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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
19/62

世の中金じゃないこともある

 今や勇者の街はエルス男爵領ワーガルとなっていた。

 エリカのおやじさんが男爵となり伯爵からの徴税を逃れるというウルトラCによって危機を脱した街はまたまた有名となった。


 ワーガルの街も変わった。

 税金は今までの3分の1となった。

 男爵家自身が道具屋で儲けていること、ワーガルだけを維持すればいいので必要経費が少なかったことが理由である。


 自警団も騎士団に格上げされ、フランクさんは騎士団長となっていた。

 武器はヤカンだけど。


 今までの集会はワーガル議会と名前を改め、決定には拘束力が発生するようになっていた。

 まあ、議員はその辺の店のおっちゃん達だけど。


 俺たちは今、工房でのんびりとしていた。

 エリカの店はおやじさんが手続なんかで忙しいため、しばらく休業していた。

 エリカの店が休みであったから連鎖的に俺も仕事がなかった。

 在庫を作る必要が俺にはないから。

 ルクレスは本来の仕事忘れて、俺が作ってやった裁縫セットで遊んでいる。

「トウキ殿!すごいなこれは!どんなに分厚い布でも簡単に縫えるぞ!」

「おお、そうかそうか。」

 俺は適当に相槌を打つと、エリカに向き直った。


「男爵令嬢殿にはいささか狭い工房で申し訳ありません。」

「男爵令嬢っていうな!」

 最近はこうやってからかうのが日課である。


 おやじさんが男爵の位を賜ってから数日は王国の役人がワーガルに来ており、伯爵も手を出せなかった。

 だが、その役人も今日で帰還してしまう。

 伯爵がどのような手に出てくるのかワーガルの街は緊張に包まれていた。

 徴税は回避したが結局戦争になるのではないかと人々は恐れていた。

 ここ数日の新聞には連日エルス男爵VSカフン伯爵の次なる展開を予想する記事が掲載され、王国中が注目していた。

 トウキとエリカに言わせれば、当初から戦争でけりをつけてくれた方がよっぽど楽でいいのだが…。


 もちろん、彼らの思うように行かないのがこの世の常である。

 翌日の新聞にはデカデカと次のような記事が掲載された。

『カフン伯爵、息子のバート氏(28)とエルス男爵の娘エリカ氏(20)の婚姻を王国政府に申請!』

「徴税問題に端を発し、カフン伯爵領から独立したエルス男爵領ワーガル。

 両者の対立がどのような展開を迎えるのか注目が集まる中、驚きの発表がなされた。

 カフン伯爵は自身の長子バート氏とエルス男爵の一人娘エリカ氏の婚姻を王国政府に申請したと発表した。

 ワーガルの街と戦争をするのは得策ではないとの判断であろう。

 貴族同士の婚姻には、貴族の勢力が大きくなり過ぎないように、王国政府の許可が必要とされている。

 今回許可が下りれば、数日前に男爵の位を賜ったばかりのサスカ氏としては王国政府の顔に泥を塗ることになりかねず、婚姻を断ることは到底できないと思われる。

 カフン伯爵としてはこの婚姻で再びワーガルの街を自身の影響下に置くことを画策していると考えられる。」


「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 俺はとんでもない叫び声を上げる。

 こうしちゃいられない。

 俺は道具屋に駆け出す。


「おい!エリカ!」

「なにようるさいわね!お客さんいるのよ!」

 エリカの店は今日から開いていた。

 すでにお客さんでごった返しているのはさすがである。

「そんなことはどうでもいいんだよ!新聞のことだ!」

「忙しくて見てないわ。どうしたのよ?」

 俺は新聞をエリカに手渡す。


 エリカが新聞を読み始める。

 周りの客も何事かとこちらを見ている。

 店内にしばらくの静寂が訪れる。

 そして、店内に響いたのは「ゴンッ!」という気絶したエリカが床に倒れる音だった。


 俺は気絶したエリカを道具屋の2階のベッドに寝かせてやる。

 おやじさんは今後の対応を考えるといって、店を臨時休業し、俺に留守を任せて出て行ってしまった。

 どうしたものかと考えていると、店の外から聞きなれた声で呼ぶ人がいた。

 ルクレスが様子を伺いに来たのだ。


「エリカ殿はどうしている。」

「新聞を見たら気を失ったよ。」

「ふむ。無理もなかろう。」

「なあ、この申請って通りそうなのか?」

「そうだなぁ。カフン伯爵家はこれでも歴史ある一族で、中央にも太いパイプがある。それに伯爵と男爵だ、位の差から言っても問題はない。なにより、ワーガルはもともと伯爵領だ。申請が通る可能性はかなり高いな。」

