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おてんば姫と婚約者

作者: 小田虹里

「認めないから! アンタみたいな婚約者!」

「あははは~……」

「のんきに笑ってんじゃないわよ! アンタなんか、私の下僕でしかないのよ!」

「そうだね。うん、キミはとても美しいし、モテるから」

厭味かしら……と思えるほど、この目の前に居るイリール王国の王位継承者、デルシス皇子は透き通るルビーのような赤色の瞳に、漆黒の髪を肩を越すほどまで伸ばした容姿端麗の男。年のころは私と同じで、十七。馬鹿みたいなフリをしていて、実は出来る男だということも知っている。


 ただ。


 赦せないのは、この男が私の「婚約者」だということ。


「アンタみたいな奴、ほんっとうに下僕としか思っていないんだからね!」

「知ってるよ~? そんなこと。僕はソレで構わないしね」

私はこの男をよく知っていた。だって私は、口は悪いけれどもこう見えて、イリール王国の隣国である、ヘイランル王国の第七皇女なんですから。

昔は、そりゃあもう仲がよくて、一緒に遊んでいたことも多々あったわ。でもね、それはあくまでも相手が「幼馴染」だから成立することであり、「婚約者」としては認められないことなの。私にはもっと、私だからこそ成り立つ相手が居ると思っていたのよ。そう、こんなヘタレ皇子なんて、私にはとてもつりあわないわ!

「ミラルには他に好きなひとでも居るのかなぁ?」

ミラル=クレー=ヘイランル。それが私の名前。この色男であり馬鹿皇子の名は、デルシス=ファン=イリール。とにもかくにも、私の癪に障る男なの!

金色のストレートの髪は胸元まで伸ばし、サファイアのような青い輝きを放つ瞳を持つ私は、きりっとした短い眉をさらに吊り上げて、優雅に金細工の施しがある、赤色の椅子に腰掛けている、デルシスを上から睨み付けてやった。

「居たとしても、居なかったとしても、アンタには関係ないから!」

「はいはい。で、お茶の時間だけど今日は何を飲む?」

「話を誤魔化さないの!」

「僕はダージリンにするよ」

そう言って、ゆったりと椅子から立ち上がると、デルシスはポットからお湯をカップに注ぎ、ティーパックを取り出すと、ちゃぷんちゃぷんとお湯に浸し、色がある程度出ると、それを小皿へと取り出した。甘党なデルシスはそこへ砂糖をどっさり入れ込む。ここまでするのなら、何もダージリンなどこだわりを持たなくてもいいんじゃないかしらと思う。せっかくの香りも何も、台無しじゃない。砂糖の味しかしないんじゃないかと思う。

 いや、そもそも茶葉ではなく、ティーパックなんていう庶民的なものから飲み物を淹れている時点で、通ではないことはうかがえる。私はこの馬鹿皇子を前に、あからさまな溜息を吐いた。

「ミラル。溜息なんか吐いちゃって。悩みごと?」

「アンタのせいよ!」

「それは光栄だね」

「皮肉ってんの!? 最っ低ぇ……っ!」

「あぁ、紅茶が美味しい」

砂糖が美味しい……の間違いじゃないの、とは敢えて言ってやらなかった。ここで突っ込みを入れてしまったら、私の負けだと思ったのよ。

「ミラルも飲むかい?」

「砂糖漬けで干からびるがいいわ!」

「それは嫌だなぁ。僕はまだまだ、長生きがしたいよ」

くすっと目を細めて笑うと、デルシスは赤い瞳をわずかにだけれどもかげらせた。そこに、どんな意図があるのかはわからない。

「安心なさい。馬鹿は長生きするわよ!」

「それはよかった」

心底嬉しそうに笑うその馬鹿皇子をよそ目に、私は黄色のドレスを翻して、この部屋を後にした。これ以上、この馬鹿に付き合っては居られないと思ったの。馬鹿がうつったら大変だわ。

 此処は、イリール王国の城内。デルシスの配下にあった。だから私は、居心地の悪さで嗚咽さえしそうだった。


 とても綺麗なのよ、デルシスは。


 それが私には、赦しがたいことだったの。


「おや、ミラル皇女。如何されましたか?」

此処の王佐であるハルバート。通称「ハル」は、昔なじみの顔だった。私の国であるヘイランルと此処は、本当に隣国であって、代々国交が盛んな国だったわ。ハルには、私も子どもの頃からお世話になっている。

「私の婚約者は、どうしてハルじゃないのよ!」

そう言って、私はハルに抱きついた。白を基調とした軍服を身にまとい、栗色の短い髪に同系色の瞳を光らせる優男……に見えて、実は剣の腕はピカイチというほど、秀でた武官でもある。文武両道とは、このハルのことを意味していると思っている。

