第八 新たな力
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ワードでトラブルがあり更新が遅くなり申し訳ありませんでした。
第八 新たなる力
「この世には聖力と魔力しかないと思っていたのが間違いなんだよ」そうアールが説明した。
皆はまた、アールの荒唐無稽な話が始まったという顔をした。アールの話は理解できない事が多い。発想が奇抜過ぎるのだ。ところがアールの言う通りすると出来てしまうので信じるしかないという感じだ。
「科学魔法ですか?」
魔神エルシア帝が尋ねた。彼女もアールの生徒となってこの五年間、必死で他のメンバーに追いつこうと頑張ってきた。そこに来ての話だ。なかなか意識改革は難しい。科学魔法はあまりにも敷居が高すぎる。
「安心してくれ。皆の苦手な科学魔法とは違う。むしろ古代魔法に近い」
「古の魔法。神聖代に行われた術式ですね。今では魔法陣でしか確認できませんね」
これもエルシアだ。彼女は魔神種らしく魔法に詳しいのだ。
「そう。もはや神聖代の魔法は古い魔法陣の一部に残滓が残ってるだけだね。さすがエルシア。ヒントはその魔法陣にあったんだよ。魔法陣にはこのマークを必ず使うよね」
アールは空中に科学魔法で絵を描いた。昔、魔神を召喚した時に使った技だ。アールが空中に描いたマークの形は、コンセントみたいな形だった。先が三つに枝分かれたような形をしている。コンセント型の分かれていない部分に複雑な模様がある。その模様が術式である。
「この魔法陣の術式は非常に複雑だ。実際使わなくても発動する事が殆どなので、正しくこの術式を書けない魔法陣師もいるほどだね。でもこの魔法術式を書き込まないと確かに発動しない魔法陣もある。
この術式が謎で研究する者がいるほどなんだ。しかし、この術式の意味を良く考えてみると真理に辿りつけるんだね。もしこの分岐が二つの術式なら簡単だったんだけど」
想像もつかない。一つが三つに分かれる。それが二つなら分かりやすい。なんだろうと皆考えた。
「答えは簡単だよ。この術式こそ魔法の原動力を分ける回路だったのさ」
「なるほど、魔法を聖力と魔力にわけるという術式なら意味は分かります。でも後の一つはなんですか?」
すかさずエルシアが食いついてきた。
「エルシアは優秀だね。後の一つは中間力とでも言えば良いだろうか。聖力でも魔力でも無いものだね」
つまり、今まで聖力と魔力が奇跡や魔法の原動力であるとの認識だったがそれが違うと言うのだ。驚きの話だ。しかし、話はそれで終わらなかった。
「では、魔力、聖力、中力と分けて行ったら一体どれ程別れるのだろうと思ってね。いろいろ実験したところ全部で八個に分かれそうだと分かってきた」
「八個もですか?」
エルシアが声を上げる。驚くべき話だ。しかし、話はもっと驚くべき話へと変わって行った。
「その八つを今後は八大元素って呼ぶよ。八大元素の一つ一つにもその特徴から『想念』『浄化』『創造』『安定』『時間』『空間』『絶対』『支配』と名前を付けた。
詳しいことは追々知って行けば良いさ。それぞれの特性をうまく活かすととんでもない事ができる事が分かった。
そして八大元素に分けたらとんでもないほど魔法の力が増大するんだよ。
八つの八大元素が今からどれ程絶大な効果を発揮するか実演するから見ていてよ。
例えば、八大元素『安定』で火と爆発を起こしてみるから違いをよく見ていてよ」
「火!」
今まで見た事がない大爆発だった。
「爆発!」
見た目は先程より劣るのに、恐ろしい衝撃だった。結界が弾け飛びそうだ。強い破壊力が発揮されたという事が分かった。爆発は見た目ではないのだと皆が実感した。それほどの衝撃だった。
同じ事を『創造』力でやってみるよ。
