自警団長の悩み その①
ワーガル自警団の団長フランクは最近ある悩みを抱えていた。
妻のリセとは昨晩も愛し合ったし、仲は良好である。
2人の息子も元気に過ごしている。
自警団も先日の防衛戦以降すこぶる順調であり、数日前も隣町のシアルドに現れた盗賊一味を完膚なきまでに叩きのめした。
彼の悩みとは、武器が合っていないことであった。
実は彼は新しい武器を部下に回すため、もともとあったロングソードを使っていた。
ところが、あの防衛戦を潜り抜けてからというものフランクのパラメーターはとんでもないことになっていた。
氏名:フランク
職業:戦士(ランク11)
スキル:近接攻撃
指揮
激励
彼の戦士ランクは防衛戦前には5であった。
それが、300人を指揮して正面から4000人を撃破したことでランク11まであがっていた。
古今東西あれほどの戦を勝利に導いたものはほとんどいない。
それどころか策も使わず正面からとなれば皆無である。
この上昇幅もうなずける。
ただ、そのせいでお古のロングソードでは彼の剣戟に耐え切れず、次から次に折れてしまう。
彼はどうしたものかと悩んでいた。
そんなある日、フランクは妻に頼まれてエリカの店に買い物に行った。
その道中『オーダーメイドでの武器のみ作成します。』の看板を見つけた。
「トウキは今こんなことをしているのか。」
彼はお使いのことで頭がいっぱいでそのときはスルーしてしまった。
夜中、彼はベッドでそのことを思い出し、声を上げて起き上がった。
妻のリセにはしこたま怒られたのはいうまでもない。
「すまない、トウキはいるか?」
「ええ、いますよ。ああ、フランクさんじゃないですか。」
フランクは早速翌日にトウキの工房を訪れていた。
「実はな、お前に武器の制作を頼もうと思って。」
「なるほど。確かに勇名轟くワーガル自警団の団長が普通のロングソードでは格好がつかないですからね。」
「いや、そうではないのだが。まあいい。」
「それでどんな武器にしましょうか?」
「そうだな。使い慣れたロングソード系がいいな。」
「ふむふむ。それで素材はどうします?何か持っていますか?」
「あいにくと何も持っていない。」
素材が要るなんて初耳である。
「素材を持ち込まないとダメか?」
「いえ、そんなことはないです。ただ、その分お金かかりますよ?それにある程度のレア素材はワーガル周辺では手に入らないので、作れない場合もあります。運よく手に入るかも知れませんが。」
「ふむ。どうしようかな。」
今までの経験から、鉄であっても部下の持っている程度の剣であれば自分が使っても壊れることはない。
しかし、わざわざオーダーメイドで作ってもらうようなものでもない。
それに、さきほどトウキが言ったように、団長として少しいい装備をしたいという思いもある。
「素材を手に入れて出直すとしよう。」
「けど、素材を店で買ったらうちで作るのと変わらないですよ?かといって、素材を手に入れるためにダンジョンに潜る装備もないでしょうし…。」
「確かにそうだな。ここは妻に頭を下げてお金を工面してもらうしか…。」
「あの、これでよければ差し上げますよ?試作品なので。」
そういってトウキはヤカンを手渡してきた。
「なんだこれは。」
「ヤカンですよ。」
「俺をバカにしてるのか?」
「とんでもない!大真面目ですよ!疑うなら隣の店のエリカに鑑定してもらってください。」
俺はしぶしぶヤカンを手に工房を出た。
隣の道具屋に行くと店の中はごった返していた。
ヤカンを手に店をうろつく男に不審な目を向ける者もいたが、無視した。
近くにいた店員らしき女性に声を掛ける。
「すまない。エリカはいるか?」
「はい私ですけど。ってフランクさん。どうしたんですか?」
「いや、鑑定してもらいたいものがあって。」
そういうと俺はヤカンをエリカの前に出す。
まだ19歳の娘にヤカンを差し出す35歳の男。
とても奇妙な場面である。
「ええ、いいですよ。トウキの新作ですね。」
エリカは何の躊躇もなく鑑定を始める。
俺の感覚がおかしいのか?
なんのことはない。トウキとタッグを組むエリカにとって日用品の鑑定はいつものことなのだが、フランクは当然それを知らない。
「どうぞ。」
俺は鑑定結果を見る。
【ヤカン】
攻撃力340
熱伝導(大)
へこみ耐性(大)
俺は自分の常識に自信が持てなくなった。




