05 魔法学院の決闘
シャティル達がラナエスト国王エスフォート30世からの依頼を受けテオストラ露天鉱床へ向かう事を決めた日の翌日の事。
ラナエスト魔法学院の正面に、二人の男女が立っていた。
身長5アルムス半程の背丈で細身、短髪黒髪の若い優男、イアンと、男より頭半分ほど背が高く、スラリとした姿勢の良い銀色長髪の冷ややかなまなざしを持つ美人女性、スフィだ。
二人の目の前には、天辺に泥棒返しの尖った支柱が沢山並んでいる高さ2マトルの鉄柵がしまっており、泥棒返しには様々な色の布きれが刺さったまま、風に旗めいている。
「なあ・・・あの布きれ何?」
イアンがスフィに聞く。
「あれはその昔、魔法学院に恨みを持つ魔術師が賢者の塔から身を投げてな、あの鉄柵に刺さって絶命したのだ。その魔術師が絶命の間際、魔法学院に呪いを掛けた。遺体は降ろされたが、あの布きれだけがなぜか取れなくて、常に風にはためいているのだ」
『なんか、どっかで聞いたことある話だ!』と思いつつも、気になったのは別のこと。
「中には赤とか黄色とか緑とか、ずいぶんカラフルな布があるが。そもそも枚数多すぎじゃね?」
「同じように飛び降りた奴が沢山いたんだよ」
「いや!それ絶対嘘だろ!どんだけ自殺者居るんだよ!」
スフィはイアンをじっと見つめて・・・・・・悔しそうな顔をする。
「チッ・・・やはり騙されなかったか」
「当たり前だ!で、本当のところは?」
「風系統Lv2「風刃」の魔法の触媒は、“風にたなびく物”なんだ。そのためここの学生が、半年以上ああやって、風雨に曝しているのさ」
「ほほ~!流石は魔法学院!」
「とにかく、入るぞ」
スフィはそう言って前に進み出た。しかし、簡単には入らせてもらえなかった。門の両脇に立つ守護騎士が門とスフィの前に立ちふさがったのだ。
「許可無き者を当学院に入れるわけには行きません」
「まだ破門になっていなければ、ラナエスト魔法学院Lv12魔導師スフィ・ウルスランだ。ウォルスに面会に来た」
ガーディアンは「しばしお待ちを」と言って動きを止める。
1分ほどして、再びガーディアンが話し出す。
「・・・スフィ・ウルスラン様、確認しました。ウォルス学院長がお会いになるそうです。どうぞ」
ガーディアンは正門脇の通用門にスフィ達を案内したが、スフィはそれを断り、正門を手で開けようとして手を掛ける。鉄柵が虹色に輝き、門がゆっくりと開いていった。
一方、学院では鐘楼の鐘が門が開くのに合わせ、ガランガランと鳴り響く。
門の奥には石畳が真っ直ぐ続いており、その両脇の石灯籠にはガーゴイル像が飾ってあったが、今や侵入者対策としてそれらが動きだし、スフィ目掛けて向かってきた。
「おい、スフィ、どうなってるんだ?!」
イアンが驚いて尋ねると、スフィはニヤリと笑みを浮かべた。
「正門をこじ開けると、学院は侵入者対策を取るのさ。侵入者の魔力を感知し、力量を計るのだ」
「なんでそんな敵対行動取るんだよ!許可もらったんじゃねぇのか!」
「私を覚えている者がほとんどおらんからな。この力、見せつけねばなるまい!」
スフィがそう言って右手をかざすと、そこから氷の暴風が吹き出し、ガーゴイル達は直撃して飛ばされ、氷漬けにされてしまった。
学院内はにわかに慌ただしくなり、玄関から何人かの人が飛び出してくる。その中でも黒衣を来て顔色の悪そうな、薄い髪の毛が激しく散らかった男が応戦してきた。
「ラナエスト魔法学院に喧嘩を売ってくるとは、身の程をわきまえろ!」
イアンはこの時は知る由もなかったが、男は学院の導師ロキスン。腕は良いが尊大な性格で生徒の評判はあまり良くない。レディアネスに嫉妬し毛嫌いしている男であった。
ロキスンは油と針葉樹の樹皮を懐から取り出し、炎系Lv7「炎陣走破」の呪文を唱え出す。
正直、イアンはその呪文詠唱がトロいと思った。さっさと詠唱中断させて、事態の収拾を図ろうかと思った矢先、
「イアン、私の見せ場だ。止めるなよ!」
ああ・・・・・・スフィが珍しく戦闘に酔い始め、イアンは頭を押さえた。
ロキスンが呪文発現を唱えて「炎陣走破」が発動する。通常は四方へ伸びる炎の壁なのだが、今回は二手に分かれてスフィとイアンを襲ってくる。
イアンもスフィも、問題無い。何もせずに、そのまま受け止めた。
