世の中やっぱり金 その①
俺は王城をあとにするとルクレスと共に王都を歩いていた。
ルクレスは聖剣の復活までワーガルの街で過ごすことになった。
資金や権力が必要になることもあるだろうというのが王の主張だったが、どう考えても監視であった。
いや、俺だってモンスターの抑制を解いてしまったことに責任は感じているから逃げるつもりはなかったが…。
「ルクレス様。」
「『様』はいらない。ついでに言うと、もう客でもないから『さん』もいらない。貴殿と私の仲ではないか。」
そのせいでフライパンの餌食になりそうでしたけどね。
「緊張でのどが渇きました。少しカフェにでも寄っていいですか?」
「ああ、確かに。私も少し落ち着きたい。」
そう言って俺たちはカフェに入って行った。
エリカが見たら今度こそヤカンをフルスイングしそうな場面である。
「しかし、ルクレスさ…ルクレスが王族だったとは…。」
うぅ…、本当に呼び捨てでいいのだろうか。
突然近衛兵が出てきて切られないだろうか。
「すまない。だますつもりはなかったのだが、王家と知ってトウキ殿が委縮しないようにしたかったのだ。おかげでこのように素晴らしい剣を手に入れられた。」
そう言って腰に携えた雷虎に手をやる。
「喜んで頂いてなによりです。」
「それに、私には王位継承権はない。国民の前に王族として公に出ることもないしな。まあ、姉上や兄上を見ていると大変そうだから私は嬉しいのだが。」
確かに、今まで王都を一緒に歩いていて、ルクレスの美貌に振り向く人は居ても、王族が居ると騒ぎになっていなかった。
「どうしてか気になるという顔をしているな。」
「いや、えっと。はい。」
「まずはこれを見てくれ。」
そういうとルクレスは左手首に手を当て、ステータスを表示する。
氏名:ルクレス・オークレア
職業:英雄(ランク22)
スキル:魔法スキル
自動回復
遠近攻撃
高速移動
鑑定
「なんじゃこりゃぁ!!!!」
思わず俺は立ち上がりながら叫んでしまう。
「トウキ殿、静かにせよ。店に迷惑であろう。」
怒るポイントが微妙にずれてる気がするが…。
「す、すみません。」
俺はこちらを見ている他の客に頭を下げながら着席する。
「王家の人間にはな、時たま英雄という職業の者が産まれるのだ。かの勇者もそうであったと伝えられている。」
「そうなんですか…。」
これ以外の相槌を打ちようがない。
「英雄の職に就いたものは王位からは離れて、国を守護するのが決まりなのだ。ああ、ランクが22もあるのは、雷虎のおかげでかなりの経験を積んだからな。それ以前はランク7だったよ。」
「ははは…。」
言えない。
たぶん本物のエクスカリバーをこの人が持っていたらランクはもっと上がっているだろう。
「せっかく英雄に産まれたのだ。真の力を取り戻したエクスカリバーを使ってみたいものだ。」
「ガンバリマス。」
冷や汗が止まらない。
―――――――
俺はルクレスと共に、8日ぶりにワーガルの街に帰ってきた。
ルクレスが役人用の2日で着く直通馬車を用意しようとしてくれたが、そんな物で帰ったら下手に注目を集めてめんどくさいので、通常の4日で行き来する馬車を使った。
意外にもルクレスは通常の馬車にもよく乗るとのことで、嫌がることなく承諾してくれた。
だが、俺の策は無駄に終わる。
その日は何故か街の入り口に自警団の人が数人、待ち構えていた。
俺とルクレスを見るなり、自警団員の1人が街の方へと去って行った。
結局『消息不明だった鍛冶屋のトウキ、王都から青髪の美女と共に帰還』の話はたちまち街中に広がってしまった。
工房に帰るまでの道のりには、ルクレスを一目見ようとぞろぞろと人が付いて来ていた。
「すいません。なにぶん田舎町でして。王都から来る人が珍しいんでしょう。」
「はは、気にしてはいないよ。」
ごめんなさい。嘘つきました。
本当は『青髪ってことはこの前噂になってた子か?どんな子なんだ?トウキもやるじゃないか。』的なノリで見に来てるんです。
だが、工房に着いたとき、こんなものは序の口に過ぎないと俺は思い知らされる。
工房の前には鬼が立っていた。
「や、やあ、エリカ。ほ、本日はお日柄もよく。」
震える声で意味不明なあいさつを俺はする。
「そうね。そんな綺麗な人と一緒に歩いているなら、さぞお日柄もいいでしょうね。」
にっこりとしてエリカが答える。
「いやあ、ははは。」
「ふふふ。」
サーベルキャットに囲まれてた方がましだ。
道具屋に居た大勢の客もこっちを見ている。
「トウキ殿、この方は?」
ルクレスが尋ねてくる。
よし、空気を換えるチャンスだ!ナイス!
俺はエリカの店を指差しながら、「工房の隣にあるこの道具屋の娘のエリカです。」と紹介する。
「おお!ここが有名な日用品を扱うワーガルの道具屋か!」
そういうとルクレスは店に突撃していった。
王族である彼女は空気を読むことが少し苦手であった。
「ルクレス!置いていくなよ!」
俺はつい言葉に出してしまう。
完全に失策だった。
「そう。そんなにその人と居たいのね?」
「エ、エリカ。これはそのだな…。」
「私はお店に戻ります。」
エリカは店に戻ってしまった。
手に持っていた最新作のお玉がへしゃげていたのを俺は見逃さなかった。
周りからは『あー、やっちゃったなぁ。』という声が漏れていた。
―――――――
俺は先に工房に入ってルクレスを待っていた。
そのとき突然『バァンッ!!!!』と大きな音を立てて、ドアが開けられた。
驚いてそっちを見ると、そこにはまさかの訪問者がいた。
正直、こんな展開は俺も予想してなかった。
「ちょちょちょ、ちょっとトウキ!何なのよあの人!」
興奮した様子のエリカが俺の頭を両手で掴むと激しく振る。
「いきなり店の物全部くれとか言い出して、カウンターに1億Eを置いたんですけど!しかもこれでは足りないかって聞いてもう1億E置いたんですけど!なんなの!神なの!」
いいえ、英雄です。
うん。あの1億Eは驚くよね。知ってる。
「あんなのどこで見つけてきたのよ!何者よあの子!」
さっきまでの怒りはどこへやら、積極的に話を聞いてくる。
やっぱり金ってすごいわ。
あとでルクレスには好きな日用品を作ってやろう。
そう心に誓った。




