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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
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世の中やっぱり金 その②

 工房には俺とエリカとルクレスがいる。

 今現在エリカは鼻水と涙を流しながら土下座をしている。

 到底嫁入り前の若い娘がする顔ではない。

「大変もうじわげございばぜんでじだ!王族の方とは思わながっだんでず!」

 もはや言葉になっていない。


「エ、エリカ殿、顔をあげよ。女性がそのような顔をしてはいけない。」

 ルクレスがエリカの顔を上げさせて、顔を拭いてやる。

 平民の鼻水を拭いている今の状況を近衛兵が見たらどうなるのだろうか。


 俺はルクレスが工房に来たところでエリカに全ての事情を話した。

 話を聞き終えたエリカは最初、「嘘つくならもっと上手い嘘つきなさいよ!」といってルクレスの顔に唾を掛ける勢いで怒っていた。

 しかし、ルクレスがステータスを見せると、一転、今の状況へとなったのである。


 俺がエリカを起して椅子に座らせる。

「とにかくエリカの誤解も解けたことだし。よかったよ。」

「そうだな。エリカ殿、これからもよろしく頼むぞ。それから私の事はルクレスで構わない。」

 そういってルクレスはエリカに右手を差し出す。

「は、はい!よ、よろしくお願いします!」

 エリカはその手を握り返す。

 さっきお前その手で鼻水拭ってなかったか?


