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覇王の誕生  作者: Seisei
第一章 AGA
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第四 キンデンブルドラゴンハイツ

いつも読んで頂きありがとうございます。


第四話です。

第四 キンデンブルドラゴンハイツ


 

 キンデンブルドラゴンハイツ王国、第三王女シリア・キンデンブルグは、自室に入ってきた白一色の竜種に飛び立つように出迎えた。


 目の前にいるのは、白帝伝説その人だった。


「ラーサイオン様でしたわね」とシリアが尋ねる。


 これはシリアにはわざとらしい言葉だ。何故なら彼女はラーサイオンが選帝になるまでのこの数年と言うもの、侍女のキャーリにラーサイオン、ラーサイオンと二言目にはラーサイオンを連発していたのだから。


 彼女は、キンデンブルドラゴンハイツ王国では、類まれなる美貌と謳われていたが、それは幼皮ようひの作りが良かったのだと、その様に答えていた。


 確かに彼女のような王族では、幼皮ようひは、職人の手が入るのが普通だが、彼女はあまりにも完璧な幼皮ようひだったため、全く手が入れられなかった。父王からそう聞いている。だから、本当に彼女は類まれなる美しい竜種だった。


 あらゆる竜種の王族から婚姻を申し込まれた。しかし彼女が美しいと持てはやされるのは、彼女が成竜になってからだった。幼皮ようひから出てきた彼女は、本当に類まれなる美女として成竜したからだ。


 そんな訳で、彼女は高いプライドが有った。ところがこのラーサイオンという男はどこか異質であった。


「シリア姫。私は姫と名のつく者は三人しか知らぬ。野蛮な市井しせい育ちの朴念仁だ。


 しかも、その姫様達がとても特殊な方達ばかりだったので、失礼な物言いをするに違いない。先に謝っておく」


 ラーサイオンは、本当に申し訳無さそうにそう言った。


 …… ラーサイオン様は、威厳に満ち覇気をオーラの様に纏ってらっしゃる。…… とシリア姫は思った。


 シリア姫はラーサイオンとディサイファ神龍王との戦いを城壁の上から見て、その噂が寸分違わない物だったと胸をときめかせながら見ていたのだ。


 城壁から見た決闘のシーンは、鮮烈だった。二人から溢れるような覇気が感じられた。あれは強風のような感触だ。


 ところが目の前で、シリア姫に頭を下げるラーサイオンはちっとも怖くない。しかも、ラーサイオンの話に出てきた三人の姫君の事が気にかかる。


「ラーサイオン様。わたくしに遠慮は不要です。率直そっちょくに何でも申し付けください」


「申しにくいが、私は、竜選帝として、戦時特令を出させてもらっている。キンデンブルドラゴンハイツ王国は、私の送った使者を処刑した為、私と貴国は戦時下にある」


 ラーサイオンはそこまで言って黙った。挑発とも取れる内容だが、シリア姫は、無表情でラーサイオンを見つめている。


「シリア姫。私はAGAアガが占拠する貴女あなたのキンデンブルドラゴンハイツ王国の地に攻め入るつもりだ」


「承知しております」


 シリア姫が答えた。白帝ラーサイオンがエーオンに来たのは、ディサイファ神龍王を配下に加えそのままキンデンブルドラゴンハイツ王国のAGAアガを滅ぼし併呑する為と宣言してやってきている。


貴女あなたには、大変辛い事かもしれぬがキンデンブルドラゴンハイツ王国は、在りし日の通りに地上に復活させる事は叶わぬ」


 シリア姫は、逆に当たり前だと思っている。彼女の家族や王国の全てを灰燼かいじんおとしめたAGAアガと海獣共がただただ許されず、何もできない自分が歯がゆくて仕方なかった。


