050 精霊導師の罠
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
全面改訂に伴い、旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。
「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」
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詳細は後書きに記載していますが、旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらをご覧下さい。
ラナクル号は、早朝の霧の中、最大船速で進む。霧のおかげで上空に居ると言われている魔導艇からは見えない。もしかしたら神々ですら把握できないのではないか。
アイズは作戦を考えるにあたって、この目隠し効果を最優先とした。自分が持つ、三千年前の時代の技術は、現代を凌駕する技術だ。「精霊砲」「エルジオボウ」そして「ラナクル号」。これらを出来る限り、一般の目から隠さなければならないし、一般どころか下手をすれば旧時代の敵である、偽神軍に見つかりかねないのだ。
そのためには、これらの扱いには慎重にならなければならない。
しかし、アイズは、残る一つの今回生み出した道具の影響を軽視していた。
オルフェルの記憶にあったそれを模倣したのは、現代で生み出された、正確に言えば魔導師レディアネス・クレイドが生み出した道具だ。そう言う意味でオーバーテクノロジーではないと判断しているし、今回の作戦においてあの道具の必要性は欠かせなかったのだが、それが後に予想外の出来事につながってしまう事に、今は未だ誰も判らない。
ミーナは精霊導師の力で霧を関係無く視界を確保しており、帆を張らずとも走れるラナクル号は、やがて、ミーナの操船によって、予定されていた位置まで辿り着いた。
今、ラナート平原では、昨夜の家に草小舟を出港させた何人かの新米精霊導師が、所定の位置についている。火の見櫓のシナギー達と同様に、精霊に働きかけて、平原のナギス村周辺に霧を発生させているのだ。
「オルフェル、シフォン、霧のおかげで巨人からこっちは直接目視出来ないし、こっちは精霊導師の力で精霊が視界をくれる。回避と操船はこっちに任せて!その代わり、巨人達を撃ちまくってね!」
「任せてね」
シフォンは自分に新たに備わった精霊導師としての力を用い、自分とオルフェルに霧を見通す目の効果が出るようにする。
二人のエルフは、東の稜線に未だ休息中の巨人達がはっきりと見えるようになった。
「いくよ、オルフェル!」
「では、やるか!」
二人はエルジオボウを構える。シフォンが精霊にお願いしたことにより、周囲の精霊達は二人のエルフにまとわりつき、その身を次々とエルジオボウに重ねていく。
二人は目標の巨人を見据えると、同時に弓を引き絞り、自身の魔力も武器に軽く充填すると右手を放した。
二条の赤光が真っ直ぐに射出され、遠方の寝ている巨人を貫く。拳大の光線が音もなく貫く様は白い霧の中で現実感がない。それでもその巨人達は絶命したはずだ。
その後、二人は続けてエルジオボウを撃ち続けた。およそ10秒にも満たない時間に1射、それを休み無く。その頃には赤い光線に恐れを感じ、部隊前方へ必死に駆け出す巨人達が増えてきたが、二人のエルフにとっては的の難易度は大差ない。そうして、赤い光線で蹂躙した後は、生きている巨人がいなくなればミーナがラナクル号を移動させて再び撃ち続ける。
流石に、オルフェルもシフォンも疲労を感じ始めてきた。
「どれくらい撃ち続けてるんだ、私達は?」
「どれくらい減らしたかも判らんな」
二人のエルフの愚痴にアイズが答えた。
「ハッハー!まだ30分少ししか経っておらんよ!敵は831体倒している」
「まだそんななのか!これでは私達の身体が持たないぞ!」
「私と接続すれば一度に多数を標的にもできるのだがな。おそらくその武器が持たず壊れてしまうだろうからなぁ・・・・・・だが心配はない。決死隊の方が機能し始めている。お主らが倒した他、決死隊側も含めれば、全部で3126体減っている。残りは1711体だ」
決死隊側の策が上手くいき、かなりの数をの巨人を消しているようだ。これならば希望はある。
シフォンとオルフェルは気を取り直し、再びエルジオボウを発射するのであった。
シナギーの決死隊側ではおぞましい光景が広がっていた。
