047 大いなるモノ
2015/12/27
修正を行っています。
「ミーナとシフォンとオルフェルだね。初めまして。ボクはイーズ・ラナフィット。大地母神ミラナースの神官戦士で、ここには神託を受けて来たんだ」
そこに現れたのは、ミーナ達の知らない人物である。声だけのみならず、その外観も男女の区別がつかず中性的だ。伏し目がちな細長の切れ上がった目をした流麗な顔立ちで、長い黒髪を左側で束ね胸元まで垂らした美しい人物であった。
静かな佇まいすらも本人の性別を不詳にしており、茶色地に青い意匠の法衣を身につけ、左腰には直剣が下げられており、さらに左手には分厚い書物が抱えられている。
どこかで聞いた名前だとミーナは思ったがその答えはシフォンが出した。
「あれよ!ラナエストで私が貴方達とあった時に暴風亭で宴会したじゃない。あの時にミスティが言ってた!確か心を読む人」
「あー!ミスティが散々『イケスカナイ、イカガワシイ』って愚痴ってた!心を覗き込む変態さんだ!」
ミーナの指摘にイーズが初めて豊かな表情を見せた。書物を両腕で胸元に抱え込んで衝撃を受けた表情をしている。心が読めるとは言っても、今のように咄嗟に浮かんだ感情を豪速でぶつけられては流石にイーズも心の準備は出来ないのだ。
「ボ、ボクは変態じゃないっ!そ、そうか、ミスティは人の事をそんな風に言っていたのか・・・・・・今度会ったら意地悪してやらないと気が済まないなっ」
少しむくれたような表情は女性的に見えるイーズ。オルフェルは、本当にこの人物の性別はどちらなんだろうかと不思議に思ってしまう。
「それで、神託の“大いなるモノの目覚め”に立ち会うってのはどういうことなんだ?見たところ、俺達より先に村長に会っていたようだが?何か希望があるのか?」
オルフェルの疑問に、アルリーノが説明をしてくれた。
イーズは神託により、ミーナ達より幾分早く着いて、アルリーノに巨人襲来の情報を伝えていたのだそうだ。だが、にわかには信じがたく、かと言って大地母神の神官が嘘をつくとも思えず、どう判断したものかと思案しているところへ、ミーナ達がやって来たのだと言う。
「大いなるモノ、と言うのに私は心当たりがあるのだよ。しかし、それはシナギーの中でも秘密に当たるモノでなぁ。おいそれと他人に教えられるモノではないんだ」
「何それ!村長!シナギーに秘密だなんて“鍵の掛かった宝箱”よ!?知りたくってワクワクするじゃないの!話してよ!減るもんじゃないし!」
ミーナがシナギーの本能丸出しでアルリーノに迫り、タジタジとなるアルリーノ。
「村長、そこに解決策があるのなら躊躇うときではないと思うぞ」
「大丈夫。ミラナースの神託もあるんだ。決して悪いようにはならないと思うよ」
オルフェルとイーズの説得に、アルリーノはうむむ、と唸りつつも覚悟を決めた。
「判った!みんなついてきてくれ、これから案内する!」
アルリーノはミーナ達を引き連れ、目的の場所へ向かう事にしたのであった。
ラナート平原の大空の中、甲板に立つと太陽が近く感じる。地上から見ると薄曇りな空は、甲板から見下ろすと薄衣を平原に被せており、東の丘陵に巨人族の行軍がしみのように見える。
雲の上のため、周囲は蒼穹だ。日差しは暖かく、しかし風は冷たい。上空がこんなにも気温が低いとは。
室内派で物事を考えるザカエラでも、やはり外に出ないと判らないことがある。この魔導艇の甲板は、風よけの魔法で保護すべきであったのだろう。ザカエラがそう思案していると、甲板への扉が開いて美しくも逞しい若者が近づいてきた。金髪を風になびかせた美貌と風格のある体躯の20代の男こそ、実は齢50を超えるザカエラの上司にして、帝国軍魔導将軍ロウゼルである。
「高みから地上を見下ろすというのは気分が良いだろう」
にこやかに話しかけるロウゼルにザカエラは畏まる。
「滅相もございません。高所に居ると肝が冷えるばかりです。やはり人には格に相応しい居場所があるものと思いますよ」
「君の場合はそれが書物庫だと?」
はい、と答えるザカエラを見てロウゼルは快活に笑い飛ばした。
ザカエラ達の乗る魔導艇は3日前に完成し、ロウゼルによって「タービュランス」と名付けられた。試作魔導艇1号タービュランス。この実働データを元に正式1号艇として皇帝専用魔導艇、2号艇の戦略級魔導艦、以降量産型魔導艇を開発する予定となっている。
本来であれば最初のこの船に皇帝ライアス7世直々に命名してもらう予定であったのだが、試作品に名付けて万が一の事があっても困ると言うことで、試作1号艇の命名権はロウゼルに与えられたのであった。
タービュランスは通常3ヶ月掛かるシュナイエン帝国からラナエスト王国までの道のりを、たったの2日で飛び越し、3日目の今日はラナート平原上空から各地の偵察や周辺地形を読み取った地図作成を行っている。地上からは鳥のシルエットにしか見えないよう幻影魔法も巧く機能しているようだ。
