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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
69/73

063 光炎無双

 ラナエスト王国の西方都市アキネル。

 隣接するトルネスタン王国と東西街道を結んでおり、ラナート平原の西方玄関口である。西方にある丘陵地帯ウォーヒルズは、巨人族の一種であるトロール族と、狼と人の両方の姿になるライカンスロープ種の人狼族が住んでおり、古来より度々周囲に戦争を仕掛けていた。


 そして現在、城塞都市アキネルはこれまでに無い未曾有の危機に晒されている。

 シュナイエン帝国の魔導将軍ロウゼルによって放たれた使い魔ダイグリル。この悪魔によって操作され攻めてきたのはトロール、人狼の混成軍およそ1万。それに対しアキネルの守備軍はおよそ8千であった。


 義勇兵として、中でも銀の剣匠シルバーソードマスターシャティル、砂漠の獅子王バルフィード、闇狩人ダークハンターのネイガ、光翼騎士ウイングナイツのアルティ、シュナイエン帝国の騎士アンジュ、トルネスタン王国の王子トリスタン等と言った高名な戦士達も集まっており、アキネル軍は夜明けと共に討って出て戦争を終結させるつもりでいたのだが。


 しかし、アキネル太守フォラスの目算は狂う。


 夜陰に乗じて北東より進入した10頭の飛竜ワイバーン、そしてそれが運んできた人狼の入った籠により、市内に無数の人狼達が入り込んでの乱戦が始まったのだ。シャティル達義勇兵によってそれは一端は終息するかと思われたが、光翼騎士ウイングナイツアルティと交戦した悪魔ダイグリルの魔法によって城壁外の大地が迫り上がり、場外に控えていたトロールと人狼が城壁を無効化して一斉に攻め入ってきたのであった。



 西側の城壁上に居たバルフィードとレティシア。迫り上がった大地から雪崩れ込む敵軍によって城壁上の兵士達が一瞬にして弾かれ、踏まれ、トロールや人狼達があふれ出してくる。


「こいつは不味いな! 嬢ちゃん下がってろ!」


 バルフィードは言い放ち、大剣ロックマスターを背中から抜き放って騎士魔法ナイトルーンを発動させ、赤錆色の刃を垂直に構えたまま2回転する。

周囲の空気を渦巻かせ前方へ衝撃波を放つ両手剣技“三旋暴風斬ドライ・テンペスト”が城壁上の敵を一気に吹き飛ばし、一瞬の空白を創り出した。


 そのまま、前方へ突進し坂路まで駆けるバルフィード。しかし、再び群がり始めたトロール達が行く手を阻む。

騎士魔法ナイトルーンの膂力のまま大剣を振り回すバルフィードだが、圧倒的な物量と再生能力持ちの敵相手に、バルフィードはその場で釘付けになってしまった。再び“三旋暴風斬ドライ・テンペスト”を放つも、それは一時しのぎに相手を吹き飛ばすだけであった。満月の夜、人狼共の再生能力は最大になっており、トロールは巨人種としては小柄であってもヒュームの体躯を二回りは超える大きさだ。衝撃によるダメージだけでは敵を倒しきれない。


『一時でいい! ロックマスターを刺す隙があれば!』

「援護します!」


 歯噛みするバルフィードのそばにレティシアが追いつきトロールに斬りつけた。宵闇の中、眩しい光が敵を斬りつける。バルフィードが防戦しつつも驚いて横目で見れば、レティシアは光り輝く剣を振るい、トロールの棍棒や手足を容易く切り落とし始めた。


「嬢ちゃん! その剣は!?」

「私の奥の手です!」


 レイタックを隠しておきたかったレティシアであったが、それどころでは無いと判断したのだ。騎士魔法ナイトルーンを再び使えるようになったレティシアは、レイタックを刺突剣形状から広刃形状に切り替え、なおかつ騎士魔力ナイトマナを注ぎ込んで剣身を拡張させている。熱量の有無の切り替えを有りにすれば、傷口を焼くことによりトロール達の再生能力を無効にして戦う事が出来るのであった。


「少しだけ時間を稼いでくれ!」


 バルフィードが言い様に、大剣を床に打ちつける。石床に突き刺さる魔剣ロックマスターの力を操作して、バルフィードは坂路と接した城壁上に、等間隔の円柱が出現するように念じた。この操作中は剣が振るえない事から、隙が欲しかったのだ。レティシアが奮闘してる間が勝負である。


 ズズズズッ、と城壁の縁から円柱が迫り上がり始め、坂路からの敵軍の進入を堰き止め始めた。未だ何体かはまだ高さの低い円柱を乗り越えてくるが、やがて円柱が完全に形成されると、ようやく外部からの侵入が止められる。円柱が破壊されるまではこれで一区切りつくはずだ。


