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二度目の召喚~勇者が進む道~  作者: 小宇羅
王都騒乱
2/9

最初の答え

 優介は十分休んでから、王がいるという部屋へと案内されていた。

 

 案内について行く、そんな動作でも彼は全く手を抜く気は無かった。経験からできる限りのことは先にやっておいた方がいいと踏んだのである。彼は様々な情報を収集していた。今いる建物の通路、窓の位置、それから頭の中で見取り図を作っていく。さらにそこから万が一のための退路までも計算していた。流石にやりすぎとも思う優介であった。


「だが、今の段階だとやっておくにこしたことはない……か。一つ気になることもあるからな」


 優介はまだ警戒を解く気はないようだった。



ーーーーーーーーーーーーーー



 優介がおおよその建物の形を把握した頃、ようやく王がいる部屋へとついた。

 そこは、部屋中央の奥に王座があり、そこに一人の老人が穏やかな笑み座っていた。なぜか、使用人や護衛の兵士は見当たらなかった。


「よく来てくれたな、勇者よ……」


 王座に座った人物が口を開いた。


「他の二人の近くに椅子があるであろう、座るがいい」


 そう、勇者はまだあと二人も召喚されていたらしい。二人はとても顔つきが似ていて女の方が年上に見えたことからおそらく姉弟だろうと、優介はは予想した。優介はこちらを見ていた二人を少し見返したあと、何も喋らず、席に着いた。


「勇者達よ、今の状況に混乱しているであろう。我から説明をしよう。せめて我一人で話をした方が落ち着くかと思い、護衛のもの達には席を外してもらった」


 二人の方はその心遣いに温かさを感じていたが、優介の視線は冷たく王を突き刺していた。


「今我らがいる場所は、人間が治める人間国である。我らの国は周りは海で囲まれているところが多い。しかし……」


 王はそこで一息ついた後、続けた。


「一つだけ隣接する国がある。それが……魔国なのだ。魔国には」

「人間より優れた魔力を持つ魔族がいる……か」


 話の途中で声を発したのはもちろん優介である。


「すまない、続けてくれ。」


 王はさすがに疑問を感じたのか、優介へ視線を向けたが、すぐに話の続きを始めた。


「魔族の魔法は人間のものより強力で、数も多い。その上身体能力も非常に高いものまでいたのだ。そのため我々はなるべく友好的な関係を築こうと努力して来た。しかし、ついに奴らは我々を侵略し始めたのだ」


 王は勇者達がいる方向をじっと見つめた。


「頼む。我らの希望はお主達だけだ。どうか、共にこの国を守るために戦ってもらえないだろうか。我らの国の勇者になってもらえないだろうか。この通りだ。」


 そう言って彼らへと王は頭を下げた。

 部屋はしばしの静寂に包まれた。


「ええと。よく分かってないけど、王様達がすっげえ困ってるのは分かった。だから力を貸すよ。な、姉ちゃん」

「え、ええ。確かにそうするしかないし……」


 王は顔を上げた。その顔の瞳が喜びで輝いているように見えた。


「ほ、本当か。すまぬ、感謝する」


 残りは後一人、優介の返事のみとなった。


「そなたはどうだ。共にこの国を……」

「断る」


 優介の冷たい声が静まり返った部屋で響いた。


「な……」

「俺は勇者なんぞになるつもりはない。ただそれだけの話だ」

「おい、お前!」


 椅子から突然立ち上がり、怒りの声を発したのは勇者の姉弟のうち、弟だった。


「なんでこの世界の人がこうやって頭下げてんのに力を貸してやらないんだよ!」

「お前こそよく簡単に力を貸すと決めれるな。さっきはよく分かってないけど、なんていう信じられない発言が聞こえたんだが。お前は人が困っていたら力を貸すのか。そうか、お前は相手が魔王でも困っていたら力を貸すのか。とんだユウシャだな」


 そこまで話して、優介はふう、と一息ついてからさらに続けた。


「だいいちそこの王が本当のことを言ってるのかどうかもわからないだろ」

「そんなの大体わか……」

「俺はもう一つ嘘をつかれてるんだがな」


 その発言にその場にいた全員が少し驚いていた。それは王も同じであった。


「なあ、王様とやら。俺を治療したのは誰だ?」

「そ、それは我らの国の……」


 優介はため息をついた。


「素直に言っておけばいいものを。あんたが言えないなら俺が言ってやろう。俺が治療できたはずがないのさ。あんたらではな。」


 王の顔が少し青ざめた。しかし、それ以外の二人は話が読めないようだった。


「俺のこの国に対するプラス印象にでもなればとでも思ったんだろうが、もしそれで俺がこの国を信用せず、魔国へついたらどうするつもりだったんだ? まあ、そんな事はするつもりはないが」


 王は慌てて謝った。


「す、すまなかった。お主を治療したのは突然城へ訪ねて来た白いローブを着た者だ。声を出していなかったので、性別もわからないしどこへ行ったのかもわからん。これは本当じゃ」

「はあ……初めからそうしろよな。面倒だ」

「その言い方はないだろ! その人だって必死なんだ!」


 再び怒って声を発した弟に優介は興味がなさそうに無気力な瞳を向けた。


「大体お前勇者にはならないんだろ? そのくせなんでそんな偉そうなんだ! どうせ怖いんだろ!」

「俺はただ勇者なんていうくだらない称号のために戦うのはごめんだと言っただけだ。別に俺はお前がどうなったって知った事じゃない。好きにすればいいだろう」

「お前……」

「やめて、廉」

「でも!」


 弟を手で静止させた姉の方は優介へと語りかけた。


「私は光田瞳(こうだひとみ)っていうの。こっちは弟の廉。あなたはなんていうの?」


 瞳を見つめた優介はしばらくしてから、答えた。その答えは分かりやすい簡潔なものだった。




「名乗る必要はない」





 

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