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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドラゴンは公安調査官 ~金竜は東京で妖魔を狩る~


「皆様、当機は間もなく成田 新東京国際空港に着陸いたします。シートベルトはお締めでしょうか、今一度ご確認ください」


私は軽く延びをした。 ようやく、日本に到着だ。 

同じ姿勢を長く続けたせいで、身体がだるい。 人間はこんな、か弱い肉体で生きているのか。

酷い乗り心地の、この飛行機とかいう代物にはいい加減うんざりだ。 人間なんて地面を這い回っていれば良いのだ。 せいぜい船を使う位で満足しておけ。 身体に翼も無い生き物が空を飛ぼうとするな。


元の丈夫な身体が懐かしい。 今すぐ戻りたい。


小さな窓を通して外を見てみると、もう夕暮れだ。 機体は高度を下げ着陸態勢に入る。

今日は気流が荒く、風が強い。 滑走路と呼ばれる細長い道に着陸する為に、飛行機は細かく進路を調整している。

私ならもう少し上手くやる。 まあ、私の場合は自分のつばさを使って飛ぶ訳だが。

こんな不細工な機械では、これでも精一杯なんだろう。

飛行機に乗る位で文句が多い? あなたはそう思うのか? 


無理矢理に人間の身体にされて、飛行機に押し込まれているのだ。 それ位の文句は許して欲しい。

私の名前はゴールドムーン。 あなた達人間は、私達の種族をドラゴンと呼んでいる。 ちなみにめすだ。 これでも故郷では、おす竜どもにちやほやされている。 自分の魅力には、ちょっとした自信がある。


魔法によって人間の身体に変身しているが、私の美しさは竜の時と変わらない筈だ。 実際、周囲の人間の雄どもの視線が五月蝿うるさい。 調子に乗って身体の線が浮き出る服を選んだのは不味まずかったかも知れない。 だが人間だろうが、竜だろうがおすをからかうのは楽しい。 どうせ何が起ころうが人間の貧弱な身体では、私に何も出来はしまい。 不埒な輩に対しては、急所を蹴り上げてやってもいい。


…話が脱線してしまった。

わざわざ日本まで飛んできたのは、別におすどもをからかいに来た訳ではない。

私はこれでも日本国政府に招かれてここにいる。 彼らは私に、ある仕事をさせたいのだ。


飛行機は軽いショックとともに、着陸した。

この成田空港も、三度目だ。 もう田舎者とは言わせない。 初めて来たときに、空港の設備に慣れておらず、色々とやらかしてしまったのは遠い過去の話だ。 封印済みの黒歴史だ。


うんざりしながら、混み合った機内で人の列に並び、ようやく飛行機を抜け出した私は、空港内の建物に入る。

そして携帯電話を使って、待っている筈の人間に連絡を入れた。

電話の相手は日本国の公安調査庁と言う役所に勤めるおすの人間で、名前を田中と言う。 形式上は日本における私の上司になるが、実質はせいぜいパートナーだ。 人間に頭なぞ下げる気はない。 私は誇り高いドラゴンなのだ。


十年ほど前に、ここ地球と呼ばれる世界と、私達の世界”インフィニット”との間に異界の門が開いた。 私達にとって門が開くのは、過去にもあった話でありなんとか事態を収束できた。

しかし地球ではいろいろとあったようだ。


当時は大混乱したと聞く。 大掛かりな調査団が何度も我が世界に送り込まれて来た。

私が初めて興味をもった人間、大滝と会ったのもその時代だ。 だが奴はもう地球にも"インフィニット"にも居ない。 私には返せない借りを背負わせた挙句あげく、勝手に死んでいった。


東京に来るといつも大滝のことを思い出す。 そして私は、柄にもなくセンチメンタルになる。 奴に東京を案内してもらったらどんなに楽しかっただろうか? もう一度あいつの笑顔を見たい。

あいつと同じこの人間の手で、あいつの腕に触れて見たかった。


…駄目だ。


追憶ついおくひたってボケッとしてるところを、公安庁の田中に見られたら、なんて言われるか分かったものではない。

仕事仲間にすきを見せる訳にはいかないのだ。


私は気を引き締め、異世界人向けの専用入国カウンターに向かう。

おすの係官に、日本国政府発行の招待状と王国発行のパスポートを見せる。


異世界人用の個人識別機が作動し、十台のカメラアイが私を分析する。 

私の拘束具こうそくぐが正常に動作しているか調べているのだ。


ドラゴンとしての能力のほとんどは日本国内では使うことが出来ない。 私が身にまとっている、人間のおすどもを惹きつけるこの肉体が、同時に私に対する拘束具こうそくぐなのだ。

この見栄えのするめすの身体は、人間の社会に混じり活動するのに都合がいい。 しかし私のドラゴンとしての能力を制限している。 


日本人というのは心配性過ぎる。こんな拘束こうそくは本来不要だ。

拘束が無かったら、私が東京のど真ん中で竜の姿に変身しドラゴンブレスをまき散らしながら破壊の限りを尽くすとでも思っているのだろうか?