二人の目の前で、炎の壁が打ち消される。スフィは、耐火能力をしっかりと鍛えてある。イアンは魔法が効かない体質だ。
ロキスンが目を見開いて驚愕している間に、スフィが左手を大きく払った。見えざる竜の尾が標的を薙ぎ払うイメージ。ロキスンは全く理解出来ないまま、衝撃を受けて後方へ吹き飛ばされる。
そのまま正面玄関にぶつかると周囲の者達が思った時、玄関に出てきたのは暗緑色のローブを着たレディアネス・クレイドだった。
レドは新開発の杖に仕込んだ機能を発揮させる。呪文発現一つで効果が発現するよう調整されたその杖で、「念動」、「分子結合強度」、「浮遊移動」、「透明化」、「明かり」、「大波」、「斥力壁」と7つの呪文が触媒と魔印誓言により仕込まれている、その名も“冒険の杖”。この杖で、想念系Lv8「念動」を発動させ、ロキスンを空中で受け止めて地面に降ろした。
毛嫌いしているレドに助けられたと知ったロキスンは礼を言うでもなく、代わりに八つ当たりした。
「来るのが遅いぞ!レド導師!」
「申し訳ありません、ロキスン導師」
レドは口だけでそう言うと、あとはロキスンに構わずそのまま前に進み出る。
「ウォルス学院長から、あなた方の戦闘を止めて大人しく連れてくるよう言われましたが、無益な戦いはもうやめて頂けますか?」
「若い者には知らぬ者も多かろうから挨拶がわりに門を開けたのよ。Lv12魔道士スフィ・ウルスランだ。最近の魔法学院は程度が堕ちたのか?誰ぞ歯ごたえのある者はおらんか?」
周囲の者達は一気にざわめいた。何しろ、Lv12魔道士とは、魔法学院基準でLv12の魔法まで修めていると言うことだ。ちなみに、ロキスンはLv7,レドはLv8,ウォルスがLv13である。学院の中ではLv10の導師が他に一人いるだけだ。
「それでは、私がお相手しましょう」
レドはそういうと、次の瞬間、スフィとイアンの足下がぽっかり穴を開ける。土系Lv3「穴掘り」。レドが履くブーツに仕込んだ魔印誓言により、無詠唱で足下の土を触媒に発動したのだ。
スフィとイアンは魔法が発動仕切る前に咄嗟にジャンプしていた。恐るべし反応速度だ、とレドが感心するが、そればかりではない。空中にいる二人にはわずかな隙がある。レドは続けて杖に仕込んだ水系Lv8「大波」の効果を発生させた。
レドから前方に向かって高さ2マトルの大波が出現し、二人に襲い掛かる。スフィとイアンは空中でバランスを崩し、先の魔法で空いた穴に溜まった水に着水した。
続いてレドは、これまた冒険の杖の機能で闇系Lv4「斥力壁」を発動させ、着水している二人の頭上に水平に壁を展開、水から上がろうとしても斥力壁が押さえつける状況を作り出した。
スフィは何度か水面に顔を出したが、その都度斥力壁によって沈められている。
一方、イアンは水面に全く顔を出さない。
お灸が効きすぎたかと思い、レドは降参を呼びかけることにした。
「どうですか?これでもう戦闘を止めて頂けますか?」
二拍ほど間を置いて、落とし穴とは別の場所の地面が吹き飛び、そこからスフィが飛び出した。
「なかなかやりおるのう。お主、名は?」
「レディアネス・クレイド。若輩ですがLv8魔導師でウォルス学院長の孫です」
「ほほう!ウォルスの孫か!それであれだけ戦えるのか!」
「いえ・・・自分の力に祖父は関係ありませんよ」
苦笑しつつ説明するレドに、微妙な自尊心を感じたスフィはウォルスと関連付けて会話をするのはやめようと思った。その時。
イアンが、落ちた穴から斥力壁をぶちぬいて飛び出し、近くに着地した。
「馬鹿な!あれを破っただと!?」
レドが驚愕する。イアンはそれを意に介さず、レドとスフィに近づきながら言った。
「スフィ!後先考えねぇでアホな事するんじゃねぇよ!それから、あんた、中々やるなあ!」
レドに向けたのは素直な賞賛の表情。
「なんで斥力壁が破れるんだ!?」
「ああ、俺、特異体質なんだ。おかげで回復魔法も受け付けないけど」
そう言ってイアンは右手を差し出した。
「イアン・ミナガワだ。よろしくな。馬鹿な連れが迷惑掛けた」
「レディアネス・クレイド、通称レドだ。よろしく」
そう言って握手するレドは驚愕した表情のままだった。
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