事情聴取
今はエリカがルクレスを風呂に押し込んでいる。
「いつも通りでいいと言ってから扱いが酷くないか。なあ、エリカ殿。」とルクレスは抗議していたが、いつまでもあの匂いでいる訳にも行かないだろう。
ルクレスは風呂から出てくると「ああ、忘れるところだった。」と言って、俺に対して1つの封書を差し出した。
封書には良い思い出がない。
「これは?」
「父上、国王からの呼び出しだな。」
「お願いします!私には愛する妻がいるんです!殺さないで!」
「この人、時々屑ですけど、悪い人じゃないんです!どうかご助命を!」
「なぜ父上がトウキ殿を殺さねばならんのだ!」
「じゃあ、他に何の理由が!」
「トウキ殿は人の父親をなんだと思っているのだ!ふう…、今回の国境で起こったことについてだ。帝国軍を退けた民衆が持っていた日用品が全部、エリカ殿の店の印がしてあったからな。」
「ああ、なんだ。それか。」
「それかとはなんだ?トウキ殿なにか他に隠していることがあるのか?」
「ないですよ。」
すでにパンツの中は大洪水であった。
―――――――
俺たちは王都に向かう馬車の中に居た。
「そういえばルクレス、修羅の塔への目途がどうとか言っていたよね。」
俺はすっかり聞き忘れていたことを聞いた。
「ああ、帝国軍の混乱に乗じてな。近衛と私で修羅の塔周辺を占領したんだ。これで探索に行けるぞ。」
「なるほど。それで目途がね。」
「ねえトウキ。」
「ん?どうした?」
「今回はどこに食べにいこっか!」
エリカは満面の笑みで首を傾げながら、楽しそうに話しかけてくる。
俺とルクレスは体の震えを抑えるので必死だった。
―――――――
王都に着くと俺とルクレスは王城へ。
エリカは屋台街へ行った。
食べても太らない体質にルクレスが少々嫉妬していた。
王城に到着すると、早速国王の下へと連れて行かれた。
前回と違い、会議室のような部屋に通された。
「トウキよ、久しぶりだな。」
「はい。聖剣作成を任されておりながら、ご無沙汰しており申し訳ございません。」
「よいよい。実はな、既にルクレスから聞いていると思うが、そなたの作成した日用品について聞きたいのだ。」
俺は隠していてもいいことはないだろうと、すべてを話した。
「なるほど。異常な鍛冶の腕で作成した日用品がとんでもない能力を付与されるに止まらず、基本ステータスも上昇してしまったということか。」
「仰るとおりにございます。」
「そのおかげで我が国は助かったわけだが。これはどうしたものか。」
国王はしばらく「うーん。」と悩んだあと、提案してくる。
「ではこうしよう。すでに作ってしまったワーガル以外の地方軍に対して武器を供給することを禁止する。地方軍が王国軍より強いのは問題だからな。」
「はい。」
「次に、王国軍の装備を作ってもらいたい。というのも現状では地方軍が日用品で装備を固めてきたら厄介であるからな。そなたの話では武器として作ったものが日用品に劣ることはないのだな?」
「はい。(1人を除いて)ありません。」
「そなたの危惧していた大戦争にはならんだろう。我が国は基本的に帝国に侵攻することはしていない。戦争は金が掛かってしかたないからのう。修羅の塔の占領は例外じゃ。」
「承知しました。」
「それと、国内にも新しく法を作るとしよう。戦争を起こした貴族は双方へ王国軍を差し向けるという法をな。」
「ありがとうございます。」
はあ…。
なんのことはない、今まで心配していたことが一気に解決したのだ。
こんなことならルクレスを通じてもっと早く相談しておけばよかった。
「ではトウキ。さっそく作成に取り掛かってもらおうか。ホルストをここへ。」
国王がそういうと、部屋に金髪の青年が入ってきた。
「ホルストだ。今後はこの者を頼るといい。」
「ホルスト・シュミットだ。よろしく。」
それだけ言ってホルストは少しだけ頭を下げた。
「つまり、ここで制作せよということでございますか?」
俺は国王に尋ねる。
「そうじゃ。そなたを信頼しないわけではないが、王国軍の装備を作る前に、別に武器を作成されても困るのでな。とりあえず、近衛兵の装備を作るまではここに居てもらう。それ以降はワーガルで順次王国軍の武器を作成してもらって構わん。」
「承知いたしました。」
俺はホルストとルクレスに連れられて部屋をあとにした。