「デルシス皇子では、何か問題でも?」

「大問題よ!」

すっぽりと顔を相手の胸元にうずめると、わざとらしく、且つ重々しく溜息を漏らした。

「あんな奴、竜にでも食べられてしまうといいんだわ!」

「それはまた、物騒なことを……」

「だったら、砂糖に頭を突っ込んで、そのまま固まればいいわ!」

「どういう理論でしょうか……それは。砂糖漬けならば、デルシス皇子は喜んでしまいますよ?」

ハルは、目を細めてやれやれといわんばかりの笑みをにわかに浮かべた。薄い唇の角を上げて、大人の顔をしている。

「ミラル様。あなたはとてもお美しい。あなたが本気で願うならば、この世のどの殿方さえも、夢中にさせることでしょう」

「あなたを除いて……だけどね!」

「私ですか?」

ハルはとんでもないと、身の程を知ったような口ぶりで、そう問い返した。

「私は夢中になってはいけないのですよ、ミラル様。私はこの国の王佐ですから。私は、デルシス様の幸せを願うこともまた、執務に入るのです」

「知っているわよ、そんなこと……だから余計に、ムカつくのよ」

腹立たしいことこの上ない。そうよ、私はこの王佐「ハル」のことをこころから気に入っている。だから正直、ハルの居る国になら、嫁いでもいいんじゃないか……と、思った夜もあるわ。

 でも、だからといってそれはあくまでも「昔」のこと。今は私だって十七。結婚して、子どもを授かりたいとも思う年になってきている。隣国の「王佐」と仮にも「姫」である私が、結ばれるはずがないことだって、分かっているわ。

 私が苛立ちを覚えていることは、そんなところには無い。あの馬鹿皇子が、どこまでも馬鹿だからよ。

「ハル。私のことをさらってよ」

「ミラル様……いけませんよ、そのようなことを仰っていては。何処でどのような者が聞いているかも分からないのですから」

「いいのよ! デルシスとの婚約が破棄されるまででいいから、私をさらいなさいよ!」

「そんなに破棄したいのなら、破棄したらいいと思うよ?」

「そうね、それが出来れば苦労はしてな……って、デルシス!?」

いつの間にこの執務室に来ていたのか、まるで気配が無かったことに驚きながらも、それより驚くべき言葉が飛んできて、私は口をぽかんと開けたまま、しばらく身動きが取れなくなっていた。

(デルシスも、私との婚約を嫌がっていたの!?)

それはそれで、ムカつくのが私。だって、馬鹿皇子の分際で、私というそこそこに「完璧」であり、これまで一番側にいたはずの「姫」との婚約破棄を望んでいたなんて。まったくもって、腹が立つ話じゃない!

「ミラルはモテるから。それに、ハルバート? もしもキミが本当にミラルのことを想うのなら、僕は父上から許しが出るよう、交渉するよ?」

「デルシス様まで……そのようなことを。口にするものではありません」

デルシスは、赤い目を輝かせながら、腕を頭の後ろで組み、薄手の平素な格好で言葉を発する。

「僕はただ、身分を捨てたいんだ。ハルバートになら、この国を託すことが出来るし。ミラルは大好きなハルと一緒になれるんだし。一石二鳥だとは思わないかい?」

そしてその後、まったくもって王位継承者らしからぬ言葉を続ける。

「僕には政治をどうこうしたいという思いもなければ、魔法を極めたいとも思えないんだ。とにかく僕は、自由が欲しい。たとえるなら、鶏肉を山ほど食べてもいいような国へ、旅に出たい」

「どんな国よ、それ! 命をもっと尊びなさい!」

私は思わずそう叫んだ。それを聞いて、デルシスはまた、眉を上げて目を輝かせた。

「聞いたかい? ハルバート。ミラルは完璧な姫だよ。だから、完璧である男こそが、相応しい。そうは思わない?」

「私は完璧ではありませんから」

「僕はそれよりもっと、完璧じゃない……そして」

私は耳を疑った。

「僕は、大馬鹿ものだよ?」

あははは……っと高らかに笑うと、目を細めてまるで無邪気な子どものように首を傾げ、とぼけたように口を開く。同い年とは思えないところがある。

 ポンッと手を鳴らして、何かを閃いたかのように、何度も頷きはじめた。

「そうと決まれば、父上に相談してこようかな」

「本気なのですか! デルシス様!」

王佐ハルは、呆れるのを通り越して軽く声を荒げた。テノール声が、執務室に響き渡る。物静かな王佐には、珍しいこと。それでもデルシスは気にも留めず、ひらりとローブを翻すと、国王陛下の居る王室へと足を運んでいった。その足取りは軽い。

そこまで私との婚約を嫌がっていたなんて……私は、腹立たしさと同時に、どこかでショックを受けていることを自覚した。

(何なのよ……馬鹿皇子の分際で!)

