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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
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動き出す歯車

 ワーガルの街がモンスターを撃退してから数日が経過した。

 街はいつもの活気を取り戻していた。

 いや、いつも以上に活気にあふれていた。

 先日のモンスター撃退によって、去りかけていた勇者ブームが再燃し、旅行客が増加。

 さらに俺の農具によって農作業の時間が短縮され、自由時間が増えたことで街が活性化していた。


 俺はしばらくの間、農具を見ると震えが止まらなくなる謎の病気にかかっていたが、なんとか持ち直して、今日も元気に日用品を作っていた。

 …あれ、これでいいのか?

 俺が今後の人生について珍しく考えていると、工房の扉を叩く音が聞こえた。


 ドンドンドン

「トウキさん。お手紙です。」

 どうやら手紙の配達みたいだ。

「はい、今開けます。」

 俺は扉を開けて封筒を受け取る。

 誰からだ?

 手紙を受け取るような相手はいないし、武器の手紙注文は受けてないぞ。


 俺は不思議に思いながら封筒を裏返して差出人を確認する。

 差出人は掛かれていなかった。

 しかしながら、裏側は見覚えのある紋章で封蝋されていた。

 ……これって王家の紋章だよな?

 とてつもなく嫌な予感がする。

 少なくとも官吏が来ていない以上、罪人として呼ばれるわけではないだろう。

 しかし、そこはかとなくヤバい気がする。


 俺は意を決して開封する。

 中身は至ってシンプルであった。

『聖剣エクスカリバーについてトウキ殿にお伺いしたいことがございます。この手紙を持って王城まで出頭願います。』

 ああ。俺の人生おわった。

 短い人生であった。

 きっと王家には、なんかすごい人がいて、俺の加工がばれたのだろう。

 親父、ご先祖様。申し訳ありません。


 俺は1人ひざまずいて、祈りを奉げていた。

「あんたなにやってるの?」

 ちょうど昼食を作りに来たエリカが俺を憐れむような目で見ている。

「ご先祖様への謝罪。」

「なんで?」

「なんでも。」

 俺はとっさに封筒を隠した。


 王家からの呼び出しをエリカに知られたくなかった。

 それに、エリカまで道ずれにするわけにはいかない。

 俺はなるべくいつも通りに接し、エリカが帰ったあとに王都に行く準備をした。


 ―――――――


 トウキのやつ、絶対なにか私に隠しているわ。

 なんか今日は異常に優しかったし、先祖に祈りを奉げてるし。

 ああ!ほんとは問い詰めたいけど、店が忙しくて聞きに行けないわ!

「あ、いらっしゃいませ!」


 私が店の仕事を終えたときにはすっかり夜も遅くなってしまった。

 最近は観光客の増加で店を遅くまで開けることが多くて、晩御飯を作りに行けないこともあった。

 トウキは「しゃあないよ。俺もたまには外食したいし。問題ない。」と言ってくれていた。

「ふう。問い詰めたいけど、今日は遅いし、明日聞きに行こう。」

 そう言いながら私はベッドで1人髪を解く。

 日課になっていたから、1人でするのは少しさみしいなぁ。

 だめね。なんかシリアスな感じになってる。

 今日はもう寝よ。


 翌日朝食を作りにトウキの工房に行った私の眼にはとんでもない看板が写った。

『しばらく臨時休業します。探さないでください。』


 ―――――――


「王都か、久しぶりだな。」

 俺は6年ぶりとなる王都にやって来ていた。

「学生だった頃に比べて街並みもずいぶん変わってるな。さすが王都か。田舎町とは違うな。」

 多少の感慨にふけった後、俺は街の中心にそびえたつ王城を見上げる。

「はあ。今からあそこに行かなきゃならないのか…。」

 俺は断頭台に登る死刑囚のような足取りで王城を目指した。


 俺は王城に着くと、門番の兵士に手紙を見せる。

 すると兵士は少し待つように俺に言うと、慌てた様子で城に入っていく。

 やっぱり俺は要注意人物にでも指名されているんだ!もう終わりだ!

