幕引き
やっぱ若輩だと限界があるから年長者に頼るのも必要よね!精神年齢アラフォーだけど!!
ディヤードおじさまの介入を頼むと事は一気に進んだ。
一番大きいのが父様母様の疎開…もとい、隠居。
詐欺師が金を引き出す前に鴨をさっさと財布から離し、遠くにやる提案をおじさまにしたのだ。
結果伯爵家の持っている領地でもっとも王都から遠い場所の小さなお屋敷に使用人を2人ほどつけて押し込めることに成功した。
自由にできる金は持たせず、使用人を通さなければ手紙も出せないよう生活は管理されるだろう。
それでも貧乏生活とは程遠い、穏やかな生活はできるだろう。…本人たちは絶対満足しないだろうけど。
いやーわが親ながら最後まで見苦しかったなー、おじさまが手配した馬車に頑強な護衛や馬丁6人がかりで引きずって行ったのは圧巻だった。
大声で罵ったり助けを求めていたりしていたが屋敷の使用人が味方するわけもなく、ドナドナをBGMに馬車は去って行った。
侯爵家は所領を没収となるため、父様母様の住む場所からこれからの生活費とか全ておじさまの家に頼らざるを得ないのが心苦しいけど、ディヤードおじさまは
「確かにこれが一番被害が少ない」
とおっしゃてくださった。
ごめんなさい、ありがとう。レティスフォント家を整理して残った財産は全ておじさまに渡します。
一応計算上は黒字にする予定なので、エディーがんばる。
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屋敷は家具もほとんどなくなりガランとしている。約束通りアメリーとコック長はずっといてくれたけどそれも今日で最後。
思いつく限りの名家への紹介状と退職金を手渡してお礼を言ったらコック長どころかアメリーまで心なしか目が潤んでいた。
「こんなことは言いたくありませんが、もしお嬢様がもう少し早く立ち上がってくださったら…」
うんごめん、出遅れた三田恵でごめん。申し訳なさと共に最後に出てきたアメリーさんの愚痴に思わず笑みがこぼれた。
おかげさまでお屋敷もいいお値段で売れて、借金を返し終わった後に余剰金が出たので全ておじさまに渡した。
おじさまは持っていきなさいと勧めたけど、これから先の一家隠居の生活費を考えるとこの金額でも足が出るから申し訳ないけど少しでも足しにしてくださいと断った。
青臭い判断だけど、レティスフォント家のすべてを清算して綺麗に幕を引きたかった。
たった一着残った着替えと簡素な下着類を小さなトランクに詰め込み、屋敷の玄関を出るとなぜか馬車…とチャーリー。
「今晩はウチに泊まっていけ。明日朝に伯父上のところまで送っていく」
最後の最後にまたお前か…。考えてみたら債務整理中も無意味に顔を出してきてウロチョロされては皮肉を言われたりしてこの上なくうざかった。
肩を落としてチャーリーに近づくと眉をしかめて言われる。
「なんだその不満そうな顔」
えーえー不満ですとも。最後ぐらい静かに退場したいじゃないですか。チャーリーうるさいんだもの。
「なんだと?」
あ、やべ、心の声を口に出してしまったようだ。
笑顔で誤魔化しつつ振り向いて屋敷を見上げる。感慨は…あんまないなー6年間いた学園の方が感傷があったかも。
最後なのに微妙に締まらないまま私は馬車に乗り込んだ。
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エディエンヌ・レティスフォントが父母のいる場所に向かうことはなかった。
その夜、レティスフォント伯爵家の屋敷より姿を消し、学園の伝説に残る悪の令嬢は二度とその姿を人々の前に現すことはなかったのだ。