 目前の男は、その想いを遂げて、憎いAGAアガを滅ぼしてくれるという。その結果として王国の領土がこの男の物になるのは当然ですらある。


 何をこの男は躊躇ちゅうちょしているのか。


「ラーサイオン様。昔の我が国の繁栄を想い、胸が張り裂けそうですが、それよりも、あの憎い怪物共に一矢も報いられない我が身が呪わしいです。


 ラーサイオン様が、あの気持ち悪い生き物を駆逐してくださるなら喜んで我が国土を捧げましょう」


 シリア姫がキッパリと言った。その言葉にラーサイオンは含み笑いを漏らす。


「やはり、種族を問わず姫様というものは、我等男共よりもよほど勇敢でサバサバしているな。


 ならば、姫よ。来る『最終戦争』の日に我と共に肩を並べて戦う事を誓われよ。


 そして、王国を蹂躙じゅうりんせし、神腹かみはら共をたいらげるため、姫も同行されよ。


 己が手でキンデンブルドラゴンハイツ王国を取り戻されよ。


 私は貴女あなたを全力で援助し、キンデンブルドラゴンハイツ王国の復活を約束しよう」


 そう宣言するラーサイオンはよほど彼女の想像にふさわしい勇壮な姿だった。


 ラーサイオンはシリア姫にキンデンブルドラゴンハイツ王国の復活を援助するので配下になれといざなっているのだ。目的は『最終戦争』で共に戦うためだ。


 地上から滅亡した王国を取り戻す手間を省く事は容易たやすいし、そもそも竜種の国土は全て竜選帝の物であるというのが竜種の古来の慣わしだ。その慣わしの元、ラーサイオンは彼に反発する各地の竜王や有力な領主を攻め滅ぼして行っているのだ。


 その状況下で王国を復活させる手間をかけてまで彼女の王国に配下になれと言うのは非常に暖かい申し出なのだ。


 シリア姫は、ラーサイオンの前にひざまずく。


わたくしは、今、キンデンブルドラゴンハイツ王国の国王となり、王国と我が身を御身に捧げます。白帝ラーサイオン様。我と我が国は御身の庇護の元、違わぬ忠誠を誓います」


「キンデンブルドラゴンハイツ国王よ。我帝国に忠誠を尽くせ。我と我帝国は貴国の忠誠の限り絶対の庇護を与えん」


 ラーサイオンは、大剣グレイモアを引き抜くとシリア姫の両肩に交互に剣を置いた。


「シリア王よ。明日進発する。貴国の精鋭を引き連れて参られよ。今後私の横に常におられよ。我が身に替えて御身を庇護しよう」


 ラーサイオンが言った。


「はい」


 シリア姫は、キンデンブルドラゴンハイツ王国が滅んでから初めて心からの笑顔になった。


 今後、何が有ろうとこの憧れの人の側は離れまいと心に誓った。





 悪魔上皇ヨロンドンは、美しい雌の竜種と一緒に出てきたラーサイオンを見て首を傾げた。


 その雌竜は誰だ? と言う想いだ。魔神女帝エルシアも同じ疑問を持ったようだ。


「白帝様、シリア王。ご機嫌いかがかな」


 尋ねたのはディサイファ神龍王だ。


「用意は整ったか?」


 ラーサイオンが部下に尋ねた。


「竜選帝軍、魔神女帝様の軍、悪魔上皇様の軍、シリア王様の軍、全て準備は整っております」


「よし! 全軍進発! いざ魔界の出口へ。キンデンブルドラゴンハイツ王国を取り戻すぞ。マキシミリアン王国の黒曜竜青姫ブループリンセスオブシディアン樣も、竜騎士ドラゴンナイツ軍を引き連れて加勢くださる。また紫姫元帥マーシャルヴァイオレットプリンセス軍も加勢くださる!総勢三百五十万の大軍である」


 ラーサイオンが叫ぶ。全軍がラーサイオンに呼応して歓声を上げた。


 ドラが大きな音を立てて前進の合図を送る。エーオン城の前に参集した百万余りの大軍勢が進発し始めた。


 ダン! ダン! ダン!


 行進のリズムを取る太鼓の音に合わせて全軍が歩き始めた。


 ラーサイオンは、光竜種の背中にシリア姫と一緒に騎乗して行進した。


 ディサイファ神龍王も同じである。魔神女帝エルシアは、召喚魔獣に大きな舞台を載せさせ、その上に家臣と共に乗った。悪魔上皇ヨロンドンも一緒だ。


 シリア国王は、ラーサイオンの逞しい横顔をジッと見つめていた。


 長い隊列がリズミカルな太鼓の音と共に、どこまでも進軍して行くのはとても心強く頼もしく感じた。


 キンデンブルドラゴンハイツ王国も、在りし日にラーサイオンと同盟を結んでいたらあのようにあっけなく滅んでしまう事が無かったのかもしれない。


 もしもを考えても仕方がないのだが考えずにはいられなかった。


 シリア国王は、前後に見渡す限り続く軍列に視線を泳がせた。遥か向こうには、彼女の忠臣のベルンハルト聖龍騎士団長が数が少なくなった聖竜騎士団と共に行進していた。彼女の目には伝説の騎士団が在りし日の勇姿のない儚い軍隊に見えた。それは、数の問題ではない。彼女の王国軍とラーサイオン軍のポテンシャルの違いなのだとハッキリと分かってしまう。