「申請が通ったら婚姻は断れないのか?」

「もちろん断れるさ。ただ、今まで前例はないし、断ればどうなるかわからない。」

「それは一体…?」

「つまり王国政府に目を付けられるのさ。下手をすれば、爵位の召し上げだってありうる。」

「それって振出しに戻るだけじゃないか!」

「振出どころではない。その後カフン伯爵がワーガルを反乱勢力認定すれば、王国軍や冒険者が討伐にやって来るぞ。」


 状況は最悪だ。

 伯爵のやろう、貴族なだけあって権謀術数の類には長けてやがる。

 伯爵軍ぐらいならなんとかなるが、王国軍や冒険者まで敵に回すとさすがにマズイ。

 俺はしばし考える。

 そして1つの結論を出す。


「ルクレス、1つ頼まれてくれないか?」

「ああ!トウキ殿の頼みとあらば!」

 俺はルクレスにある頼みをする。

 ルクレスは頷くと王都に向けて駆け出していた。

「あれ馬より早いな。英雄と雷虎ってすげえわ。」

 こんなときなのに、俺は始めてみる英雄と雷虎の性能に感嘆していた。


 俺はルクレスに頼んだことを実行に移すべく、一旦工房に帰った。

 工房での用事を終えて、エリカのところに戻ると、エリカは意識を取り戻してベッドに腰掛けていた。

「お父さんは?」

「今後の対応を協議しに行ったよ。店は臨時休業だ。」

「そっか。」

 エリカにはいつもの元気がない。

「はあ。あんたがエクスカリバー拾ってからというもの、振り回されっぱなしよ。まったく。」

「うぐ、それを言われると反論の余地がないなぁ。」


 少しの沈黙が流れる。

 俺は気合を入れ直すとエリカに話しかける。

「まず、前提として聞きたいんだけど、お前伯爵の息子と結婚する気ある?」

「はあ!?あるわけないじゃない!なんで見たこともない男と結婚したいのよ!そもそもカフン姓になるだなんて想像しただけで吐き気がするわ!」

 おう、なんかすげえ嫌ってるな。

 いや、わかるけどさ。


「そうか。」

 そういうと俺はエリカの目をじっと見つめる。

「な、なによその目は。まさか!弱ってる私を襲おうってんじゃないでしょうね!」

「ちがうわ!」

 そう言ってエリカの頭を軽く叩く。

「いったいわねえなにするのよ!…ってなにしてるの?」

 俺はエリカに対して片膝をついて居た。

 そしてポケットから人生を掛けた逸品を取り出す。


「エリカ、俺と結婚してくれないか。」

 そういって指輪を見せる。

「は?へ?なに?ドッキリ?」

「いや。違うよ。これじゃまるで策の1つとして告白したみたいでかっこ悪いけどさ。けど、やっぱりエリカを誰か他の男にとられるのは嫌なんだよ。」

「…うん。」

 エリカは泣きながら話を聞いてくれている。

「俺は金持ちでもないし、有名な冒険者でもない。あるのは異常な鍛冶の腕前だけだ。そのせいで、エリカをとんでもないこと巻き込んでしまった。」

「ふふ、そうだね。」

 おいおい、その泣きながら微笑むのは反則だろ。

 心臓飛び出るかと思ったぞ。

「こんな客観的に見たら事故物件みたいな男だけどさ。エリカのことは誰よりも知っているし、愛しているつもりだ。」

「ランキング7位でもいいの?」

「ま、まだ根に持ってたのかよ。悪かったよ。」

 俺は深呼吸をすると改めてエリカに伝える。

「俺の奥さんになってくれないか。」

「はい。喜んで。末永くお願いしますね。」


 俺はエリカの左手の薬指に指輪をはめた。


 ―――――――


 エリカにプロポーズをした俺は、すぐさま議会へと走った。


 議会では今後の対応を巡って激しく議論をしていた。

「誰かあのクソ伯爵に一泡吹かせる考えは思いつかないのか!」

 服屋のおっちゃんが机を叩きながら怒鳴る。

 俺が議会に到着したのはちょうどその時だった。


 俺は議会の扉を開けると、開口一番、センターに座る男性に向けて叫んだ。

「俺に娘さんをください!!!!」

 議会の全員が何事かとこちらを見ている。

 センターに座る男性は静かに俺に問いかける。

「娘はなんと?」

「エリカには受け入れてもらいました!」

「そうか…。」

 議会が静寂に包まれる。


「ふう…。遅いよトウキ君。もっと早く決断してくれていればこんなにも議論をしなくてよかったのに。娘を頼むよ。」

「ありがとうございます!」


 その瞬間、議会が割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。

「全く今頃かよ。」

「ほんとですよ。サスカさんも言ってましたけど、もっと早く結婚すると思ってました。」

「綺麗な嫁さんでうらやましいのう。」

 服屋のおっちゃん、カフェのマスター、雑貨屋のおっちゃんがバシバシと俺を叩きながら祝福する。

「トウキ、妻は大切にするんだ。いいな。」

 フランクさんがアドバイスをくれる。

 …少し不安だが。


皆さん知っての通り、ハーレムものではないですよ?

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