初戦
骨の使者の出現によって、城内は騒がしく、城下町ではあちこちに人だかりができ、騒ぎになっていた。
瞳は城内で忙しく動き回っていた兵士を引き止めた。勇者ということを説明し、情報を聞き出す。
「城下町の北側の上空に骨の使者が出現している緊急事態です。我々は戦力のほとんどを国境防衛に送っていたのですが、何らかの手段で防衛網を完全にすり抜けられ、奇襲された状態です。また北側の防壁の外には……」
「取り巻きのアンデッドね。骨の使者が周囲に沸かせる……」
「はい、おっしゃる通りであります。ではもう失礼しても?」
「ああ、ちょっとだけ待って」
もう慌てて立ち去ろうとした兵士を瞳は少しだけ引きとめようとした。
「この城で高くて見晴らしのいい場所って知ってる?」
兵士は少しだけ首をかしげた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ふう。着いた……」
瞳は城の一番高いところの屋根に風を使って到達した。そこからならば防壁付近の戦いの様子を瞳がなぜ高いところへ来たか。その理由はさっきの会話で優介が言った言葉だった。
(私は何をすればいい?)
(自分で考えろ。)
(……え?)
(周りをよく見て自分にできることをよく考えろ。俺から言えるヒントは高くて見晴らしの良いところに行ってみることだ)
「どうすればいいんだろう……?」
「瞳、迷っているようであるが」
そうもう屋根に座っている者がいた。アルバである。
「戦いをよく見て自分が何をしたいか考えるといい」
「……分かった」
瞳はアルバの言葉を素直に聞いて、目を凝らす。魔力で強化もした彼女の視力は非常に高まり、豆粒ぐらいにしか見えない人も正確に判別できた。
城下町の防壁付近では兵士たちの懸命な戦闘が繰り広げられていた。彼らの練度も中々のもので、中途半端なダメージを与えても再生するアンデッドを、前衛の騎士が止め、魔道士が一斉に魔法をうって始末するといった体型で戦闘を有利に進めていた。
しかし、アンデッドは次から次に湧いてくる。彼らにも疲れというものはあり、それが決定的なミスを生む。
「それじゃダメ……!」
魔導師隊の集中が切れ、魔法の威力が弱まったのだ。一度始末し損ねたことでさらなる数のアンデッドが騎士を襲った。騎士隊も懸命にくい止めているが、それも長くは持たないだろう。
瞳はたまらず目をそらした。
「目をそらすな」
「……でも!」
「でも、どうしたいんだ?」
アルバは瞳を見て、問いかける。
「届かないと諦めるな。何もできないと諦めるな。それは後に後悔となってお主を襲うであろう。余は。優介はそれを知っている。知っているから戦うのだ」
「諦めるな……か」
「魔法を侮るな。お主を侮るな。お主は余が魔法を教えたのだから」
アルバはそう言って笑った。
瞳は目に込めた魔力を解いた。
<風よ……>
そうしてリンクした風を広く広げる。防壁の戦いの場所まで届くように。
ーーーーーーーーーーーーーーー
防壁付近の兵士たちはついに隊列が崩れ、アンデッドに蹂躙されようとしていた。それらはたちまち人を恐怖で支配する。
「助けてくれぇーー!」
「死にたくねえよ……!」
そんな悲鳴が戦場ではあふれていた。そして、そう言っている兵士の一人に遂に追いつかれてしまう。
「ひい……」
兵士の命を骨が刈り取ろうとした時、骨は風邪による風圧によって粉々になった。
「何だ……?」
そうして次々に骨の使者の取り巻きはミンチになっていく。
「兵士の皆さん。聞こえますか」
瞳の声が響く。風の使い方を工夫しているのである。
「私はこの国に召喚された勇者の一人です。あなたたちの後ろにはよく考えてください。もっと多くの人がいます。あなた達はその人々を守る人でしょう?」
兵士たちは少しずつ立ち上がる。武器をしっかりと握る。
「使命を果たして戦ってください! あなた達は私が守ります!」
兵士たちの間で雄叫びが上がる。この国では勇者とは民の間でも伝説として語られている。つまり、勇者のスピーチは彼らにとっては神様に励ましてもらうようなものだったのだ。まあ瞳はそんなことを深く考えたわけではないが。
兵士たちは一気に形勢を逆転させ、アンデッド達に攻め入る。瞳は風で彼らの動きを助け、風の盾で彼らを守り、アンデッドを潰し、できる限りのサポートを行う。このまま終われば兵士たちの圧勝で終わるだろう。
「グォオオオオオオオオ!!」
今まで空中に浮いていただけだった骨の使者は遂に動いた。口を開け、力を溜める。その力は暗く、深く、まさしく負の力というのが相応しいものだった。しかし、それだけではなく纏められている力の大きさに問題があった。そして、その力は放たれる。瞳達がいる城へ向かって。
「勇者様ーーーー!」
兵士の誰もが城を凝視する。無傷であった城を。
「す、すごい……!」
「これが勇者様の力か……!」
まあこれはアルバが優介に保険で頼まれていた結界だったのだが、彼らはそんなことは知らなかった。
「おい……それにみろ! あれ!」
その声につられて兵士たちはは骨の使者の方を見た。
骨の使者の目の前に人が浮いていた。
「くだらないしたいの継ぎ合せだ。見るに耐えん」
剣をどこからともなく出した彼は、空中でその剣を骨の使者へ向かける。
「もう一度土に還るといい。化け物が」