第二 バグノーマル
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第二 バグノーマル
です。
第二 異常普通
フリンツは、アルマタシティーを遠望した。
「ありゃりゃーっ。暗雲が立ち込めてますなぁ」
フリンツは、背後の部下に言った。その部下は、アーマードのヘルメットを開けて素顔で見回していた。フリンツは最近はアーマードではなく彼が錬金術で作ったアーマード風の鎧をつけていて素顔だ。それに合わせているのだ。
「フリンツ上級将軍。あれは神乱流という障壁っすか?」
「あん? 障壁だと? 奴等にそんな芸当なんてできるかい。彼奴らは自分達の結界から出たがらねえのさ」
「結果っすか?」
部下が聞く。
「昔、奴等の結界の中に入った事があるがあれはまぁ、部屋みたいなもんだ。奴等は移動もせずにそこに座して何処にでもちょっかいをだしたけりゃぁ結界ごと動かしやがるんだ」
「ふぇー。嫌なやつらっすねー」
フリンツの部下もザックバランだ。
「だが強ーぜ。気持ち悪い奴らだが一応神様だかんな」
と、フリンツ。
「しかし、上級将軍に掛かったら数秒で千匹ぐらい斬り刻んじゃうんじゃないっすか?」
「マーカス准将。お前も将軍様なんだぞ。すかすか言ってんじゃねぇぞ。口の利き方ってぇのがあるだろうが」
フリンツが先程から「っすか?」を連発している部下、マーカス・フォング准将に注意する。
「無理っす。俺ぁ。下町出身すから」にべもなくマーカス准将は答える。
市井にも凄い才能が埋もれている。マーカス准将もたった一年余りでフリンツの足元ぐらいの強さにはなった。
そろそろアーマードが邪魔になりだしたのだ。
マーカスと同じように、アーマードを脱いで戦闘した方が効率的になりだしたらそろそろ使いもんだとフリンツは思っている。
そうなったら、少将にしてやっている。『旋風鞭』が使いこなせれば中将だ。錬金術で『旋風弾』の速射ができれば大将にしてやると公言している。今までに八人が大将になっている。
次第に軍団の能力が底上げされているのでそろそろ大将の条件を底上げしてやろうと思っている。
市井の輩共は、成長が早いと、青姫は嘆息しつつ呟いたもんだ。青姫の両腕の将軍はまだ覇気の鍛錬程度らしいからそう感じるのかもしれないが、青姫にはドラゴンナイツの軍団があるのでドッコイドッコイだろう。
それよりも紫姫の方が気がかりだった。なかなか苦労しているようだ。紫姫の要請で将軍を三人ほど融通してやる事にしている。一番の問題はどいつもこいつも下品な事だ。どうして、下品な奴ほど出世しやがるのか不思議だ。
「マーカス。どいつを姫の護衛に送ろうか?」
「無理っす。どなたも姫に手を出してコテンパンになるのが落ちっす」
「その事は心配してない。お前みたいに気端が廻る奴が必要なんだ。姫の代わりに部下を育てられるのが」
「それなら、デリンガーの旦那がうってつけです」
「なるほど。デリンガー・エルフラングラー大将か。よっしゃ〜。奴とお前。少し上品なスタンガン中将で姫を助けてやってくれるか?」
「ヤッピー! 最高っすねー。デリンガーの旦那はキツイっすけど、紫姫元帥のお膝を撫で撫でできるんですからね」
「マーカス。お前死ぬぞ。首がぴゅ〜〜〜んって飛ぶぞ」
フリンツは心底恐ろしそうに言った。
✳
「フリンツ! 久しぶり。あれ? いつもつきまとっていた可愛らしい男の子がいないね」
ヨランダード・ドートマルキ。今は、ヨランダード・ラールカライド公爵になっている。
「お! あいつなら、紫姫に熨斗をつけてプレゼントしたぜ。それよりも元気してたか? ヨランダード。オメェ。うまくメイア嬢を射止めやがった上に公爵様だってな。本当。金のある奴は恵まれてやがる」
「フリンツこそ、紫姫とうまくやってるんでしょ。さっき二十万程引き帰らせていたのは紫姫なんでしょ」
「さあてね。青を取るか紫を取るかそれが問題です」
「やっぱり貴方は二兎とも得ずね」
冷たくメイアがツッコミを入れる。
