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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
20/62

男にはやらなきゃならないときがある

翌日の新聞は『大逆転!エルス男爵、別の男性との結婚を王国政府に申請!即日許可!』の記事が一面を飾った。

「わずか1日での急展開であった。

カフン伯爵が婚姻を申請していたエルス男爵の一人娘エリカ氏(20)が別の男性と結婚することとなった。

爵位継承権を持つ女性貴族と平民男性が結婚する場合には平民が婿入りすることとなっており、平民が貴族となるため、王国政府の許可が必要である。

エルス男爵はワーガルの街の鍛冶師であるトウキ氏(21)とエリカ氏との婚姻を申請、異例の即日許可となり、カフン伯爵の申請は却下されることとなった。

ある王国政府関係者によると、とある王族が関与しており、許可せざるを得なかったとのことだが、真偽は不明である。」


工房で俺はエリカとルクレスと新聞を読んでいた。

「この王族ってもしかして…。」

「ああ、私だ。エリカ殿のお役に立ててよかったぞ。」

エリカは固まってしまった。


「ルクレス、すまなかったな。変な頼みごとをして。」

「はは。良いのだ。トウキ殿には世話になっているのだから。婚姻の許可は父上も簡単に同意してくれたが、エクスカリバーを指輪にする件は説得するのに苦労したぞ。」

「ぼぇ?」

うちの新妻はとんでもない音を出して再び動かなくなった。


「トウキ殿がいうには、エクスカリバーを復活させることはもはやできない。代わりに新たな聖剣をトウキ殿が作成するとのことだと言ったら、やっと父上も納得してくれたよ。」

「じ、じゃあこの指輪って…。」

「ああ、元聖剣だよ。」

俺はさらっと答える。

「あ、あ、あんたねぇ!なんてことしてくれてるのよ!国王陛下が許可くれなかったらどうするつもりだったのよ!このバカ亭主!」

そう言いながら、エリカは蹴りをお見舞いして来る。

「ははは。早速尻に敷かれているな。」

ルクレスはやはりずれている。


「ちょ、ちょっと待てエリカ、とりあえず鑑定してみてくれ。」

「もう!」

そう言いつつ鑑定してくれる。


【光の指輪】

防御力800

状態異常耐性(完全)

自動回復(極大)


「なによこれ…。」

「さすがトウキ殿だ!これなら聖剣の復活も近いな!」

「いやー、エクスカリバーを指輪の大きさまで圧縮したら本来の輝きを取り戻してさ。イケると思ったんだが、予想通りだったな。それに、お前には傷ついて欲しくないから。」

「トウキ…。」

「エリカ…。」

俺たちは見つめ合う。

言えない、証拠隠滅も兼ねているなんて。


「ところで、どうしてトウキ殿はエクスカリバーの本来の輝きを知っているのだ?」

「…ん?俺そんなこと言いましたか?さてと、仕事しないと。聖剣のためにがんばるぞー。」

「私もそろそろ昼食の用意しないと。」

俺とエリカはそそくさとルクレスの側を離れる。

「なあ、聞き間違えではないと思うのだが。トウキ殿。なあ。」


しつこく聞いてくるルクレスをまくのには苦労した。


俺たちが仲良く昼食を食べ終えたころ、そいつはやってきた。

「トウキとやらはいるか。」

突然男の声が工房に響き渡る。

「私がトウキですが、どちら様でしょうか。」

そこには綺麗な金髪をした、端正な顔つきの青年が立っていた。

「私はバート・カフンという。貴殿にエリカ殿を掛けて決闘を申し込む。」

「はい?」

「決闘を申し込むと言っているのだ。まさか断るということはないな。」

なんだこいつ?


俺が混乱していると、エリカが応答する。

「バートさん、申し訳ありませんが決闘をお受けする理由が夫にはありません。」

「いや、エリカ殿、そうはいかないのだ。」

ルクレスが口を挟む。

「どういうこと?」

「トウキ殿は今や貴族である。王国法では貴族は申し込まれた決闘を拒否すると爵位が1つ低下するのだ。」

「それってつまり…。うちは最下位の男爵だから…。」

「エルス家はお取り潰しだ。普通、貴族は怪我をしたくないから決闘なんぞせず、戦争や交渉ですませるが。」

「そういうことだ。トウキ、俺と決闘してくれるな。」

「は、はい。」

「では、3日後にまた来る。それまでに立会人と得物を用意しておくのだ。」

「ま、待ってくれ。俺が勝ったら金輪際伯爵家はワーガルに関わらないと約束してくれ。」

「よかろう。勝てればな。」

そういって、バートは去って行った。


「な、なあルクレス。」

「なんだトウキ殿。」

「決闘って相手殺しても、問題ないのか?」

「ああ、たとえ男爵が公爵の人間を殺しても決闘なら文句は言われないぞ。」

「そうか。それを聞いて安心したよ。」

だって、俺の武器じゃ殺さない方が難しい。

「トウキ、軽くひねっちゃってね。」

「エリカ殿はトウキ殿を信頼しているのだな。」

いや、うちの夫婦には負けるという概念がないだけだと思います。


俺は武器を作るべく素材屋に足を運ぶ。

「こんにちは。」

「おう、若旦那。」

「やめてくださいよ。」

「ははは。おっとすまねえ。今日はもう売り切れなんだ。」

「はい?」

「いやな、さっき金髪の兄ちゃんがきて、全部くれっていうから売っちまったんだ。相場より高く買ってくれるってんでな。」

バートのやろう!