 一瞬、シリアの脳裏に恐ろしい虫共に噛み殺されてゆく人々の光景が思い出されてこみ上げてくる吐き気を必死で抑えた。胸が焼けて大きな穴が空きそうだ。


 シリア・キンデンブルグ王は、手を強く握り締めた。その手はラーサイオンのマントの端を掴んでいた。


 シリアは、ラーサイオンに身を投げ出したくなるのをぐっと歯をかみ締めて堪えた。


 あの恐ろしい怪物の群れと戦う事を思うと背中から冷たい汗が流れるような不気味な気分を拭えなかった。


 シリアは、不安を打ち消す為にもう一方の手もラーサイオンのマントを強く握り締めずにはいられなかった。





 使役しえき黒竜に乗ったドラゴン騎士が前方より飛んでくる。


「白帝陛下! 前の部隊が敵の海獣と交戦に入りました」


 ラーサイオンは、頷いて答え、手を上げた。ドラとラッパが荒野に大きく響く。全軍が停止した。


 ラーサイオンが。上げた手を前に振った。別のリズムでドラとラッパが荒野に響く。


 彼らよりも後ろの軍がその合図で前に出る。そのまま軍の隊形がみるみる前方を扇のように広げて行く。


神乱流かむらるに注意! 発生したら報告せよ」


 ラーサイオンが命じた。


 軍令が飛び交う。


「キンデンブルグ王。戦いはすぐ決着しましょう。前哨戦ぜんしょうせんです」


 シリアが頷く。あの気色悪い恐怖の生き物の群れが突然現れないか気が気ではない。


「安心してください。AGAアガがあわられても、私が姫の事は絶対に守りましょう」


「大丈夫です。あの虫共に報復するためなら、わたくしなどどうなってもよろしいのです」


 頭に姉達が咬み殺される映像が浮かび、恐怖と怒りが込み上げてきた。


「私の全力で、奴を切り刻んでお見せしましょう」


 ラーサイオンが安心させるように言った。


 前哨戦ぜんしょうせんは直ぐに済んた。そのまま全軍はキンデンブルドラゴンハイツ領を分け入って行った。途中海獣共を掃討しつつ軍が進んで行った。


 遥かな彼方に赤い三角の旗が見えた。


「あれですな」


 ラーサイオンがいた。


「はい。異界の神々を盲信する狂信者共です。こうして彼らの無事な様子を見ますと、AGAアガ以上に彼らへの憎しみが増してきます。


 異形の生き物を信奉し、己達だけ安堵あんどを求めて、同胞達を虐殺する。彼らは鬼です」


 シリア・キンデンブルグ王が肩を震わせながら言った。顔は青ざめている。


「奴等に後悔させてやりましょう」


 ラーサイオンがシリアの肩に手を置いた。ラーサイオンの手は甲冑を通してでも暖かく感じた。


「魔神女帝エルシア殿。麾下きかの軍を前線に進め神乱流かむらるが現れたら抗戦をお願いします」


 魔神種は、魔眼・天眼を持つため闘気→覇気→神魄とレベルが上がるのが早く今では神魄魔法を使いこなす者が増えてきた。ラーサイオンの強い味方である。


 竜種にしてもそもそもエネルギー体なので魔眼・天眼に類する器官があり、魔法の習得が早い。ラーサイオンの部下も、神魄しんぱく魔法を習得している者が少なくない。


 ラーサイオンが竜種の覇者になれたのはアールの神魄しんぱく魔法のおかげなのだ。


 最前線には、神魄魔法が使えるレベルの熟練の戦士が配置され、後方隊は、前衛部隊の支援に回った。


 AGAアガが出現した時の対策である。


「「「出たぞ!!!」」」


 軍の左翼で、その叫びが上がる。神乱流かむらるである。水のような青黒い空気のなかには無数の虫型のAGAアガがいる。数多神あまたかみだ。あの神乱流かむらるから、何百万もの虫型のAGAアガが湧き出て来る様を想像するとシリアは寒気がしてまた吐き気を催した。


