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異世界で神官やってます  作者: 沽雨ぴえろ
2/5

異世界に来るまでの過程その1〜精神患者は殺人者〜



私は精神患者だった。


14歳の頃高熱にかかり、医者から処方された薬を飲んだことによって幻覚が絶えず見えるようになった。そのおかげで精神が歪み、5年間ずっと精神病棟で過ごした。

つまりは、あの医者はヤブ医者だったってことだ。


私は普通の中学生だった。

友達と遊んで、勉強して、習い事して。たまに先生に怒られたりしながらも、満足はしていた。

なのに、ヤブ医者から貰った薬で、それを壊された。


薬を飲んでから、すぐに異変に気付いた。

視界がうっすらと赤味がかって、動くものがうっすらと黒っぽく見えて。

母に相談しても、取り合ってくれなかった。

だから我慢して、苛々とストレスを感じながら1週間を過ごした。

私の視界はさらに悪化していた。

どんどんと赤味が増し、うっすらだったものが塗りつぶされたかのように黒く。



苛々して


苛々して


苛々して



辛うじて続けてきていたボクシングも辞めて、ある日もう一度母に相談しようと、もう無理だと、知ってもらおうと夜中にリビングに足を進めた。

明かりが漏れているのを見て、母が起きていることを示していた。

今度こそ母はちゃんと私の話を聞いてくれるだろうか。

リビングのドアの取っ手を掴む。



「――それでねぇ」



ぴたりと、動くのをやめた。どうやら電話らしい。

父はよく出張するので、よく家をあける。しかしここ2年は単身赴任中でたまにしか帰って来なかった。

別に両親は仲が悪いわけでもない。むしろ良い。

たまに電話をしているのも分かっていた。

きっと、今もそうなのだろう。だからこそ、私は入るのを躊躇った。



「…そうだ、すすむの話してもいい?」



ぴくりと反応する。私の話だ、どんな話をするんだろうか。

気になって、よく耳を澄ました。



「最近ね、人を見て顔をしかめるのよ。気持ち悪そうに顔を顰めて、仲がいい子でも最近話さないみたいで」



……だってそれは、幻覚のせいで。

目の前に立っているのが黒い塊なら、誰でも怖いと思う。



「私のこと見ても、嫌そうにするのよ」



…別に避けているわけじゃない。

きっと親には分かるだろうと、安直過ぎる考えを持っていたからだろうか。ちょっとずきりとした。



「そういえば、少し前に変なのが見えるって騒いでたわね…」



!!

覚えてくれていたんだ!!そう思って、凄く嬉しかった。

今度は、きちんと話を聞いてくれるかもしれない。

私は静かに電話の邪魔をしないようにドアを開け、母が私に気付かないので、母に声をかけようとした。



「中学生にもなって、あんな嘘つくなんて。親として恥ずかしいわ、あんな出来損ない」





目の前にいる『黒』が、どろりと蠢いたように見えた。































それから、気づけば病院だった。

白い部屋に、私は点滴を打たれてベッドに寝かされていた。

何故ここにいるのか。

途中から記憶が無い。

ただ、思い出せるのは――――――――






『中学生にもなって、あんな嘘つくなんて』


『親として恥ずかしいわ』


『あんな出来損ない』


黒い塊がどろりと蠢いた


楽しそうに揺れていた


悲しみが


怒りが


私の全てが慟哭どうこくしていた


そして






「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」





私の中の何かが、ぐにゃりと歪んだ気がした。



それから暴れて、暴れて、暴れて。

腕から管が抜け、毛布を叩き落とし、世界とを分けるかのように垂れていたカーテンを引きちぎり。

私は獣となって、暴れまくった。

騒ぎを聞きつけた医師たちが駆け付け麻酔を打ちに近寄って来た。

獣の様に呻いて、傷ついた心と精神を守るように、私はどろりと蠢く黒に飛びかかる。


次に目を開けたら、また違う所にいるのだろうか。

麻酔が身体を巡り、視界が赤から黒へと変わっていった。










目を開けると、やはり違うところだった。

極力何も置いていない部屋だった。あるのはベッド、点滴、水道、鍵の締められたドア、壁に取り付けられたパソコン、高い位置にある小さな窓、そしてベッドの横の壁にある、小さな鉄のドア。