崖上から見下ろすシナギー達の前方に、巨人の集団がみっしりとした密度で詰め寄ってきている。巨人達は後方からどんどん押されるように前に押し出され、次々と底なし沼に足を踏み入れていくのだ。決死隊に参加していた精霊導師のバレイルは、あとで絶対に夢でうなされるだろうと思いつつ、その様子をじっと見ていた。
初めは、猪の焼ける香ばしい油の香りに目覚めた巨人、ヴォミンであった。
白い霧の中、あたりを見渡せば近くに寝ている仲間が辛うじて見えたが、他の仲間達はまだ寝ているようであった。一緒に作戦に参加していた友人、ボンザの姿が見えない。
空腹と臭いに釣られた巨人は、嗅覚を頼りに霧の中を歩き出すと、そんなに歩かずに目的の物を見つける。
正面の崖の上で、小躍りしながら猪肉を食べているシナギー達。
その崖下に、岩肌に下半身と両手を取り込まれ、胸から上だけ露出した仲間のボンザ。
囚われたボンザは、ここから出せと、肉を食わせろと、シナギー達を許さないと叫びわめいているが、当のシナギー達は尻を叩くどころか腹までぺちぺち叩きながら、上手そうに猪肉を頬張り、ボンザに向かって囃し立てる。
その光景を見たヴォミンは、怒り狂った。
貴様ら許さんぞ、ボンザを放せ、朝飯に喰ってやる!と叫びながら突進する。
巨人語なのでシナギー達には伝わっていないが・・・・・・
そして、ヴォミンは傾斜のついた地面を駆け下り、崖下についたらよじ登って奴らを喰ってやると思った矢先に、足下の感覚を失った。
次の瞬間、ヴォミンは見た事もない景色の大空の只中を落ちていく。
地上に叩きつけられるまでなんだか理解できないままのヴォミンであった。
ヴォミンの叫びに、巨人達の前衛集団はようやく目覚め、漂ってきた香りにも釣られて前の方へ足を運ぶ。その過程で、寝ているように思えた仲間が毒殺されていたり、崖下に仲間が埋められていたり、朝食にしようとしていたシナギー達が猪肉でバーベキューを崖上でしている事が判るにつれ、巨人の集団は怒りに火がつき、シナギー達に殺到しようとした。
やがて、オルフェル達の攻撃に恐れを成した巨人達も、後方から駆け込んでくるが、その時にはもう、集団暴走の様相と化しており、傾斜のついた下り坂と前方の異常に足を止めようとする巨人が居ても、後ろから押されるか、崖上に潜んだシナギーの精霊砲によって足下を撃ち抜かれ、結果、巨人の集団はひたすらに前へ前へと進んでいく。
試作型土捨て棒によって底なし沼に偽装された泥沼は、テオストラでレドが土砂を投棄した時と同様に、ひたすらに巨人達を呑み込み、異世界に放り出し続けるのであった。
ラナート平原上空、シュナイエン帝国魔導艇タービュランス。
上空に待機したまま一晩を過ごした乗組員達は、起床して一日の活動を開始したところで、奇妙な現象に戸惑った。
自分達の直下、ナギス村周辺一面に低い雲が垂れ込め、地上の様子が全く見られないのだ。
乗組員達は観測機器や魔法を色々と使い調べていくが、8月のこの時期にこの辺りだけが雲が立ちこめる事に、天候読みの知識で判断しても理由が分からない。
乗組員達が、今日はこれからどうするのかと話し合っていると、ロウゼルが甲板に姿を現す。
「甲板のD区画魔方陣を起動させろ!」
ロウゼルの指示により、彼が立っている足下、甲板を四分割にした内の一区画が発光し、紫色の線で輝く魔方陣が浮かび上がる。
ロウゼルはその魔方陣の中央に立ち、想念系LV7「遠隔視」の魔法を唱える。タービュランスに仕掛けられた魔方陣は、魔法の有効範囲と威力を拡大する能力を仕込んでおり、同時に最大4人の魔法使いが広範囲かつ強力な魔法が使えるようにしてあるのだ。
ロウゼルはその機能を利用し地上の情報を得ようとしたが、遠隔視で丘陵地帯を見てもそこに見えるのは、何かに怯えているように見える巨人達やその死体、あとは深い霧だけであった。この時、オルフェル達にとっては運が良く、エルジオボウや精霊砲の光跡は見られていない。
ロウゼルはこの状況の理由を思案し、一つの可能性に辿り着いた。シナギー族は精霊に愛される種族であり、精霊導師も時折輩出していると聞く。これはおそらく、精霊導師が起こした霧なのではないかと。
「せっかくの見物なのに、この霧は無粋だな。ふむ、タービュランスの試験も兼ねてやってみるか」
ロウゼルは魔方陣の機能を利用して、タービュランスの右舷、おそらく直下はラナート平原水田と思われるあたりに魔法有効射程を最大限に設定する。
そこへ、威力も最大に設定した炎系魔法LV12「炎の竜巻」の呪文を唱え始めた。
火竜の翼膜を触媒に起動単語を唱え、触媒から得られる魔力元素を元にした起動魔力が右手に宿る。