 ラーサイオンが力強い手で背中を撫でてくれる。その手から治癒の波動が身体に流れ込んできて気分が治った。


「見ていてください」


 ラーサイオンが言った。シリアに背を向ける。大剣グレイモアがサラリと引き抜かれる。ザク!ザク!と地面を踏む音。


 次の瞬間だった。


「「「ドド!!」」」


 ラーサイオンが地面を踏み抜く激しい音が響くと同時にラーサイオンが消えた。いや、あまりにも速い速度だったので、視界から消えただけだ。


 見上げるとラーサイオンは、遥か前方を滑空していた。弾丸のような速度でしかも加速している。


 神乱流かむらるまでの距離を一瞬で飛び切り、大剣グレイモアを大上段から振り下ろす。


 神乱流かむらるに恐ろし程の爆発が起こった。一瞬で神乱流かむらるが消し飛ぶ。


 ゾロゾロと虫の大群が神乱流かむらるから転がり落ちる。鎌首をもたげた大ムカデがラーサイオンに噛みつこうしたが、そのまま両断された。


 ラーサイオンは、大剣を目にも止まらない速度でグルグル回し始めた。そのまま、空中を滑空して、手当たり次第に虫共を切り刻んだ。


 虫から発せられる光線や炎のような攻撃はラーサイオンの身体にあたっても跳ね返るだけのようでラーサイオンは全く意に介していないようであった。


 ラーサイオンに習い、大勢の竜種が虫共の群れに飛び込んで行った。


 戦っていた時間は、ほんの数分だった。ラーサイオンは、手当たり次第に切り刻んだ虫共の破片を邪険にけり飛ばしながら、周囲を見回したが、虫の生き残りはいなかった。


 ラーサイオンが飛んでシリアの所に戻って来る。速度もゆっくりだし、滑るような優雅とも言える滑空だった。


 とん! と地上に降り立つ。


「シリア王。初戦はどうやら勝てたようですな」


 ラーサイオンが笑いながら言った。シリアにはラーサイオンが神のように見えた。あのダイヤモンドのように硬い甲殻に覆われた虫達を芋虫の様に簡単に切り刻んだ。


 キンデンブルドラゴンハイツの聖龍騎士達には、全く歯が立たなかった神乱流かむらるも一撃で消し飛ばしてしまった。


 数えきれないような虫達をいともあっさり葬り去り、彼らの攻撃を何でもないかのように跳ね返すだけでなく、あの虫共を切り刻んだ時に飛び散っていたドロドロの体液も一滴たりとも浴びていなかった。あの体液は掛かるだけで即死するほどの猛毒なのにだ。


 まさに奇跡のような華麗さだった。


「見なさい」とラーサイオンがシリアに言いながら前方の赤い三角旗を指差した。


 赤い三角旗が次々に吹き飛んで行くのだ。見ると黒い巨竜がこちらに向かって走ってきている。その巨竜は、大きさもテカテカ感もどう見ても普通の黒竜ではなさそうだ。


「あれは、もしや黒曜竜でしょうか?」


 シリアが訪ねた。黒曜竜がこんな所にいるはずがない。あれは竜仙郷の北にあるベグネド火山にいると聞く。巨大で凶暴で誇り高い竜種だ。黒光りした巨龍には注意! それが竜種の常識だ。


 黒曜竜は飛ぶより早く突進すると言われる。地上をノコノコ歩いてくるなどありえない。


「ああ。黒帝と異名を持つ最強の黒曜竜だ」


 シリアの疑問をよそに、ラーサイオンが答えた。


 ラーサイオンの部隊が二つに分かれる。そこを黒曜竜がトコトコと歩いてくる。黒曜竜の後ろから何百もの竜騎士がやって来るのが見えた。乗っているのは竜種では無く人間のようだ。


 ラーサイオンが黒曜竜に手を振っている。


 黒曜竜がみるみる大きくなって目の前に巨大な壁となるまで近づいてきた。


 シリアは思わず口を手で押さえて、声が出ないようにした。


 黒曜竜の上から人が降ってきた。そう感じた。それ程のスピードで落ちてきた。


 しかし、ストンとラーサイオンの前に落ちてきた人影は想像よりも小さな女の子だった。青一色の甲冑に青い高価そうなマントを羽織っている。


 そのまま飛ぶようにラーサイオンの首根っ子にひっ捕まる。


「ラーサイオン。久しいな」


 ラーサイオンの首にかじりつくようにしてその人間の女の子は大声で言った。


「おお。青姫。元気そうだな」


 ラーサイオンがワハワハと笑いながらその人影を抱き上げる。


 そのすぐ後にまた一人人影が飛び降りてきた。


「ラーサイオン。息災であったか?」


 今度の人影は、紫一色だ。


「おお。紫姫。お主こそ元気だったか?」


 紫一色の人影も、ラーサイオンの手に飛び付く。しかし、この女の子は、多少落ち着いているようで、両手でラーサイオンの大きな手に捕まっただけだ。


「真っ白なラーサイオン。不思議な感じです。前の真っ赤なラーサイオンの方がいつも思い出されていました」


 紫姫が言った。


「そうか。赤の方が馴染みが深いからな」


 ラーサイオンがカラカラと笑う。


 三人は、種を超えて本当に仲が良いようだ。青一色の女の子は、ずっとラーサイオンの首から離れようとしない。


「ラーサイオン。黒曜竜には飽きたぞ。約束通りお主に乗せてくれ」


 その青姫と呼ばれた女の子が駄々をこねるようにラーサイオンに訴えている。


「青姫。俺は黒曜竜よりも小さいし、遅いぞ。それでも良いか?」


 ラーサイオンが満更嫌ではなさそうにして言った。

 

