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聖剣、解体しちゃいました  作者: 心裡
第1章 鍛冶屋大暴れ編
13/62

ある日の日常

 トウキは久しぶりに暇を見つけると、珍しく街を散策していた。

 最近はお金が貯まる一方であったので、何かに使おうと思っていたのだ。

 ふと隣の道具屋を見てみると今日も忙しそうであった。

 なんでも、フライパンやヤカンを筆頭に俺の作った日用品が並べれば売れる状態らしい。

 ちょうど店先にエリカを見かけたので軽く手を振る。

 エリカも俺に気付いて手を振ってくれたが、すぐに客の対応に戻って行った。


 もうすぐ俺がエクスカリバーを拾って1年が経とうとしていた。

 街は以前に比べてかなり活気があった。

 シュレック侯爵との防衛戦により勇者伝説が再燃したことによる観光客やエリカの店に遠路買い物に来る人が活気の原因だった。

 一方で俺が作った武器といえばジョゼのレイピアくらいだった。

 フランクのヤカンは武器にカウントしていいのか不明だし。

 最近は日用品を作りまくっていた。


 俺は雑貨屋で新聞を買うと、街で唯一のカフェに入った。

 今日はエリカに昼ご飯を作りに来なくてよいと伝えてあるので、ここで昼までゆっくりすることにした。

 俺は早速新聞を見ると、驚きの記事を見つけた。


『史上最年少Aクラス冒険者誕生!!!』

「冒険者ギルドは昨日、ジョゼ氏(17)をAクラスに格上げすると発表した。

 ジョゼ氏は15歳で冒険者となったあと、17歳までの2年間はDランクに昇格しただけの平凡な冒険者であった。しかし今年に入ってから急成長し、その特徴的な赤紫色の髪と神速の剣技から付けられた『紫電』の二つ名で呼ばれるようになっていた。

 今回の炎竜討伐を受けて冒険者ギルドは『紫電』をAクラスとすることに決めた。

 今までの最年少記録は『生ける伝説』ことSランク冒険者アーネスト氏(56)の持つ20歳であったことから、大幅な更新に王国のみならず、大陸中が注目している。

 ジョゼ氏はインタビューにおいて『私の力なんてまだまだです。このレイピアのおかげです。』と答え、腰に携えたレイピアに手を置いていた。」


「はえー。ジョゼいつの間にやらすごいことになってるな。頑張ったんだなあ。」

 自分の作った武器で人が活躍しているのを知れて俺も気分が良くなった。

 俺は新聞を一通り読み終えると、軽い昼食とコーヒーを堪能して店をあとにした。


 さてどうしたものか。

 この街には特段娯楽があるわけではない。

 カジノがあるわけもないし、こんな時間に飲み屋だって開いてない。

 まして風俗店に行くつもりはさらさらなかった。

 結局、俺は街の鉱石店へと足を運んだ。


「いらっしゃい。ああ、トウキ君か。素材探しかい?」

 店の店主が声を掛けてくる。

「ええ、そんなところです。」

 俺は店内を物色する。

 鍛冶屋の性か、どうしてもテンションがあがる。

 前にエリカを連れてきたときは、「私以外の女の子ならビンタして帰ってるわよ。」と言われたことを思い出す。


「そういえばエリカのやつ、最近あんまり自分の時間がないみたいだったなぁ。」

 エリカ自身は楽しそうにしているが。

 先日も商人ランクが4になったと喜んでいた。

 商人にとってランクが高いということはそれだけの取引をこなしてきたという信用に繋がる。

「しかし、エリカも女なんだからもう少し気を付ければいいのに。」

 俺はどうしたものかと思案した。

「しゃあない。ひと肌脱ぐか。」

 俺は素材を買うと店をあとにし、工房に籠った。


 夜になってエリカが晩御飯を作りにやってきた。

「あんたせっかくの休みに結局工房に籠ってたの?」

「ああ、少し用事があってな。」

「ホント好きね。」

 それをいうならお前もな、といいそうになったがやめた。


 エリカの作った晩御飯を食べ終わったタイミングで俺は切り出した。

「なあ、エリカ。」

「ん?なに?」

「いや、お前最近忙しそうにしてるだろ?髪もボサボサだし。」

「うっ…。仕方ないじゃない!」

「どうどう。そう怒るなよ。そこでこれ、やるよ。」

 俺は店で買った銀で作った櫛を渡した。

「へ?なにこれ?」

「ありていに言えばプレゼントってやつだな。」

「うそ…。そんな…、トウキが…。」

「失礼なやつだなおい。一応俺の手作りだぞ。」

 そういうと、エリカは鑑定をした。


【銀の櫛】

 攻撃力120

 髪質劣化防止(大)

 ツヤ出し効果(大)

 枝毛防止(大)


「ご、ごめん!反射的に鑑定しちゃった!悪気はなかったのよ!」

 エリカは早口で謝る。

「いや、いいよ。俺だって、どんな性能か知りたかったし。」

「けど、本当にありがとう。本当にうれしい。」

 エリカは少し泣いていた。

「おいおい、泣くなよ。どうしていいか分からないだろ?」

「全く情けない男ね。じゃあ、これで髪を解いてよ。」

 そういって櫛を差し出してくる。


「こんなことしたことないから、上手くはないぞ?」

「いいのよ。」

 そういうと、エリカは背中を向けて俺の前に座る。

 俺は肩甲骨のあたりまで伸ばしたエリカの栗色の髪に櫛を通していく。

 何度か通しただけで、まるで毎日丁寧に手入れをしたかのように輝くツヤを取り戻していた。

 綺麗な髪だ。

 俺は素直にそう思った。


 しばらくすると、突然エリカの後頭部が俺の胸にぶつかる。

 そしてエリカは俺に体重を預けてきた。

「おい。どうしたんだ?」

 俺はエリカの顔を覗き込む。

 エリカは幸せそうに寝息を立てて寝ていた。

「全く仕方ないな。」

 俺はエリカをお姫様抱っこすると、家へと送って行った。

 おやじさんには、「なんなら朝帰りでもよかったんだぞ。」とからかわれたが。

 櫛は枕元に置いてあげた。


 翌日から店に出るエリカの髪は見る者を魅了するのもであった。

 新しくエリカの髪を目当てにする客層ができたそうだ。


 俺はそれどころではなかったが。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 頭に刺さりそうな攻撃力ですねw
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