 レティシアが大丈夫かとバルフィードが見ると、小柄なレティシアはトロールと人狼達に大分押され気味であった。武器と力量からレティシアは次々と敵を倒しては居るのだが、如何せん数が多すぎる。

加勢しようとするバルフィードの視界に、夜空を駆ける光の翼が見えた。光翼騎士の翼だ。城壁に近づいてきた光の翼から細かな光の羽が撃ち出され、トロール達に刺さっては燃え広がり始める。続いて白い燐光に包まれた男が城壁を飛び越えて、着地ざまにレティシアの周囲のトロール達を一瞬にして斬り伏せた。闇夜に舞う炎の太刀筋。炎纏う太刀を持つその男は――


「シャティル!」

「大丈夫か、レティシア! よく頑張ったな!」

「来てくれてありがと!」


 俄然、元気になったレティシアとシャティルが並び立つ。レイタックの光刃とルイン・ブリンガーの炎刃が煌めく度にトロール達は切り裂かれ、二人はその勢いのまま城壁を進んで坂路まで進む。


 かねてからシャティルと肩を並べて戦いたいと思っていたレティシア。今、ようやくそれに近づけたと思い、その喜びと充実感が剣を冴え渡らせている。シャティルもまた、今までに比べて数段上がったレティシアの剣技に驚き、同時に背中を任せても良さそうな実力に安心感を感じる。これならば――


「レティシア、背中は任せる。突っ込むぞ!」

「はいっ!」


 シャティル達はバルフィードの創り出した円柱の隙間を潜り、坂路へ踏み出した。

進めなくなって鬱憤の溜まっていたトロールや人狼達。しかし、彼らの鬱憤はすぐさま恐怖へと変わる。

 敵陣真っ只中に進むシャティルは、ルイン・ブリンガーの炎刃を伸ばして袈裟斬りからの切り上げ、刀身を翻して水平からの斬り払いと太刀を振るっていく。長い炎刃は一振りで数体をまとめて斬り裂き、シャティルの前には無人の空間が生まれ始めた。一方、シャティルの後方にトロール達が回り込もうとすれば、今度はレティシアのレイタックが、シャティルほどでは無いにしろ一太刀で斬り伏せるのだ。


 数歩進めばシャティルは右回りに足を運び、レティシアもそれに背中を合わせるように動く。レティシアを与し易しと見て襲いかかる敵は、次にはシャティルに斬り裂かれ、シャティルに襲いかかろうとする敵はレティシアに斬り払われる。息の合った二人の軌跡は輪舞曲ロンドのように坂路上に光を描いていた。



『ふん、いいコンビじゃないか』


 後方から二人を見ていたバルフィードは、シャティル達が敵を集めているので戦闘は任せ、自分にしか出来ない事をやることにした。城壁上に残ったトロールを大剣でなぎ払いシャティル達の後を追いかける。そのまま、坂路上に出てロックマスターを地面に突き刺し、バルフィードは大地を元の平坦な状態に戻すよう操作し始めた。大地の魔獣神ドスレトの魔力がまだ残っており最初のうちは抵抗を受けるが、次第に地面は下がり始める、トロール達は異変に気づくも、シャティル達との戦闘から注意を逸らせず、そうしている内に地面は再び元に戻ってしまう。


 ロックマスターを引き抜き、バルフィードはシャティル達に声を掛けた。


「シャティル! レティシア! 撤収するぞ!」

「判った!」


 レティシアがバルフィード側へ駆けだし、次いでシャティルも走る。3人は騎士魔法ナイトルーンを発動させて城壁を一気に飛び越え、壁上に着地した。


 外側の敵は再び入れなくなり、一方、侵入した敵についてはあちこちで戦闘が継続している。しかし、よくよく見れば、モニカやナドリスが用意した便利たいまつ、ナタル油の噴霧器などを兵士達が使用し、敵の再生能力を無効化してアキネル軍は優勢に戦っているようであった。また、上空からアルティが光翼を翻して戦域を周回し、劣勢なところには光羽を飛ばして援護しているようである。最早、アキネル市内が落ち着くのも時間の問題と思われ、シャティル達も掃討戦に参加しながら太守府まで戻る事にするのであった。



 アキネル太守府、軍議室。


 夜襲を退け、アキネル市内もようやく落ち着き始めたのは夜明けまで数刻を残す頃であった。

 アルティから報告を受けたフォラスは、モニカと一緒に悪魔ダイグリルの存在とこれからの戦略について検討している。とは言え、指揮官らしき悪魔の存在は知っても、出来れば生かして捉えたいと言う要求が出るだけで有り、自軍に対しては計画の変更はあまり余地が無かった。