私の思うようにいかない人生に、嫌気がさしていた。ずっと一緒だったはずのデルシス。でも、こころの中では、私のことを鬱陶しく思っていたようで、そのことは私の自尊心も傷つけた。

「大丈夫ですか、ミラル様。顔色が悪いですよ?」

「そう思うのなら、慰めなさいよ」

ハルは軽く息を漏らすと、私のことをただ静かに抱きしめてくれた。その腕の中は、とても温かくて安らぎを与えてくれた。何だか、良い香りもする。香水なんていうものを、つけているのかしら。そんなことを思いながら、私はうとうとしはじめて、しまいにはハルの腕の中で眠りについた。



「うーん……あれ、ここは?」

見渡す限り、真っ暗闇が続いている。ここはひんやりとしているし、どこかの「部屋」という感じもしない。床だと思っていた場所は、泥にまみれた直の地面で、私の黄色のドレスは湿ってしまっていた。

 見たことも無い闇が続いていることに、私は少なからず不安を覚えた。さっきまで、私を抱きしめていてくれたはずの王佐、ハルの姿も無い。一体、眠っている間に何が起きたのかしら。私は恐る恐る立ち上がり、夜目を凝らして状況を把握しようとした。

「起きましたか、ミラル様」

「えっ……ハル? ハルなの!?」

闇が少し揺れたと思うと、そこから人影が現れた。まだ姿はハッキリと捉えられないけれども、声は間違いなく王佐のものだった。

「ハル、どこなの!」

「ここですよ」

後ろ手を縛られた王佐が、困った顔をして歩み寄った。その様子を私は、不思議そうに見つめた。

「何をやっているの、ハル」

「捕まってしまったようですね」

「そう……って、えぇ!?」

あっさり言ってのける王佐ハルバートは、面目ないと頭を下げてから、僅かに笑みを浮かべた。口角をあげて見せるその笑みは、何とも上品でまるで危機感を持った様子ではない。そのことを、喜んでいいのか、悲しむべきところなのか、今の気が動転している私には判断できなかった。

 ちなみに、真っ暗でも相手の顔が判別できるほどには、目が闇慣れしていた。

「誰にやられたの!? 敵国……それとも、賊!?」

「さぁ? 気がついたら、此処に居たので」

それで良いのか、王佐よ……と、私はため息交じりに俯いた。金色の髪の毛も、今は泥でぐっちゃぐちゃ。早くお風呂に入りたいところだわ。それに、此処は真っ暗なだけではなくて、肌寒かった。服が泥に濡れてしまったからこそ、冷たいと感じるのかもしれない。

「ハル、私たち逃げなきゃいけないんじゃないの?」

「そうですね。ただ、私はこのとおり、後ろ手で縛られていますので。剣もナイフも、すべて没収されているようです」

そうだとしたら、尚更落ち着いてはいられないじゃないの……と、私は顔が青ざめることを自覚した。この王佐、こんなにもとぼけた人柄だったかしら。とぼけて馬鹿みたいなのは、いつでも隣に居たデルシスの方だったから、今まで気づかなかったのかもしれない。

 デルシスの馬鹿っぷりは、思い出すだけでもキリがないわ。

 たとえば、一緒に出かけたとき。私が「この花が綺麗」と指差すと、翌日には私の部屋はその花でいっぱいになっていて。それだけならよかったのに、中に居た蜂にまで気づかなくて、ふたりで蜂に刺されまくったり。

 たとえば、ダンスパーティーで私が絡まれていると、女装した姿で現れて、その男を連れ去ってしまったり。

 たとえば、勉強が嫌になって塞ぎこんでいると、窓の外から現れて、そのまま足を滑らせ庭に落っこちていったり。

 たとえば、私が格好いい魔物に会いたいなんてことを口走ると、「魔物」と書かれたシャツを着て現れたり。

「……馬鹿」

 そう、いつだってデルシスは……私のために、馬鹿やってくれていたのよ。いつだって、どんなときでも、私の一番の隣に居て笑ってくれていた。私を、笑わせてくれていた。

 魔法を先生から教わっているときだって、飲み込みの早いデルシスは、頭の悪い私の補修にも付き合ってくれた。嫌な顔なんて、一度だって見せたことない。

 だから、嫌なのよ。馬鹿みたいに振舞って、実は全然馬鹿なんかじゃない、賢い皇子と結婚するなんて。本当に大馬鹿な私に務まるわけがないじゃない!

