羽ばたけない墓標
さくり さくり
前を歩くそれは、木々が茂る中を歩き進めながら話を続けていた。
「よくよく お聞き、人型でもあれはさ、ぐずぐず崩れていつもの【瓦礫】になっていくよ。醜悪で、形も成せず羽ばたく事もできやしない。目線が合う事もないだろう? つまりねつまりね それだけって事さ、害はない。」
そう言うと、すいっと右を指し示した。
そこには、確かに人型をしているが、先ほど見た【瓦礫】と違い、生々しく醜悪な造形をしていた…初めに害がないと言われた【瓦礫】に近い。
更に異なる点は、こちらに視線を向けようともしていないことだ。
〝観て欲しい″という感情が伝わってこないのだ。
ただそこで、己の思いが昇華されるのを望むように、他は何も見えていないようであった。
つまり
外見が観るに堪えるもの
こちらに視線をよこしているものは危険で
眼と目を合わせてはいけないし、触れてもいけないということらしい。
逆に
ドロドロと醜いものは、見た目こそ悍ましいがこちらに干渉しようとはしてこない。
触れたところで何も起こらないようだ。
はて、では眼と目が合って触れてしまったなら…
命に等しいと言った時間を吸い取られてしまったなら…
どうなってしまうのだろうか…
思考を巡らせ下がった顔を上げると、前に居たそれは、こちらを見つめていた。
その目が合いそうになった瞬間に、急に光が周囲に差し始めた。
急激に白み始めた世界に、今まで仄暗い世界に慣れた目を細めた。