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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第2章 材料収集編
27/62

多分王国で最強のパーティーじゃないかな

 ピナクル山はさほど高い山ではない。

 ただ、北部ということもあって非常に寒いこと、角度が急であること、そしてスノージャイアントという毛皮に覆われた巨人のモンスターの群生地であることから、高難易度のダンジョンと言われている。


「さ、寒いですね。」

 先ほどから始まった吹雪に対して、ジョゼが気を紛らわせようと話しかける。

「確かにこれは少し厳しいな。」

 ルクレスは鼻水を凍らせながら答える。

「地図によると、もう少し行ったら洞窟があるはずだ。そこで少し休憩しよう。」

 フランクが進むべき方向を指差しながら2人に話しかける。


 洞窟に入った3人は、持っていた装備品を使って、火を起して暖をとった。

「ふう。あったかい。」

「そうだな。」

 そういいながら、解けた鼻水を拭う。

「吹雪が終わるか弱くなるまでここで休むとしよう。」

 フランクの提案に反応するように「グルル。」という低い声が響く。

「はは、ルクレスは面白い返事をするなあ。」

「フランク殿、私はあんなに低い声はでないのだが。そもそもなぜいきなり私を疑うのだ。なあ。」

「グルルル!」

 無視するなとばかりに更に声が響く。


「あ、あの…。2人とも、声は洞窟の奥から聞こえると思うのですが…。」

 ジョゼが真面目に答える。

 それと同時に、洞窟の奥から何かが突進してくる音がする。

「グルルルゥゥゥゥ!!!」

 どう見てもスノージャイアントにしか見えない巨体が足音を鳴らしながら叫び声と共に突っ込んでくる。


「お前かぁぁぁぁ!!!!」


 ルクレスが一閃する。

 よっぽどフランクにからかわれたのに腹が立ったのだろう。

 綺麗にスノージャイアントは上半身と下半身に分かれて、光となって消えた。


「グルル…!」

 奥からはさらに複数の声が聞こえる。

「待っておるがいい。」

 そういうとルクレスは洞窟の奥へと突き進んでいった。

 数分後、返り血まみれのルクレスが帰ってきた。

 ジョゼはルクレスだけは怒らせないようにしようと心の底から誓った。


 洞窟には平穏が戻っていた。

「そういえばジョゼ殿。」

「は、はい!なんでございましょう!」

「声を掛けただけでなぜそこまで震えているのだ…。まあよい。なぜジョゼ殿のような若い女性が冒険者などしているのだ?」

「ふむ。それは俺も気になっていたところだ。」


「あの、えっと。私の家は代々役人をしているんです。けど私は役人になれるほど頭が良くなくて。ただ、小さいころから近所の人に教えてもらっていた剣だけは得意でしたので。これは、私を不憫に思った父が持たせてくれた水晶でできているんです。」

