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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第一部 テオストラ探索編
7/73

07 テオストラへ

いよいよ冒険です。

 テオストラ探索行への出発当日。


 シャティル、レド、ミーナ、オルフェル、ギルビー、ミスティ、レティシア、クアンの7人と1匹は、ラナエストの北門で待ち合わせをしていた。


 シャティルは再調整が終わった炎の重合剣(フレイム・タングス)を左腰に提げ、紺色に染めた綿の厚地織(デニム)の上下を着ている。ブーツ、手甲、胸当ては革製で、後は背負い袋と言った格好だ。炎の重合剣フレイム・タングスは鍔元に、剣とは一体化していない、剣身を挟み込むようにして固定されているミスリルの台座と赤い宝石が取り付けられており、台座の装飾には“STR+1”、“Fire+1”と刻まれた魔力付与の高い武器となっていた。両手でも持てるよう、柄は長めに造られてある。


 レドは暗緑色のローブにひしゃげた同色のつば広帽、冒険の杖(マクガイバ)を持ち、背中には背負い袋。イアンと出会ってから、身体の各所に新しい装備をして今回の探索に臨んでいる。


 ミーナは赤髪と合わせたのか、白地に赤線で模様の入った短衣と長ズボン。腰裏に緑風の鉈(グルウィン・ベイル)を装備し、右腰にはさっき渡されたばかりの氷弾銃スフィル・ネイルという武器を装備していた。クロスボウより小さくまとまった大きさにミーナは満足している。


 オルフェルは緑の革ベストに茶のズボン、背負い袋に弓と矢筒を括り付けて、右腰に短剣、左腰に小型ピッケルを提げている。


 ギルビーは灰色の袖無し短衣に揃いのズボン、黄色いヘルメットに革グローブ。背負い袋をして大きなツルハシを担いでいる。


 ミスティは薄青のローブを着て銀の髪留めで金髪を纏めている。新調した長杖を持ち・・・胸が強調されているのは背負い袋のせいか。


 レティシアは裾が長めでミニスカートに見える灰色の短衣に綿のタイツを履き、右腰にレイタック、左腰に細身の剣(レイピア)を提げていた。レイピアはゴードがどこからか持ってきて先日与えてくれたものだ。


 一行は全員そろった事を確認すると、出発することにし北門をくぐる。テオストラ行きは内密なため、門番を勤める騎士にはブルフォス村まで行くと嘘を吐いて出発した。


 ラナエスト北門を出ると、そこは真っ直ぐと街道が北へ続き、左右の辺り一面は広大な麦畑だ。前方遠く北西側にはヨネス川の河道が、はるか北方にはウルスラント山脈の山影が見える。南門からは水田が広がり蛙の鳴き声がうるさいのだが、北門からの景色は近くではヒバリの鳴き声。遠くではぴーひょろろと、たまにトンビが旋回飛行しつつ鳴いている。野ねずみや野ウサギが麦畑を徘徊し、猛禽類が狙いに来るらしい。


 テオストラ露天鉱床は現在立ち入り禁止だが、ブルフォス村との往来があるため全く人通りが無いわけではない。交易商や旅人などはシャティル達のような冒険者が同じ方向に歩いていれば、道中の安全を考え一緒に行動しようとする。ヨネス河畔の風車小屋の点検の仕事も受けているから、ブルフォスまで一緒には行けないのだと当たり障りのない説明をしつつ、一行は北へ向かった。


 テオストラまではおよそ20ケリー。徒歩で二時間ほど歩くと、その全容が見えてくる。地平線に段々見えてくる、ぽっかりと空いた直径1ケリーの大穴。大穴の内壁は、所々から地下水がにじみ出して小さな滝をあちこちに作っている。壁に沿った階段、あちこちの昇降機や横穴と中央へ向かう吊り橋。

 中央には巨大な岩山が見えてくる。あちこちに足場や支保工が咬まされており、ちょっとした城塞のようなイメージだ。


 近づくにつれ、南側の入り口付近に騎士団詰め所があるのが確認出来た。立ち入り禁止の措置がされているため、駐屯している騎士は居るのだろう。しかし、内密に行動しなければならない。

シャティル達は騎士団を刺激しないよう、いったん素通りしてブルフォス村へ向かうように歩いた。


 テオストラを通り過ぎ、麦畑の麦で人が判別出来なくなるくらいに一度距離を取ってから、レドがクアンを除く全員に幻系Lv5「透明化」を掛ける。触媒がガラス玉で消失しない性質であることから、冒険の杖(マクガイバ)にあらかじめすぐに発動出来るよう仕込んであるのが早速訳に立った。


 全員が透明になると、お互いにどこに居るのか、何をしているのか確認が取れない。そのため、クアンを先頭にしてはぐれないように付いていく。そうして一行は、テオストラの北西側の穴の縁に辿り着いた。ここが騎士団詰め所から一番遠い場所だ。


「駐留騎士がもし真面目に仕事をしているのなら、半日に一回、大穴の周囲を回って、ロープやはしごが無いか見て回るんだそうだ」

「なんか、警備ザルっぽくない?いくらでも不審者入れそう」


 ミーナの言い分はもっともだ。仲間が上でロープやはしごを回収すれば、そもそも侵入の証拠が残らないし、1ケリー先を常に見続けるのも無理がある。


「確かにな。しかし鉱石狙いだと、入るのはともかく出るのは大変だ。それに、正規の手続きを踏まないと土捨て棒(ドステバー)が借りられないからな。土砂の処理に困ってしまうので、不法採掘する奴はあまり居ないはずだ」

