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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
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九死に一生

 俺は親父の墓前に花を供えて、祈りを奉げたあと、墓の側に座って少しゆっくりとしていくことにした。

「親父、俺はなんとかやっているよ。親父が王都の学校に行かせてくれたおかげで若輩の俺でも一人前と認めてもらって仕事もある。とりあえず、俺の代で鍛冶屋を畳むことはなさそうだ。」

 15歳で始めて、20歳の若造の店が未だに健在なのはひとえに親父のおかげであった。

 王都の学校で学んだおかげで知識と技術はあったし、親父のお得意さんが助けてくれた。


 もしも俺の代で鍛冶屋を畳むことになると、親父にも先祖にも申し訳なかった。

 親父がいうにはうちはかつて勇者のパーティーに武器を提供したこともあると言っていた。

 だが、それが本当かは疑わしい。

 なんせ、この街は勇者が産まれた街であり、どこの店も箔を付けるために勇者との関連を謳っていた。

 宣伝している店の中には明らかに勇者のいた時代にはなかった店もあったが、それも商人のたくましさということで、悪質でもない限り放置していた。

 うちは記録によれば勇者の時代にはあったみたいだが、勇者に武器を提供したかはわからない。


「さて、俺はそろそろ行くわ。エリカを待たせても悪いし。」

 そう言って、俺は立ち上がり、工房へ帰ろうと歩き出したときだった。

「グルルルル…」という獣のうなり声が聞こえた。

 しまった、モンスターはでないと決めつけて全く武装をしていない。

 俺だって村の自警団の訓練は受けたし、鍛冶屋をしているくらいだから筋力にも自信はある。

 だが、丸腰はさすがに危険だ。


 俺は周囲を警戒しながらゆっくりと歩く。

 その間も獣のうなる声は聞こえており、期を伺っているようであった。

 うなり声からして、この辺りに生息するサーベルキャットと呼ばれる牙の生えた猫のようなモンスターであろう。

 人間の子供くらいある体長と凶暴性は猫と全く正反対であるが。


「やばいなぁ…。」

 ゆっくりと街の方へと歩いていたが、街へと続く道の方からも唸り声が聞こえてきた。

 サーベルキャットは群れで狩りをする。

 人間が街へと逃げることを奴らは知って居るのだろう。

 的確に逃げ道を塞いできた。


 俺がどうしたものかと考えていると、ついに一匹のサーベルキャットが茂みから飛び出してきた。

「うわっ!」

 俺はそれを間一髪で避けると、森の方へと駆け出した。

 やばいぞこれは。逃げ道がこっちしかなかったけど、森は奴らの庭だ。

 クソ、親父に俺の代では鍛冶屋を潰させないって報告した矢先にこれかよ!

 俺は必死に走る。ときどき飛びついてくるサーベルキャットの爪で皮膚を切り裂かれながらも、直撃だけはなんとか避けて逃げる。

 どこまで逃げればいいんだ。これなら包囲網を突破して街に戻ればよかった。


「うげっ!」

 俺がどうしようもない後悔をしていると、突然何かに引っかかって豪快に転ぶ。

 そのおかげで、飛びついて来たサーベルキャットを運よく避けることができた。

「ったく、いってぇなぁ。」

 つい悪態をついてしまう。

 何に引っかかったのかを確認すると一振りの剣であった。

「やった。誰のかは知らないが借りるぜ。」

 俺はなんでこんな森の中に打ち捨てられるように剣があるのかはわからなかったが、おそらくモンスターに襲われた人の遺品だろう。

 俺は剣を拾うと鞘から抜いて構える。


「なんだ…、この剣…。」

 鞘から抜いた剣は野晒しにされていたとは到底思えない、輝くような刀身をしており、さらに構えた途端に力があふれてきた。

 間違いなく何らかの能力が付与されている。

 俺は鑑定スキルを持っていないから、この剣については分からない。

 ただ少なくともこの危機を突破することはできそうだ。

「よし!かかってこい!」

 俺は気合を入れると、先ほど頭上を飛び越えて行ったサーベルキャットに対峙した。


「グルルル…、ギャァァァオオオ!」

 サーベルキャットが飛びついてくる。

 俺はサーベルキャットの動きに集中する。

 するとサーベルキャットの動きがスローモーションになった。

「これ、とんでもない剣なんじゃないか?」

 そう思いながらも俺は難なく飛びついて来たサーベルキャットを横一文字に切る。

 まるでチーズを切るかの様に滑らかに刃が滑って行った。

「!!!!!」

 鍛冶屋の俺は驚愕した。この世にこんな刃物があるのか!

 もはやサーベルキャットを倒したことなどどうでもよく、この剣の出来に興奮していた。


「ギャァァァオオオ!」

 仲間を殺されたことで俺を囲んでいたサーベルキャットがいきりたつ。

 だが、この剣を装備した俺の前では風の前の塵であった。

 次から次へとサーベルキャットの前に高速移動し、一刀のもとに切り伏せた。


「す、すごい…。あんなに切ったのに切れ味が落ちてない。それに一介の村人の俺がまるで達人のように戦えた。」

 俺はさっきまでとは違う理由で一刻も早く工房に帰りたかった。

 今すぐこの剣を調べ上げたかった。

 俺は剣の効果で疾風のように工房へと走った。


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