男だって虫が嫌い
幸先よく宝石の1つであるオレンジサファイアを手に入れることができた。
俺は次の攻略目標をどうしようかと考えていた。
地理的に近いのは東の修羅の塔であったが、修羅の塔はユーグレア帝国領であった。
王国と帝国はしばしば国境での紛争をしており、とてもじゃないが今すぐ探索に行けるような雰囲気ではなかった。
更に、西のシャイアの街に至っては、伝承上その存在があるとされている程度であって、正確な場所が不明の遺跡であった。
結局消去法で次は一番遠い南のムンブルグ・ジャングルにあるブラッドルビーを手に入れることにした。
「こんにちは。」
「あら、トウキ君こんにちは。」
すっかりギルドの受付が板についたリセさんに次の目的地を伝える。
「うーん、ちょっと遠いわね。南部の街のギルドに頼むか、全国手配した方がいいかも知れないわ。最近は夫もジョゼちゃんも引っ張りだこだから。」
「そうですか…。では、南部のギルドに問い合わせてもらえますか?」
「ええ、わかったわ。」
数日後、リセさんからの回答は全ギルド拒否であった。
そんな高難易度依頼をこなせるものは所属していない、或いは手が空いていないというのが理由である。
「全国手配しかないですかねぇ。」
「そうねぇ。ただ、全国手配を掛けても、手を上げる冒険者が居るかはわからないわ。」
「うーん。」
そのとき、ここ数日色々な依頼で留守がちだったジョゼが帰ってきた。
「どうしましたトウキさん。何か悩みですか?」
「ああ、ジョゼ。久しぶり。実は、次の宝石の採取を受けてくれる冒険者を探していて。」
「なんだ。そんなことなら私が行きますよ。」
「ほんとうか!?」
「そうね。あなたなら大丈夫だと思うわ。」
リセさんが太鼓判を押す。
「それで目的地はどこですか?」
「ムンブルグ・ジャングルだよ。」
それを聞いた途端、ジョゼは固まってしまった。
「ト、トウキさん。ごめんなさい。そう言えば他に依頼があったんです。」
「あら、ジョゼちゃんに依頼なんてありませんよ?」
リセさんが素早く逃げ道を潰しに来る。
「そ、そうですか。勘違いですか。」
「なにか都合が悪いの?」
俺はなんだか焦っているジョゼに尋ねる。
「い、いや!大丈夫です!よし、トウキさんも一緒に行きましょう!」
「えっ、なんで。フランクさんを連れて行けばいいじゃない。」
「ごめんなさい、トウキ君。うちの人は依頼が詰まっているのよ。」
「そうなんですか。では、ジョゼ1人でお願いするしかないですね。」
運の悪いことに、ルクレスは緊急招集がかかったとかで、一旦王都に帰っていた。
「ぐっ…。」
―――――――
「トウキ、今日の晩御飯はどう?新メニューなんだけど?」
「うん、うまい!これいけるな!」
そんな仲睦まじい夫婦の会話をしていると、工房の扉を叩く音が聞こえた。
「すいません。もう工房は閉めているんです。明日にしてもらえませんか。」
俺は扉を叩く人物に向かって話しかける。
「トウキさん、私です。ジョゼです。」
「ジョゼ?どうしたんだ?」
俺は工房の扉を開ける。
「実は、頼みたいことがあって…。」
「「はい!?虫が嫌い!?」」
俺とエリカはジョゼが語りだした内容に驚愕する。
「恥ずかしながら、子供頃から虫はダメなんです。」
Sランクに一番近い(最近はフランクさんが猛追しているそうだが)『紫電』は小さくなっていた。
「いやいやいや!だってフランクさんと一緒に前にストーンスパイダーを討伐してたじゃないの!?」
「あれはモンスターじゃないですか!」
「な、なんじゃそりゃ!」
どうも、虫型のモンスターは討伐対象として勇敢に戦えるが、普通の虫はダメとのことであった。
「なるほど。それで俺について来てほしかったんだね。」
「そうです…。」
沈黙が流れる。
「…すいません。俺も虫、無理なんです。」
「え!?」
俺とジョゼは熱い握手を交わした。




