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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
59/73

053 呪われた生者

今回、ちとグロいかも知れません。

後味が良くないと思うので、次の投稿は明日にします。

 ホスラー邸の前には門番らしき男が居た。ぞんざいに束ねたぼさぼさの長髪と、垂れ下がった目尻、やる気のなさそうな表情をしている。軽装の皮鎧に長剣、小盾を装備した青年は雇われ冒険者といった風体だ。

 ジーナロッテは冒険者ギルドの紹介状を見せながら青年に話しかけた。


「あの~?冒険者ギルドから依頼クエストを受けて来たんですけど」

「ああ、ひょっとして俺のお仲間かな?俺も依頼クエストでここに雇われている。ヴァインだ」


 ヴァインは人なつっこい笑顔で右手を差し出してきたので、ジーナロッテは握手をしようとすると。


「そっちじゃないよ。依頼書を貸してくれ」

「あっ、そ、そうね」


 気恥ずかしくなったが、とりあえず依頼書を渡して見て貰う。ヴァインは依頼書を読むと顔を上げた。


「とりあえずここの主達に紹介しよう。ついてきてくれ」


 ヴァインが邸内にそのまま案内しようとするので、ジーナロッテは思わず門番はしなくていいのかと聞くと、冒険者が来るまでで良かったとのこと。そこから先は、一緒に清掃をすることになっていたらしい。


「ホスラー様を呼んでくる。ちょっと待っててくれ」


 客間に案内されたところでヴァインはホスラーを呼びに部屋を出て行き、ジーナロッテは所在なさげに室内を観察することにした。


 引っ越したばかりだと言うが、客間にはラウルウッドを1枚切りにして天板にしたと思われる立派な木目の大きなテーブルを中央に配置し、みっしりとした密度の短毛の手触りの良い革製の3人掛けソファーが2セット、二人掛けソファーが1セット、テーブルを囲むように配置されている。

 壁には2対の剣と組み合わせた盾飾り(シールドプラーク)や、長柄斧ポールアックス、弓、牡鹿の首の剥製が飾られ、部屋の片隅には騎士の着る全身金属鎧が槍を持って直立していた。


 ジーナロッテの脳裏に、テオストラでシャティル達と戦った時の苦い記憶が蘇る。あの時は騎士達の死体を金属鎧に閉じ込めたままウェンデが魔法で操っていたのだ。金属鎧から視線を外すと同時に考えないようにする。


 いずれ、自分は報いを受けるだろう。しかし、今は生きて罪滅ぼしに、出来ることをするのだ。死ぬのはいつでも出来る。


 そんな心の逡巡をしていると、客間のドアが開いて主達がやって来た。恰幅の良い、口ひげを伸ばした人の良さそうな笑顔の中年男性はおそらくここの主の商人ホスラーだろう。次に続く、淡い黄色のローブを着た、栗色の長髪で毛先を巻き込むような髪形の女性は奥方であろうか。ローブ姿は魔法使いに見えなくも無い。そして最後に、ヴァインが入室して扉を閉め、ジーナロッテのそばにやってくる。


「良く来てくれた!ジーナロッテと言ったね。私はホスラーだ。依頼を受けてくれて感謝するよ」


 ホスラーの挨拶にジーナロッテもよろしくお願いします、と挨拶をする。

 続いて、ホスラーが自分の妻を紹介した。


「妻のオレアナだ。オレアナは魔法使いでもあってね。その知識と力で私の商売を助けてくれているのだよ」

「オレアナよ。ジーナロッテさん、よろしくね。早速だけどお仕事お願いしていいかしら」

「はい。もちろんです。よろしくお願いします」

「それでは1階の掃除をそこのヴァインと一緒にお願いね。掃除道具の在処とかはヴァインが知っているわ。それから2階は私達の寝室があるので掃除しなくて良いから上がってこないでね」


 判りました、と返事の後、早速ジーナロッテはヴァインと清掃作業に入ることにした。

 道具小屋から掃除道具を持ち出し、1階の窓を開け、上方から埃を落とし絞った雑巾で拭いた後に乾いた雑巾で水気を拭き取り磨いていく。正直、2時間で1階全ての清掃というのは厳しいものがあったが、玄関、廊下、客間、食堂、その他数部屋の清掃を終えた頃には既に正午を過ぎていた。


