表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
71/73

065 平原戦争終結

予定より遅くなりました。

 ダイグリル達悪魔は、それぞれ独自の技術、技能を持っている。魔法においても得意分野が個々にあるが、召喚系の魔法と知識については悪魔達の共通かつ必須技術だ。


 魔神や上位悪魔などから、そのようにして作られるのである。


 魔方陣についても、わざわざ手で描くのでは無く、使おうと思えば魔力を線上にして自動的に投影されるのだ。無論、若干の時間は要するが。


『この状況を覆して勝利するためには、それなりの上位存在を呼ぶ必要がある。戦場で死ぬ奴らを贄とするのは良いとして・・・・・・魔神女王ヘカティレシアか魔獣神ドスレト・・・・・・だめか、贄が足りない。ではドスレト配下のベヒモスを・・・・・・』


 ダイグリルがベヒモスを召喚する事を決断し魔方陣を描き始めた時である。ごお、と何かが飛来した。


 黒い、と認識した時には腹部をしたたかに殴られて宙に飛ばされるダイグリル。


『なんだ! 俺の障壁を破るだと!?』


 ボディ・アッパーによって宙を飛ぶダイグリルが続いて黒い存在に顔面を殴られ、大地に叩き付けられる。既に魔方陣の作成作業は中断されてしまっていた。


 よろめき起き上がるダイグリルが見たものは、黒いローブを着込んだ巻き毛の男。ローブの下には皮鎧を着込んでいるが、その両手は素手で、腰回りに棒杖ワンドを何種類かぶら下げている。


「き、貴様、何者だ!?」


 ダイグリルの問いかけに、男は答えるよりも早く接近し、再び、腹に一撃を叩き込む。男の手の革手袋が自分の障壁を解除ディスペルしつつ攻撃していることを、ダイグリルはようやく見て取ることが出来た。


『こいつは魔族相手の戦闘に慣れている!?』


 ダイグリルは咄嗟に左手から巨大な蜘蛛の巣を放出する。魔法ではあるが無詠唱で使える、悪魔の身体に刻み込まれている技術。しかし敵の男はそれを、両手で易々と引き裂く。革手袋で解除ディスペル出来るのだ、これくらいは造作も無い。


 ダイグリルはそれでも、わずかな隙を作る事に望みを掛けて蜘蛛の巣を放ったのだ。本命は右手からの火球。ダイグリルは掌からの火球を連続で放った。その数10発の火球連射。


 火球爆発の轟音が連続し、目の前に火炎、黒煙、閃光が渦巻く。これならば―


 ダイグリルは距離を取りつつ念のために次の手段として、魔法詠唱を始める。火球連射で仕留められない可能性を考慮すれば、より上位の魔法を使わねばなるまい。


「あまねく魔界の腐素よ、腐魔素よ。群れなし集いて竜となせ。その顎にて敵を穿て・・・・・・」


 黒煙が風に飛ばされ火炎も雨に晒されながら消えてゆく。そこに見えるものは全く無傷の男であった。



 ラナエスト王国魔導団長ガロウドは、アキネルの城壁上で戦場を観察していた。フォラス太守の出番を奪うのもまずいと思い、「雷」の魔法を放った後は手出しを控えていたのだが、敵軍後方で膨大な魔力の高まりを感じ取ったのだ。


『こいつは俺の持ち分かな?』


 大鳥の羽根を取り出し、重力系Lv9「飛翔」の呪文を発動させると、ガロウドは魔力の発生元目掛けてさながら光翼騎士のように空へ飛び出した。やがて魔力の発生元―悪魔―を発見すると、何かを召喚すべく魔方陣を描いているのが見える。ガロウドは妨害すべく、すかさず突撃して腹部にアッパーを叩き込んだ。


 魔法使いや悪魔など、魔法を攻撃手段とする相手に対する戦闘方法でガロウドがたどり着いたのが次の3点だ。


 やられる前に殺れ。

 防御魔法を解除すれば殴った方が早い。

 極力詠唱時間を短縮する。


 魔法使いがそれで良いのか? とは宮廷魔術師ノキアの弁だが、ガロウドは知ったことではない、と意にも反さない。体術も鍛えているガロウドにとっては、一般の魔法使いよりも選択肢が増えているだけだ、と本人は考えている。