 などと被害妄想を垂れ流していると、兵士が1人の女性を連れて戻ってきた。


「久しぶりだなトウキ殿。」

「ルクレスさん!」

 城から出てきた女性は青髪のカタナを携えた、間違いなくルクレスであった。

「さあ、トウキ殿こっちだ。」

 俺は意味が分からず、言われるがままルクレスについて行く。


 途中、ルクレスが「このカタナは本当にすごい!」とか「先日も我が領土に侵攻してきた帝国の奴らを蹴散らした!」とか「辺境に現れたグリフォンを倒した!」とか言ってた気がするが右から左に聞き流していた。

 俺が亡霊のように歩いていると、「ここだ。」といってルクレスが止まった。

 目の前には見たこともないほど大きな扉があった。


「ルクレスだ!トウキ殿をお連れした!」

 その言葉に反応して大きな扉が開け放たれる。

 その中はもはやお決まりの大部屋の奥に玉座があって、王と王妃が座っていた。


 ルクレスに先導されて俺は王と王妃の前に進む。

「ルクレス。その方がトウキか。」

「はい。我が愛刀、雷虎を鍛えし鍛冶師でございます。」

「ふむ。よく連れて来てくれた。我が娘よ。」

 ……はい?娘って言ったか?

 俺は驚きのあまり、ルクレスを見る。


 ルクレスは俺に向き直ると、ビシッと背筋を伸ばして、透き通るような声でこういった。

「私のフルネームはルクレス・オークレア。オークレア国王の娘だ。」

 俺は光の速さで地面に頭を付ける。

「今までの数々の馴れ馴れしい態度。誠に申し訳ございません。」

 だから殺さないで!お願い!

 心の中で強く願う。


「トウキ殿!頭を上げてくれ!大丈夫だ。私も王も気にしてはいない。」

「本当ですか!」

「ああ。むしろ今日はトウキ殿にお願いがあって呼んだんだ。」

「わたくしめにできることでしたらなんなりと!」

 だから殺さないで!お願い!


「トウキ。そなたに頼みたいこととはこれじゃ。」

 そういうと王は近くに控えていた兵士に指示を出す。

 兵士は俺の前に来ると一振りの剣を差し出した。

 うん。エクスカリバーだね。


「実はな。我が宮廷の様々な賢者が検討した結果、エクスカリバーは本来の力を失ってしまっているという結論に達したのじゃ。」

 はい。よく存じ上げております。

「いつの間に失われたのかは結局わからなかったのじゃがな。」

 多分1年くらい前だと思います。

「原因もわからずじまいじゃ。」

 どっかの鍛冶屋が解体したんじゃないですか。

「そのせいで、今や娘の雷虎にも劣る、攻撃力の高いただの剣に成り下がっている。」

 ええ。本物はそれはそれはすごうございました。


「そこでじゃ。王家としては聖剣エクスカリバーを復活させる計画を立て、我が国でも一番腕の良い鍛冶屋にエクスカリバーを託すことにしたのじゃ。ルクレスにはその鍛冶師を探すように頼んでいたのだ。そしてルクレスが見つけてきたのがお主じゃよ。まさかエクスカリバーを拾った男が選ばれるとは数奇なものよ。」

 いえ、たぶん必然ですよそれ。

「トウキ殿、貴殿の腕の良さは私が保障する。どうか頼む。」

 ルクレスが頭を下げる。


 俺は頭が真っ白になった。

 とにかく何か反論をしようと思い俺が口を開けようとしたときルクレスがさらに畳み掛けてきた。

「賢者の調べでは、エクスカリバーはその存在によって魔王亡き後のモンスターの活動を抑制して来たらしい。先日トウキ殿の街がモンスターに襲われたのもエクスカリバーの力が弱くなったことに起因するのだろう。これからはあのような悲劇が多発するかもしれない。しかし、『できることならなんなりと』と言ってくれて安心したよ。」

 ルクレスは太陽のような笑顔で微笑みかけてくる。


「ハイワカリマシタ。オマカセクダサイ。」

 俺に逃げ場はなかった。


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