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破滅カウントダウン

無情に日々が過ぎていく。

あの事件以降取り巻きのミナールとシェリーヌが私についてくることなく、ボッチ生活を満喫している。

何かしら噂が立ったのか学園の生徒たちは皆私を遠巻きに眺めるばかりで誰も話しかけてこない…あ、これは前からか。


あはは…と乾いた笑いが出た。最上級生の6年生はもう授業はほとんどないので舞踏会へ向けての準備や寮退出の手続きなどの雑事ぐらいしかやることがなく、つまり、自業自得とはいえぼっち辛いです。


仕方がないので校舎の裏にある庭園で時間をつぶす。手入れされていないので雑木林みたいになっており、虫も多いので貴族や王族出身の学生が立ち寄ることもなく無人状態。三田恵はバッタ程度なら愛でれるから軽食と何冊か本を持ち出せばここで数時間はつぶせる。髪に毛虫が乗っていた時はさすがに悲鳴が出たけどね、御つきのメイドさんが。


メイドさんにも今までさんざん我儘を振りかざして嫌われてるが、それをおくびにも出さず粛々と仕事をやってくれている。

申し訳ない。せめての罪滅ぼしに没落した後は立派な紹介状を書くことにしよう。


そんな風にぼーっとしていると雑木林の奥からがさがさと音がして何かが出てきた。

ぎょっとして見ていると明るい栗色の髪をした女の子が…


ヒロインここで何をしている。


「あ」

「……」


気まずい。非常に気まずい。だがこれは翻ってチャンスともいえる。

折角三田恵の良識が身に付いたのに何か挽回をしようにも時間がなさすぎた。王子ルートに入ったヒロインを当然王子が一人にするわけがなく、リリアーナに近づくこともできない。これを逃がせば二度とリリアーナに謝罪できないだろう。


「こんなところで何をなさっているの?」

「…すいません」


って違う!責めてるわけじゃない!だいたいこんなところで何をしてるって私だってそうだろ!!


「な、何をしているか詮索をするつもりではありません。今の発言は忘れて結構。

それより、す、少しお時間いただけるかしら」

「…はい」


え?いいの?今まで散々あなたをいじめぬいた悪役だよ?

「あんたと話すことなどない」とばっさり切って立ち去ってもいいんだよ?

このヒロイン、相当懐が広いのだろうか。とにかくまたとない機会だ、さっさと本題を切り出そう。


「あ、あなたに今までしていたことを謝ります」

「……」

「…許してほしいとは全く思っておりません。私の存在自体不愉快でしょうから、これよりあなたの目に触れないよう努めます。

ただ、本当に申し訳ないと、その気持ちだけ言葉に出すことを許してください」


深く頭を下げると相手が息を呑み込んだ気配がした。目を上げるとやはり当惑した表情をしている。

すまぬ。最後まで清々しく悪役らしくしようとしても三田恵の良心が許さないんだ。


「妬ましかったのです。あなたが、あなたの強さが、賢さが、魅力が…私自身努力することを放棄し、ただひたすらあなたの足を引っ張る愚かしいことをしてしまいました。今更それをどうにかできるとも思いません」


これは本当だ。このゲームのヒロイン、というよりエディエンヌの記憶の中のリリィは、庇護欲をそそられるか弱い存在ではなく、人を引っ張る魅力をもっている芯の強い女の子なのだ。血筋以外の能力なら将来王となる伴侶としても申し分ないだろう。


「5年の祭りの時のあなたの手腕。とても評価しています」


これは5年生のとき、学園で毎年開催されている聖メディス祭のときの話だ。端的に言うと反目し合っていた庶民上がりの商家と貴族王族の学生の中でも有力な者たちを和解させて祭りを共同で盛り上げたという、ヒロインの評価をうなぎ登りさせた事件。


「あなたならきっとアルスフォン殿下を支えることができるでしょう。どうかお幸せに」


くっ、気を抜くとどうしても上から目線になってしまう。いかんいかん。


「…ほんとうに申し訳ありませんでした」


もう一度深く頭を下げ、相手の返事を聞かずに振り向いて一目散に逃げた。


落ち着いたところでよく見ると掌は汗でぐっしょりになっており、いまだ動悸が止まらない。


もう少し言い方があったかもしれない、もっとうまく和解まで持って行けたかもしれないと色々思うこともあったが、やり遂げた感はある。

舞踏会まであと2日。私が戦う場所はおそらく学園ではない。もう、これで学園に思い残すこともないだろう。

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