元魔王
「まず、さっきは適当に説明したが、厳密に言えば魔力ってのは何かの働きを強化するものだ。」
「働き?」
「そう。例えば」
優介は、一瞬で瞳の後ろに回り込んでいた。
「これが体が動くという働きを強化している。」
「いきなりやられるとビックリするからやめてほしんだけど……」
「……他には」
「話聞いてる?」
面倒だから無視。それが優介の選択である。
優介は練兵場で話した時と同じ、光の玉を作ってみせた。
「イメージするという働きを強化したのが魔法だ。ただ魔力量によってできることは違ってくる。まあ魔力量のみにおいては俺らは心配する必要はほぼないが。」
「人によって才能とかの問題があるのね。私たちは魔力量は非常に多いって練兵場で言ってたけど。」
「そう。だからこの世界の人々はなるべく少ない魔力でも、大きな効果を出せるように魔法の使い方を考えた。その一つは詠唱魔法、もう一つは紋章魔法だ。まあ、紋章魔法は基本戦闘にはほとんど使えないと思うが。」
瞳は首をかしげる。
「なんで? 紋章魔法ってあなたが普段使ってるものよね?」
「俺にはそれしか使えなかったんだ。まあ才能がなかったわけだ。」
優介は首をすくめてみせた。
「……あ」
優介はは何かまずいことを思い出したようだった。
「どうかしたの?」
「いや、俺詠唱魔法使えないって言ったろ。だから教えられねえ。」
「……え?」
「まあ何となくなら分かるが……それで変な感覚が身についちまうとな。」
「えーと、じゃあ。」
「魔法教えんの無理だな。城の適当な兵士にでも教わってくれ。」
優介はお手上げのようだ。しかし、突然彼は書庫の天井を凝視した。そして。
今日一番だるそうな顔だるそうな顔で、大きくため息をついた。
それと同時に轟音が響き、地面が揺れ、書庫の埃が舞った。
「何これ。地震?」
「いいや。」
優介はきっぱりと答える。
「ちょっと面倒だが良かったな。これで魔法覚えられそうだぞ。迎えに行くか。」
「ええ? いやちょっと待ってよ!」
全く話についていけていない瞳は、書庫から出て行く優介を慌てて追った。
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轟音の正体は、人だった。
「迎えに行くって言ってたけど、あの人普通に考えて死んじゃってると思うんだけど……」
「まあ、そう思うのも無理はないか。」
優介が苦笑する。確かに普通はそう思うだろう。なぜならその人は、空から落ちてきたと周りの野次馬達は話しており、落ちた城下町の道に隕石が落ちたようなクレーターを作り、その中心で倒れていたのだから。
突然周囲の野次馬が騒ぎ始める。
なんと、その人が立ち上がっていた。
「ふむ、転移の座標が高かったか。しまったな。これは余のミスである。」
その人は12歳ぐらいの中性的な子供で、黒っぽい服装をしており、白髪がよく目立っていた。
「ミスじゃねえ。騒がせんなよ、アルバ。」
「ん? その声は……おお! 勇者ではないか。無事で何より。転生の術式を仕込んでないのを見たときは、さすがの余もヒヤヒヤさせられたぞ。」
アルバは優介達の方へ駆け寄ってきた。
「まあ、あとで話そう。ここはうるさすぎる。城の中まで転移できるか?」
優介は周りの住民を見ながらアルバに向けて言った。
「無理だ。何せ余はまだ生まれたばかりだからな!」
どうだと言わんばかりににアルバは胸を張る。
「別に威張ることじゃねえと思うんだが。まあいい、俺がやろう。」
優介が指を鳴らすと、アルバ、瞳、優介の三人は城の書庫にいた。全く話が読めない上、突然転移した瞳はえ、え、と慌てていた。
それを見た優介はああ悪い、と言って説明し始めた。
「こいつは俺の昔の知り合いの、アルバだ。色々とあれだがまあ信用はできるやつだ。」
「ふむ、誰かは知らんが、余の自己紹介をしよう!」
アルバは王様のように胸を張る。
「余が、魔王アルバである! この名前とこの姿をしっかりと目に焼き付けるが良い!」
「えーと、ごめん、優介。大体わかったけど一応この人誰か教えて。」
優介は表情を変えずに言う。
「まあ、俺が前いた世界の魔王、みたいな?」
「ふむ。なぜ疑問形なのかが気になるぞ。優介よ。おお! そうか! 元であった。余は元魔王であって現魔王ではなかったな。これは失態だ。」
アルバはもう一度胸を張った。
「余が、元魔王アルバである! この名前とこの姿をしっかりと目に焼き付けるが良い!」
書庫には完璧な静寂が広がった。
「馬鹿な……前の世界ではこれで大爆笑する輩もおったのだが。この世界は笑いのハードルが高いようだ。仕方ない、もういっか」
「もういい、話が進まねえ。」
このくだらない会話を見ていた瞳は、クスクスと笑いだしていた。
「おお! やはりこのネタはウケるのか。」
「いや違うだろ。それにしても何で笑ってる?」
「いや、ごめんね。だってあなたすごく楽しそうにしてるんですもの。そんな顔見たことなかったなあって。」
それを聞いたアルバも優介の顔を覗き込む。
「誰かは知らぬが、的を得た発言であるぞ! いい顔をしているではないか。」
「いやそれお前が見ていたアニメのネタだろ。」
「でも、あなた最初に会った時なんて、自殺しようとした人みたいな顔をしてたわよ。」
「……うるせえ。」
流石の優介も二人にずっと顔を見られて色々と言われれば照れることもある。そしてそれを見たアルバと瞳にさらに笑われるのだった。