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覇王の誕生  作者: Seisei
第二章 異界の神々の正体
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第十五 戦争

いつも読んで頂きありがとうございます。


第十五話 戦争


です。

第十五 戦争



 光陰こういんのラルカは、マセランティアの陣地をサーチして、どのように戦線が展開しているのか、確認していた。


 ところが、明らかに可笑しな気配がある事にすぐに気づいた。これはおかしい。ラルカはその場に直ぐに転移する。


 ラルカは、光を制御して自身を見えなくできる。見ると、鳥のような長神おさめしんが十五人ほどいる。みるだけでこれらの長神おさめしんが相当なレベルであることがわかった。


 よくこれほどの長神おさめしんを集めたものだ。長神おさめしんは高い神通力を操る素質は産まれながらに持っているが、実際に能力の高い者は稀だ。祖先の偉人達の偉業の上に胡座あぐらをかいて自身達は修行をするものは皆無と言う感じだ。


 だから高位のレベルの長神おさめしんをこれほど集めるのは大変だっただろう。それにしても様子がおかしい、彼らは見た所、ラルカの知らない長神おさめしんだ。


 しかし、これほど高位の長神おさめしんでラルカが知らない事などいるはずがない。しかし、この鳥人間達は明らかに長神おさめしん以上の存在だ。


 しばらく彼らをよく観察することにする。ところがそれどころでは無い、ラルカは今度こそ驚愕に仰け反った。この集団の中に聖神せいしんと同等の神通力を使う者がいるのだ。そのものは鳥人間の一人だが彼らの長なのだろう、いろいろ指図している。


 しかし、ラルカは、聖神の力を持つその鳥人間をしばらく観察していて安堵のため息をいた。どうやら、そいつのレベルはたいしたことがなさそうなのだ。


 どうやらマセランティアはとんでもない敵を相手にしているようだ。これはあってはならないことだ。


 このうような危険分子をハイランダーに入れないためにこそ聖神達は存在しているのだ。なんということだろう。三万年前の悲劇を繰り返すところだったのだ。


 しかしマセランティアは、なんと愚かな種族なのだろう。自分たちが支配している種族の方が先に進化してしまったのだ。長神おさめしんに密かに施している催眠が効いているとはいえ悲しい事だ。


 このようなことがないように、長神おさめしんには外界の種族の退化を行う事と突然変異の天才が出現した場合に誘拐して下等眷属神へ改造させるようにいろいろ仕組んできた。


 マセランティアはその執行に失敗したのだ。そして三界の神にまんまとしてやられたのだろうと光陰こういんのラルカは、気付いたのだ。


 ここに推理が至ると、光陰こういんのラルカは、全力で三界の神達を滅ぼす必要があると考えた。


 まだ、戦機は十分あるだろう。この聖神クラスの神通力を操る者が一人混じっている鳥人間の部隊は、それほどたいしたこはない。なによりも、マセランティア程度の戦力を恐れてバーナディクシンと戦わせようとしているのだから彼らの戦力はそれほど大きくはないのだろう。


 良いように好き勝手しているこいつらを懲らしめる必要は有りそうだった。とにかくこいつらは、テーランダーから追い出した後、然るべく対応する必要がある。


 ラルカは、おもぬろに姿を現した。突然姿を現したラルカに対して、鳥人間達は見事なまでに整然と対応した。


 先ず、十五人は、集団になる。防護壁を作る。殆ど一瞬の間の対応だ。見事なものだ。


 ラルカは、ニヤリと笑うと、一瞬でかれらの作った防護壁を破り彼らの真ん中に飛び込んでいた。それでもこの鳥人間の集団は一切騒がずに、三人が身を呈して攻撃する間に他の者は飛びのいている。


聖神せいしんの力を持った鳥人間が彼らの前に出る。そいつは相当な実力者なのに顔にはおごった色はない。それどころか、命がけで皆を助けようとしていることが手に取るように分かる。


 ラルカは、彼が倒した床に転がる鳥人間三人を見た この三人も自身の身を呈して他の鳥人間達をかばった。実力差からずれば先程のラルカの奇襲で半数は殺していただろうが上手く回避されたというべきだろう。


 ラルカはニヤリと笑う。





 鳥人ハナショー族の隊長アナビス・パッチーリは、鳥人ハナショー族の部隊で唯一八大元素魔法の魔法経路を頭脳印刷ブレインプリンティングしている。


 アナビス隊長は、突然現れ、隊員三人を目にもとならない早業で倒した敵の恐ろしい雰囲気に背筋が凍る思いだった。


 一目で自分は彼には敵わないと分かった。皆に思念で命令を送る。


 相手が少し驚いた顔をした。


「僕は、光陰こういんのラルカっていうんだよ。面白い技だね、考えを飛ばせるんだ。でも、ここテーランダーでそれを二度と使ったら瞬殺しちゃうよ」


 ラルカが言った。


「私は、アナビス・パッチーリ。マセランティアの眷属神だ」


「嘘を言ってもダメだよ。マセランティアの端神はしたがみにアナビス君のような高等な技なんか使えないよ。まして、マセランティアの眷属神であるはずがないね」


 ラルカは余裕がある。アナビスは、連携攻撃を仕掛ける合図を送る。攻撃力が足りなくても良いように、サーリからプラズマ爆弾を沢山、拝借してきている。プラズマ爆弾は、少しは効いてけれるだろう。


