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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
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054 呪いの計略

「本当にやるの?騎士団に捕まる可能性もあるのよ?」

「大丈夫です、ジーナロッテさん。ディスペアラの能力は自然と把握していますし、私にとってナクトの無事に勝るものはありません」


 そう言ったサーシャが、真っ黒な蛇皮に覆われた顔で見つめてくる。辛うじて瞳がまだ、元が人間である事を表しているが。そんな人外へと変化した存在に見つめられて、不思議とジーナロッテに恐怖はない。なにしろ、元は自分が人外であったのだ。そして、人の皮を被ったオレアナのような化け物とさっきまで居たのだ。


「こんなことに巻き込まれたジーナロッテさんには不運としか言い様がありませんが、このままお付き合いください。それと・・・・・・不躾ですが、今後ナクトが無事に生きていけるよう、最初のうちだけで結構です、面倒をみてやってくれませんか?」

「縁起でも無いこと言うんじゃないの!無事に帰ることを諦めるんじゃないわよっ!」


 ジーナロッテは半泣きで叫ぶが、サーシャは首を横に振る。


「これからする事を考えても、私は責任を取らないといけませんから」

「そう・・・・・・でも、私は諦めないからね。取りあえずはあなたを見届けるわ。それと、私のことは呼び捨てで良いからね」


 ジーナロッテの言葉にサーシャは頷き、夜のハギスフォートを駆けだした。

 体表は真っ黒く蛇皮のように変質したサーシャだが、それでも裸は嫌で、ホスラー邸の廊下にあったカーテンを引きちぎり身体にマントのように巻き付けていた。巡回の兵士に見つからないように裏路地を主体に進み、騎士達の居そうな場所を探す。


 最初に見つけたのは警備詰め所だ。路地から大通りへ出る直前に立ち止まると、通りの反対側でかがり火を焚いており、二名の騎士が立っている。またすぐそばの小屋の中には五人の騎士が椅子に座って待機しているようだ。


 サーシャは行ってきますと言うと、足下の闇にどぷん、と沈むように姿を消した。

 ジーナロッテが驚いていると、通りの反対側に居る騎士達の足下の影から直立したままサーシャが浮き上がり、騎士達のうなじに左右の手で同時に触る。突然の感触に驚いて前方に飛び退りながら振り向く騎士二人。続いて、真っ黒な存在のサーシャに驚いて短い悲鳴をあげる。きっと例の幻も見たのだろう、続けてさらに大きな悲鳴をあげたため、詰め所から五人の騎士達が飛び出してきた。


「何者だっ!」


 誰何の声を無視して再び闇に沈むサーシャ。見失い、狼狽する騎士達の背後に再び浮かび上がり、先の二人と同様に感染させると、騎士達が狼狽えているのを尻目に、ジーナロッテのいる路地に再び戻ってきた。

 次へ行きましょうというサーシャに従って、移動するジーナロッテ。


 二人はこうして、いくつかの警備詰め所を襲撃し、さらには城壁へと到る階段下の警備騎士を昏倒させて城壁上を見張り中の騎士達にもレギオンカースを感染させていった。


 間違いなく百人以上の騎士に感染させた事をジーナロッテが確認し、再びホスラー邸へ戻るサーシャ達であったが、ホスラー邸の近くでサーシャが立ち止まる。


「誰!?」


 サーシャの誰何に、建物の影から姿を現したのは、軽装の皮鎧に長剣、小盾を装備し長髪をぞんざいに束ねた青年―ヴァインだった。


 日中の垂れ下がった目尻とやる気のなさそうな表情は何処にもなく、鋭い視線は別人のようで、次に発せられた言葉も又、昼間とは違う鋭いものであった。


「隠れてる俺を見つけるとは、それがディスペアラの能力か」

「あなたも、オレアナの仲間だったんですか?ヴァインさん」


 サーシャの質問に、ヴァインは首を横に振る。


「半分だけ正解だな。むしろ、オレアナがやり過ぎないように監視していると言ったところだ。オレアナ自体は知らないけどな」


 予想外の展開にジーナロッテは声を荒げて詰問する。


「あなた、何者なの!?」

「悪いがそれは言えん。言った瞬間に死ぬ“制約”の魔法が掛けられている。オレアナ自身も知らないうちに同じ魔法を掛けられているが、それ以前に彼女は自分が誰かに操られているなんて思いもよらないだろうな」

