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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第一部 テオストラ探索編
8/73

08 白い死霊

2015/12/27

修正加筆を行っています。

「幽霊騒動って、どんな話なの?」


ラナエスト北門を出て街道を歩く途中に出たミーナの質問に、レドが聞いた話を語る。


レド曰く―


 トリントン商会の鉱山夫が、採掘帰りに遭遇したらしい。

 ひざから下がない、白っぽい裸の女がずりずり這って近づいてきたんだと。

 両目は潰れていて、顔には赤黒い血がこびり付いている・・・

 その異様な光景に、男達が恐怖で固まっていると、女は言った。


「誰かいるのか?」


 地獄の底から聞こえてくるようおぞましい声であったらしい。さらに、鋼鉄の足音がガシャガシャと聞こえてきて、女が言ったんだそうだ。


「デュラハン様が来る、デュラハン様が来て、私の足を見繕ってくれる、だから・・・」


 次の瞬間、


「逃がさない!」


 と叫んで四つん這いの恐ろしい形相でシャカシャカ走ってきた!


―と言うことだ。



「暗闇で裸の女が四つん這いで走ってくる・・・確かに怖いかもな」


 シャティルが感想を言うと、


「来たらすぐ撃っていいか?」


 オルフェルが真面目な顔で回りに了解を求めてきた。


「オルフェル・・・もしかして、幽霊とか苦手?」

「い、いや、全然苦手じゃないぞ。ただ、エルフとしてああいう死霊の類は許せないだけなんだ」


 驚いて尋ねたミーナに、取り乱して答えるオルフェルは珍しい。


「大丈夫です。死霊の類は、私がみんな死霊浄霊ターン・アンデッドしますから!」

「ま、まぁ、ミスティに頼んだ方が効率的かな。はははは」


 確かに僧侶はその類の本職だが。レドはふと思いついた。


「もし、死霊では無くて、死体から作り上げた生体フレッシュ・ゴーレムだったらどうする?」

「それなら、じっくりと観察して弱点を探さないとなぁ」


 途端にオルフェルの表情に余裕が戻った。


「大抵は火が弱点だから観察する必要ないと思うよ」

「そうか・・・ではやはりすぐに撃つとしようか」


 残念そうな顔を一瞬したオルフェル。

 レドは以前から思っていたこともあって、シャティルの横に並んで他から距離を取り、小声で話掛けた


「なぁ・・・オルフェルってちょっと残念エルフだと思わないか?」

「ああ、俺もそう思うわ。いい兄貴分なんだけどな~、酔っぱらった時とかもそうだし、おやじ臭いとこがあるわ」


 途端に後方に足音とオルフェルの気配。

 オルフェルはシャティルとレドの肩に手を掛けて、顔を近づけてきた。


「若者達よ。エルフは耳が良いというのを知っていたかね?」

 場違いなにこやかな顔でオルフェルが言ってくる。


「戦闘中に手元が狂うことだってあるんだぞ?」

「いやぁ~弓の名手が間違うわけないっしょ」

「お前らも酒飲むようになれば判るんだよっ」


 オルフェルが二人を追いかけだし、シャティルとレドがふざけて逃げ回る。


 端から見れば、街道を歩く冒険者の微笑ましい風景であった。


『シナギーも耳が良いから聞こえてるんだけどねっ』


 何かの機会に“残念エルフ”を使おうと心のネタ帳に留めておくミーナであった。



 そんな時もあったなぁとミーナが思い出していた。今、ここはラナエスト露天鉱床の坑道の中。中央の岩山に入り、一本道を侵入して少し行った所。


 よくよく考えれば、予想が付くことだった。


 幽霊騒動が何者かの陰謀ということであれば、幽霊騒ぎは鉱山夫を脅かして悪評を立てる事が目的だろう。ついでに鉱石を奪おうとしているのかも知れない。

 巡回の騎士達が行方不明というのも、邪魔なために捕まえたのか殺したのか。いずれにしろ、鉱山夫が来なくなれば、次に来るのは調査のための騎士や冒険者である。

 首謀者がまだ中にいるのであれば、見張りを立てるだろう。ましてや一本道であれば。


 そう、一本道の先に、今まさにミーナ達の前に、白いモノが見えてきたのである。


 あれが噂の幽霊か?と訝しむより早く。


 シャティルが気付いて突っ込む暇もないくらいに、オルフェルが瞬足の動作で弓矢を構え、しかも騎士魔法まで使っていきなり撃った!


