09 デュラハン
2015/12/27
修正加筆を行っています。
首無しの騎士達は抜刀してゆっくりと歩いて向かってくる。
彼らが近づいてくると、鈍色の鎧の表面はあちこち凹み、傷が付き、特に胸元の辺りには赤黒い血がこびり付いていた。死臭・・・腐敗臭も漂ってきたため、彼らが死んでいる事が容易に伺える。
「今度こそ、死霊か・・・」
オルフェルが青ざめて弓を構えた。
「わたしが!」
ミスティがそう言い、死霊浄霊を実行。白い光の奔流がミスティの杖から、6体の首無し騎士に降りかかる。
しかし、デュラハンは歩みを止めなかった。
「えっ!?またなの!?」
ミスティの困惑を見て、レドが封印系Lv1「魔力感知」を使用する。自身の精神魔力を触媒とし詠唱時間も短いため、唱えるのは簡単だ。
レドの眼には、6体のデュラハンの鎧と剣が魔力を帯びているのが確認出来た。
「こいつら・・・死霊でもゴーレムでもない。たぶん魔法で剣と鎧が動くようにしているんだ」
皆に注意を促しなら、レドは冷や汗を感じていた。なぜなら、動く武具を作り出す魔法は、情操系Lv10「自動命令」と時間系Lv9「永続効果」。
つまり、自分より上手の魔法使いが居ると言うことだ。おそらく先ほどの白い蜘蛛女の自動人形、あれの主がこのデュラハンを作ったのだろう。
「でも、この死臭はなんだ?」
オルフェルの問いに、レドはおぞましい見解を告げざるを得ない。
話すために、一息吐く呼気が毒でも含んでいるかのような気分だ。
「たぶん、騎士達の首をはねた後、死体が残ったまま、鎧と剣に魔法を掛けたんだ。だから、あの中には死体が腐ったまま放置されてるんだろう」
死後硬直した肉体を壊して動いていることまでは口に出来なかった。
「なんて酷いことを・・・許せません!」
「助けられないなら、倒すしかない!」
ミスティがうっすらと目に涙を浮かべ、シャティル、ギルビー、レティシアは前に出た。
レドは、仲間を囲うように周囲に土系Lv2「石の壁」を展開した。左右を地面から天井まで壁で覆い、正面を一人分のスペースに開ける。これで囲まれることなく戦える。
デュラハンが1体、正面から入ってきた。ギルビーが正面に立ち、片手剣の一撃をツルハシで受け止める。その隙に左からシャティルが、上段からデュラハンの右肘を一刀で切り捨てた。
右側にはレティシアがレイピアで間接部を狙ってみるが、刺さってもダメージは与えられていないようだった。
ギルビーの背後からはオルフェルが弓を構える。二人の身長差があるから可能な陣形だ。
オルフェルが騎士魔法を発動する。オルフェルの身体がうっすらと青白く燐光を発し、続いて彼特有の竜の左籠手からの赤い燐光。身体全身に広がった赤い燐光に覆われ、矢尻の先端に火がともる。
白い蜘蛛女にも放った爆発の矢は、デュラハンの胸板にぶつかって爆発し、その身体を壁の外に押し出した。
「鎧の内部にダメージを与える技はあるが、鎧の破壊は苦手だな」
オルフェルが悔しそうに言う。
さて次の敵は、とほとんどの者が思ったその時、ミスティが叫んだ。
「茨の束縛!」
ミスティの神言発言により、地面から空中に向かって緑の茨が瞬時に形成され、中に浮かんだ剣に絡みついて動きを封じた。ミスティの咄嗟の判断にシャティルが礼を言う。
「剣も動くのか。助かったミスティ」
「いえ~、どういたしまして」
『剣には「浮遊移動」か「飛翔」でも掛けているんだろうか?』
レドはそう思いつつも、まずは動く剣を止めるため、封印系Lv7「魔力解除」を唱え始めた。その間、シャティル達の前には2体目、3体目のデュラハンが列を成している。
レドが魔力解除の魔法を発動させると、茨に絡まれてもがいていた剣が動くことを止めた。
『鎧を壊しても剣がまだ生きている。それならばいっそ―』
「シャティル!入り口まで引いてくれ!この壁の内側に奴らを纏めるんだ」
レドの声に、全員が部屋の入り口まで下がる。石の壁の内部に、5体のデュラハン達が入り込んでくるが、今度は入り口のところでシャティルが先頭になって敵を塞ぐ。
レドは「魔力解除」を再び唱え始めた。冒険の杖に組み込んだ“回転する自立球”は戦闘時に既に起動している。それが発する魔力は「斥力壁」や「魔力解除」の触媒となる。
レドは先ほど以上に魔力元素を呼び込み、呪文発言に気合いを込めて、デュラハン達を対象に指定した。
「魔力解除!」
魔力解除の発動によって、デュラハン達がガシャガシャと倒れていく。
「やったな!レド!」
振り返ったシャティルが見たのは、疲労紺倍しているレドであった。
「おい!大丈夫か!?」
「ちょっとやばいな。思ったよりも魔力を消耗した感じだ。とにかく、先へ急ごう」