「火!」
恐ろしい極熱の炎が発生した。熱が結界全体を燃やし尽くしそうだ。これほど凄い炎は見た事がない。熱量も生半可なものではあるまい。
「爆発!」
凄い爆発とともに結界が振動する。しかし先程の八大元素『安定』で発動した爆発に比べると破壊力は劣るようだ。
「次は、『創造』と『安定』の八大元素をそれぞれ混ぜて同じことをやってみるよ」
「火!」
大きな炎だがさっきの炎に比べると小さなものだ。
「爆発!」
爆発が発生する。こちらも同じだ。
「見たとおりだ、混ぜない純粋な八大元素の方が『安定』と『創造』を混ぜるよりもずっと効果が強い。それと、『安定』は爆発に『創造』は炎に効果が大きい事が分かるよね。つまりそれぞれの八大元素には特性があるって事。
難しい理論はさて置いて、魔法はまだまだいくらでも進歩するって事さ」
皆、口を開けてアールの話に聞き入っていた。
「さて、この『創造』と『安定』の二つの八大元素の混ぜ合わせ方を工夫するとまた効果が全然違うんだ。
神魄を作る要領で『創造』と『安定』を練り上げてみる。危険だから皆にもう一重八大元素『安定』で作った結界を張らせてもらう。それと外側の結界の世界を大きくしよう」
闘いのために作った結界が端が見えない程に広がって行った。さらに、アール達が結界で包まれる。
「火!」
見た事の無い爆発が遥かな彼方に発生した。次の瞬間には爆発で全てが飲み込まれてしまった。
「爆発は、あまりにも危険なので実演は止めておくね。このように純粋な魔法を練り合わせて魔法を発動させると巨大な効果が生まれるんだ」
アールの実演は衝撃的だった。あまりにも効果が違ったからだ。
「レイラト。どうすればあんなに強くなれる。教えてくれ」
青姫は純粋に強くなりたいだけのようだ。理屈は良いので早く教えくれと言わんばかりだ。
アールは頷いた。
「皆に、精神感応で新しい魔法の使い方を伝授するつもりさ。八大元素魔法で一番厄介なのは種類が多いのでバリエーションがあまりにも多くなることだね。
最初はうまく使えないだろうが皆なら直ぐに使いこなせるようになるさ。
それよりも皆には直ぐに八大元素を使いこなせるように八大元素の操作するための魔法陣を脳内に貼らせてもらうよ。そうすれば八大元素が感じられ見られるようになるはずだよ」
今から、高レベルの戦闘神達と戦うというのに新しい魔法とはどうするつもりだろうと思っていたら、精神感応で伝授するという。アールにはいったいどれほどの隠し駒があるのだろうか? と皆は思った。
「これも、陛下の魔法革命の一端なのですか?」
尋ねたのは魔神女帝のエルシアだ。
「私は、できることならこの世界の知的種族全てが神々に殿堂入りすることを望んでいるんだ。魔法力が優れた一部の者だけが殿堂入するだけで良いとは思わない。
八大元素の研究はかなり前からしていんだよ。そこそこ使いこなせるようになり、いろんな応用をし、皆に汎用化できるようになったのは最近だよ。後はこの能力を使う適正者の判断だけだね。あまりにも強力だから誰にでもって訳には行かないからね。
どうもそう考えると神々のAGA化と一緒みたいだね」
アールが答えた。
「魔法革命を全種族にですか?」
「そうだよ。そうでなくっては意味がない。傲慢不遜な神々など認められない。場合によっては彼ら全てを敵に回しても我々全ての種族が彼らの干渉を排除できる実力をつける事が私の目標だ。その為にできる事はなんでもする」
アールがキッパリと宣言するように言った。エニキス・キャバリアイ女帝は、アールの宣言に痺れた。この人任せれば何とかしてくれるかもしれないと思った。
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メンバー達は、アールの結界内で訓練を受けて、本当に直ぐに新しい魔法を使いこなし始めた。そもそも天才ばかりの集まりなのだ。
