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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
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続・勇者の街

 ルクレスに雷虎を渡してから1週間が過ぎた。

 ルクレスが来なくなったことでエリカの機嫌は元に戻った。

 今では晩御飯の後に櫛で髪を解くのが日課になっていた。


 だが、一難去ってまた一難。

 今度はワーガルの街に危機が訪れていた。


 きっかけはシュレック侯爵領でのモンスターの異常繁殖であった。

 本来モンスターが異常繁殖した場合には領地に深刻なダメージを与えるため、領主が本腰を入れて討伐をする。

 しかし、場所がシュレック侯爵領であったのが最悪であった。


 シュレック侯爵はつい数か月前に4000人の領主軍を文字通り失っていた。

 兵士というのは1人育てるのに金も時間も掛かる。

 結局立て直しもできず、モンスターを抑えきれなくなっていた。

 異常繁殖し食糧を求めたモンスターたちは周辺の街へと移動を開始しており、ワーガルの街にも迫っていたのであった。


 今現在、ワーガルの街では自警団を中心にして街の人が集まって防衛作戦が練られていた。

「さて、どうしたものか。まさか我々の活躍が裏目に出るとは。」

 自警団長のフランクはそうもらす。

「王都へと続く南側以外の三方からモンスターが進撃しており、自警団では防ぎきれないのではないか?」

 エリカのおやじさんがフランクに尋ねる。

「ええ、奴らを倒すことなど造作もないことですが、全部を止めることはできないでしょう。街にどうしても侵入してしまう。」

「どうしたものか…。」

 カフン伯爵はシュレック侯爵を倒したのだから、ワーガルの街だけでなんとかなると言って軍隊を派遣してくれなかった。


 街の有力者たちはみな一様に暗い顔で考え込んでしまう。

 ただ1人この場で最年少のトウキを除いて。

 なぜなら彼は知っていたからだ。

 この街の人間が全員フライパンを振り廻せばモンスター如き楽勝であることを。

 多分、ドラゴンを1ダースぐらい持ってこないとこの街は壊滅しないのではないかと思っている。

 ただ、この真実をどう伝えたらいいのか悩んでいた。


 そんなとき服屋の店主の男が立ち上がって話し始めた。

「ここは勇者の街なんだ!自警団じゃどうしようもないなら、俺たちだって立ち上がろう!みんなで撃退するんだ!」

 その言葉待ってました!

 これで工房に帰って作業の続きができるぞ!

 よくやった服屋のおっちゃん!


「そうだそうだ!」といって活気を取り戻す人々とは、全く違う理由で俺が喜んでいると、話はあらぬ方向へと進んでいく。

「そうか。では、そうするとしよう。」

 フランクは静かに決断する。

「最もモンスターの量が多いとされる北側には自警団を配置する。東西は街の男たちにお任せする。武器はリーチを生かした農具がいいだろう。では時間がない。解散だ。」

 フランクが作戦を伝えると、みな「よしやってやる!」「モンスターがなんだってんだ!」と気合を入れて去って行った。


 ……は?

 武器は農具がいいだろう?

 ちょ、ちょっとまてぇぇぇぇぇぇ!

 俺は農具なんて作ってないぞ!

 それにフランクさん、あんた自分の得物ヤカン二刀流じゃないか!

 なぜヤカンの素晴らしさを布教しないんだ!

 俺は立ち去ろうとする人々に向かって叫ぶ。

「ま、まってください!武器はフライパンにしましょう!あるいはヤカン!」


 集会に参加した人がかわいそうな者を見るような目でこちらを見てくる。

「トウキ君、いくら君の日用品が優れているからってさすがにそれはないよ。ヤカンはフランクさん技量とトウキ君のオーダーメイドだからこそ武器になるんだ。俺たち素人には無理さ。」

 そういって雑貨屋のおっちゃんは俺の肩に手をポンと置くと去って行った。


 俺は大急ぎで工房へと走って行った。

 しまった!

 不慮の事故を防ぐために日用品の攻撃力については秘密にしていたのが裏目に出た!

 普通の人は鑑定スキルなんて持ってないし、フランクさんは武器専用のヤカンを俺が作ったと勘違いしているんだ!

 ともかく、早く工房に帰らないと。


 途中でエリカに出会う。

 さすがに今日は店が休みだ。

「あらトウキじゃない、どうしたのそんな血相変えて。」

 エリカもモンスターのことなど微塵も恐怖に思っていなかった。

 トウキの話を聞くまでは。


「ほえええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」

 エリカは絶叫した。

「なんで農具で戦うのよ!あんたちゃんと意見言ったんでしょうね!」

「言ったさ!けどかわいそうな者を見る目をされて一蹴されたよ!」

「どうすんのよ!」

 エリカは俺の両肩を掴むと左右に激しく揺らす。

「お、落ち着け!俺に考えがある!手伝ってくれ!」

「いったい何よ!」


 ―――――――


 ワーガルの街、西門には多くの街の男たちが農具を手に待ち構えていた。

 モンスターの襲来にはまだ時間があったが、いつなにがあるかわからないというフランクの指示ですでに集結していた。

 この街において、戦時にはフランクの命令は絶対であった。

 それほどに信頼されている。


 そこにエリカを筆頭に荷車を引いた女たちがやってきた。

「エリカちゃん、どうしたんだい?」

 1人の男が声を掛ける。

「皆さんの力に少しでもなれるように、トウキが新品の農具を作ってくれました。」

「おお!そうか!しかしトウキ殿もどうせなら槍を作ってくれれば良かったのに…。」

 男の意見は当然であった。

「しかし、このさい文句はなしだ。みんな、ありがたく使わせてもらおう!」

 手に取った男たちは口々に、「さすがトウキ殿の農具だ。」「なんて軽いんだ!」などと言って大喜びである。


 トウキの苦肉の策は、新しい農具を作ることであった。

 農具なら武器を量産したことにはならないし、戦いのあと街の役にも立つ。

 エリカは次々に農具の素材を工房に供給したり、街の女性に声を掛けて完成した農具を運んだりしていた。


「これのどこが農具なのかしら…。」

 エリカはポツリとつぶやく。


くわ

 攻撃力400

 防御力100

 土壌改良(大)

 重量削減(大)


すき

 攻撃力400

 防御力100

 土壌改良(大)

 重量削減(大)


 エリカたちが東門にも同様に農具を運んだときにはモンスターは視認できるほどの近距離にいた。

 間一髪、トウキの制作速度が勝ったのである。

「よっしゃ!トウキさんの作った農具があるんだ!みんなやっちまえ!」

「「「「うおー!!!!」」」」

 街の男たちは農具を片手にモンスターに突撃する。

 まるで一揆である。


 そのようすをエリカは濁った瞳で見ていた。


 翌日の新聞には『勇者生誕の街ワーガル、またまた大偉業達成!』『今や住民全員が勇者の街ワーガル!押し寄せるモンスターを蹴散らす!』『ヤカン二刀流のフランク、冒険者ギルドから特別Aランク認定!』といった記事が躍っていた。

 トウキは工房で1人、死んだように眠っていた。


皆さんにすぐ読んでもらいたくて書いたらすぐ上げてしまう。


書き溜めとかほとんどないので、更新速度は不安定です。

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