周辺の街の店からはことごとく素材が無くなっていた。


工房に戻った俺はどうしたものかと悩んでいた。

「どうすんのよトウキ!」

「エ、エリカ殿!?トウキ殿への信頼はどうしたんだ!?」

「武器の無いトウキなんてクソ雑魚ナメクジなのよ!」

「おいエリカ。さすがにキレるぞ。まあ確かに、指輪のあるエリカが決闘した方が強そうではあるが。」

「ああ、私はあの男の若い劣情の捌け口にされるのよ…。」

「お前なあ…。」

しかしどうするかなぁ。

新しく作れないとなれば、既に作ったやつで行くしかないなぁ。


3日後、ワーガルの街の外では大勢のギャラリーが囲む中心で2人の男が対峙していた。

「トウキ、逃げずによくぞ来た。」

「それよりも、約束は守ってくれるんだろうな。」

「当たり前だ。反故にしたらカフン家はお取り潰しだ。君こそ約束は守りたまえよ。」

「ああ。ところで聞きたいのだが、お前はエリカの何が好きなんだ?」

「なにを言っているのだ?私は新聞にまで取り上げられておいて、結婚をすることができなかったことで傷つけられた名誉を取り戻しに来たのだ。それ以外に興味はない。」

ギャラリーの一角からすさまじい殺気がしている。

良く知っている殺気だ。

「なんというテンプレ…。まあ、心置きなく叩けるよ。」


「では両者、準備はいいな!」

俺が立会人に選んだルクレスが声を掛ける。

王家で英雄である。これ以上の立会人はいない。

「両者前へ。」

ギャラリーからは、「やっちまえトウキ!」「その金髪野郎の鼻をへし折ってやれ!」「あの立会人の子、すげえかわいいな。」といった声が聞こえてくる。


「構え!」

ルクレスの号令で武器を構える。

バートはそこそこのロングソードを構える。

俺は新製品として売り出し予定の泡立て器を構えた。

「き、貴様!私を愚弄しているのか!」

「俺は大まじめだ!嫁さんを栄誉のトロフィー扱いされて頭に来てんだよ!」

「私語はそこまでだ。あとは戦いで決着を着けるがいい。」

ルクレスが制する。


「両者良いな!では始め!」

ルクレスの号令と共にバートが突撃して来る。

うわ!はや!

俺はバートの鋭い斬撃を泡立て器で受け止める。


キィィィィンンンン!!!


金属同士がぶつかる甲高い音が響き渡る。

ギャラリーからは「おぉー。」という声が上がる。

「な、なんなのだこの泡立て器は!なぜ壊れないのだ!」

バートの顔はたちまち恐怖に彩られる。

俺はロングソードとがっちりと噛み合った泡立て器をグイっと横に曲げる。

バギッ!

鈍い音を立ててロングソードが折れる。


そこからはもはや一方的な暴行とも言うべき状況であった。

バートは降伏するまで、一方的に泡立て器で殴られていた。

降伏するころには、涙に鼻水、糞尿を垂れ流していた。

貴族の名誉とはどこへやら。

決闘はトウキの圧勝であった。


―――――――


ようやくカフン伯爵とのゴタゴタがおわり、ワーガルの街に平穏がもどった。

俺たち3人は工房でゆっくりと過ごしていた。

「ふう。泡立て器がなければヤバかった。」


【泡立て器】

攻撃力250

防御力250

重量削減(大)

撹拌効果(大)

耐久性(大)


「さすが私のトウキね。」

泡立て器を鑑定しながらエリカが言う。

「よく言うぜ、決闘前は散々俺のことバカにしてたのに。」

「ははは…。」

ごめんなさいとばかりに抱き着いてくる。

くそ、そんなことされたら許すしかないじゃないか!


まあ、これでめでたしめでたしだな。

終わりよければすべてよしというし、よかったよかった。

うん、うん。

「トウキ殿。これで心置きなく聖剣の作成に移れるな!」

ちっ、ルクレスのやつ覚えてやがったか。


これで一区切りですね。

これからはいよいよ聖剣を作るお話になります。


こんなにも評価いただけるとはおもいませんでした。

ありがとうございます。


少し投稿間隔が開くと思います。

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