「魔法か何かで操られているの?」

「いや、俺の主は環境を整えただけだ。ホスラーが商人という設定でオレアナの亭主の役割だということも、絶望が広がるというこの街もね。オレアナは全て自分の意思で動いている」


 ニヤリとするヴァインに昼間のとぼけた様子は欠片もない。この男は凄腕の間者なのだと、ジーナロッテは思い知らされた。実際、今も全くこの男の気配には気づくことが出来なかったのだ。おそらく自分を昏倒させたのもヴァインなのであろう。


「それで、貴方は今何をしていたの?」

「君のお目付役だよ。ちゃんと騎士百人に接触したことは俺も確認した。それと、多少早くなったが約束通り君のレギオンカースを解除しよう」

「貴方に出来るの!?」


 ジーナロッテの驚きに構わず、ヴァインは近寄るとジーナロッテに右手を差し出した。昼間とは同じような光景にジーナロッテは思わず。


「何も渡すものなんて持ってないけど?」

「馬鹿だな。今度は握手だよ、手を出せ」

「レギオンカースが感染しちゃうわよっ」


 黒い蛇皮と化した右手を胸元に思わず引き寄せるジーナロッテだが、大丈夫だから、と言ってヴァインが強引にジーナロッテの右手を握手する。そしてそのまま、ヴァインの身体が白い燐光に仄かに光り始めた。


騎士魔法ナイトルーン!?」


 ジーナロッテが驚くも、ヴァインの騎士魔法ナイトルーンの光はそのまま輝きを増し、やがて、握手を介してジーナロッテの身体も光り始めると、ジーナロッテは再び幻を見る。しかしそれは、これまでと違い細胞に巣くう苦悶の表情が全て消えていく幻であった。


 気がつけば、ジーナロッテの両腕の黒い蛇皮化は全て消え、元の白い普通の肌に戻っている。


「こ、これは!?」

「実はレギオンカースの特効薬は騎士魔法ナイトルーンなんだ。自分で使えるのならすぐにでも解除できるのさ。何しろ、絶望を力とするレギオンカースに対し、騎士魔法ナイトルーンは“希望の力”だからな」

「じゃあ、それでサーシャやナクトも治せるの!?」


 ジーナロッテの顔は期待に明るくなるが、予想に反してヴァインは首を横に振る。


「二人はレギオンカースが進みすぎていて効かないんだ。オレアナがナクトを治すと言ったのは、あれは嘘だろう」


 ヴァインの言葉にジーナロッテは息をのむが、それ以上に傍らのサーシャの雰囲気が変わり強烈な殺気が膨れあがった。


「オ、オ、オレアナァァアアア!!!」


 憤怒の叫びを上げながら、ホスラー邸目掛けて駆けだすサーシャ。


「ま、待ってっ!サーシャ!!」


 ジーナロッテの制止も聞かず駆け去るその速度はとても追いつけるモノではなかったが、それでも行き先は判っている。

 ジーナロッテとヴァインはサーシャを追いかけてホスラー邸へ向かった。



 ホスラー邸の前に戻ってくると、そこには見知った者達が居る。エルフが二人にシナギーが一人。オルフェル達だ。


「ジーナロッテ!無事か!?」

「みんな!帰ってきたの!?」


 駆け寄るミーナ、オルフェル、シフォン。何故ここへと聞くと、昼過ぎにハギスフォートへ着いて仮眠していたオルフェル達は、ジーナロッテが暗くなっても帰ってこない事から危ぶみ、街へ捜しに出ていたのだという。闇雲に探しても見つからないため、冒険者ギルドで情報収集すると、午後には終わるはずの依頼クエストから帰ってこないばかりか、依頼主が依頼クエストを取り下げ、ジーナロッテはホスラー邸に来なかったとギルドの受付は言われたらしい。


