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二度目の召喚~勇者が進む道~  作者: 小宇羅
王都騒乱
8/9

訪れたタイムリミット

「それじゃあ始めるぞ。準備はいいか?」

「大丈夫」


 彼らはいつもの練兵場にいた。瞳と優介が向かい合い、アルバはそれを離れて不敵な笑みを浮かべながら見つめている。


「ルールは俺がお前に触れればお前の負け。30秒しのげばお前の勝ちだ。詠唱は先にして構わない」


 優介は軽く構える。

 瞳は大きく息を吸って、吐いた。


<風よ……>


 瞳の声に反応し、空気の中に波紋が広がる。これで彼女は空気との繋がりを得た。


「行くぞ」


 優介は軽く地面を蹴った。それでもその一蹴りで、3mほどあった彼らの間隔はみるみる狭まって行く。


「盾となれ……!」


 風がはっきりとした形を持って優介を阻んだ。


「これでは、まだ足りないぞ」


 優介はもう一度地面を強く蹴り風を少しずつ突破し始めた。瞳は表情を変えずに続けて唱える。


「吹き上げよ……!」


 優介は一瞬で天井付近まで押し上げられた。始めから、瞳は優介を盾では止められないと思っていた。そこで、優介を吹き飛ばし距離を取ったのである。


「外ならこれで30秒まで凌げたかもしれないが、まだ10秒ほどあるようだな」


 優介は、瞳の魔法をも利用して天井を蹴り、瞳にみるみる迫って行く。瞳のところへ到着する直前、瞳は詠唱をしなかった。しかし、それを受け流すかのように手を振る。そして、風はそれに応えた。風の流れが一瞬で急激に変化し、優介の飛んでくる軌道をそらした。まるで受け流したかのように。


 優介は笑っていた。彼はアルバが瞳に魔法を教えている間、あまり瞳の方を気にしたりはしていなかった。突然アルバに試してみろと言われたために、ここへ来たのである。そして、瞳は予想以上の成長を見せた。

 この世界の常識では、魔法と基本的に長ったらしい詠唱を一々唱えなければならない。


 例えば、風の魔法ではでは一々〈風よ、我が名に従い、我が力となれ〉と詠唱してから使いたい呪文を唱える必要がある。その長い詠唱を魔法で操るものとリンクすることで最小限としている。無詠唱など考えられたこともない。それを瞳はたった一週間でやってのけた。

 だから、優介は多少は本気を見せねばならない、と考えた。


〈我が言霊(コエ)に答えよ〉


 優介の全力の身体能力を使ったことで、優介は風を蹴った。


「俺の勝ちだ。かなり良かったけどな」

「うう、負けちゃった……」


 アルバは得意そうな顔をしながら近づいてきた。


「どうだ、中々であろう?」

「ああ、よくここまでこの短時間でできたな。」

「瞳の才と努力の結果であって、余の尽力は微々たるものだ。まあ90%くらいだ」

「それ、ほとんど貴方のおかげになってるじゃない、アルバ。まあそうなんだけど」


 そんなくだらない会話の中、優介は重い雰囲気で話を切り出した。


「ところで……弟の調子はどうだ?」


 瞳の弟である廉優介と戦った日以来、寝込んでいた。精神的な問題であったため体に大事はなかったが、いまも誰とも会話はしていない。瞳とでさえ。


「うん……あれから変わってはないね。あ、貴方のせいじゃないからね! 寝たふりしてわざと戦わせた私が悪いんだから。」

「とはいえ、俺がやり過ぎたせいで……すまない」

「ううん、全然。じゃあ私、戻るね」


 瞳はそのまま走って練兵場を出て行った。

それを確認した優介は再び話し始める。彼の表情から非常に重要なことを話そうとしていることは明らかだった。


「恐らく……明後日だ。準備はできているか?」

「当然だ。余はそれよりお主の方を心配しておるが……」

「……問題ない。人に嫌われるのは慣れた」

「……そうか」


 優介はそう会話を終えたあと歩いて練兵場を出て行く。


「やはり人は、変わってしまうのか。あれほどの事があれば仕方は無いとはいえ……報われんな。エリス。」


 そう言ったアルバの顔はどこか悲しそうだった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 瞳は朝、廉のベッドの近くに置いた椅子の上で目覚めた。


「そっか。看病しててそのまま寝ちゃったんだっけ」


 最初、城の使用人が看病をしようと言われていたのだが、瞳はこれを断っていた。


「おはよう、廉」


 瞳は廉に優しく声をかける。しかし彼の虚ろな表情からでは何も読み取れないし、聞いているのかどうかもわからなかった。

 瞳がその表情を静かに見つめていると、部屋のドアが突然開いた。瞳は咄嗟に魔法を唱えようとする。優介に、警戒だけはしておけ、とよく教えられていながら、それを怠った自分を叱責しながら。


「優介? そんな怖い顔してどうしたの?」


 彼の表情には残酷な決意が浮かんでいた。そして、静かに告げる。


「今すぐに、全てを背負って圧死するか、全てを捨てて大事なものだけ持って逃げるか、選べ」


 瞳の時間は一瞬停止する。


「どういう……意味?」

「そのままの意味だ。勇者などというくだらない肩書きに繋がれ、戦うか。大事な弟だけ持って他のやつを見捨てて逃げるか。好きな方を選ばせてやると言ったんだ」


 瞳は彼の表情を見て、一瞬でそれが本気だと理解する。


「もし……今すぐには決められないというなら、どうせすぐなくなる火だ。俺が一瞬でかき消してやろう」


 優介は魔力で作り出した剣を瞳に向ける。今度は……左手で。


「さあ……選べ!」


 瞳は大きく深呼吸した。しかし彼女にとって解答を悩む必要はなかった。


「私は……逃げない」

「本当にか? 誰かの命を背負うのは重い事だ。それが一番大切な人のものであっても……!」


 優介のその時の声にはどこか、悲痛な響きがあった。


「それでも、逃げたらきっと後悔する。そんな人生送りたくない。ただそれだけ」


 優介は剣をゆっくりと降ろし、消した。


「なら、もう俺からいうことはない」


 しかし、彼が続けて言った独り言は誰にも聞こえなかった。


「……強いな」


 その独り言はおびただしい雰囲気の騒ぎ声がし始めたからである。


「何……?」

「馬鹿な……まだ時間はあると思っていたのに! しまった、奴がこの街にいるのか!?」

「優介、一体何が……」

「光田、今すぐに戦う覚悟と準備をしろ!! 事情は外を見たほうが早い!」

「……!! ええ!」


 そうして瞳は魔力も使って、目を凝らす。そして瞳の視界には何かの軍と間違えるほどのところどころが腐っている人型の魔物である喪屍(ゾンビ)

 そして、その上空には城と同じ、いやそれよりも大きな骨でできた龍が、絶望を纏って浮かんでいた。

 

 それを人々は骨の使者と……そう呼んでいた。








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