「ハル! 私には無理なの……デルシスみたいに出来ている皇子の婚約者になんて、なれないの!」

「ミラル様……?」

「デルシスには、もっと相応しい姫君が、きっと何処かの国に居るはずよ! 私じゃダメなの。私じゃ……!」

金髪の長い髪の毛を振り乱しながら、私は首を横に振った。目をかたく瞑ると、溢れてきた涙が頬を伝っていった。

 知っていたはずだもの。私は、デルシスが出来る皇子だということを。それを、隠してとぼけたヘタレのふりをしていることも。みんな知っていたわ。

「……ミラル様は、本当はデルシス様を愛されている。そうですね?」

優しい声色で、王佐はそう問いかけてきた。

「好きだからこそ、奪ってはダメなの! デルシスと、この国の為にも……もっと、姫君らしい女性を選ぶべきなの!」

「……だ、そうですけど? デルシス様」

「え……っ?」

その瞬間。ぱっと暗闇に光が放たれた。魔法によって、生み出された擬似太陽。その光の球がほわほわっと私の目の前に現れた。一体、何が起きたのか。すぐには理解できなかった。ただ、ここは洞窟のようで、入り口だと思われる方から足音が近づいてくることに気づいた。

「ミラル……ごめんね」

そう言って現れたのは、他でもない。デルシスだった。黒い髪に赤い瞳を光らせて、どこか申し訳なさそうに眉を下げ、首をかしげている。

「あぁ、服が汚れてしまったね。あとで僕が洗うから。許してくれないかな」

「許すって……待って、待って。話が見えないんだけど! どういうことよ! なんでアンタが此処に居るの!?」

私の碧眼からは、もう涙はない。今あるのは、とにかく戸惑い。何なの、この違和感は……どうして、デルシスが居るの? そして、後ろ手を縛られていると言っていた、王佐のこの落ち着きよう。まわりに賊とかが居るんじゃなかったの?

「デルシス様。ご説明をされたほうが良いですよ?」

あれよあれよと、王佐は自分で、まるであやとりをしているかのように、簡単に手の自由を奪っていた……と、思われる紐を解いてしまった。

「そうだね、ハル」

私の目の前にまでやって来たデルシスは、私の手をそっと握ってきた。その手は、暖かい。

「本心が、知りたかったんだ」

いつもとは違う声色。こんなにも真面目なデルシスの声を聞くのは、一体いつぶりだろう。声を静めて、まるで大人びた声色が、洞窟であるには間違いないこの空間に、響いた。

「ミラルが、本当に僕を嫌っているのなら、婚約破棄を考えたよ。或いは、ハルバートのことも、本気ならばそれはそれで、僕は構わなかったんだ」

真面目な赤い瞳には、戸惑う私の姿がはっきりと映っている。

「だけど、もしもミラルが何かに遠慮しているとか、引け目を感じることがあって、婚約者になりたくないのならば、そのときは、僕は破棄をしたくはない」

「どういうこと……?」

「僕は自由が欲しい。それは本当だ。でも、ミラルの居ない世界で自由を得たって、つまらないと思うんだ」

こんなにも見た目がよくて、頭も良くて、魔法も使える皇子なんて、他には居ないわ。今まで、会ったことないもの。とにかく完璧なのよ。完璧すぎるからこその、「孤独」なんていうものに、もしかしたらデルシスは苛まれていたのかもしれない。

「だから、ハルにもひと役買ってもらって、ミラルから本当の言葉を聴きたかったんだ」

「じゃあ、賊なんて居ないのね? ハルも、別に縛られていた訳じゃないんでしょ!」

「えぇ。すみません、ミラル様。騙したくはなかったのですが、デルシス様のお気持ちを察して、お許しください。罪を問うならば、私がすべてを負いますから」

申し訳なさそうに、ハルは私に頭を深く下げた。私は、デルシスに握られていた手をぱっと離すと、ハルの額に軽くでこぴんを食らわせてやった。

「これで許してあげる。ハルにでこぴんなんて、私くらいしか出来ないでしょう?」

ふふんっと笑って見せると、私は勝気な笑みを浮かべながら、デルシスの顔をもう一度しっかりと見直した。

「これだから馬鹿皇子って言われるのよ、デルシス。アンタがいい男過ぎるから、私は身を引こうって決めていたのに……ほんっと、馬鹿!」

「ミラル……」

「なーんて……ね。そう言う私が、一番馬鹿だったわ。ごめんね、デルシス」

私はデルシスに向かって、人差し指をびしっと向けて言い放った。

「いい? 私、アンタに相応しい女になってやるわ。そのときまで、ちゃんと私をキープしていなさい。手放したりなんかしたら、私はアンタのもとを飛び立って、別の男を捕まえるわよ!」