その魔力で空に魔力印を描き、月の魔力界と自身をつなぐ門を構築し、身体に純粋な魔力元素を引き込むと、呪文と制御装置である魔力印により、魔力元素の形態を整える。
ロウゼルは「炎の竜巻」の呪文発言を唱えた。
「ぐぅっ!ハァッ・・・・・・」
次の瞬間、強烈な痛みと共に吐血するロウゼル。
その身体が崩れ落ち、辛うじて膝を付いて身体を支える。
呪文発言と共に魔力元素が体内を駆け抜け、魔法効果が発動する。
この際に、ささくれに引っかかるかのように、体内の自分の魔力元素が消失するのだが、タービュランスの魔方陣を利用して範囲と威力を拡大した結果、杖代わりである魔導艇本体の消耗軽減をしても、強烈な反動が襲ってきたのだ。
試験段階では何度も魔法使いによって実験されていたものではあるが、ロウゼルという稀代の魔導師によってさらにLV12という最大規模の魔法を増幅したために、試験段階の想定を超え肉体にまで影響の出る反動が生じてしまったのである。しかも、その魔法作用は操作から外れて位置も威力も想定外に暴走したものであった。
「閣下!」
甲板へザカエラが駆け寄り、ロウゼルに肩を貸して支えようとすると、ロウゼルはザカエラに苦しげに言葉を紡ぐ。
「船を早く東方・・・・・・遠くへ、退避させろ。このままでは・・・・・・巻き込まれるっ」
ザカエラが言われたとおりの退避指示を甲板で叫ぶと、その音声を拾い上げた艦橋では慌てて舵を切り、タービュランスを東進させた。甲板からロウゼルを支えながら船内に戻る際に後ろを振り返えったザカエラには、タービュランス遙か後方で巨大な竜巻が発生し、下界に立ちこめた雲が渦を巻いている状況が見えたのであった。
ナギス村を守る。その意思が亡きクルナフのものと同一であることはアイズしかしらない。しかし、クルナフの駆るアイゼン・エルジオレッドの部品によって作られたラナクル号が、同じ意思を持つ者達によって操船されているという事に、アイズは運命を感じえずにいられない。
アイズが立案した作戦は、今のところ順調に進んでいるようであった。気になるのはシフォンとオルフェル二人の体力具合だけか。
そう思っていた矢先に、アイズは巨大な魔力反応を感知した。
ラナクル号の右前方側に巨大な炎の竜巻が発生したのである。
炎の竜巻は、渦巻くように白い霧を巻き込み吸い寄せ、太く、勢いよく成長していく。その過程で霧によって炎事態は消えるものの、圧倒的な上昇気流を伴う極太の竜巻を形成し、平原下方の霧を掻き集めて視界が見えるように変え始めた。未だ上空には雲が渦巻いているが、いずれは霧が消失するのは時間の問題である。
「ハッハーッ!こいつはマズイぞ、目隠しの霧が全部晴れてしまう。それにこのままでは!」
船縁に必死にしがみつくアイズ。目隠しの霧が消えるのも痛いが、懸念していたのはもっと別のこと。
巨大な竜巻が動いて、ナギス村に向かってしまわないかということだ。
実際に、アイズの見てる前で竜巻は少しずつ動き始めていた。
「ミーナ、シフォン!風の精霊を使って精霊導師同士で連絡を取れ!逆回転の竜巻をつくってぶつけるのだ!あれが大きすぎると村まで被害が出る!」
アイズの言葉に、ミーナもシフォンも精霊達に伝言をお願いすると、暫くして情報が行き渡ったようである。
草小舟に乗った精霊導師達の中には、帆を畳んでも流されるため田んぼに飛び込んだ者もいたようであった。それぞれで連携し、風の精霊による逆巻きの風を生み始める。そうしている間にも、ロウゼルの生み出した竜巻は丘陵地帯を範囲に捕らえ始め、巨人達の生者も死者も巻き込み始めるのであった。
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さて、年末に活動報告でも上げていましたが、ルイン・ブリンガーズの全体改訂がようやく終わりました。
また、それに伴いまして抜き出した旧第一部を、前日譚として別途投稿しています。ほぼセルフリメイク状態です。
「借金確定の武器無しソードマスター ~ルイン・ブリンガーズ前日譚~」
http://ncode.syosetu.com/n5867cl/
まず、行間や台詞回しを全面的に修正しました。実は、以前は作者自ら読んでて眠くなりそうな部分があり・・・・・・orz
一年ぶりに改めて手掛け、少しは自分がマシになったかもと実感があります。
また、さらには挿入エピソードの大幅加筆、導入も終わりも前面改修して以前とは違った、なおかつ本筋は押さえた形式に。今まで隠していた話も新たに加わっており、また、本編とは独立して読める一本としてあります。
旧第一部をお読み頂いた方も是非、こちらにをご覧下さい。