 時間は2時間を超えていたが切りの良いところまで掃除が済んだため、そろそろ終わろうと思ったジーナロッテ。気がつくとヴァインの姿が見えず、終わろうにも誰に声を掛けるべきか困ってしまう。1階を人を探して歩き回ったが誰もおらず、仕方なくジーナロッテは2階に上がった。


 2階へ上がると廊下沿いの扉は全て閉まっている。2階には上がらないよう言われていたため、仕方なく進み始めるものの、自然と足音を消すように歩き始めるジーナロッテ。


 少し進むと、何かの音が聞こえてきた。ジーナロッテにはそれが聞き覚えのある音にも思え、やがて、その音が聞こえる扉の手前で立ち止まる。


 ピシッ!・・・・・・ピシッ!・・・・・・


 今やしっかりと聞こえるこの音をジーナロッテは間違うはずはない。なぜなら一定の間隔で聞こえるそれは、鞭打つ音だからである。自身も武器として腰に備えており、同種の音を間違うことはない。つまり、誰かが鞭を打っていると言う事。


 さて、誰かがお仕置きされているのか、それとも昼日中からホスラー夫婦が盛り上がっているのか。いずれにしろ、この扉をノックするわけにはいかないだろうと、ジーナロッテは気づかれないように扉の前を去ろうとしたが、その瞬間まで、自分が背後を誰かに取られている事に気づけなかった。

 その後ろに近づいた何者かによって、ジーナロッテは後頭部に衝撃を受け、昏倒したのである。



 ミーナ達がナギス村から再びハギスフォートへ戻ったのは正午を大分過ぎた頃である。

 新たな同行者となったアイズは、動物の姿をしているとはいえ大鷹そのものが目立つため、また、アイズ自身も色々と情報収集をしたいと主張した事から、ひとまずは別行動で自由に上空を飛び回る事にした。


 ミーナ達はラナクル号を南西寄りの芝生港ターフポートに止め、ハギスフォート市街を太守府へと向かった。市街の状況や道行く兵士達の様子を見るに、ハギスフォートは巨人の襲撃に対してこれまでは無事のようである。ともなれば、一人置いてきた仲間のジーナロッテにも別段問題は発生していないだろうとオルフェルも安心しては居た。


 太守府でクロッゼに面会した際に告げられたのは、自由行動からまだ戻ってきていないと言う情報であり、ダムフレスの生産はきっちりとやり尽くして、しっかりと責任を果たしていたがゆえの自由行動でもあったため、ジーナロッテの不在をクロッゼは別段問題視はしていない。


 その為、オルフェル達もまずはナギス村であった事を報告する。

 イーズの協力もあった事、シナギーの死亡者は1名のみである事、ナギス村の危機に精霊導師シャーマンの力に目覚めたシナギー達が居たおかげで、草小舟グラスディンギーの艦隊戦で巨人達と戦い、最後には竜巻で巨人達を吹き飛ばした等と、アイズに関する事やエルジオボウ等の古代技術の事は伏せて、なおかつ良い具合に話を盛ったのであった。


 オルフェル達はこれからどうするか尋ねられ、勿論義勇兵として参加する旨を伝えると、おそらく敵の襲撃は夜からなので昼のうちに支度をして鋭気を養うようにと、また、仮眠室もクロッゼが用意してくれると言う。

 よもやジーナロッテに危機が迫っているとはオルフェル達は露とも知らず、昨夜が徹夜だった事もあり、オルフェル達はクロッゼの好意に甘えることにして、ひとまず太守府の一室を借りて仮眠を取ることにしたのであった。



 低く、唸るような音が聞こえる。身体の骨身に染みるような低い音に不快感が生じ、次にはそれだけでなく実際に頭痛がして不快である事にも気づく。

 自分に一体何が・・・・・・そうだ、自分は確か殴られた!