 赤いオーラを纏った矢が真っ直ぐに飛び、白い女の額にぶつかって小規模な爆発を起こした、が・・・・・・敵は無傷だ。


「誰か居るのね・・・効かないわ~」


 まさに地獄のそこから聞こえてくるような、しゃがれた男女の区別も付かないような声であった。そして急に這いずりだして向かってくる。

 あろうことか、その勢いは両手だけで加速し、女の腰と太腿は宙に浮いて左右に振れながらバランスを取っている。


「うぉおおおおおお!」


 オルフェルが雄叫んで3秒に5発の連射。弓技、五流星ファイブスターだ。全て額に命中したが、全て無傷で矢が跳ね返されてしまっている。

 レドは、それが想像系Lv4「見えざる盾」の効果だと気が付いた。


「彷徨える魂よ!神の命の元に立ち去れ!」


 ミスティが死霊浄霊ターン・アンデッドを実行した。白い光の奔流がミスティの杖から、白い女目掛けて降りかかる。白い女はそこで止まった。


 一拍おいて、浄化されるのかと思いきや。


 白い女はニタリと笑う。効いてない。


「そんなっ!」


 ミスティが驚くが仕方のない事だった。すかさずレドが叫ぶ。


「どうやら生体フレッシュ・ゴーレムのようだ!死霊じゃない!」

「死霊じゃないなら俺の敵では―」


 急に元気になったが、ハッとして口を噤むオルフェル。


「オルフェル、素直になろうぜ~」


 歌うように陽気に話しながら、シャティルが前に出た。


 既に右手は炎の重合剣(フレイム・タングス)を引き抜いている。

 ぶらりと提げたまま、前に出たそのままの勢いで白い女に接近し、最後の左足の一歩を右足前に踏み込むと同時に身が水平に翻る剣技、“流転”。

 敵に一瞬背を見せる挙動が欠点だが、一流の戦士は自ずと周囲の気配を悟る技術を習得しているため、シャティルも隙無く繰り出せる。フレイム・タングスの剣尖は真一文字に敵を切り裂こうとした。


 白い女が右腕で防御。シャティルの剣はそのままその腕を切断する勢いだったが、何かの障壁のようなものにぶつかり剣勢がかなり削がれた結果、敵の右腕に半分ほど剣が食い込んだところで動きが止められた。

 すかさずシャティルが念じて、フレイム・タングスの剣身に炎を纏わせ、再び剣を右側に切り払い強引に敵の腕を切断した。


 生体フレッシュ・ゴーレムなので肉が焼ける臭いを想像したレドは、それが発生しないことに気付く。


 白い女の右腕は、籠手の内部に何か色々詰まっているように見えた。


自動人形オートマータか!?」

「人肉豚野郎ではなさそうニャ」


 出会った時のゴーレムネタですかさず反応するクアンに、苦笑する。

 クアンによれば金属の塊を動かすゴーレムは「金属豚野郎」なのだそうだ。それに対して自動人形というのは精密な機械の塊であり、一線を期すべきものだというのがクアンの主張である。


 白い女はシャティルに右腕を破壊されると、ビクンッと腰を引かせた。後方に尻を突き出した姿勢で頭の位置が上昇する。見れば、足の無かった膝から下に、黒いつや消し色の足が伸び出している。ミーナはそれが蜘蛛の足を巨大にしたものに見えた。


 良く見ると白い女の尻からは斜め後方の天井に白い糸が伸びている。足の構造と照らし合わせると、この敵は蜘蛛の特製を組み込んでいるようだ。


「なかなかやるわね。死霊のフリしてももう効果が成さそうだから、本来の姿で本気ださせてもらうわ」


 先ほどまでと打って変わり大人の女性の声質と口調で敵がしゃべり出す。


「お前の主は誰だ!?」

「知りたかったら私を捕まえてごらんなさぁい!」


 レドの問いに挑発で返した白い蜘蛛女は、次の瞬間に尻の糸を引いたのか一瞬で後方の天井へ移動し、着地すると翻して逃げ出した。


「待ちやがれ!」

「追うぞ!」

「罠かもね」

「行くしかなさそう」


 シャティル、オルフェル、ミーナ、レティシアが掛け出した。

 レド、ミスティ、ギルビー、クアンも追いかける。


 一行が坑道内を走って敵を追跡すると、なんどか曲がりくねり下方へ緩やかに下っていった先に、一際大きな空間が現れた。


 そこは、10マトル四方ほどの広さがあり、天井の高さは1マトル。左側の壁に一箇所、明かりの魔法でも掛かっているのだろうか。それにより部屋の中が薄暗く照らされている。左奥に横穴があり、一瞬だけ白い蜘蛛女の後ろ姿がちらっと見えた。


 しかし追いかけるより前に、奥の壁に向かってツルハシを振るう6人の人影が目に付く。鎧姿なのは行方不明のラナエストの騎士なのか。


 しかし、白い蜘蛛女という人外な存在に特に注意も払わず、彼らは黙々と熱心にツルハシを振るっている。彼らの傍らにはうずたかく岩石の山が詰まれていた。任務を放棄して前のめりになってまで採掘しているのは、何か魔法で強制でもされているのだろうか。


『確か行方不明中の騎士は10人―』

 そのうちの6人がここに居る事になる。レドは何か違和感を感じていた。


「おい!あんたら何やってんだ!」

「お怪我はありませんか!?」


 シャティルとミスティが呼びかけでも、騎士達は返事をしない。

 しかし、次に彼らは一斉に動きを止めた。ツルハシから手を離し、こちらに向き直る。

 その右手は腰から片手剣を引き抜き、彼らはシャティル達に向かって歩き出してきた。


「操られてるの?」

「違うニャ。良く見るのニャ、レティシア」

 レティシアの呟きに、クアンが助言する。目を凝らして相手を見つめたレティシアは、その意味を悟った。


 6人の騎士達は―


 首がなかった。


ホラー調にチャレンジしました。


面白さがご期待に沿えるようであれば、感想や評価、ブクマ登録等頂けると嬉しいです。


どうかよろしくお願いします。

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