魔力解除などの封印系の魔法は、精神魔力のロス率が他の魔法に比べて多い。それは、対象の魔法を掛けた術者の力量を上回らなければならないからで、魔法を使ってみないと消耗度合いが分からないという問題がある。それに範囲拡大も合わせるとかなりの消耗になるのであろう。
考えて見ればザカエラとの戦いでもこれで魔力を消耗している。
一行は、騎士達の遺体を放置して先に進むことにした。安全になれば騎士団も再び入ってこれるし、今ここで荼毘に付す事も出来ない。証拠として剣だけ回収し、レドの“見えざる鞄”に収納した。万が一、再び動く魔法を掛けられても、剣が無ければ安心だ。
ちなみに、“見えざる鞄”は空間系Lv4魔法。大人一人分に満たない位の容積の荷物に対する別空間を作り出し一時的に収納できる魔法で、重量を感じずに荷運びが出来る。
白い蜘蛛女の追跡を再開し坑道内を進んでいくと、次第にどこからかザーッという水の流れる音が聞こえてきた。
程なくして、前方には小さな小部屋が見えてくる。小部屋からは両側に通路が分岐しているが、辺り一面が水浸しの、ちょっとした小河川のようになっていた。おそらく周辺の地下水が集まってきているのだろう。水は、右側の通路から流れ込み、小部屋で渦を巻きつつ左側へ流れ出ている。
「どっちだろう?」
「手がかりが何も残っていないし、判らないわね」
シャティルの問いにミーナはお手上げを示した。
「畜生!逃げられたか!」
「奴が魔法で逃げない限り、再びここを通るんだろう。ここで張るしかないな」
悔しがるシャティルにオルフェルがそう言い、一行は小部屋の手前、水の来ないところで休憩することとした。シャティルが片膝を立てて座り、手を剣に掛けたまま警戒する。
オルフェルとギルビーは周囲の地質を調べ始めた。
ミスティはラナエストで準備した道具の中から携帯コンロを取り出し、小鍋に湯を沸かしてお茶の用意をする。魔力回復に効果のある茶葉があるのだそうだ。
レドは敵をどう探るかを考えつつ、今は魔力回復に努めて身体を休めることにした。
「ねね、私とレティシアとクアンで左右の通路偵察に行ってもいい?」
「敵を発見しても単独で突っ込まないならいいんじゃないか?」
ミーナがオルフェルに問うと、特に反対もないので、ミーナ、レティシア、クアンの2人と1匹は通路を調べに行くことにした。
暗い坑道内を明かりも無しに走り続ける自動人形。彼女の能力をもってすれば、暗闇になんの不便もない。ご主人様のために、あの冒険者達を撃退しなければ。そのためには破損した身体を治して貰わないとならない。
彼女は走り続け、しばらく進むと、4体のデュラハンが採掘作業をしている小部屋に辿り着いた。小部屋の中には彼らの他、片隅にコボルドの死体が積み重ねられている。
その部屋を通り抜けると、彼女は目的の部屋に辿り着いた。
部屋の中には1体のデュラハンと、一人のローブを着た魔法使いが居る。
「ただいま戻りました。ウェンデ様」
「ウヒヒヒ、おかえり。僕のジーナロッテ。どうしたんだい?見張り番の君が来るなんて?」
「侵入者です。手練れの冒険者で右腕が破壊されましたので、報告に」
ジーナロッテがそう言って右腕を見せると、男の形相が途端に変わる。
「ウァアアアッ!僕のジーナロッテの腕がっ!畜生!なんて酷い奴らだ!」
ウェンデと呼ばれた男はジーナロッテの右腕破損部に頬ずりして涙を流し始めた。
「大丈夫だよ、こんな時のためにスペアもある・・・けど、そうだ!君の足と同じように、蜘蛛の腕にしてあげよう!ウヒヒヒヒ!今度は膝と肘から先を一緒に出し入れ出来るように―」
「ウェンデ様、それでは武器が持てません。腕は元のままでお願いします」
「そ、そうか。判った。ではすぐに治そう」
ウェンデはすぐにジーナロッテの右腕の修理を始めた。
テオストラの幽霊騒動はひとまず成功した。もはや露天鉱床は立ち入り禁止とされており、後は先ほどのような調査に来る冒険者達を返り討ちにして、8月末まで粘ることが出来ればこの作戦は完了だ。そのためには確実に侵入者を撃退しなければ。
「ウェンデ様、私の修理が済みましたら、侵入者を撃退しに行きましょう。敵は7人居ます」
「そんなにも居たか。良し、判った。僕とジーナロッテ、それにアルバンなら勝てるさ」
ウェンデはそう言い、ジーナロッテの修理作業を行いつつ、部屋で採掘作業をしていた首無し騎士を見る。
「人形遣いのこの僕の、新たな部品となってもらおう」
ウェンデはそう言うと、ウヒヒヒヒと笑うのであった。
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20150131 見えざる鞄の部分について、一文追加。