今後の予定としては、ザカエラがマーキングを残した旧鉱山へ行き、探査魔法が機能するかどうか、特にその感知範囲を確認し魔法が使えモノになるよう仕上げなければならない。その上で、ラナート平原を中心に古代文明の痕跡を探して回るところまでが予定されている。
今回の戦争にラナエスト王国が持ちこたえるようであれば、南方のルモンズからシュナイエン帝国までの物流空路の構築や、武闘祭へのライアス7世の飛び入り鑑賞と魔導艇のお披露目など、ロウゼルの脳内には楽しめそうな企てがまだまだ列を成して順番を待っているのであった。
アルリーノに連れられたミーナ達は、村の中央付近から南東へ伸びる芝生道を歩いていた。オルフェルはその道に見え覚えがあることに気付く。
「ここ、旧鉱山へ向かう道じゃないか?」
「そうだよ~、この先を右手に折れて進むと、前に通った道だね」
ミーナの答えに、今回はそっちではないとアルリーノが言う。やがて、道筋は右への曲がりが本道のようになっているところへ着いたが、アルリーノはそこから左の道に入った。その先は村背後の丘陵に真っ直ぐに芝生の坂道が続いている。
「なんだ、クルナフ神社じゃない。大いなるモノって・・・・・・まさか、クルナフ様!?」
「そうではない。アレは、クルナフ様御自身ではないと言っておった」
『アレってなんだよ・・・・・・』
シナギー2人の会話に、何者かが居るのは間違いないのか、とオルフェルは訝しがった。
それからの、アルリーノによるクルナフ神社の説明によると。
クルナフ神社と言うのは、ナギス村に昔からある祠をそのまま取り込んで作られた神社と言われており、シナギー族の守り神“クルナフ様”が奉られていると言う。
世間一般に知られている神々や自然界を構成する精霊神などとは違い、他の地方では何処でもクルナフ様は知られていない。神話伝承を色々探しても、クルナフ様に関する逸話は知られていないのだが、ナギス村にだけ伝えられている内容は、その昔、シナギー達とナギス村を天変地異から守った神様で、精霊の守護を与える存在であると言うことだ。
そのため、ナギス村の村長は代々、神主としてクルナフ神社を奉っており、毎年8月に例大祭として、納涼と収穫前の時期の士気高揚として祭りが開かれるのだそうだ。
また、クルナフ信仰が続いている理由として、毎年、例大祭にお参りするシナギーの若者達から数人、精霊導師に目覚める者達が居るという事実がある。
「精霊の声が聞こえるようになるらしいんだけどね、若いのはみんな旅に出ちゃうから、村に残っていた精霊導師はヤエニア婆だけだったんだよね・・・・・・」
「その言い方だと自分は若くない言い方だな?」
そんなツッコミ要らないわ!とミーナがオルフェルとやり合う中、シフォンは芝生の坂道が滑りやすく、なんで階段にしないんだろうと疑問に思いながらも坂道を登りきる。
鬱蒼と茂る木立の中、古びた木造の質素な作りの建築物がある。屋根板は緑に塗られており、観音開きの格子戸が正面に据えられていた。正面の庇からは燈色と紫色の縄をより合わせたものが垂れており、一番下に大きな鈴がぶら下がっていた。この鈴を鳴らしてお詣りするのであろう。
「昔からあるって事は生命樹の材木か?」
オルフェルの指摘にアルリーノが頷く。
アルリーノが鍵を取り出して格子戸を開けると、中にはおよそ3マトル四方に板の間が広がり、奥には深い赤色をした何かが置かれていた。大小の曲線を描く壺状のモノが組み合わさっている。その背後には、左右に4本づつの馬上槍をもっと太くしたような柱状のモノが下から上まで立っており、特に内側の2本は太い。見た目の質感はつや消しの金属か、もしくは陶器のように感じられる。
イーズの目にはそれが、赤い巨大な壺が、上部の左右、下部の左右にお椀をひっくり返したかのようなモノを取り付けた置物のように見える。各所の椀状のモノは燭台にも良さそうに見える。正面には黄色い布が掛けられており、その裏は壺の側面が欠けているのだろうか、布は壺の曲線を描かずに真っ直ぐ垂れていた。
なんだかさっぱり判らない代物に見えるし、自分の特質でもある相手の心を読む力、これにも何も反応しない。大いなるモノが何であれ、生き物ならば眠っている状態でも何か反応がありそうなのだが・・・・・・
「これじゃあ無いよねぇ。大いなるモノはどこだい?」
問いかけた瞬間に、アルリーノの心の内がイーズに伝わり、イーズは驚く。
『ふふ、これなんだよ。流石にミラナースの神官戦士でも判らなかったか』
「一体、どういうことだい!?」
イーズに、“エンジントリガー”という言葉が伝わった。アルリーノはそれを取り出して、この置物に差し込むようだ。
イーズは最早、問いかけをせずに成り行きを見守る事に決めた。一方、オルフェルは、赤い物体を見たときに既視感に襲われる。