 そんな折である。雨音が窓を叩き始め、水滴をつけ始めた。


「降ってきましたね」

「君の天候読み通りだな」

「まだまだ未熟です。私の読みよりも早いし雨量が強そうなんですよねぇ。あまり強いと火が使えないし足下が悪すぎれば騎馬の運用に支障を来すんですが・・・・・・」


 モニカは知る由も無かったが、天候読みが若干外れたのはナギス村近郊における戦いの折、巨大な竜巻が発生した事による人為的なものであった。全くの自然現象でなければ読みが外れるのは致し方ない事である。


「今晩の戦いは思いも掛けない奇襲でしたが、アルティレイオンさんのおかげで飛竜ワイバーンは撃退、侵入したトロールと人狼も撃退出来ましたし、バルフィードさんやシャティルさんの活躍でかなりの数の敵を倒すことが出来たようです。およそ敵兵一千は減ったと思いますので、これからの戦いはおよそ9千対8千。早朝の出撃戦まで飛竜ワイバーンが隠されていたら大事でしたがそれもないでしょう。雨脚が強くて火が使いづらいですが、それも作戦が成功すれば再生能力を無効に出来ます」

「理想はトルネスタン王国騎士団が来てくれれば挟撃できるのだがな」

「トリスタン王子が既に手配してくださっているようですが、普通であれば到着は午後でしょうね。間に合わない可能性が高いです。それでも、早朝からの戦いには勝ちますよ。勝たなければ!」


 モニカの気合いの入った言葉にフォラスが苦笑する。


 聞けば、この娘は戦いが苦手で嫌いだと言う。しかし、義心によって参加してくれたその気持ちは強く、しかも本人は明かしていないが王城からの連絡によれば、あの宮廷魔術師ノキア・エトランゼの妹だと言う。

 血は争えないと思いつつも、元々は戦いが嫌いなこの娘に、責任を負わせてはならぬのだ。戦争の責任は正規軍人が、その中でもアキネルでは太守兼上級千人隊長である自分が取らなければならないのだ。


「ありがたいが気負う必要は無いよ。それはむしろ私の領分だ。とりあえず少しでも仮眠しておくが良い」


 モニカはフォラスの言葉に甘え、素直に仮眠を取りに退出する。その後ろ姿を見つつ、フォラスはこれからの戦いに思いを馳せた。


 モニカに何かあっては、宮廷魔術師殿に申し訳が立たぬ。バルフィードやシャティルと共に行動するため大丈夫だとは思うが、本人が頑張りすぎぬように彼らにも注意しておかなければなるまい。

 そのような事を考えつつ、フォラスも椅子の上でわずかながらに仮眠を取るのであった。



 アキネル西方2ケリー、ウォー・ヒルズとラナート平原の境界付近に、悪魔ダイグリルとトロール族の王ドルネ、人狼族の王ボルガ、およびその近衛兵達が陣取っていた。言わばウォー・ヒルズ軍の本陣だ。

 二人の王はダイグリルに制約ギアスを掛けられてはいるが、基本的な行動方針は彼らの本質に添うものであり特に異論はない。むしろヒューム族を襲うことは彼らの遺伝子に刻まれた使命であり自然な事なのだ。これまでは配下の兵のみを進軍させていたが夜明けの進軍は王達も参加する。殺人衝動、破壊衝動を我慢する彼らにしてみれば明朝の進軍は待ち遠しいものであった。


 一方、悪魔ダイグリルは王達には隠していたが内心ははらわたが煮えくりかえっている。夕べの夜襲で大勢が決まると思っていたのだ。それが、光翼騎士を始めとする手練れの戦士達によって、侵入した人狼達や飛竜ワイバーンが全滅するとは。


 死者を贄とした魔獣神ドスレトの力による地形変更も、最初のうちは巧くいったが光の剣を持つ男女と光翼騎士によって手勢が蹴散らされ、あろう事か地形まで元に戻される始末。まさか敵に地形操作のできる者まで居たことに、ダイグリルにしてみればことごとく想定外の展開であったのだ。


 幸い、雨が降り始め敵は火が使いづらくなるはずだ。こちらの利点である再生能力はそのまま活かせるし、夜襲において最低限の目的は果たしている。

配下達は気づいていないが、明朝の戦いで決着を決められなければ、トルネスタン王国からの派兵によって挟撃されるであろう。だからこそ、夜明けの一戦にダイグリルは賭けていた。


 戦に負ければ物質界に居場所はない。ダイグリルはいざと言うときの覚悟を決めて、夜明けを待つ。

 その覚悟がウルダイルやフォーリナムと同種のものであることに、ダイグリルは知る由も無かった。


宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。

「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」

http://ncode.syosetu.com/n5867cl/


挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてあります。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。

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