一緒にいた、エニキス・キャバリアイ女帝も、サーリから様々の新しい技術や魔法アイテムを授けられた。
彼女は、それらだけでも天空がどれほど遅れていたかを痛感した。鎖国などしている時ではない。
サーリは、エニキスのその感想に笑顔でこう答えた。
「遅れているのはアール以外の世界全てよ。でもアールは全世界を無理やり引っ張ってどんどん先に進んでいっちゃうのよ」
✳
エニキス・キャバリアイ女帝は、アール達を伴って執務室に入った。四諦神の最下位であるという『セキ』は、いつものように尊大に彼女の前に立った。
『セキ』以外の四諦神はいなかった。
「おい。そいつらは何だ?」
『セキ』が聞いた。
「はい。『セキ』様との対戦相手を連れて参りました」
「今回は催促もしていないのに随分早いではないか? しかも、エルデハラ種ではないようだな」
「この国にいる中で一番強い者を連れてくるようにとの申し付けでした。彼らは旅人です」
エニキスが答えた。
「お前達の種族は、天神種の次に強いと聞いて我々はここに来た。こいつらがお前達よりも強いのか?」
『セキ』が傲岸な態度で言った。
「やれば分かる」
答えたのは青姫だった。
『セキ』はチラリと青姫を見た。次の瞬間だった。青姫の身体が吹き飛ばされ執務室の壁を突き破って飛んで行った。
『セキ』が目にも留まらぬ速さで動き青姫にパンチを放ったのだ。
「バカめ。お前に発言を許したつもりはないぞ。永遠に寝ていろ」
『セキ』が尊大に言い放った。
エニキス・キャバリアイか狼狽して青姫が飛んで行った方を見ている。
しかし、彼女が周りを見渡しても、アール以下の誰一人すら心配している様子はない。どういう事だとエニキスが怪訝な顔をしたとき、青姫が吹き飛ばされた壁の方から青姫の声が聞こえた。
「こんな固い床で永遠に寝るのはごめんだな」
そう言いながら青姫が穴から出てきた。
「ふん。少しはやるようだな」
『セキ』がニヤリと笑う。
「御託は良いからサッサとやろうぜ」
青姫は聞いていない。
「「「ドカン!」」」
恐ろしい爆発音がした。『セキ』が再び青姫を殴打したのだ。
しかし爆発的な殴打を繰り出した『セキ』の右手は、見事に青姫に止められていた。爆発音は青姫の手と『セキ』の手がぶつかった音だった。
「ここは狭いし、皆が邪魔で動きが取れぬ。闘技場とやらに行こうか?」
青姫が澄まして言った。『セキ』は首を縦に振った。
一瞬で皆が闘技場に転移されていた。『セキ』の転移魔法だ。見事と言うほかない。
闘技場に青姫と『セキ』だけ残してアールたちは観客席に行く。
「お前に勝ったら次はどうしたら良いんだ?」
青姫が準備運動しながら『セキ』に尋ねた。
「お前が勝つ事はあり得ぬ。この世界の人間共が弱小の神々共に少々勝てたからといって図にのるな。あ奴等は言うなれば神々の下っ端に過ぎぬ。
神々の中でも我々四諦を極めし荒ぶる神々と一緒にするなよ」
「本当に御託の好きな奴だ。サッサとかかって来い。お前を倒す奴の名は黒曜竜青姫だ」
黒曜竜青姫は、ドラゴンランスを死神が持つような大鎌に変じて構えている。
「大仰なスタンスだな姫よ。我は、四諦を極めし『荒ぶる』神、『セキ』である。身の程をわきまえぬ人間風情に神の誅を降し参らせん」
『セキ』は、魔法で大剣を出現させた。
魔法経路で精神強化、肉体強化の術式を算出する。それに八大元素を投入する。出来上がった八大元素魔法で肉体と精神を最大に強化する。それから魔法経路で『超絶鎧』の術式をはじき出し、八大元素を投入して発動された『超絶鎧』の防御魔法を展開した。
全てが無詠唱で且つ一瞬だ。本当にアールが精神感応で脳に植え付けてくれた魔法経路は恐ろしい性能だった。