 ジーナロッテが依頼を受けて放置するわけはないと、ホスラー邸が怪しいと考えたオルフェル達は、どうやってホスラーに事実確認をしようかと思案していたところであった。


 説明をする余裕もないので取りあえず付いてきて、とジーナロッテがホスラー邸へ皆を連れて入ろうとするが、そこへヴァインが立ちふさがる。


「悪いが部外者は入れるわけにはいかない」

「この後に及んでまだオレアナの味方をするの!?」

「俺は俺の使命を果たすだけだ」


 言うや否や、ヴァインは瞬時に白い燐光を発し目にも留まらぬ抜き打ちをオルフェルに放った。


 ギィイイイインッ!!


 金属の打ち鳴らし音が響き渡る。

 左の籠手でヴァインの片手剣を受け止めていたオルフェルは、その身体も青白く燐光を放っていた。しかし、オルフェルは騎士魔法ナイトルーンを長時間継続して使う事は出来ない。案の定、竜鱗の組み込まれた左籠手はオルフェルの身体の青白い燐光を取り込み、赤く輝き出す。


「俺の騎士魔法ナイトルーン発動についてこれるとは中々やるなぁ、エルフ」

「これでも俺は竜殺し(ドラゴンキラー)なんでねっ」


 相対的に身体全体の騎士魔力ナイトマナが失われるため、ヴァインに押し込まれ始めていたオルフェルであるが、剣を受ける掌に赤い燐光が集まり、赤光がヴァインを吹き飛ばす。


 すかさずミーナが氷弾銃スフィル・ネイルを抜き撃ちすると、二発の氷弾がヴァインの腹部に命中した。

 傷口が即座に凍り付く為、出血死は免れるが、冷気によるダメージと弾丸が内蔵まで傷つけたのか、ヴァインが吐血する。


 ヴァインに取っては誤算であった。優れた戦士は自分の実力を的確に把握しているもので、ヴァインもオルフェル達を一度に相手にしても充分な勝算を持って斬りかかったのだ。

 ところが、弓使いが素手に近い状態で自分の剣を受け止める事も、それから吹き飛ばされる事、その直後の隙を魔法道具マジックアイテムらしき見たこともない武器により狙われると、攻撃の予測も出来ずシナギーの早撃ちと相まって、この痛手は全くの想定外であった。

 そもそもは、ジーナロッテにこれ程までの仲間が居たことも想定外なのだが。


「思ったより分が悪いな。ここは引かせて貰う!」


 ヴァインは身体を白い燐光に包み、ホスラー邸を飛び越えて離脱する。


 時を同じくして、東方から鬨の声が聞こえてきた。巨人の襲撃が始まったのであろう、巨人が城壁を砕こうとする轟音や、巨人の防具に剣や槍を打ち立てる金属音、ダムフレスと思われる爆発音などが聞こえ始める。


 どうする?というミーナの問いに、とりあえず今はとにかく中へ、とジーナロッテはホスラー邸に突入した。



 サーシャはオレアナの名を怒りに駆られて叫びながらホスラー邸に飛び込み、2階の自分達が捕らわれていた寝室の扉を開け放った。


 部屋の中には、全身を真っ黒く蛇皮に被われ、ベッドの上に横たわるナクトと、その傍らに腰掛けていたオレアナ。


「行儀が悪いわね、サーシャ。ちゃんと騎士百人にレギオンカースを移してきたの?」

「ヴァインがこっそり数えていたわ。そして、騎士魔法ナイトルーンでジーナロッテを治した・・・・・・ナクトはもう手遅れだと言ったわっ!騙したわね!オレアナっ!!」


 サーシャはディスペアラの高い身体能力でオレアナに飛びかかったが、オレアナに触れる直前、見えない盾に弾かれる。


「落ち着きなさいなサーシャ。貴方如きが簡単に私に触れる訳はないし、私は嘘はついていないわ。貴方が早合点してるだけよ」

「しらばっくれるなっ!」

「ヴァインは役割を果たしただけ。おかげで、貴方は自我を持ったまま、完全なディスペアラとなれた」


 オレアナの指摘にサーシャの動きが止まる。そう、今やサーシャの身体は完全な漆黒であり、体表は全て蛇皮のよう。その瞳は真っ赤に染まり、サーシャのディスペアラ化は完全なものとなっていたのだ。