 ハッと目を開けたジーナロッテはそのままさらに目を見開いた。眼前の異様な光景に脳が追いつかない。理解出来ない。


 天井の梁から垂らされたロープに縛られているのは両手首。その下に見えるのは頭上に回された白い両腕、金色の緩やかな髪。俯く顔に表情は見えないが口には革製のマスクがはめられている。

 裸に剝かれた身体は白くみずみずしい肉感を魅せるが随所に赤くただれた、鞭打たれた後が痛々しい。足下はつま先が辛うじて床に付く程度に宙づりであり、その足先からふくらはぎ、太もも、脚の付け根の辺りまでは上半身とは対照的に、黒い、蛇のような質感と網目模様に覆われている。


 ぐったりとした少女のそばで、宙に水平に浮いた円盤が回転しており、それが先ほどの深いな音の発生源であることにジーナロッテは気がついた。


 ジーナロッテ自身は後ろ手に手首を縛られ、足首も縛られ、服装も装備もそのままに床に転がされていたようであった。周囲を見ると、年の頃5,6歳くらいであろうか、金髪の少年が口に少女と同じマスクをされ、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら床に膝をついている。

 首輪をされ、柱の低い位置に鎖でつながれているために、常に膝立ちのまま身体を支えるしかない仕打ちで、口のマスクのために声を上げることすら出来ないようであった。


 そして、部屋の奥には鞭を持ち嗜虐的な愉悦の笑みを浮かべるオレアナが立っている。


「あら、起きたのね、ジーナロッテ。それじゃあこれから貴方にも面白いモノを見せてあげるわ」


 オレアナがそう言って指を振ると、回転しながら浮遊する円盤がゆっくりとつるされた少女の二の腕の辺りに近づく。

 その次の光景を想像してしまい思わず叫ぶジーナロッテ。


「な、何をやっているの!?止めなさいっ!」


 円盤が一瞬だけ、わずかに少女の腕に触れた。


 赤い血飛沫が散り、声にならぬ悲鳴と苦痛に身をのたうつ少女。同時に少女の下半身の黒い蛇皮のような皮膚が下腹部まで広がり、ジーナロッテの脳裏には不気味な幻が浮かび上がった。


 網目のように見えるのが身体を構成する微少な組織の断片なのだと本能的に理解させられる。どくん、と脈動するかのように網目が膨張し、その一つ一つに老若男女の苦悶の表情が浮かぶ異様な幻に恐怖し、幻が消えると共にその意味がわかる。


 ジーナロッテの左手の指が、少女と同じように黒い蛇皮のように変質していたのであった。



「うふふふふ!解るでしょう!無知な者でも本能的に理解してしまうのよ!」


 狂気と言うしかない笑みに顔を歪ませるオレアナ。

その様相にジーナロッテは思考がマヒしかけ再び先ほどと同様の幻を見る。幻が消えると、左手の蛇皮状の黒いモノは手首まで広がっていた。


「これは、何!?」

「うふふふふ!教えてあげる。私は不死の研究をしているの!貴方達にはレギオンカースという薬を打たせてもらったわ。幻が見えたでしょう!?貴方達の身体を作る小さな一粒一粒、それを細胞と言うの。その細胞毎に呪いが掛かるのよ!一つ二つの呪いを解いても全然追いつかない。そうして、絶望を感じるほどにその呪いは身体に広がっていくわ!」


 わざわざあの幻を見せるのも、絶望を増幅させるための処置だと、ジーナロッテは理解した。


「呪いが全身に回り瞳の色も変わると、魂までもが変質する。そうして呪いによって死ねない身体となった、“呪われた生者”、ディスペアラへと変化するの。でもそれだけでは未完成だわ」


 ぎりり、と歯ぎしりを起こし悔しげな顔をするオレアナ。


「大抵は自我が崩壊してしまうのよ。ディスペアラになって、自我を保ち続けていれば、“死君主”、ディゾナークへと変化出来るはず!私はその研究の為に、絶望の広がりそうなこの街にきたの。あなたがたはその実験台というわけよ!」