 ガロウドは悪魔の放つ蜘蛛の巣を破り、火球連射は魔法道具マジックアイテムの指輪の機能で結界を張って防ぐと、爆炎と黒煙の中でこの隙を逃さず、呪文を唱え始めた。


「空気よ傾け、堕ちよ、腐れ! 蜘蛛糸の如く拘束し本流よ開け! オー・ゾーン! 水空我に従い集いて、震え、擦れ高まれ。雷電招来! 光にして星の煌めき、今ここに放つ!」


「・・・・・・我が命に従え黒竜、空を咬み全てを滅せよ!」


 ダイグリルが呪文を唱え終わって呪文発言エンドルーンを発する時と、ガロウドが呪文発言エンドルーンを発する時は同時であった。


黒蝕竜牙咬ダークメルバイト!」

超伝導雷大砲オッズライバルター!」


 それぞれの右手から一抱えもある太さの黒光と雷光発射され、両者の間で激突する。

 ダイグリルは互角かと思ったが、ガロウドの感想は別であった。


 先に唱え始めた自分の魔法と呪文発言エンドルーンのタイミングが一緒と言う事は、詠唱呪文文字数が向こうのほうが少なく、呪文のレベルが明らかに格下なのだ。


 ガロウドの魔法は、細かな糸状の雷が黒光を包みつつダイグリルに伸び始め、その身体に到達するとダイグリルを感電麻痺させて動きを封じる。


『グガガッ! ば、馬鹿なっ!』


 ダイグリルの思考も一瞬の事。そのまま、雷光が黒光を駆逐してダイグリルを一気に包み込む。

 空気が焦げる臭いや据えた臭いが漂う中、雷光が消え失せるとそこにはもう、何も存在していなかった。


「生かしておいても悪魔じゃ証言能力ないからな。ま、これにて黒幕討伐は完了だ。後は戦士共の活躍を観戦するとしますか」


 ガロウドはそう独り言ちると、ウォー・ヒルズ軍本陣とシャティル達別働隊の戦いを観戦すべく歩き始めた。



 バルフィード率いる騎兵隊はウォー・ヒルズ軍を左右にずたずたに、無尽に切り裂きながら進軍していたが、やがて最後尾の一際大きいトロールの居る部隊を見つける。それが、トロールの王ドルネと人狼の王ボルガが率いる近衛部隊であった。


 周りを取り巻く一般兵100名程と一緒に進軍している近衛軍であったが、バルフィード達はおよそ1千名である。人数比ならば既に勝負はついているのだが、そこはウォー・ヒルズの魔物。一般の冒険者であれば3人掛かりでトロール一体と戦える程度であり、再生能力を封じなければその倍の人数でなければ戦えないであろう。


 また、騎兵による攻撃は移動しながらの一撃離脱や、互角の体格同士による打ち合いが基本である。これまでは再生能力を失ったトロールや人狼達に、馬上の高い位置から数撃を与えて崩した後に離脱してきた騎兵隊であるが、トロール王達のいる最終集団は再生能力を持ったまま、なおかつ確実に倒さなければならない。

 体格のいいトロール達の攻撃は馬上で受け止めるには不利で回避するにも騎乗では細かな動きは出来ない。結果、バルフィード達は馬から降りて戦う事とした。


「第一大隊から第五大隊は左翼からトロールを! 第六から第十大隊は右翼から人狼をお願いします! 10対1の比率で囲めばやれます。後続と乱戦にならないように余剰人員は防壁構成と遅延戦闘を!」


 モニカが拡声の魔法を使って部隊に指示を出す。今回の場合、大隊が100人規模とし、中隊が50人、小隊が10人として編制していた。モニカだけは馬に乗ったまま、周囲を見渡せるように後方に位置して指示を出していく。


「王と近衛には手を出さないで! 指揮官達が相手します!」


 モニカの言うとおり、トロール王達を相手にするのはバルフィード達であった。

 雑兵は部隊に任せ、バルフィードとシャティルの“三旋暴風斬ドライ・テンペスト”、“水断走波ウォルクレイブ”で進路を切り開くと中央突破する。


 アンジュとアルティ、2人の盾持ちが前衛を務め、バルフィードとトリスタンが魔剣の力を用いて側面から回り込まれないように牽制する。魔剣ロックマスターによって大地から槍状の隆起を起こし、魔剣デュランダルの万機光刃バンキコウジンによって無数の光の刃が敵の進路を塞ぐ。