「メイア嬢。相変わらず冷たいですな。いっそ、そのおみ脚で踏みつけてぐさいまし」
フリンツがメイアに頭を下げながら言った。
メイアがプイッとそっぽを向いてしまう。ヨランダードが「まぁ、まぁ」と二人を取りなすのも以前と全く変わりのない光景だ。
今は何人もの将軍を部下に持つ彼らだが、お互いの仲は永遠だ。
「そいで、ご両人もお揃いなのに、救援要請とは?」
急に真剣な眼差しになってフリンツが尋ねた。
「たかがAGAごときで、お二人の揃った最強軍団が手をこまねいているのは、どうして?」
そもそも、『アールの十勇士』として伝説までになる彼らの中でもサーリ、ツウラの次の実力を持つヨランダードと天才召喚士メイア・スライサイドの二人が指揮する軍団はアールの直轄の先鋭部隊なのだ。数も二百万と膨大だ。
アールに直接薫陶を受けている各将軍の実力も相当なもののはずだ。
「やばいのか?」
フリンツが訊いた。
「あの黒い雲のようなのは、巨大な神乱流なんだ。あれには相当ヤバイのがいそうなんだ。皆で結界を張って出てこないようにしてるんだけど。
結界を張るのに力を使いすぎるのも本末転倒だからね」
「何が出てくるのかビビってるのか?」
フリンツは辛辣だ。
「あれは、普通の神乱流の百万倍の大きさなんだよ。中にいるAGAは推定四千メートル級」
「まぁ。四千メートル級だろうがなんだろうがAGAごときに殺られるならそれまでだ」
それに大きければ強いってわけじゃないだろう。フリンツはそう思う。しかし、四千メートル級と言うのは少々キツイ。
「しかし、なんでもありかよ」
フリンツは、アルマタシティーの上空にある巨大な神乱流を見上げた。
「ヨランダード。お前んとこには、超天帝級はいるんだろ」
「三人いるよ。フリンツとこはどうなんだい?」
「四十人はいるぞ。鍛え方が甘いんじゃないか?」
「ふぇ! 四十人だって? みんなノーマルなんでしょ?」
「それが時代遅れってんだよ。ノーマルだのハイエンドだの。所詮、奴らと比べりゃ似たようなもんだ」
正に、三界の知的生命達は一致団結してAGAに立ち向かっている。AGAと組むことを選んだ者も皆無ではないが、邪魔する奴は何だろうとぶち殺すだけだ。
「メイア嬢。俺は神議の時きゃぁ、少しばかり眠かったからよ、ようく覚えてねぇがあの大きさの奴はどんな神様だったっけ?」
「三千種の神々の中であの程度のはたくさんいたわよ。貴方、陛下がお造りになった侵略神要解を読んでないの?」
「ビァー。本何てもんは俺っちの頭脳では処理不可能なんで」
「本当に貴方は」メイアがため息をつく。
しかし、本を読んいるよりも超天帝級の量産の方が大切だというフリンツの考え方も考えてみると立派なのかもしれない。
「貴方は、一度も陛下のご研究の成果を見ていないなら、一度は目を通す事をお勧めするわ。
陛下は、異形の神々を七つのカテゴリーに纏められているわ。
①鎧神
②水神
③大神
④無神
⑤数多神
⑥四諦神
⑦長神
あれは、大神よね。大神は、だいたい陛下の分け方では、八十メートル以上で他の特徴が無い神か、千メートルを超える神が大神とされているわ。
でも、鎧神は、数多神でもあり大神でもある奴が多いのね。つまり、鎧神が異形の神々の基本形って感じなの。
数多神は数の多い奴ね。神議に大勢で来ていた神よね。でもカエルみたいな奴は一匹だったけど天使が数体いたから神議に来ていた神々が神々の全部なのかどうなのかも全然不明よ。
無神は実体が無かった奴よね。黒い影みたいなのがいたでしょう、あれよ。
四諦神は、神議の時に説教っぽかった奴よ。でも陛下によると強い通力を感じたそうよ。レベルが高い神々だと陛下は解説されているわ。
最後の長神は、高次元の神々だと陛下は解説されているわ。三千種の神々の頂点ね。
分かったかしら? 陛下がお決めになった、分類なんだから絶対よ」
どうして、メイアはフリンツと話すと怒ったような話し方になるのだろうかとヨランダードは面白かった。
四千メートル級は大神でも大きな方だ。陛下はあの神議の一瞬で侵略神要解などという本を書ける程、良く観察しそれを完全に記憶しているのが凄いところだ。