 オレアナが手を払う動作に合わせて、浮遊する円盤が回転を止めて床に落ちた。

 続いて吊された少女に近づき、口にはめたマスクを外しに掛かる。マスクの裏は口内に差し込む突起がついていたようで、唾液がつう、と糸を引いて垂れる。それが声を封じ舌を噛まないようにもしていたのだろう、口が自由になった少女の声をジーナロッテは初めて聞いた。


「お願いだからもう帰して!私とナクトをもう解放してっ!」


 泣き叫ぶ少女を見つめるオレアナの目は先程までと何も変わっていない。


「心配することはないわ、サーシャ。肝心なのは、自我を保ったままディスペアラになれるのかどうかなのよ。だから、弟の事を大事に思うあなたの気持ちは忘れちゃいけないわ。でも、充分に絶望してもらわないと」


 オレアナはそう言うと、サーシャの弟、ナクトのそばに移動し、首輪を外して次にマスクを外した。


「お姉ちゃんっ!」

「だめぇっ!」


 ナクトが弾かれたようにサーシャの元へ駆け寄りその右足にすがりつくが、同時にサーシャの悲痛な叫びを発する。

 ナクトが泣きながらお姉ちゃん、お姉ちゃんと連呼する中、サーシャは号泣し、その体表の黒い蛇皮の質感は一気に乳房の下まで広がった。


「アハハハハ!かわいそうにねぇ、サーシャには先に教えていたけど、レギオンカースは触ると感染するのよぉ!」


 それでか。それが先ほどのサーシャの拒絶の叫びであり、再び絶望が彼女を襲ったのだ。

 このオレアナという女は、他者を絶望に追い落とす事に掛けて徹底しているということがジーナロッテには解った。


「小さな子供では今までまだ実験したことなかったから、これも楽しみだわぁ」


 悪魔めいたオレアナの言葉に、ジーナロッテの中に怒りが生じるが現状では打つ手がない。


 その後もオレアナの巧みな言葉攻めや鞭や刃物による物理的な痛みと恐怖、姉弟の感情を利用した相互への揺さぶりにより、日が暮れる頃にはサーシャとナクトはほぼ全身が真っ黒に変化していた。辛うじて二人の姉弟の髪が一房だけ金色のままで、瞳がまだ変わっていない状態だ。ジーナロッテも両腕が真っ黒に変色し黒い蛇皮と化していた。


 完全に日が落ち、夜のとばりの中、満月の光が部屋に差し込み始める。窓から満月を見たオレアナは、そろそろ頃合いねと言い、漂う円盤を操作してサーシャを吊り下げるロープを切断した。

 床に突然投げ出され戸惑うサーシャ。


「良い感じに黒く染まったけど、ここからは自我が保てるように少し希望を与えましょう。サーシャ、あなたはこれから外へ出て騎士百人に触ってレギオンカースを感染させてきなさい。その後、ここを知られないように帰ってくるのよ。それが出来たら、ナクトの呪いを解除して直してあげましょう」

「本当ですか!?」

「ええ。そしてジーナロッテ。あなたはそのお目付役よ。終わったらあなたの呪いも解除してあげる」

「サーシャはどうなるの!?」

「残念ながらサーシャには引き続き仕事をしてもらうわ。それが私達の“契約”なのよ」


 そう言ってオレアナが取り出したのは何かの紙だ。それを見てサーシャは下唇を噛む。どうやら、小間使い(メイド)として雇われる際の契約書に何か魔術的な制約が盛り込まれていたらしい。


 ナクトを人質に取られたまま、サーシャとジーナロッテは夜のハギスフォート市街に出ることになったのであった。


宜しければ感想、ブクマ登録、レビュー等、応援よろしくお願いします!


なぜハギスフォート編でさらに新キャラが出るのか、しかも鬱展開なのか・・・・・・サーシャも今後に絡む重要なキャラなのです。

ちなみに、拷問シーンは半分はお告げがあったものを使用していますが、自分にはあまり向いてないですね・・・・・・


全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。

「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」

http://ncode.syosetu.com/n5867cl/


挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも全面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、本編とは独立して読める一本としてありますが、特に今回の話とは関連が深い内容となっています。旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。

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