 この陣形でシャティル達は近衛軍と正面から激突した。


 シャティルとレティシアは炎刃と光刃で、アンジュ達が隙を作った敵に2列目から飛び出して再生不能な攻撃を与えるようにして、一体、また一体と近衛兵を倒していく。目指すはトロールの王ドルネと人狼の王ボルガだが、王2体は旗色の悪さに踵を返して逃げ出し始めた。


 と、そこへ、アキネル方面から疾駆してきた一騎と一人が立ちふさがる。1人は紺色の戦装束“ジョルト・ウォー・チャクラ”に身を包み蜂を模したフルフェイスヘルメットの闇狩人ダークハンターネイガ。


「ようやく追いついたぜ。人狼王、食人鬼王相手に参戦しないのは闇狩人ダークハンターの名折れだからな」


 本陣で戦っていたネイガは、戦力的に本陣は充分である事と、そのままでは親玉と戦えないことから戦場を駆けてきていたのであった。そしてもう1人は。

 長髪を束ねた、東西様式の混ざり合ったロンクー風の防具に身を包み長刀を腰に下げた男、“侍”。


「ようやく間に合いましたよ。柳生流、剣匠ソードマスターレギン! 義によりて助太刀いたす!」


 レティシア目当てに昼夜掛けてきたレギンが、ようやく戦場に到着したのだ。


 馬から降りたレギンは腰の長刀を抜き放つと、正眼に構えてトロール王の前に立ちふさがった。


「鬼身招来剣心合一、幻神併立剣鬼召喚!」


 ゆらり、とレギンと全く同じ姿の幻がレギンの隣に出現する。違うのは鏡に写したかのように対象であること。レギンが左の腰だめに刀先を後方に溜めると、幻体は右の腰だめに同様の動きをする。

 

 柳生流は“剣鬼”を使役する。騎士魔法ナイトルーンと併用し、予め身体や装備に刻んだ魔印によって、実態のある分身を創り出すのだ。そして繰り出すは剛剣。剛剣を繰り出す者を二倍にし、剛に剛を重ねるのが柳生流である。


 レギンは長刀を一気に斜めに振り下ろした。剣鬼は左右対称に同じ動作を起こし、それぞれの刃先から剣圧が前方に撃ち出され、トロール王ドルネの直前で合流し衝撃波を発生させる。それは、再生能力を持つドルネにとって致命傷にまでは到らないものの、その身体には深いV字の傷を負わせて後方へ吹き飛ばす。つまり、シャティル達の方へだ。


 一方ネイガはもっと単純で、人狼王ボルガ目掛けて跳躍すると戦装束ジョルトゥーの力のままに、跳び蹴りを食らわせる。雑兵ならばその一撃で再生能力が効かないほどに粉みじんにする狩人蹴り(ハンターキック)。ボルガも王と言うだけあって、深手を負いつつも身体は耐えていたが、やはりシャティル達の方へ吹き飛ばされる。


 トロール王ドルネと人狼王ボルガが倒されるのは時間の問題であった。



 アキネル周辺の雨は上がり始め、雲が動き、太陽が見え始める。陰鬱で冷えた空気が突然に蒸し暑くなり始め、ラナート平原本来の夏の気候が復活し始めた。


 戦は終わり、歓喜の声が湧き上がる中、シャティル達はドルネ達の首を馬からぶら下げて西門まで凱旋する。

 西門付近にはこれまで見たことがない鎧姿の騎士団もおり、どうやらそれはトルネスタン王国の騎士団であった。トリスタン王子がシャティル達から離れてそちらへ向かったが、トルネスタン王国最速の一団を編成して駆けつけ、最後の戦いにはどうやら間に合ったようであった。