この検査は侮辱ぶじょくされているようで、あまりいい気分では無い。


「確認終了です。 ようこそ日本国へ。 ゴールドムーンさん、いや失礼しました。 渡辺ユカさん」


渡辺ユカは、私の日本での名前だ。 

愛想だけは飛び切りいい係官を後に残し、私は空港の外に向かい出迎えの車を待つ。


公安庁の田中は間もなくやってきた。

ダークブルーの目立たない中型の車でやってきた私のパートナーは、運転席から降りると無愛想に私を迎える。


なんとか見れる顔にボサボサの頭。 年齢は30ほど。 今まで何度か面識はあったが、こいつはめすに興味が無いようだ。

まともなおすなら、私の身体に視線が釘付けになって当たり前なのに、綺麗に無視してくれる。


からかいがいの無い奴だ。 

これが大滝だったら、少なくとも甘い台詞で私の服装を誉めてくれる。…いや、誉めてくれていた。


「荷物は?」 


「これだけ」 私は持っているトートバッグを持ち上げて見せた。「あのキャリーバッグとか言う、ごろごろ転がるやつは嫌いなの」


「このまま本庁へ行くか?」


「今日はもう遅いわ。 疲れたの、勘弁して。 ホテルで休むわ。 それとお腹がすいた。 食事がしたいのだけど」


「飛行機で食べなかったのか? ホテルのルームサービスもまだ間に合う」


「飛行機で出る残飯ざんぱんみたいな食事はしたくなかった。 ついでに言えば日本円の持ち合わせは、ほとんど無いしね」


しょうがないな、と言う顔をして田中は私を見た。


「食事代と宿代は俺が立て替えておく。 登庁すれば政府からの金が手に入るだろう。 そこから返せ」


私におごると言う名誉をさずけてやったのに、細かい奴だ。 食事代くらいおすならケチケチするな。

ドラゴンから金を巻き上げる奴は地獄に堕ちる。


私は、奴の車の後部座席に乗り込んだ。

乗り込むとき、田中のまとわりつくようなねっとりした視線が、私の肢体したいに注がれたのを感じた。

おや、こいつはめすには興味が無かった筈なのに。 とうとう私の魅力に陥落かんらくしたようだ。


高速道路と言う車専用の道路を使い、東京の都心に向かう。

途中に設けられている、道の駅という休憩が出来るところに立ち寄って食事をすることにした。

旨い肉が食べたいのだが、ここで大丈夫なのだろうか? しかし、この人間の身体は空腹でこの辺が限界だ。 私は妥協することにした。


車は駐車場にとまり、私は降りた。 あまり車が止まっていない。 がっかりだ。

食事が美味しいところなら、もう少し車が停まっている筈だ。 あまり繁盛してないのだろう。


「…くっ」


突然、後ろから私は首を締められる。

息が出来ない。 抵抗しようとして相手の腕を掴むが、相手の力は異常に強い…この力は…この肉体では…

このままでは殺される。


田中、どこにいる? こいつを…押さえて。


気が遠くなってきた私を、相手は地面に放り投げ、私は無様ぶざまに転がる。

息が出来ない。 ひどく咳こみながら、呼吸をとり戻そうとした。

顔をつかまれ、無理矢理相手の方を見せられる。


相手は…田中だった。

田中は私を仰向あおむけにし、馬乗りになって上着を引きちぎる。

人間の力では無い。

顔を思いっきり殴られ、頭がぼんやりとしてくる。


こいつは…魔族…。


田中の顔を身につけた、人間では無いものが私にしゃべる。

「ユリオプス王国の犬が余計なことを。 お前は誰だ? 王室付けの魔術師か?」


顔が変貌へんぼうする。 牙が飛び出し、口が裂ける。 着ているスーツがはじけ毛むくじゃらの肉体が現れた。

魔族の一種の獣人だ。


「遠い日本まで、わざわざ殺されに来るとは。 ご苦労なことだ」 奴はしわがれた声で笑った。


「いくら魔術師とは言え、人間くんだりが魔族を狩ろうとはお笑い草だ。 報いを受けろ。 いや、これは祝福だ。 俺が自ら快楽を与えてやる。 そして安らかに死ね」


奴は私にのしかかり無理矢理に、私のくちびるを奪う。


(C級魔族の反応を検知。 対魔族特別法 細則1ー3ー5により拘束を一時的に無効化します)


