プロローグ
とある伝説を話そう。
昔々、人間の国と魔国がある世界。魔国の魔王が人間の国へ侵攻を行なっていた。人間達は魔王の侵攻の激しさに次第に追い詰められていった。
逆転のための苦肉の策として、人間の国の王族達は召喚を行なった。その世界に勇者が現れたのである。勇者は圧倒的な力で魔国の侵攻を押し返し、ついに魔王との戦闘にこぎつけた。
赤茶色の荒野、雲がかかった暗い空、淀んだ空気。その全てが不穏な空気を漂わせた場所。そこで勇者と魔王の最後の決戦が行われている。
時には剣、時には魔法で。永遠とも思われるほどの長い時間、彼らは争っていた。
しかし、終わりの時は訪れる。
「これで……終わりだ。魔王……」
魔王の体を勇者の剣が貫いていた。しかし、反対に勇者の体も貫かれていた。
「これで終わり……か。残念……だな。もっと……」
同時に二人は力尽きていく。
「悪い。俺も死んじまった。まあ許してくれよな……」
こうしてこの伝説は幕を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
勇者が次に目を覚ましたのは死者の国でも天国でも地獄でもない。装飾は施されている華やかなベッドの上だった。彼は事態が飲み込めずしばらく周りを見渡していた。なぜ自分は死なずにこんな場所で寝ていたのか。その疑問に答えたのは女性の声だった。
「目が覚めましたか?」
彼が声がした方向を見ると、そこには金髪の上品そうな雰囲気を纏った女性が立っていた。
「あなたは召喚されたのです。私はこの国の王女です。詳しい事情は王が……」
それを聞いた瞬間、男は俯いた。その目はどこか悲しそうであった。生きていたことの嬉しさなどなかったかのように。
しばらくして、顔を上げた時にはまた、無表情と思えるような感情の読み取りずらい顔に戻っていた。
「いや、もういい。」
「え?」
元勇者は淡々といった。
「そこから先は大体理解してる。」
「え? 理解してるってどういうことなのですか?」
「ちょっと実体験があるだけだ。」
「実体験? ちょっと、勇者様! なんでもう立ち上がろうとしてるんですか!?」
振り返った男はなぜ立ってはいけないのかと面倒臭そうに尋ねた。
「あなたは召喚された時、ひどい傷を負っていたんですよ!? 死んでいてもおかしくなかったと聞いていたんです……!」
「じゃあ、俺はなんで生きてる? あんたらが魔法でもかけてくれたってことか?」
王女は頷いてそれを肯定した。それを見た彼は少し、考え込んだ。
「分かった。助けてもらったんだ。話だけは聞こう。」
彼はそう返事を返し、ため息をつきながらベッドの上に腰かけた。
ーーそう、こうして彼、元勇者「影田優介」は再び別の世界へと召喚された。新たな伝説の幕開けである。