魔力
優介は埃を被った棚が並ぶ、城の書庫で本を睨んでいた。そして、ため息をついた。
「文字はさすがに前とは違うか……」
そう言って彼は近くにあった椅子に座り込む。
「覚えるにしても翻訳する奴がいるな。仕方ない、王を説得して用意させるか。」
「ここの人って、地下に色々と作るのね。練兵場も地下だったし。」
そんな物騒なことを言っている中に、瞳は書庫へと入ってきた。
「王がバカなせいだ。魔族との戦争で家を失った奴とかに、王城の部屋を貸してるそうだからな。元々そういう事を想定して作ったんだろう。」
優介が鼻で笑うようにそう言ったのを見て、瞳はくすりと笑う。
「あなただって、そんなに人を見捨てたりするのが好きには見えないけど」
「……気のせいだ」
優介は自分の作業を続けながら表情を変えずに答えた。
「ところで、魔法のことだったな。今日は」
優介は作業を止め、瞳の方へ振り返った。相変わらずの無表情で。
「手を出せ」
「……?」
瞳は戸惑いながらも手を出した。優介はその手を握った。すると瞳の目は急に閉じられ倒れそうになった。優介は手を振って紋章を出現させ、それを空中で停止させる。
瞳はそのまま意識を失っていった。
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彼女が目を覚ましたのは半日ぐらいが経ってからである。
「よし、かなり覚えられて来たな。これならあと1日ぐらいか。」
「そんなに……早く……文字覚えたの?」
「目が覚めたか。」
「ええ。でも、もうちょっといいやり方なかったの?」
優介は頭を掻く。
「あれは儀式みたいなものでな。魔法使うならやらないと……」
「ええと……この姿勢のことなんだけど……」
瞳は倒れそうな状態で優介が魔法で動きを止めていた。
「床に寝られても邪魔だったからな」
優介が手を振り、固定を解除した。
「それより、魔力が循環するようになった感想は?」
「魔力が循環?」
「ああ、そうだ。まずは魔力は理解できるか? 何となくで問題ない。」
「魔法のためのエネルギーみたいな?」
優介は頷いた。
「そうだ。後は、空気中に無限に存在するって言うのと、生物はそれを貯める器を持っていると思っておくのがいいだろう」
「それは分かったけど、最初にやったことと何か関係あるの?」
「大有りだ。俺たちみたいな召喚された人は非常に大きい器を持ってる。というか召喚された人が強いのは大体これが理由だ。魔法撃つだけなら魔力切れとかはほぼないと言っていいだろう」
「へえー。でも優介は剣を使ってなかった?」
「まあ、それは一人で戦うならどうしてもいるんだ。話を戻すぞ。俺たちはほぼ無限の魔力が使える、が。お前元の世界で魔法使えたか?」
その質問は誰だって答える必要のないはずの質問である。
「そう、使えるはずがないんだ。俺たちはそうして育つ。だから魔力の通り道の力ががどうしてもこの世界の人より弱い。」
「魔力の通り道?」
「そうだ。どんなに魔力があってもそれを一気に魔法の術式に送り込めなければ意味はない。俺はそのための通り道を無理やり大きく開いた。まあ、最初は体が焼かれるような激痛を伴うがな。」
そう軽く言う優介でさえ、最初は1日寝込んだことは、伝わることはない。
「だが、それをする事で多くの魔力が体へと出入りを繰り返すことができるようになる。これが魔力の循環だ。」
「確かに……何となくだけど、体も軽い?」
優介はどうだと言わんばかりに笑ってみせた。
「魔力は身体能力にも密接に関係している。万能の力だ。これからその使い方の基本を教える」