還るオートマタ
さくり さくりと足音が鳴るほどに、植物が群生する場所へと進んできたようだ。
先ほどから、悍ましい【瓦礫】達は視界には入ってくるものの、こちらに何かするわけでもなく漂っているので、その存在に慣れ始めていた。
泉が見えてきた。そこには一際大きな樹が生えていた。根本に黒い靄がかかっていた。
何か見えそうな気がして、歩みを止めて目を凝らした。
するとそこには、人型の何かがあった。
人形だ、そう思った。しかしそれは、壊れているようだった。
綻び、ケーブルが露出し、躰はいたるところがひび割れ、陥没している。
そして、大きな樹に取り込まれるようにその根に躰を貫かれていた。
先ほどから悍ましいものを見すぎていたせいだろうか、それは、異常な光景であるはずなのに、どこか美しく感じられ、もっと観てみたいと思った。
視線を、爪先から、太腿、腹、胸、首、唇へと移して、眼へと移ろうとしたその時。
「なんだなんだ こんな手前に人型の【瓦礫】なんて…。余程あなた様に観て貰いたいらしいね。だめだよだめだよ それなんか見ていないで、もっともっと 奥へ行こう。」
前を歩いていたそれは、見惚れ始めていた事に気づき、慌てて怒ったようにこちらに近づきながら言い放った。
視界の端で捉えた壊れた人形の眼が、こちらに向いて動いていた気がした。
【瓦礫】には人型なるものがあるらしい。
先を促しながら、それは話を続けている。
「観て観てと訴えかけてくる人型の【瓦礫】は厄介だ。決して決して 長く観てはいけないし、眼と目を合わせてはいけないよ。時間を吸い取られてしまうのだから。」
観るという時間がどうやらここでは重要らしい。
眼と目を合わせる…という事はお互いに認識しあってはいけないということだろうか。
「そうさそうさ、眼と目が合えばその【瓦礫】は、自分の存在を認識できる。だからねだからね、よもや触れることなんて全くもって危険な事だよ。
そしてそして、あなた様が観る時間というのは即ち、あなた様の生きる命の時間を頂くという事だ。命を使う行為…そこに【瓦礫】は愛を見出す。そうだよそうだよ 【瓦礫】は愛を乞うているのさ。」
随分と雄弁になってきたそれに連れられて、更に歩みを進めていく。