 思念で合図を送る。合図に合わせて全員が同時に転移する。当然、ラルカが後を追って転移してくるはずだ。


 転移先にプラズマ爆弾を仕掛ける。震撼しんかんを付けた爆弾だ。ラルカが彼らを追ってきたら直ちに爆発する仕組みだ。そして直ぐに転移する。


 青姫の部隊のところに転移した。


「どうした。アナビス隊長」


「直ぐに退却を。エス級の神が現れました」


 長神おさめしんよりも強い神。それをコードネームで『エス級の神』と呼び存在が確認され次第本国に情報を提供すゆために戻る事となっていた。


「アナビス隊長。お前達は帰還すれば良い。私はそのエス級と闘ってみたい」


 青姫が叫ぶ。顔には満面の笑みだ。


 空間が歪み男神が現れる。


「おお。今度は可愛らしいお嬢さんだね〜」


 ラルカが青姫を見るなり言った。


「しかし、アナビス君。君はひどいねあんな花火を仕掛けて行くなんて。大変な目に遭ったよ」


 ラルカは、そう言いながら笑っている。まだ、余裕があるのだ。そのラルカの余裕が無くなったのは青姫がドラゴンランスを構えた瞬間だった。


「これは、唯の美しいお嬢さんという訳では無いようだね」


 ラルカも剣を抜いた。


黒曜竜青姫ブループリンセスオブシディアンと呼ばれている。青姫で結構」


「僕は、光陰こういんのラルカ、聖神の一人だよ」


「参る」


 青姫は黒曜竜が変化しているドラゴンランスを水平に構えた。ラルカは、驚きで目を丸くしている。これは本物の強敵だ。彼でも勝てないかもしれない。


 ラルカは、神通力で光を操るのが得意だ。だから光陰こういんというあだ名がついた。彼は光を集めて武器にすることができる。


 光線銃ようなものだ。彼はそれを青姫に打ち込んだ。青姫は、スッと身をひねって避けた。


 ラルカは、その体技に舌を巻いた。どうすればそんな事ができるのか。では、これではどうだとばかり、光線の束を最大数の八本同時に発射した。


 今度こそ驚愕に目を丸くした。青姫は、持っていたドラゴンランスを盾に変換し、難なく光線を避けた。


 青姫は、息すら切らさず、ドラゴンランスを水平に構え直した。その静かな立ち姿にラルカはニヤリと笑いを浮かべた。


 彼の体内時計によると、彼がこの部隊の様子を探り始めて、そろそろ一時間が経つはずだ。仲間達がやってくるはずだ。





 様子を見ていた、隊長のアナビスは、二人の闘いの凄さに驚いたが、それよりも光陰こういんのラルカという神が不敵な笑みを漏らしたことに気が付いた。


「全隊! 援護するぞ」


 アナビスが叫ぶ。ところが青姫が目を大きく見開いて怒りに顔を赤くする。


「アナビス! 私の勝負に水を差すな!」


 青姫は大声で叫んだ。


「しかし、彼にはどのような援軍があるのか不明です。ここは、共闘すべきです」


 アナビスも聞かない。





 一方、フリンツだ。マセランティアの攻撃は、ほどんど無くなってきた。


「こいつぁ、作戦失敗だな」


 フリンツが言う。マセランティア軍も、フリンツ達が攻撃し無いだけでなく、背後の最初からバーナディクシンの本隊が全く攻撃してこないことに不自然さを感じはじめたのだ。


 この時、マセランティアのレト軍事総監がフリンツ達の行動に不審を持ち、結局レト軍事総監が総攻撃の命令を出していたが、フリンツは知らない。


 フリンツは時計を見て天を仰ぐ。待機命令が出て小一時間だ。もはや限界だろう。フリンツは、フツフツと湧き上がる苛立ちを無理やり押さえ込んだ。





 丁度その時、サーリは、ついに作戦中止を決意していた。最初からアールの命令に服し帰還するべきだったのだ。


 サーリは、やかましく警報を鳴らす『慧眼けいがん』を無理やり押さえ込んだ。『慧眼けいがん』は、もし、ここテーランダーのマセランティアとバーナディクシンの戦争が始まらないと彼女達の三界は負けるかもしれないと計算しているのだ。マセランティアとバーナディクシンが闘って時間を稼げねばならないのだ。