確かに陛下一人ではなく皆の記憶を元にして編纂しているが陛下の記憶力は神業だ。
「フリンツ。『審議官』のミサ様によると、元々異種族間では発音できない名前が多いので他種族の神々は勝手に名前を付けて呼び合うのが慣わしらしい。
だから陛下はそれぞれの神々に名前をお付けになっいる」
ヨランダードが教えてやる。
「ほう。そいつはありがたい」とフリンツ。「あの名前って覚え辛かったんだよ。ちなみにあのカエルの神さんは何て名前なんだ?」
「あれは『ブフォ水神』って名前だったよ。ブブォってのはガマガエルの事らしいよ」
フリンツが大笑いする。
「フリンツ。君は遅いよ。僕達の中じゃブフォが一番受けてたからね」
ヨランダードが肩を竦めて見せる。
「サボってた訳じゃないって事を見せてやるよ。彼奴は俺らの軍に任せときな」
フリンツが不敵な笑いをヨランダードとメイアに送る。
「貴方にそこまで言われると少し複雑な気分ね。貴方のオモチャの兵隊さん達でなんとかなるの?」
メイアが食ってかかる。
「メイア嬢は、辛辣だね。確かに奴等はまだまだだよ。しかしあっちの連中は、左官級の士官達で編成させた精鋭部隊さ。奴等は、アーマードを闘気で操れる奴等ばかりだから少しは使えるよ。
それと、あっちの集団が准将以上の将軍達。
准将以上だと闘気で闘えるからアーマードはそろそろ不要な奴等だね。一応闘気マスターって事にしてる。
あっちの帽子に赤い線の入ったのが、少将だ。奴等はアーマード無しの方が効率良く闘える。一応、覇気マスターって事にしている。
あっちの帽子に青い線の入ったのが中将で、奴等は、『紫神流』奥義『旋風鞭』をマスターしてる。それと神魄を一応操れる奴らだから当時の俺っちよりも強えよ。
あっちの七人が大将だよ。『紫神流』最奥義『旋風弾』を使いこなす。錬金術、魔法師、聖唱師、剣技で超天帝級だ。当時の俺っち等よりも遥かに強えよ」
メイアが目を丸くしている。
「貴方の所のノーマルは、異常ってるわね」
「異常普通か、おもしれー。奴等は、メイア嬢とこと違って常識なんてねぇからね。
俺等の鍛え方は、実戦有るのみって感じさ。放っといてもドンドン強くなってきやがる。
オメェ等とこにも、何人か置いとくからそいつ等に、ハイエンドのお坊ちゃん達を鍛え直して貰えよ」
「あゝ。助かるよ。フリンツとこの実地訓練を取り入れてみるよ。
陛下も、実戦が最も効果的な訓練だと何度も言っていたね」
ヨランダードが笑いながら言った。
「良く言うよ。オメェは、陛下から直々に科学魔法を教わってるそうじゃないか。
俺も、陛下に直談判してプラズマ剣は教えてもらえたが、プラズマ爆弾だとかレイルガンだとかレーザービームだとかとんでもない術をマスターしたってぇじゃねえか。俺も、『天撃ビーム』がカッチョええから教えてくれよ」
「あゝ。フリンツなら直ぐに使えるよ。頭柔らかいからね」
「おいおい。バカみたいに言うな!」
「違うよ。下手に固定概念の強い人は、科学魔法は使えないんだよ。陛下は、科学とは創造神の御技だと良く言われている。
一般に我々が常識と思っているのは、我々の固定概念なんだそうだ。確かに陛下の仰る事は全ては分からないけど、陛下の仰る事を信じたらとんでもない魔法が使えるんだから陛下の仰る事が真実なんだと思うよ」
「止めろ止めろ。オメェの七面倒くさい教授なんて聞いてられるか。スパッ! ズバッとで適当にできりゃ良いんだよ」
フリンツがヨランダードの話を遮ってしまう。
「さぁて、そろそろやっつけてやるか」
フリンツが不敵な笑いを浮かべた。
✳
「左官級! 後衛に回れ。お前らはへなちょこだから、彼奴の攻撃をまともに食らったらヤバい。だから三人で一チーム作れ。チームの内の二人は必死で守れ! 残りの一人は遠距離から『闘気斬』を放て。お前達の仕事はそれだけだ。
准将達。お前達は、二人で一組だ! 一人が攻撃をし、別の一人がその援護をする。シンプルで行け。お前らも遠距離攻撃のみだ。あんまり近くんじゃねぇぞ。