「なるほど。」

「まさかこんなとんでもないレイピアになるとは思いませんでしたけどね。」

「それは確かにな、私もこんな剣を手に入れられるとは思わなかったよ。」

 2人はそういうと笑いあう。


「俺もだ。まさか俺に日用品のセンスがあるなんて。トウキのおかげだ。」

 フランクがそういうと、2人は「ちょっと一緒にされたくないですね。」とばかりに目線を逸らす。


 3人は洞窟から出ると、山頂を目指して歩いて行く。

 途中スノージャイアントの群れと遭遇したが、すべて素材の毛皮になっていた。

 そしてついに山頂付近に到達した。


「これどうしますか?」

 ジョゼが目の前のリセ…もとい絶壁を指差していう。

 ピナクル山の山頂は垂直に切り立っており、並の人間と装備では到底上ることはできない。

 だが、この男は違った。

「俺に任せろ。俺はこの手のものは得意だ。」

 ルクレスは先ほどの仕返しに、「どういう意味で得意なのだ?」と聞こうとしたが、王族としての羞恥心からやめた。

 もっと羞恥心を働かせるところがあるような気がするが。


 フランクはトングを取り出すと、岩壁の凹凸を利用して、ある時は出っ張りを掴み、ある時はへこみにトングを刺し、すいすいと登っていった。

「あれ人間なんですか?」

「ああ、フランク殿は間違いなく人間だ。それよりもあれはホントにトングなのか?」

「すいません。それは私にも自信がないです。」


 女性陣が混乱していると、フランクは何かを投下する。

 それは見事なオレンジサファイアであった。

「よし。さすがだフランク殿。」

「これで帰れますね。うう、早くお風呂であったまりたい。」

「いやまだ、もう一仕事残っているようだ。」

 地上に降りてきたフランクが鋭く反応する。


 3人の目の前には、ダーク・ラットと呼ばれるモンスターが今にも飛び掛からんとしていた。

「な、なんでS級モンスターがこんなところに!」

 ジョゼが焦りをあらわにしつつ叫ぶ。

 ダーク・ラットは魔王が居た時代の能力を色濃く残すモンスターであり、体からは黒い霧のようなオーラを湧き立たせている。

 ダーク・ラットに噛まれると全身に黒い斑点が浮かび上がり、悪夢にうなされながら死を迎えると言われている。


 ダーク・ラットは、得物を逃しはしないとばかりに飛び掛かってくる。

 3人はダーク・ラットを難なくかわす。


「やるしかなさそうだな。」

 さすが英雄である。

 覚悟を素早く決めると雷虎を構える。

「そのようだな。」

 続けざまにトングを構える。

「わ、わかりました。」

 遅れて透き通るような刀身のレイピアを構える。


「俺が動きを止める。2人でとどめを刺してくれ。」

 そういうと、フランクはダーク・ラットに突っ込んでいく。

 ダーク・ラットはフランクに標的を合わせると、すばやく噛み付きにかかる。

 だが、フランクは両手のトングで口をがっちりと掴むと、口を無理やり閉じさせる。


「いまだ!」

 フランクの掛け声に素早く反応するとルクレスは飛び上がり雷虎を切り下す。

 ジョゼはレイピアを構えて渾身の一突きをすべく突撃する。

「ギギィィィィィ――――!!!」

 甲高い断末魔を出すとダーク・ラットは光となって消えた。


 ―――――――


 3人は無事にギルドへと帰還すると、トウキに報告した。

「おお!これがオレンジサファイアか!」

 トウキはおもちゃを手に入れた子供のように喜んでいる。

 聖剣うんぬんの前に、鍛冶師として素材に興奮している。

「あんたねぇ、また好奇心で溶かすんじゃないわよ。」

 一緒に来ていたエリカが突っ込んでくる。

「わかってるよ。さすがにしないよ。」


「ふう。トウキの役に立ててよかったよ。」

「いえ、フランクさん、ありがとうございます。」

 俺は頭を下げた。

「なに、俺たちは報酬をもらって働いたんだ。そこまで感謝しなくていい。」

 それを聞いたエリカが反応する。

「あ、そういえば報酬ですよね。はい、ジョゼ。」

 そういってジョゼに2500万Eを渡す。

「あ、ありがとうございます。うわぁ、何に使おう…。」


「それからフランクさんにはこれ。」

 エリカが渡したのは3000万Eの請求書であった。

「こ、これは…。」

「えっと、ミスリルツイントングの実費5500万Eから2500万Eを引いたものです。」

「なっ!」

「前回のはサービスというか、罪滅ぼしというか…。さすがに今回は頂かないと私たち夫婦にも生活がありますから。」

 こういうときエリカはたくましい。

 俺はやめておこうと言ったのだが、きっちり雷虎の分も王都に請求書を送っていた。


「ぶ、分割でお願いする。」

 フランクさんの後ろにいたリセさんから黒いオーラが出ている気がした。


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>ダーク・ラットは、得物を逃しはしないとばかりに飛び掛かってくる。 獲物?
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