度は高いのが相場
俺は一時期の激務からは解放されたものの、王国軍の装備とエリカの店への商品作成を行っており、忙しい日々を送っていた。
どうしてこうなったんだ…。
聖剣解体したからか。
とはいえ、このままいつまでも聖剣の作成を放置するわけにも行かなかったので、俺はギルドを訪ねた。
「あら、いらっしゃいトウキ君。久しぶりね。」
「ええ、あの騒動で匿ってもらって以来ですね。」
「ふふ。そうね。ずいぶん忙しくしていたみたいね。」
「鬼軍曹殿が見ていますから、サボることもできませんでしたよ。」
「まあ!うふふ。」
ああ、リセさん癒されるなあ…。
「ところでトウキ君。うちの息子たちにも何か特殊な日用品作ってくれないかな?」
前言撤回だ。
頬を赤らめて、よだれたらしてるよ、この人。
「リ、リセさん。その話は置いといて、今日は依頼に来たんですよ。」
「そうなの。残念。」
「いやいや、リセさんこっちが本業でしょう。」
「冗談よ。で、どんな依頼かしら?」
いや、全然冗談の目じゃなかったぞ…。
「聖剣の次の宝石、スターエメラルドがある修羅の塔に行ってもらいたいんです。」
「あー、ごめんなさい。それはできないわ。」
「どうしてです?」
「あそこは元々帝国領で、今は占領しているだけだから、王国ギルドとしてはあまり関わりたくないのよね。それに、今は王国軍が周囲を固めていて、とてもじゃないけど冒険者が入れる雰囲気ではないわ。」
「そうなんですか…。」
こうなると、頼りになるのは…。
「今の話聞かせてもらったぞ!」
ほらやってきた。
今回は普通に正面の扉から入ってきた。
キッチリ体は仕上げて来ていた。
「あのね、トウキ君。」
「なんですか?」
リセさんが小声で話しかけてくる。
「ルクレスちゃん、ずっと外から覗いて、飛び出すタイミングを計っていたみたいなのよ。」
「ああ、わかりました。」
俺はリセさんに目配せをする。
「今の話聞かせてもらったぞ!」
「い、いつの間に!」
「なに、安心しろ。私に任せておけば修羅の塔に行くことなどたやすい!」
「おお!さすがルクレスだ!」
俺はこれでもかとルクレスを褒める。
「そうだろう、そうだろう!さらに、私にかかれば宝石など簡単に手に入れてやろう!」
「な、なんだって!」
「うむ。トウキ殿はここで待っているがいい!」
そういうと、ルクレスは駆け出して行った。
「トウキ殿、すまぬ…。ぐすっ…。」
数日後、ルクレスは工房に来るなり、半べそになりながら謝罪してきた。
「ちょ、ちょっとルクレス。お姫様がそんな顔しちゃダメでしょ。」
エリカが顔を拭いてやる。
男爵令嬢に鼻をチンしてもらっている今の状況を近衛兵が見たらどうなるのだろうか。
「い、一体なにがあったんだ?」
「登れなかった。」
「はい?」
「スターエメラルドのある修羅の塔の頂上まで登れなかったと言っているのだ!」
「なんですとぉ!」
ルクレスで登れないって相当やばいんじゃないか…。