黒曜竜青姫は何百倍にも強化された反射神経や動体視力などの身体・精神力となり、今までの何億倍も強固な魔法の鎧を着たのだ。
見ると『セキ』は、『安定』『想像』『空間』『創造』の四の元素で魔法を作ろうとしている。たぶん四諦とは四大元素の事なのだろう。
青姫は魔法経路で『空間歪曲』の術式を算出し、八大元素の内『空間』を投入し、『空間歪曲』の魔法を発動した。それを四諦神に投げつける。
『セキ』はその魔法に無造作に剣をたたみ込んだため剣の先が消し飛んでしまった。剣の先を見ながら『セキ』が驚いている。
「何? お前が神乱流を使えるのはどうしてだ?」
『セキ』が驚きの声をあげる。
「これは『空間歪曲』だ。神乱流では無い」
「これだから、無知蒙昧な人間族は困ったものだ。お前が今使っている魔法には神々しか使えぬ神通力が感じられる」
『セキ』が侮蔑したよういう。
「だから、御託はたくさんだ。全力でかかって来い。あとで油断していたから負けたのだとは言うのなよ」
返事の代わりに、『セキ』は、新たに剣を出した。その剣を構えながら、神通力を発動した。『爆炎!』と、名称を唱える短縮詠唱で神通力を発動した。
青姫は、その発動形態を目で確認する。その映像をアールから授けられた魔法発動経路に通し、その発動の逆魔法を形成する。そうしてできた魔法術式に八大元素を投入する。そして出てきた魔法を『セキ』の発動した『爆炎』にぶつける。『爆炎』綺麗に消去される。
さらにアールの魔法経路を使い『呪縛』の術式を形成。八大元素『絶対』と『安定』をその術式に投入する。
完成された魔法を『セキ』に投じる。
『セキ』は、自分の『爆炎』の神通力が全く発動せず。強い束縛の魔法をかけられ、動けなくなった事に狼狽した。
「う、動けない。放せ! 何をした? お前はいかなる大魔法使いなのか?」
『セキ』が叫んだ。
しかし、本当に驚いたのは黒曜竜青姫の方だ。魔法はいつも落第点だった彼女が小手先の魔法を使って大魔法使いなどと思われたと言うのだ。
「済まん。まさか私の下手くそな魔法が効くわけは無いと思っておったのだ。これは『束縛』の魔法だ」
黒曜竜青姫が頭を掻きながら言った。
「下手な魔法なぞ止めて剣で勝負だ。放してやる」
そう言うと八大元素魔法『束縛』を解いてしまう。
エニキス・キャバリアイは何故、せっかく捕まえたのに放すのか理解できない。しかしアール達は当然だろうと言う顔をしている。それは青姫ならそうするだろうと言う皆の暗黙の了解だ。
「さあ、行くぞ」
黒曜竜青姫は、そう言うと大鎌を一振りして剣に形を変え、正眼に構えている。
また先程と同じように戦いの初めの精神と肉体の強化、さらに『超絶鎧』を形成し身に纏った。
「サッサとかかって来い」
青姫が言った。呪縛の魔法が消えた『セキ』は怒りに燃えて、渾身力を込めて剣で青姫に突っ込んで行った。
しかし青姫は、『セキ』が振るった剣をヒョイと親指と人さし指でつまみ取ると『セキ』共々、遠くに投げとばしでしてしまった。
地面に強く投げ出された『セキ』はそこで動かなくなってしまった。
青姫が『セキ』のとどめのために攻撃しようとした瞬間だった。
「勝負あり。止め!」
そう声をかけたのはアールだった。
「色々、話を聞きたいので捕まえてくれ」
アールが付け加えた。信じられないくらい呆気なく勝負がついてしまった。
第二部第一章は次で終わりの予定です。
新たな展開になる予定です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
八大元素の『安定』を『変化』とするかどうかで迷いがありましてグチャグチャになっていましたので訂正しました。ご迷惑をお掛けしました。