オレアナは懐から何かを取り出す。それは、丸い紫水晶のような宝石であった。


魂の宝石(ソウルジェム)。この中には生前、騎士魔法を使えた者の魂が入っているわ。これを飲み込みなさい。騎士魔法ナイトルーンが使えるようになるの。そして騎士魔法ナイトルーンを貴方が使えば、貴方は死君主ディゾナークに転生する。死君主ディゾナークになれば、全てのディスペアラを支配し、レギオンカースを増やすのも消すのも自在のはずだわ。それがナクトを治す手段よ」


 オレアナの言葉が真実であれば、確かにナクトは助かるだろう。しかし、それはサーシャに取って都合が良すぎる話であり、オレアナに取っては何のメリットがあるのか判らない。一体、どんな罠が仕掛けられているのかとサーシャは疑ってしまう。


「私が死君主ディゾナークになって、貴方に何のメリットがあるの?死君主ディゾナークに成りたいのは貴方なんでしょう!?」

「そうよ。でも、私は完全なディスペアラにはなれない。レギオンカースには感染してるのよ。ほら」


 オレアナがローブの襟元をずらすと、右の鎖骨の辺りが黒い蛇皮状になっているのが見える。自分でもレギオンカースを受けているからこそ、どんな幻が見えるのか知っていたと言うことか。ならば何故、自らも呪いに掛かりながらも、あれだけ酷いことをやれるのかとサーシャは疑問に思ったが、その答えは次に明らかになった。


「私はね、死君主ディゾナークに成りたいの。成りたくて成りたくてしょうがないの!でもだからこそ!レギオンカースの呪いは私に取って祝福でしかないのよっ!絶望どころか希望にしか感じないのっ!だから、ディスペアラ化が全然進まなくって!」


 ケタケタと笑い出すオレアナ。人とは真逆の望みが、呪いを苦ともしない精神構造を生み出していた?いや、それよりも、死君主ディゾナークに成ることについては、望む者ほど手に入れられないとしか思えない、難解な転生条件ではないか。


「でもね、私以外の誰かが死君主ディゾナークになって、私のレギオンカースを加速させて完全なディスペアラにしてくれれば、絶望していない分自我は保てるわ!そしてディスペアラから能力吸収したもののうち、誰かの騎士魔法ナイトルーンを私に分け与えてくれれば!そうすれば私は死君主ディゾナークに成れるの!」

「それが事実だとしても、貴方に酷い目に遭わされた私が、貴方の手助けをすると思うの!?」

「サーシャ、貴方はやるわよ!弟を助けるために人間を止め、契約書に縛られて私を死君主ディゾナークに引っ張り上げるわ!」


 オレアナがローブの内ポケットからわざわざ取り出して見せたのは、小間使い(メイド)として雇われる際にサインした契約書だ。実際は、魔法によって縛られた、オレアナに服従を使う魔法の契約書であったらしく、拷問を受けた初期にはこれによって手痛い苦痛を与えられたのだ。

 結局、全てオレアナの計画通りと言う事か。


「判ったわ・・・・・・それじゃあ魂の宝石(ソウルジェム)を寄越しなさい」


 サーシャはオレアナから宝石を受け取ると、ベッドに横たわるナクトを見て微笑む。ナクトは精神的な辛さからか、呼吸を浅くして昏倒しているようであった。


「ナクト・・・・・・今、助けてあげるからね」


 サーシャは魂の宝石(ソウルジェム)をごくりと、飲み込んだ。


宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。

「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」

http://ncode.syosetu.com/n5867cl/


挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてありますが、特に今回の話とは関連が深い内容となっています。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。

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