第九 新たな戦い
お待たせしました。『第九話 新たな戦い』です。
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第九 新たなる戦い
『荒ぶる』神こと『セキ』は直ぐに意識を回復した。
「お前達は何者だ?」
『セキ』が不思議そうにアール達を見る。異形の複数有る気持ち悪い目がギョロギョロあちこちに忙しく蠢いてきるのが、『セキ』の動揺をしていることを示していた。
「質問するのはこちらだ。四諦とは何だ?」
どうせまともに答えるとは思えない。アールは精神感応で『セキ』の思考をサーチする。
《四諦とは神通力の要素の事だ》
やはり『セキ』は口では答えなかった。
《お前のやっている事は私を殺すよりも酷い事だ》
『セキ』から強い憎しみの感情が沸き上がる。意識を覗いていることは分かるらしい。
「私はお前のプライバシーには興味は無い。聞かれた事だけに意識を集中しろ。お前達の世界では神通力の要素はいくつまで確認されているのだ?」
《馬鹿な事を聞くな。四諦以上があるものか》
「お前が操れる要素数では無いぞ。確認されている要素数を聞いている」
《何を聞いている? 我等の長神の神格を取り沙汰しているのか? この世界は、長神議で我等の始祖神たる長神『マセランティア』様が統治権を与えられたはず。
何処の長神様か知らぬが、いかなる権利が有ってこの地に介入される》
アールは、「うっ」と唸ってしまった。アールが聞きたかった事は、八大元素の事だ。神々はアールよりも多くの元素を知っている可能性が高いと思っている。だから八大元素魔法より精度の高い魔法原理を探求し続けてきた。
ところが、この四諦神が言った事は全く予期せぬ話だった。短い言葉だったがアールの知らない多くの情報が含まれていた。さすがに四諦神だ。今迄のAGAとは情報量が違う。
長神議とは、神議の上位の会議機関だろう。そのような物があり、そこで『マセランティア』と言う長神がアール達の世界を統治する権利を与えられたと言うのだ。
その事は審議官ミサから知らされていない。これはアールには寝耳に水だった。
アールは怒りが噴出してくるのを抑えもしなかった。この五年『最終戦争』に向けて必死に頑張ってきたのに、神々は裏で既に統治権を与えたと言うのだ。
「『セキ』!。私はこの世界のマキシミリアン王国の国王だ。この世界の代表者だと思ってもらってもよい。私はお前達と協議して十年間の猶予を得たと思っていたが、騙されていたと言うのか?」
今度こそ『セキ』は驚愕したようだった。彼の驚愕は、嵐の様に吹き付けてくるアールからの威圧感に対するものである。それは彼が今までに感じた事もない威圧感だったからだ。
《お前は、何者だ? お前がこの世界の代表者であるはずがない。お前のその神格の高さはなんだ?》
「『セキ』! 意識を集中しろ。さもなくばお前の意識を丸裸にして二度と元に戻れぬほどにひっくり返してやるぞ。お前達は我々を騙していたのか?」
《やめてくれ! お前は破壊神の再来か? なんと恐ろしい。我々にこの様な拷問をするとは……》
「詰まらぬ事を言っていると真の恐怖を味わう事になるぞ。長神は我々を騙していたのか?」
《分かった。だから威圧するのは止めてくれ! この世界は長神が一度権利を主張した以上、いかなる長神であろうとその権利を絶対に侵害せぬ。それが神々の不文律だ》
『セキ』の告白はアールに衝撃を与えた。長神が他の長神の権利を絶対に侵害しないのならアール達が他の神々に援助を請おうとしても無駄だという事だ。
「では、あの神議は何だったんだ? 審議官ミサ殿は?」
《ミサ様は、『マセランティア』神様の長老のお一人だ。お前達に『最終戦争』を提案したのは全て『マセランティア』神の謀計だ》
『セキ』から恐ろしい憎悪の念が漏れてきた。何もかもを告白させられた屈辱のためだろう。