身に着けているピアスが私にささやく。 私は思い出す。 今回の任務から支給された私向けの特殊装備をつけていた。

原理は良く分からないが人工知能というものらしい。

緊急時に拘束こうそくを解き、ドラゴンの能力を戻す役割を持っている。 


魔術拘束が解かれる。

力が身体にみなぎる。


私は自分の右腕を、部分展開した。 

美しいかぎ爪を持つドラゴンの腕が、非力な人間の腕と置き換わる。

加えて、全身をドラゴンのうろこおおった。


「お、お前は…その腕は…」 魔物があえぐ。


そのまま、奴のみにくい顔を、わしづかみにして私の顔から引き離す。

…握りつぶそう。 汚らしいくちびるで私を汚した罰だ。

右手で頭を掴んだまま、のしかかっている奴の身体を払いのけ、起き上がった。


「好き勝手にやってくれたようね。 満足した?」

私は自分の唇を、人間の腕のままにしてある左手でぬぐう。


「私が人間だと? 何を血迷っている。 私はドラゴンだ。 お前らの相手をさせる為に、王国がわざわざ人間を派遣する訳が無かろう」


「…そうか。 お前は金竜だな…噂は本当だったのか…」


「やった事の報いは受けてもらう」


腕に力を込め、獣人の頭を握りつぶそうとして、ふと思い出す。

このまま殺したのでは、本物の田中から文句をもらう。 しょうがない。


「誰に命令された? 田中に化けて私を襲えと言ったのは誰だ?」


「…言えない」


「言え。 悪いようにはしない。 命は助けてやってもいい」


「…本当か? 助けてくれるのか?」


「ドラゴンが嘘を言うと思うのか? 私は金竜だ」


「…警視庁の太田だ。 あいつが俺たちのボスだ…」


田中よ。 お前の社会は腐っている。 そこまで魔族に浸食されているとは。


「助かる。 これは礼だ」


そのまま獣人の頭を握り潰した。 青黒い血が拭きだし私の身体を汚す。

首なしになった獣人の身体は力を失い、私にもたれかかって来る。

地面に死体を投げ捨てた私は、一息つく。


痛みは感じなかったろう。 これが私流の礼だ。


王国特製のスーツが、ボロボロだ。 ビリビリに割かれている上に、汚らしい血をぶちまけられて台無しだ。 

せっかく女王が作ってくれたのに、どう謝ろう?


(執行終了。 魔術拘束が再起動します) ピアスがささやく。


拘束が復活し、全身のうろこが消え右腕も元に戻る。

強制的に人間の身体に戻されたのだ。

私はため息をついた。


田中の個人用の番号にかけると、携帯はすぐにつながった。

流石さすがに今度は本物だろう。


「どうした? 東京に来るのは明日の筈だが」


敵はかなり組織に入り込んでいるらしい。 偽りの情報を紛れ込ませている。 まあ、私がドラゴンだというのを知らなかったのは間抜けだが。


「あなたに化けた敵に襲われたわ。 親玉は警視庁にいる部長の太田。 死ぬ前に白状した」


「警視庁が?」


田中は絶句する。 まあ、勝手に驚いてて。


「服を破かれたの。 女物の服を適当に見繕みつくろって持って来て。 あなたにセンスは期待してないから」


「大丈夫なのか? そこを動くな。 すぐ行く。 救急車を手配するか?」


「おや。 心配してくれてるの? らしくないわよ」


「馬鹿を言うな。 部下を心配するのは当然だ。 俺は冷酷なドラゴンとは違う。 心優しい人間だ。」


心配してくれていると考えた私が馬鹿だった。 こいつは私に喧嘩を売っている。 それに私は部下ではない。


「救急車はいらない。 早く服持ってきて。 それから食事につきあいなさい。 私は日本円を持ってないの」


「了解だ」


同僚と話を終え、私は空を見上げてみた。 見慣れない明るい星が私を見返す。

明るい星は、私の世界では縁起がいいものとされている。


今回の任務も、楽しめそうだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませてもらいました。面白かったです。 5000字という長さの中で設定が把握できるので良いと思いました。 ドラゴンが公安調査官という設定で驚きましたが。 [一言] 続きが読みたいで…
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