少将以上は俺が指揮する。接近戦を挑むから、うまく立ち回れ。
「じゃ、ヨランダード。結界を外せ! 飛ぶぞ」
そう言うと、フリンツの数万人の部隊員が姿を消した。
「お前達は、その辺で待機。錬金術の得意な奴! 適当に防御障壁でも作っとけ。他は奴が落ちてきそうな所に行くぞ!」
フリンツが部隊に命じる。
その内にも市街地を占領している海獣共がフリンツ達の部隊に掃討されてゆく。
彼の部隊の中でも左官級の士官達が大勢含まれる部隊だ。手際良く連射砲撃で海獣達が駆逐されて行った。
生き残った市民達を見つけると、兵士が駆け寄り、助けに行った。もはや廃墟になったアルマタシティーの住民にはフリンツ達の部隊は神の部隊に見えただろう。
無数の市民の死体があちらこちに散在していた。死体の有様から相当酷い死に方をしただろう。
「焼いてやれ!」
フリンツが部下に命じた。このままでは死体は海獣達の餌になってしまう。
「オメェら来い!」
フリンツが将軍達を呼ぶ。
数十名の将官達がフリンツの周りに集まる。
フリンツからは恐ろしい気迫が爆発のように出ている。神魄のオーラだ。それは、恐ろしく濃密な迫力となって近くの将軍達の顔を打った。
将軍達もそれぞれの能力に基づいて可能な限りのオーラを纏った。
「お前達。神魄の斬撃をあの神乱流に叩き込むぞ。いいか?
いちにいの サッん!」
数十名の将軍達全てがアルマタシティーの上空に黒く立ち込めている暗雲のような神乱流に斬撃を叩きつけた。
もちろん、フリンツは『紫神流最奥義旋風弾』を連射した。大将達もフリンツと同じ『紫神流最奥義旋風弾』を連射していた。
フリンツは最後にアールから習ったばかりのプラズマ爆弾を十発ばかりお見舞いしておく。
「「「ピカ〜!」」」
◆◆◆ドカーーン◆◆◆
まさに、ピカドンって感じで爆発した。
神乱流が弾けた。中から恐ろしく大きな物が降ってきた。
「アチァー!」
フリンツが頭を抱える。落ちてくる。
しかし、なんて大きさだろう。山がそのまま落ちてくるようだ。形なんかも良くわからない。
「踏ん張れ! 落ちてくるぞ!」
ドドドドド。凄い地鳴りが響く。
地面が鳴動し、恐ろしい破壊波が大地を揺るがす。
「中将共。神魄で足止めを。大将達は俺と、少将共。全方位の海獣共を焼いて焼き尽くしてやれ」
見ると、恐ろしい数の海獣が彼等に迫っていた。
フリンツは、プラズマ剣を最大化して出す。大きさは数百メートルほどか。アールは数十キロのプラズマ剣を出せると言っていたからまだまだだ。
「おい。キャリバリ大将。お前はインテリだったな。陛下の侵略神要解は読んだか?」
「もちろんです。あれは侵略神を知るには大変貴重な研究書です」
「はーん? まぁどうでもいいが。奴は何て奴だ?」
「あれは『ギガ富岳』という大神ですな。最大体長一万八千メートル。重さは不明とか。体は山のような形でブヨブヨした表皮は固く山頂から恐ろしい砲弾を吐き出す火山の神様だそうです」
何だかなあ〜。フリンツはため息を大きく吐いた。
「お前。奴の足元に神魄の斬撃を思いっきりうち込んでみろ」
「はっ!」
キャリバリ・シュメス大将がフリンツの命ずる通りに、『ギガ富岳』の足元に神魄の斬撃を撃ち込んだ。
大きな爆発が起こる。確かに大きな穴が開いて破壊ができた様に見えるが、『ギガ富岳』は、そのままウネウネと無数の足を動かしてこちらに進んでくる。
「思った通りだ。奴は何てこたぁねえAGAだが、巨大過ぎる。表面を少々痛め付けようがダメージにはならんようだ」
それにしても、奴の歩みは止まらない。
「中将共。ちゃんと足止めしてんのか?」
フリンツが後ろの将軍達を叱咤した。
「はっ。神魄で縛り付けていますが。効かないようです」
要するにパワー負けしているのだ。
「エゲツネェ奴を投入しやがる。キャリバリ大将。奴の事は他に何か書いてたか?」
「はっ。大将軍。『ギガ富岳』は、大小様々な奴がおり、次第に大きくなるようです。小さいのから大きいのまで無数にいたようです」
「あんなのがいたのかと俺が聞かれれば忘れたと答えるね」
フリンツがポツリと言う。