「ルクレス、このことは3人だけの秘密だ。君が王族と知られたら面倒だし。」

 俺はこれ以上の面倒事が増えないように頼む。

「ああ、承知した。」

 ふう、とりあえずこれで一件落着か。

 へしゃげたお玉を見たときは死ぬかと思った。


「ところでエリカ、なんで今日は自警団の人が門に居たんだい?」

 俺はずっと抱いていた疑問をぶつける。

「今日だけじゃないわ。ここ3日はずっとよ。」

「まさかモンスターの襲来か!」

 ルクレスが立ち上がる。

 この人も生粋の英雄である。

「いえ、モンスターではないんです。実は……。」


 エリカが話してくれた内容は以下のようなものであった。

 ワーガルの街は観光客の増加に加えて、エリカの店を中心に目覚ましい発展を遂げた。

 そのためワーガルは気付けば、カフン伯爵領のなかでも屈指の経済力を誇る街になっていたそうだ。

 カフン伯爵はワーガルの街に対して今まで以上の税金を掛けることを決定した。

 その額が問題だった。

 多少の値上げなら、受け入れたかもしれない。

 しかし、カフン伯爵の増税額は、発展前のワーガルの水準ぐらいしか街にお金が残らないものであった。

 つまり、発展による上積みを全部よこせと言ってきたのである。

 これにはワーガルの人々も激怒した。

 シュレック侯爵との戦争、続くモンスター戦に一切戦力を出さなかったカフン伯爵は元々ワーガルでは嫌われていたこともあり、住民の怒りは相当なものであった。

 そのため、街の人は増税案を突っぱねて、いつも通りの金額のみ納めたそうだ。

 これに対して、伯爵は『1週間以内に追納しないと軍勢を送り込む』と通知してきた。

 今は街で対応を協議中だが、何があるかわからないということで自警団が門に常駐しているとのこと。


「なんと破廉恥な貴族なのだ!私が成敗してくれる!」

 ルクレスは義憤に駆られて立ち上がる。

「落ち着いてください。大丈夫ですよ。」

 俺はルクレスに言う。

「なぜだ!」

「なぜって…。」

 そりゃワーガルの街は最強の武装集団ですから。

 とは言えないしなぁ…。


「これはワーガルの問題ですから。王族のルクレスが出てくるとなにかと問題でしょう。」

 エリカがそう答える。

 その態度は微塵もヤバい状況とは思っていない感じであった。

 こいつも事情しってるからな。

「ぐっ、確かにその通りだ。」

 ルクレスは悔しそうな顔をして着席する。


「じゃあ、俺は早速話し合いに参加して来るよ。エリカ、すまないがルクレスの相手を頼む。」

 そういって俺は席を立つ。

 エリカは耳元で、「今回は上手くやんなさいよ。もう農具を運ぶのはこりごりよ。」と忠告してきた。

 俺は分かってるよとばかりに手を上げて反応してから、工房をあとにした。


 集会所では、お馴染みのメンツが議論をしていた。

「フランクさん。仮に伯爵と戦争になった場合勝てますか?」

 エリカのおやじさんが尋ねる。

「そうですね。伯爵の軍勢は領内全部で1万人は居ます。それに装備も充実している。こちらに何人送り込むかわかりませんが、今までとは相手が違う、苦戦するでしょう。」

 いや、多分しないんじゃないかな。

「なるほど。そうなると、前回の様に農具で素人が戦う訳にいきませんな。」

 いや、多分大丈夫なんじゃないかな。


「トウキ君はどう考える。」

「そうですね。今までも不可能を可能にしてきましたし、今回も皆で立ち向かいましょう!」

 俺はここぞとばかりにアピールする。

 すると、服屋のおっちゃんが泣きながら反応する。

「トウキ君、君はなんて熱い男なんだ。その心意気だけでも十分だよ。」

 その言葉に参加者が全員うなずく。

 あれー?おかしいなぁ。誰も賛同してくれないぞー?

 またしても変な方向に話が進みそうな予感がした。


「わかった。わしは腹を括ったぞ。」

 エリカのおやじさんが膝を両手で叩きながら言う。

 ああ、俺の予感が当たりそうだ。

「どういうことだい道具屋?」

 カフェのマスターが尋ねる。

「俺に考えがある。それにはみんながついて来てくれないと困る。どうか俺に任せてくれないか!」

 エリカのおやじさんは深々と頭を下げる。

「頭をあげろよ道具屋。」

「そうだぜ、俺たちはあんたに付いて行くさ。」

「あんたのおかげでうちは繁盛してんだからさ。」

 カフェ、服屋、雑貨屋のワーガル三銃士が賛成すれば反対する者は誰もいない。

「我々自警団からもお願いする。」

 軍神フランクまで頭を下げれば、俺に抗う術はない。


 工房に帰った俺は、エリカとルクレスに会議の結果を伝える。

「あんたねぇ!出ていく前にカッコつけておきながらなにしてんのよ!」

「仕方ねぇだろ!反対できるかあの状況で!」

「2人は仲が良いのだな。」

 ルクレスは相変わらず1人だけずれていた。


 ―――――――


 いよいよ伯爵の期限が明日に迫ったとき、ワーガル中を驚かせる記事が新聞に踊った。

『王国政府、ワーガルの道具屋を男爵に!』

「王国政府は、トンデモ日用品でおなじみのワーガルの道具屋の店主サスカ氏(42歳)に男爵位を与えると発表した。

 サスカ氏は家名をエルスとし、今後はサスカ・エルスと名乗る。

 エルスは我が国の通貨単位であるが、その由来は勇者につき従った行商人の名前である。

 勇者の街ワーガルを治めることとなるサスカ氏にぴったりの家名と言えよう。

 王国政府筋の話では、王国政府に対して30億Eの寄付を行ったことを評価しての男爵位の授与であるという。」


「「「「な、な、なんだこれは!!!!」」」」

 街中ではこんな叫びが響き渡った。


 俺は、おやじさんってサスカって名前だったんだと変なところが気になっていた。

 俺が工房で新聞を読み終えたとき、工房の扉が開かれた。

「ちょっとトウキ!匿って!」

 汗だくのエリカが転がり込んできた。

「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもないわよ!街を歩いてたらいきなり街中から追いかけられて!」

「お前新聞見てないのか?」

「見てないわよ?」

「ほら。」

 俺は新聞を差し出す。


 エリカ・エルス男爵令嬢はそのまま固まってしまった。

 おやじさん、せめて娘には事前に言おうよ。


貴族の位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵


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