何か、見覚えがあるのだ。これは・・・・・・あの布の掛かった場所は、本来は方形盾のようなものが付いていたのでは無いか?4カ所の椀状の部分からは、人工の腕や足が伸びていたのでは?これは・・・・・・
オルフェルの脳裏に一つの言葉が浮かぶ。
「解放騎士?オルフェル、君はこれを知っているのか?」
イーズの問いにオルフェルは酷く驚く。
「心を読む、と言うのは本当なんだな。そこまで判るとは」
「読むのではなくて、勝手に伝わって来ちゃうのさ。心を閉ざせばそうでもないが、それも生きるには辛くてね」
自嘲した表情のイーズに気の毒に思ってしまうが、まずはその問いに答えることにする。おそらく、口にする前に伝わるのであろうが。
「正確にはこれに似たモノを知っている。そして、これがもしその思ったモノであれば、確かに巨人達を払い除ける事は出来るかも知れない」
同様に事情を知るミーナも、期待に満ちて赤い置物とアルリーノを見つめる。
アルリーノは懐から大事そうに包みを取り出し、それを開いて歪な形状をした黄色い金属の棒を取り出した。黄色い布を払って中の空洞に入り、それを所定の場所に差し込む。例年とは違う時期にこれを行う事によって、これから目覚めるモノはどのような反応をするのだろうか。不安と期待に掌が汗ばむのを感じながら、アルリーノはエンジントリガーを隙間に差し入れた。
“エンジントリガー接続、バッテリー残量20%、マナバッテリー起動開始・・・・・・成功。周囲の魔力吸収を開始します”
“マテリアルマナ確認・・・・・・含有量微少、吸収開始。ノーマルコントロール、各部チェック開始”
“マナバッテリー循環力場起動中。マナバッテリー残量60%、安定貯留継続中。各部チェック完了。頭部、椀部、脚部全損。前面防護消失中、背後武装異常なし。機体稼働不可。玄室内のみ正常。ラナート特級要塞原子時計セシウムクロック受信。現在時刻・・・惑星セフィニア解放暦3057年8月7日16時02分30秒、起動予定日に無し。異常起動と確認”
“生体チェック・・・・・・シナギー族アルリーノと確認。他、シナギー1、エルフ2、ヒューム1、ソウルチェック・・・・・・問題なし。インターフェイス、魔導ブレインNo.IX、コミュニケーション開始”
アルリーノが身体を突っ込んでいる暗がりのあちこちが小さな、青や緑、赤等の細長い光が点灯し始めた。
「ハッハー!久しぶりだな、アルリーノ。我はアイズ。クルナフ様の使いなり」
言葉とは裏腹に、感情のこもらない無機質な言葉が発せられた。そのギャップに、アルリーノ以外は思わず口があんぐり開いてしまった。
「お久しぶりです。アイズ殿」
「例大祭とは時期が違うようである。何故、今我を起こしたのだ?」
アルリーノは巨人族が攻めてくること、大地母神ミラナースの神託があった事を説明した。
アイズ、と名乗った魔導ブレインは索敵機能を拡張する。
「確かに巨人族を確認。その数4837体。その他、悪魔族1体も居る模様。また、高度上空に魔導艇1隻確認」
悪魔!?魔導艇!?そこまで正確にわかるものなのか!?
オルフェル達が告げられた情報に驚愕と混乱に見舞われると、アイズは淡々と補足説明を始めた。曰く、自らは戦術用魔導コンピューターであり敵の計測が役割の一つであること、悪魔族は巨人族との構成比率上、指導者もしくは助言者として敵集団の中で重要な地位にあると推測されること、魔導艇とは空を飛ぶ船であり3千年前には珍しくなかったが、近年では失われていた技術のはずであること、等だ。
「やはり、解放騎士なのか?クァーツェ・スノーシルバーと魔導ブレインNo.X、クアンについては知っているか?」
オルフェルの問いに、アイズは驚く。魔導ブレインは元々感情機能も備えているのだ。あえて、これまでは感情機能を止めていたのだが。
ソウルチェック内容を、オルフェルの言葉を元に再検索を掛ける。それによって確認出来た事実。
アイズは目覚めの時である事を決断した。
“魔導ブレインをサポートユニットへ移動。サポートユニットコア生成。マテリアルは背後主砲二門と背後装甲板を使用”
アイズの宿る赤い置物、いや、解放騎士の残骸は、淡い燐光に包まれて、さらにはその一部を一行の目の前に切り離す。
光が収まると、そこには。
一羽の大鷹が姿を現し、感情豊かに高らかに名乗りをあげた。
「ハッハー!我が名はアイズ!解放騎士No.IX、アイゼン・エルジオレッドの魔導ブレインにして、亡き主、クルエスト・ナフラヴァントの相棒なり!」
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なぜか、アイズは某外国人のイメージなのです。
高らかに笑ってるのは鷹だから・・・・・・という理由はありません。偶然なのです。姿が鷹なのも実は私は指定していません。
たまに、主張してくるキャラがいるのです・・・・・・喜ばしい事だとは思います。