《お前達は何と恐ろしい種族だ。我々の頭を丸裸にして尋問とは。『マセランティア』神様を裏切らせるとは》
『セキ』の憎悪は次第に悲嘆になる。
「ミサ審議官は『さいひゅう』という神と名乗られたがあれは嘘なのか? するとお前達は、我々の同胞というのも偽りか?」
《私はお前達の同胞などではない。所詮お前達は最下位の神々にしかなれぬであろう。しかも神々になれるのは千人に一人もおるまい。全ては適性が合うかどうかだ》
「キンデンブルドラゴンハイツの大戦でも我々の同胞以外の神々が混じっていたと言う事か?」
《お前達の蛮勇には我々も驚いた。数多神は大きな戦力を削がれた》
アールは、『セキ』のその言葉を聞いて逆に安堵のあまり大きなため息をついた。最も恐れていたのは数多神の本戦力が圧倒的に強い事だった。何千億もの数多神が侵攻する悪夢から解放された瞬間だった。
「お前達の軍事組成を簡単に言え」
《『マセランティア』神他七種族の長神から選出される十二名の長老会議が最高機関だ。この下に我等、四諦神が指揮する十八軍団を形成する。十八の軍団の構成は、四諦神が指揮する四つの師団からなる。ほとんどは数多神、鎧神、水神などの神々が兵力となっている。各軍には、大神が特殊部隊として付随するのが普通だ》
「一軍団の数は?」
《先のキンデンブルドラゴンハイツの大戦が三個軍団だった》
つまり、キンデンブルドラゴンハイツの大戦で六分の一を殲滅した事になるのだ。アールはもう一度大きなため息を吐いた。ミサは戦略家として無能だと直感したのだ。
全戦力の六分の一の投入とは確かに大きいが、中途半端だ。それで絶対に勝てると確信があるならまだしも結果として負けている。兵力の逐次投入をしなかったのは賢明だが、予備兵力の数が少な過ぎると言えば作戦計画全体の不備となる。要するに絶対的な戦力を持ちながら小出しにした事に違いない。
全世界の兵力を集中させたアールの方が上手だったのだ。特に科学魔法は彼らには対処不明な攻撃だったのだろう。
道理でそれまで冷たい対応だったミサがキンデンブルドラゴンハイツの大戦以降、妙に親切になったのも頷ける。ずっと目下の弱小下等種族と思っていたアール達に手酷くやっつけられたのだ。
しかし、未だに十三個軍団を擁する大軍団には違いない。しかも最も当てにしていた他の神々の援助も期待できないのだ。
「お前達がここで英雄を連れて来るように言っていたのは、我々をおびき寄せる罠か?」
《そうだ。しかしまさか、お前達がこれほどまでに強いとは聞いていなかった。お前達が神通力を使えるはずがない》
「お前は先程、四諦は神通力の四つの要素と言っていたな。お前が知っている神通力の要素を言ってみろ」
もう一度一番知りたい事を聞いた。今度は勘違いしないように聞きたい事を直接尋ねた。
《思、浄、造、静、変、空の六大要素だ》
セキが答えた。
「成る程。するとお前が使えるのは、思、造、静、空か?」
《やはり、お前達は神通力が分かるのだな。しかもお前達は詠唱も何もせずに神通力を行使していたな。一体お前達は何なのだ?》
アール達の使う魔法があまりにも異質らしい。確かにアールは誰に習った訳ではなく魔法の理論を構築した。どうやらそのお陰で、神々は神通力は六大要素でできていると思っているのに八まで元素を見極めることができたのかもしれない。神々は名前から想像するに、『絶対』と『支配』の二つの元素は知らないのだろう。
この二つの元素は神々との戦いを絶対的有利に導く可能性がある。なぜなら、神々の神通力の要素には二つの元素が混じり効果を緩めているはずなのだ。
「お前達の本拠地は何処にあるのだ?」
《天界の先を超えると我々の世界『テイランダー』がある》
「『テイランダー』? それがお前達の世界か?」
次回は、やっと敵地に踏み込みます。
アールとサーリの夫婦の二人三脚で敵に対抗します。
次回第二章開幕です。