「しゃぁねぇな。俺が行くか」
フリンツは、プラズマ剣を構え直すと『転移』し、『ギガ富岳』に深々と突き刺した。
そのまま、プラズマの具合を変えて爆発させるや『転移』する。
元の位置に立つと様子を伺う。
山の中腹辺りに巨大な爆発の煙が立ち昇っている。
いい具合に山の中腹辺りに大きな穴が空いた。
「オメェら。あの穴に全部ぶちかましてやれ」
全員がフリンツの命令通りに、中腹の穴付近に攻撃を仕掛けた。
「おお。苦しんでやがる」
『ギガ富岳』の動きが止まった。山の中腹辺りかがもぞもぞしている。
やったか? フリンツは一瞬、そう思った。しかし、それは大きな間違えであった。『ギガ富岳』の山頂から何か分からないが煙のようなものが立ち上がる。
暫くしてドドドドドと大きな音が聞こえる。その煙は直ぐに空を覆い尽くした。
「キャリバリ大将! 俺ぁ火山噴火って奴ぁどんなもんか知らん。次を予想しろ」
フリンツはインテリはいけ好かないが、知識に敬意は持っている。
「火山噴火で最も被害が多いのは火砕流です。その次が火山弾、溶岩の順でしょうか」
フリンツは、キャリバリ大将をギロリと睨みつけた。知識をひけらかすのがインテリの悪い所だ。被害の順番などどうでもよい。現在一番危険そうなのがどんな危険か分かっているならサッサと説明しろと言いたい。
「火砕流ってぇのがどんなもんかサッサと説明しろ!」
「火砕流は、高熱の土石流です。溶岩よりも被害が多いのはその速度が速い為です。被害は広範囲に及びます」
フリンツはそこまでしか聞いていない。
《総員退却!飛べる者は直ちに飛べ! 飛ばぬものはできるだけ集まれ! 地上の残留者に対し『転移』退却発令!》
フリンツは世界中に届けとばかり最大出力で思念波を発信した。
命令を受けた全員の内、飛べる者は直ぐに空に舞い上がる。
それ以外の者は命令の通りに集団を作り始める。それらの集団が次々に『転移』で姿消して行った。
フリンツは巨大な『ギガ富岳』を見上げた。
近すぎてテッペンが見えない。
《飛んでる奴、どうた?》
思念で聞く。
《大規模な火砕流が閣下の方に向かって流れ落ちる所です。火山弾もソロソロ飛んできます。気おつけてください》
…… 気をつけろと言われても…… と、フリンツは心の中で呟いた。部下を見殺しにはできまい。
近くの者から『転移』で助けてゆく。
次から『転移』も飛べもできない奴は前線連れてこんぞと決心する。
「「「ひゅー」」」
空気をつんざく音がする。
「「「ドカーーン!」」」
巨大な火山弾が飛んできて地上に落ちた音だ。
「そらよ!」
フリンツは、プラズマ剣を消すと、『旋風糸』を発動し、飛んでくる火山弾を粉砕にかかかる。
目に見えない『旋風糸』は、蜘蛛の糸をイメージしてもらいたい。
蜘蛛の糸と違うところは、触れる物を切り刻む事だ。
前線に出ているような奴らは闘気鎧は身につける程度の能力は持っている。
火山弾も威力の程度の差でなんとか助かるだろう。
フリンツの『旋風糸』は無数に糸を張り巡らす事が可能だ。
《閣下。火砕流が到達します。避難を!》
空の上から思念が届いた。
後ろを振り返るとまだ千名からの部下が逃げ遅れている。
…… これだけ広範囲に散らばられると面倒だが、千名程度なら大丈夫だろう…… とフリンツは考えた。
直ぐに『旋風鞭』を可能な限りの数を発動する。
目につく部下達を『旋風鞭』で引っ張りあげると、皆を連れたまま、上空に飛び上がった。
それを見ていた飛翔組がフリンツに習って、まだ地上に残る兵達を引き上げにかかっている。
その時、怒涛のように火砕流が地面を蹂躙して行った。
…… さすがに、これだけの数を持ち上げていると動きが鈍くなる……
フリンツは、頭で呟いてから
《いったん引くぞ》
そう思念を送っていた。
投稿遅くなりました。
少し、二部になってから構成に時間が必要で更新に時間がかかってすみません。
次話は、侵略神実力が発揮されます。AGAごときにこれ程手間取って『最終戦争』はどうなるのでしょうね。
楽しんで頂けると嬉しいです。