そんなつもりは、毛頭ない。なんてことは、言ってはやらなかった。だって、悔しくなるだけじゃない。

「もちろんだよ、ミラル。僕も、もっと魔法を学ぶし、社会を学んでいくつもりだよ。どんなことがあっても、ミラルを守っていけるように」

「恥ずかしくなることを、ぺらぺら言うものじゃないよ!」

まんざらでもない私は、ほんわかした魔法で出来ている白い明かりの中で、顔をほのかに赤く染めていた。こんな風にデルシスと話すのは、婚約が決まってからは、はじめてのことだったかもしれない。婚約を親同士で決められてからは、「どうしよう、どうしよう」って、不安になって、「馬鹿皇子」と相手をののしることで、自分を守っていた。逃げていた。でも、本当は大好きで、ずっとそばに居たかったのだと、思い知らされた。

「ハルバート、帰ろうか。こんなジメジメしたところ、長居するものじゃないよ?」

「そうですね。ミラル様、城までは馬車を走らせますから。あぁ、行きもここまで馬を飛ばしたんですよ」

「馬を……って、そんな遠出をワザワザしたわけ? こんなことの為に?」

私が思わず目を見開き驚くと、ふたりはそそくさと私に背を向けて歩き出している。

「そうだよ? 此処って、噂によると身体が二メートルもあるような、大きな魔物が出るんだって」

「へぇ……って、そんなところに、ハルと私をほったらかしにしていたワケ!?」

「細かいことは、気にしない、気にしない。無事だったんだから、いいじゃない」

くるっと、一瞬後ろに居る私の方を向いて頭をかくと、舌を出してお茶目さでもアピールしているつもりなのだろうか。とても笑えない。

「さぁて、城に戻ったら紅茶の続きでも飲もうかなぁ」

「前言すべて撤回!」

デルシスは、笑っていた。私も……まぁ、本気で怒っているわけじゃない。だからこそ、デルシスも王佐もこのゆるい表情。こころ許せる仲間である証拠。

「やっぱり、あんたなんか砂糖漬けで干からびるといいわ!」

「あははは~」


 まったくもって、今日も馬鹿皇子と私は、平穏であり幸せなのだった。


 こんにちは、はじめまして。小田虹里と申します。


 この作品は、久しぶりに読みきりで、久しぶりに「COMRADE」ではない、まったく別の異世界物語となっています。ジャンルはファンタジーです。


 実はこの作品、ある短編の公募に出して、みごとにおっこちたものでした。それでも、いつも「ダーク」な感じをたどっている小田にとっては、「挑戦」となったひとつの作品であり、思い入れはあります。


 ミラルもデルシスも、とにかく明るい。王佐も、弱々しくなくて、畏まっていなくて。それでいて、中立の立場にいる感じで、好きです。


 小田は、今年を「勝負の年」と思っています。そのために、昔好きだったラノベを読み返し、あらたなラノベを買って、見てみたり。古事記から、北欧神話から。古代文明やら何やら。今までにあった知識の強化と、なかった知識のとりこみにも、力を入れています。


 この作品では入れていませんが、書き方を変えてつづっているものもあります。それが、いいかどうかはわかりませんが、今まで、公募で通らないっていうことは、きっと、小田の何かがダメで、魅力もないんだって思うんです。通りたいなら、自分が変わるしかない。


 ただ、「作風」までは変えたくない。それは、小田のポリシーであり、伝えたいことも、絶対曲げられない。


 小田の伝えたいテーマは、「重い」と感じるものが殆どかもしれません。そんな中でも、たまにはこういう、息抜きくらいの楽な作品も、あっていいんじゃないかなって、思っています。


 もうじき、お盆ですね。お世話になっているお寺さんは、7月盆なので、御塔婆はもうもらってきています。ただ、小田の住んでいる地域的では8月盆なので、8月にお寺さんがお経をあげにきてくれます。さらには、8月頭には、祖母の実家の家の盆がありまして。先日の金曜日。五日ですね。自分のお墓参りの前に、母のお墓参りへと、おじさんと共に来てくださいました。


 お盆は、よく「視える」ときです。よいものから、悪いものまで。そんな不思議な体験が出来るときなので、小田に不思議な力がもっと宿らないかなぁ……なんて。ここまで、お付き合いくださりありがとうございました。これからも、頑張ります。 H28.8.7


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