ぼーっとしていると、どこからかアナウンスが聞こえてきた。



桐上きりがみさん、おはよう』


「………」


『ごめんね、君は動くものに異常に反応するから、こんな形なんだ。…お腹は減ってるかな?』


「………」



何も答えない私をどう思ったのか、何やら機械音がし始めた。

その音が消えたと思ったら、あの小さな鉄のドアがウィーンと上に上がった。



『食事を送ったよ、ぜひ食べて』



そちらに目を向けると、あの小さな鉄のドアが開いていて、中にはプレートにのった食べ物があった。

小さなエレベーターだったようだ。



『さて、起きて早々悪いんだけど、いくつか質問させてね』



起き上がってゆっくりと食べ始めた私に、アナウンスの向こう側の人は私に質問をしてきた。

首を降る。頷く。その二つのパターンで、私は答えてゆく。

質問が終わると、今度は説明をされた。

点滴を替える時は、私が寝ている間にすること。

ここは重度の精神患者用の精神病棟であること。

母と父、特に母は面会をしたくないということ。

それらを聞きながら、私は良くならない視界でぼんやりと高い位置にある小さな窓を見つめた。

空が赤かった。


私はやっと、母に見離されたことを理解した。

生温い何かが、私の頬に伝うのを感じていた。

















長い長い時間を、私は精神病棟で過ごした。

カレンダーも何も無い部屋では、私はどのくらい時間が経ったか分からない。

ただ、長い時間が経ったとだけしか、分からなかった。

今日もまた、いつもの日々が過ぎてゆくのだろう。

日々赤い空を見上げて、篭った部屋から出たいというストレスを抱えながら、過ぎてゆくのだろう。

今日もまた、私はぼんやりと窓の外を見つめていた。




ガチャ




一瞬、何か分からなかった。なんだこの音は?

長い間聞かなかった音に、目を見開いた。




「桐上さん、おはようございます。今日は先生に身体の調子を見てもらいましょうね」




おそらく看護婦がドアに立っているんだろう。

幻覚が薄れたと思って、来たんだろう。

ニッコリと、笑顔を浮かべているんだろう。

でも、私にはそうは見えなくて。










そこには相変わらず、どろりと蠢く黒がいた。










「ぎゃぁぁああああああっ!!!!!!」


「先生!!重度の精神患者用の精神病棟から306号室の患者が逃げ出しました!!!」


「痛いっ痛いぃぃぃぃぃっ」


「診察のために呼びに行った看護婦が目を抉られました!!」


「先生っ!!306号室の患者が敷地内を出てしまいましたっ!!!」




















黒、黒、黒、黒、黒。


見渡す限り蠢く黒で、私は荒い息を吐いた。

久々過ぎる外は記憶の中とは違くて。

精神病院の服を着る私に向ける好奇心の目が、見た目と相まって酷く恐ろしく、私は立ち止まってしまった。







くろ


クロ



黒が黒が黒が黒が黒が黒がくろがくろがくろがクロがクロがクロが



ク ロ ガ



私の中の歪んだ何かが、私の中で滅茶苦茶に暴れまわる。

ああああああ、もうダメだ、もうダメだ。


もう、ガマンが、でキナい。

















『速報をお届けします。先程、○○地区で16名に素手で殴る蹴るの暴行をするなどして内12名は骨折や可擦り傷といった重軽傷、残りの4名が死亡という死傷者の出る事件が発生致しました。犯人は桐上進容疑者19歳女性と既に判明しており、容疑者は精神病院から事件発生前に逃げ出した重度の精神患者であることが分かっています。また、桐上容疑者は16名に暴行などをした後、国道に向かって逃走し、道路に飛び出た桐上容疑者はダンプカーに勢い良く跳ねられ、救急車が到着する前に死亡したと情報が入って来ています。警察は関係者への取り調べにより、桐上容疑者が数年前までボクシングを習っていたことを述べ、そのため殺害が出来たと確信ずけました。桐上容疑者の母親という女性は錯乱状態にあるようで、落ち着き次第調査するようです。その他の関係者についてはただ今調査中のようです。

続いてのニュースは、△△交差点での――――』









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