 西門前にはフォラスやガロウド、ナドリスやターニャが待ち構えており、バルフィードが差し出した首級をフォラスが検めると、全軍に対して戦闘終了の声が発せられた。


「此度の戦争はこれで終結だ! 集まってくれた諸君! まずはアキネルでゆっくり休んでくれ! 今宵は宴としよう!」


 フォラスのその声に、歓声が一際大きく上がり、部隊は撤収を開始する。

 こうしてアキネルの戦いは終わりを告げ、ラナート平原を揺るがした戦争は全て終了したのであった。



 借宿の食堂へ戻ったシャティル達と、なぜか一緒に居るレギン。


「なんでお前もここに来るんだよ」

「良いでは無いか。私がどうしようと私の自由だ。それにここにはレティシアが居るじゃないか」


 苦虫を潰した表情のシャティルに気障ったらしく答えるレギン。それを少し離れてみていたアンジュは冷や汗を垂らしレティシアに話しかける。


「ま、まさかあれがもっと酷い人?」

「・・・・・・そうです。僕の嫌いなタイプです」


 ジト目で状況を見つつ答えるレティシア。そこへレギンが声を掛ける。


「レティシア! 私の剣技は見てくれたかい? 君の剣技も見せて貰ったよ。なかなか素晴らしいね! それに君の持つ光の剣も興味深い! どうだろう、これから一緒に組んで行動しないか?」

「お断りします!」


 レティシアの即答にレギンはおおう、と派手によろめく振りをする。シャティルが動きかけたが、そこへアンジュが割って入った。


「君、レティシアが嫌がっているんだ。それくらいにしたらどうかな?」

「いや、それ俺の台詞・・・・・・」

「あなたは誰です? 一体何の権限があってそんな」

「私の騎士道が許さないのだよ。それに女性にはもっと配慮して接するべきだ」

「ほほう、私の邪魔をするのですか。ならば表へ出ましょう、剣で勝負をしようじゃありませんか」


 そこへ、バルフィードが立ち上がる。


「物事の解決にすぐ力に頼るのはひよっこの愚かさよ。戦が終わったばかりなんだ、少し大人しくしてろ!」


 バルフィードの威圧にレギンの顔色が変わる。レギンの自信過剰な発言と気障ったらしさは人に好まれるものではない。バルフィードも堪忍袋が切れかかっていたのであった。そこへ、シャティルがレティシアの腕を引っ張って自分のそばへ寄せる。


「気障侍も赤鎧もそこまでにしとけ。レティシアは俺の仲間だ。用があるのなら俺が相手をする」


 シャティルのその言葉にレティシアが嬉しそうな顔をし、それがまた、レギンを苛立たせるがアンジュは苦笑を浮かべるのみだった。と、そこへ食堂の奥から声が掛かり、沢山の料理が運び出されてくる。

 ターニャも給仕を手伝っており、そこには大皿に乗せられたピザや白パン、炙り肉や唐揚げなどがテーブルに並び始めた。さらにはエール酒やワインなども出されてくる。


「取りあえずは飯としようじゃないか! 祝勝会は夜だが、俺達は夜通し戦い続けて飯もまだだ。今喰わなきゃ、戦場で生き残ってもこれから餓死しちまうぞ!」


 バルフィードの号令に一堂は食べることに意識を切り替え、そこからは和気あいあいと食事が始まった。ばつが悪いのか、いつの間にかレギンは姿を消していたが、おかげでシャティル達は戦場の出来事を酒の肴に、賑やかに宴会が続くのであった。



 レギンは食堂の空気が悪くて、少しばかりのパンを食べるとすぐに外へ出ていた。

 今回自分は、最後の戦いに間に合っただけでほとんど活躍していない。そんな状態であの一団の中に居るには遠慮が合ったし、なによりもバルフィードに一喝された事が堪えていた。


『あんな風に怒られたのは師匠以来だな』

 

 生まれてからこの方、あまり他人との交流を積極的にせず修行ばかりしていたレギンは、剣の腕はともかく、世間ずれしており恋愛も初めてであった。そのためにレティシアに対して巧く接することが出来ない。また、シャティルが同じ剣匠であることから尚更、嫉妬と競争心が発生する。


『出会うのが私が先であれば、きっと巧くいっていたはずっ!』


 レギンの思い込みは、シャティル達の出会いの経緯を考えれば実際にはあり得ない事ではあるが。


 この日の出来事は柳生流剣匠レギンに暗い影を落としたのであった。




宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


次回で平原動乱編は完結予定です。

連休入るので土曜日更新出来るかどうか判りませんが、連休中には上げる予定です。


今後の予定は、レドの霊界探索編を経て、武闘祭編へと続きます。


全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。

「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」

http://ncode.syosetu.com/n5867cl/


挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてあります。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