 しかし、あくまでも全ての情報が揃っているか分からないのだ。ここで、中途半端な情報なのに無理をしても仕方がない。


「作戦を中止し、撤退を指示してください」


 サーリは、意を決して遂に言った。その一言で、いろいろな事態の変化が『慧眼けいがん』の中で再計算されて行くのだ。


「作戦中止。撤退命令を伝達します」


 サーリの物想いを伝令の復命の元気な声が遮った。


「お願いします」


 サーリは、いつもの穏やかな顔になって命じていた。





 フリンツは、サーリの作戦中止と帰還命令に一瞬目を閉じた。直ぐに目を大きく見開いた。顔が怒りで赤くなる。


「何? 撤退だと」


 フリンツが伝令を叱りとばす。


「軍令側は、お姫ちゃんの我儘わがままをそのまま通す気か?」


 しかし、考えてみると参謀となる人物も誰一人いないのだ。こうなれば、メイアは、予備隊では無く、軍令に残して置くのだったと、フリンツは後悔した。サーリの作戦企画能力は随一だがあまりにも奇抜すぎて実際的ではない。そこをもっと実際的な作戦に変えられる者が必要だったのだ。


 フリンツは、噴き上がる怒りに我を忘れそうになる。サーリの命令を無視するか? フリンツは本気で考えた。そうすることが正解だとフリンツは確信しているのだ。


「全隊。撤退だ」





 サーリのところにメイア、フリンツが前後左右にして入ってきた。


 メイアは、青姫が帰って来ない事に不審を覚えた。しかし、それを口にするよりも早くフリンツがサーリに詰め寄っていた。


「サーリ。どういう事だ? 作戦中止の理由を聞かせてくれ」


 フリンツが怒りをあらわにして聞いた。


「とにかく、作戦中止です。たとえどのような理由が有っても、テロは正しくないからです。無理やり歴史に介入してろくな事はありません」


 サーリがキッパリと言った。その態度がいけなかった。フリンツは本気で怒ってしまった。


「作戦は、お姫様一人のもんじゃ無いんだぞ。お姫様の価値観を押し付けて右往左往するこちらの身にもなってくれ」


 フリンツが怒声を浴びせた。


「ごめんなさい。それは謝ります。しかし、作戦中止は決定事項です。私が作戦指揮者です」


 それを言われるとフリンツは黙るしかない。


「お姫様。俺は下町育ちの下品なやからでお姫様みたいなお上品な方々にまともに相手にしてもらえて嬉しかったよ。たがら、そんな風に言われると寂しいよ」


 サーリはハッとしてメイアに助けを求めるように視線を送った。メイアが分かったわっと、目で合図する。男はスネさせるのが一番難儀だ。


「サーリ殿下。フリンツと私は先に陛下のところに戻ってるわ。フリンツには陛下と話すのが一番の薬よ」


 メイアがサーリの耳元で囁いた。


「殿下の判断は正しい判断よ。貴方が陰謀なんてしなくても男達が何とかしてくれるわよ」


 メイアがサバサバと言った。サーリが申し訳なさそうに頷いた。


 フリンツとメイアが出て行く。サーリは二人に申し訳なさそうに頭を下げて見送った。





 ミサ審議官は、アキ最高議長に面会を申し出ていた。


「議長。聖神ラルカ様によりますと、バーナディクシン達は感染症のため相当弱体化しているとの事です。そんな者が攻撃を仕掛けてくる事はありえません」


「何?」


 先に反応したのはサキ執政官だ。


「では、誰が?」


「分かりません。我々マセランティアとバーナディクシンが争って得をする勢力は大勢あります」


「火の無いところに煙は立たぬと言う」


 アキ最高議長が口を挟んだ。


「そもそも、煙を持ち込んだ者を疑えと?」


 アキ最高議長が頷く。


「それよりも、戦争を止めるように手筈しましょう」


 サキ執政官が言った。


「レト軍事総監はどちらに?」


 ミサが尋ねた。


「各統括官と一緒に前線に出ているよ。総力戦だと気負い混んでおった」


「悪い予感がします。レト軍事総監は、軍部の発言力を強化させたくてとかく戦争を進言してくるとろがあります。私が現場に急行し、戦争を止めましょう」


 ミサ審議官が言った。





 ミサ審議官がレト軍事総監の軍令部に着いた時には、既に総攻撃が始まっていた。


 マセランティア軍は、国境線の遥かな彼方まで埋め尽くしてバーナディクシン側に接近している。


「レト軍事総監。アキ最高議長、サキ執政官と私の三人から命令です。直ちに攻撃を中止して、撤退してください」


「ミサ審議官殿。戦端は既に開かれました。軍事にかかる決議事項は今後は軍事最高評議会により決定されます。そちらの開催手続きを取られたらいかがですか」


 無表情にレト軍事総監が穏やかに言った。ミサ審議官は、黙ってマセランティア軍がバーナディクシンに攻め込む様子を見るしかなかった。


次回は、第16話 武人の意地、です。


青姫と聖神達の戦いです。クライマックスに突入して行きます。


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