「坑内でも巡回騎士が居て見つかる可能性もあるし、それに万が一の時に助けてもらえんのじゃ。入坑登録していれば、退坑予定時刻を目安にチェックが入るからの」


 レドの説明に、ギルビーが捕捉した。


「その代わり、魔法使いなら楽勝で出入りできるんだろうな」

「まぁ、俺も鉱石掘りに出入りした事あるからなぁ」


 オルフェルが指摘したのは純然たる推測でしかなかったが、姿は見えないが苦笑しているようなレドの声が聞こえた。


「やってたんかいっ」

「まぁ、研究成果はいろいろと国の役に立ってるからいいんだよっ」


 シャティルのツッコミに、レドは開き直って言い切ったが、気を取り直して次の説明を始める。


「さて、それじゃ手順を説明するぞ。俺がみんなに「自由落下」の魔法を掛ける。「透明化」もそのままだから、縁から飛び降りてくれ。イメージすればゆっくり降りられるから。階段についたらもう一度落下だ。一番底に付いたら、中央の岩山で丁度ここから正面の横穴に入って待つんだ。透明化を解除する意志を持てば解除される。横穴の中で姿を現して待っててくれ。それで全員そろったらまた出発だ」


「ボクはどうすればいいにゃ?」

「クアンは猫だから飛び降りても平気」


 クアンの問いにレティシアが冷たく言う。


「・・・・・・壊れるのニャ。なにげにレティは酷いニャ」

「冗談だから」


 レティシアは普段からどちらかというと無表情な物言いをするため、シャティル達にはレティシアがどこまで本気か判らない。ましてや今は透明化のおかげで表情も見えないため、何ともフォローのやりようがなかった。


「クアンは最後に、俺の肩に乗ってくれ。一緒に行こう」

「判ったニャ」


 レドは触媒の羽毛を取り出し、重力系Lv1「自由落下」を全員に掛けて回る。クアンが肩に乗ったことを重みだけで感じると、再び自分に「透明化」を掛けた。


「本当に魔法が掛かっておるのか?・・・・・・ワシちょっと腰が痛くなってきたわい。持病の腰痛だ。今回はやはりラナエストで待ってるとしようかの」


 ギルビーが急に怖じ気づいた。


「今更何言ってるんだよ。いいから行けよ」


 シャティルは、ギルビーの声のした辺りに検討を付け、ギルビーの腰の辺りを右手で押した。


「きゃっ!」


 ドワーフにしてはむにっとした感触と思った瞬間に上がった声はミスティのものだった。


「あ、え、あ、あわわ!」

「む、むごっ、おわっ!」


 ミスティとギルビーの慌てた声が聞こえ、なにかぶつかるゴッという音が聞こえ、最後の声は小さくなっていき・・・


「なに?いまの?」


 ミーナの慌てた声がする。


「あー・・・たぶん、俺がギルビーのつもりで間違ってミスティに触ったんだな。それでミスティが驚いてバランス崩して」

「ついでに杖でもギルビーに当たって、一緒に落ちたな」


 シャティルの告白にオルフェルが面白そうに推測した。


「とりあえず行くぞ」

「シャティル・・・えっちしたでしょ」


 レドの気配が遠ざかっていき、ミーナは飛び降りざまにからかっていった。


「ちょっ!」


 否定しきれないのが辛い。


「先に行くよ」


 心なしかレティシアの声がいつも以上に冷めている気がした。


「とにかく、行こうか」


 オルフェルもそう言い、気配が遠ざかっていく。


「ああ、もう!わざとじゃねぇっての!」


 そう言ってシャティルは崖下に飛び降りた。


 一番底に着地してから足音を立てないよう歩き、正面岩山のぽっかりと空いた横穴に辿り着く。他の面々は透明化を解除しているが、ミスティが頬を赤らめたふくれっ面だ。一方でギルビーは疲れた表情をしている。


「シャティル、気を付けて下さいね?」

「さっきのは不可抗力だし許してくれよ。それよりもギルビーのほうは大丈夫か?」

「うう・・・済まなんだ。ワシがしっかりしていればミスティにも迷惑掛けずに済んだものを・・・」

「あ、いいえ!私の方こそ杖ぶつけちゃったみたいで申し訳ありません」


 ギルビーが謝りだし、ミスティもそれ以上起こり続ける訳にはいかなくなったところで、オルフェルがすかさず口を出す。


「よし。それじゃぁ行くぞ!」


 この件はこれで場が収まって、一行は坑道内を進むことにしたのであった。


「ギルビー、上手く修めたね」

「元はと言えばワシのせいなのはホントだからのう」


 殿を勤めるレドとギルビーが小声で交わした会話を知っているのは二人の他はクアンのみである。


土捨てドステバーは判る人には判るネーミングです。

リアルにあったらゴミ捨てから○体遺棄まで使えそうでヤバイですが。


面白さがご期待に沿えるようであれば、感想や評価、ブクマ登録等頂けると嬉しいです。


どうかよろしくお願いします。

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