「何? 本当か? なんとガッカリだ。お主に乗るのを夢見てきたのに」


 黒曜竜青姫ブループリンセスオブシディアンが本当にガッカリしたように言った。それだけでなくトンっと地面に降り立ってしまう。


 その様子を見て、紫姫元帥マーシャルヴァイオレットプリンセスとラーサイオンが同時に笑った。


 青一色の少女と、紫一色の少女がシリアの前に連れてこられた。よく似た二人だが、髪の毛が黄金色と白銀色と色が違う。それと目が真っ青なのと紫色なのが違う。彼女達の色の好みが目の色と一致しているのだと分かる。


 ラーサイオンは、シリアと二姫を引き合わせる。


「おお。ラーサイオンの彼女かと思っていた。魔神女帝のエルシアも、美しいと感じたがシリア王も美しい。


 もし、ラーサイオンでよければ貰ってやってくれ」


 黒曜竜青姫ブループリンセスオブシディアンが好きな事を言った。ところが、シリアが真面目に答える。


「はい。わたくしで宜しければ、ラーサイオン様を頂戴します」


「私が許す。ぜひ、シリア王に貰ってもらう」


 青姫がシリアの手を掴む。二人で勝手に話が進んでいる。


 紫姫元帥マーシャルヴィオレットプリンセスも、黒曜竜青姫ブループリンセスオブシディアンの大脱線を止めようとはしない。ラーサイオンは、女の子同士の話は聞こえないと言わんばかりに無視している。


「ラーサイオン様。青姫様のお許しを頂きました」


 シリアが食い下がるように言った。


「それは有難い申し出だな」


 ラーサイオンもハラハラと笑う。


 紫姫元帥マーシャルヴィオレットプリンセスがラーサイオンにしゃがむように要求した。


 ラーサイオンがしゃがむと耳元に呟く。


「ラーサイオン。シリア様は、冗談で言ってるのでは無さそうだ。竜種の習慣は知らないけど、私の感ではなかなか良い子のようだ」


 紫姫元帥マーシャルヴィオレットプリンセスが耳打ちした。


「おう。参考にさせてもらう」


 ラーサイオンが軽く答えた。


「ところで、どれほど連れてきた?」


 ラーサイオンが訊いた。部隊の事だ。


「二百万ぐらいだが。まだまだ実戦で戦える者は少ない」


 紫姫元帥マーシャルヴィオレットプリンセスが答えた。


「まぁ、お前達人間種は、そもそも魔法が不得意だから仕方あるまい」


 紫姫元帥マーシャルヴァイオレットプリンセスは、首をふる。


「それでは間に合わない。青姫のように、あたって砕ければ良いとは言えないからなぁ」


 紫姫元帥マーシャルヴィオレットプリンセスが呟くように言った。


「最善を尽くし、更に最善を極める。だな」


 ラーサイオンが言った。


「ラーサイオンらしくもないな」


「俺も成竜になったという事だ」


「ラーサイオン」青姫だ。「虫が出たのか?」


「小さな神乱流かむらるだった。多分、戦後の待機していたAGAアガだったのだろう。直ぐに新手が来るだろが、そうなると姫達の加勢が有難い。


 ここは、魔界と地上界の接点地。両世界を分断するためには重要な地域だからな」


 ラーサイオンが説明する。


「アールティンカー陛下も本隊を引き連れて加勢に参られるそうだ」


 紫姫元帥マーシャルヴィオレットプリンセスが言った。


「なるほど。陛下は総力戦になるとお考えか?」


「奴等は、訳の分からない奴等だがバカでは無い。戦略的な意味を持って戦っているだろうと。陛下は仰っていた」


 それほど、この地が重要だとアールティンカーも考え、侵略神も考えているというのとだ。


「陛下は、どれ程の軍を連れてこられるのだろう?」


 ラーサイオンが尋ねた。


「陛下は、我々の想像を常に裏切られるからね。どんな軍を引き連れていらっしゃるか」


次回は、数多神とアールの軍団の全面戦争です。


楽しんで頂けると嬉しいです。

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