040 飛竜が降る村
2015/12/27
修正を行っています。
ラナート平原に戦乱を起こすべく、シュナイエン帝国の魔導将軍ロウゼルによって召喚された使い魔達。そのうちの1匹ランサルムは、同じく召喚されたダイグリルと共にフルアーチ盆地で飛竜を手に入れ、ウォーヒルズで人狼とトロールを手懐けて平原西側を戦果に巻き込む準備を完了させた。
ランサルムはそのうち、飛竜20頭と、人狼達から募った乗り手20人を引き連れて丘陵沿いに北上する。
目的地はラナート平原北方のブルフォス村だ。
城塞都市と違い、辺境の村であることから、戦力は多くは必要としないとランサルム達は考えた。一方で、西方からは距離があるため、移動時間を考えると機動力が必要である。そのため、30頭の飛竜のうち20頭がランサルムの戦力となり、さらには乗り手として人狼達まで用意したのだが。
夜のうちに飛び進み、真夜中にはブルフォス村の西方100ケリー程にある広大な湿地帯に降り立った飛竜と人狼達に休息を与えたランサルムは、自身は休まずに上空へ飛び上がった。
眼下には周囲を警戒して円状に位置を取り休んでいる飛竜。
その中央には人化を解いて寄り添うように身を寄せて休む20匹の人狼達。
ランサルムはニヤリと笑うと、呪文を唱え始めた。
「彼の者達の生命を元に門よ開け!邪竜神ロドンよ、我、供物を捧げたり!我に汝が配下の竜の使い手達を貸し与えたまえ!」
元々は高貴な神竜でありながら、神々に叛意し魔界に堕ちたと言われる邪神竜ロドン。神魔法とは真逆な邪神魔法は、契約に基づき魔神達に請い願う事により効果を発揮する。
ランサルムの呪文により眼下の人狼達が急に苦しみ出し、人狼達が苦しみに喘ぎ空を仰げば、そこには自分達を率いてきた悪魔ランサルムの見下ろす姿が。流石にこの悪魔が何かをしたのだとは思うものの、最早人狼達に抗う術はなく、倒れ伏してゆく。そして・・・・・・
人狼達の身体が青白く光り出し、体表が黒く硬質化し始める。滑らかさとはほど遠い、黒曜石を荒く削ったかのような無骨で鋭利な体表が鎧となり、右手から伸び出した骨が、黒く染まり槍の形状を成してゆく。
変異が収束しムクリと起き上がった者達は、禍々しい漆黒の鎧と槍を装備し、兜の奥に闇に赤い目だけが浮かんで見える姿をしていた。その名は。
「魔竜兵達よ、よくぞ来てくれた。まずは現世の身体を慣らしてくれ。その後、飛竜達と組んで動き方を試しつつこの湿地帯で狩りだ。日が昇り朝食後に出発する。目的地はここから100ケリーほど東のブルフォス村だ。村を殲滅後、東西の亜人軍と時期を合わせて南下し王都を叩く。」
ランサルムの声に、魔竜兵と呼ばれた者達は槍を掲げて応え、各々身体を動かし始めるのであった。
ブルフォス村の中央広場―
吟遊詩人のラサヤと踊り子のリンネの演奏披露により、広場には次第に人が集まり始めていた。冒険者はもちろんのこと、ブルフォス村在住の老若男女が音や噂を聞きつけて集まってきているようだ。
ギルビーも既に観客の最前列に陣取り、腰を下ろして他の皆と一緒に手拍子をしながら歌と踊りを喜んでいる。ミスティはラサヤの歌はともかく、リンネの扇情的な踊りを毛嫌いしていたが、スフィに促されて実際に見ていると同性でありながら魅入ってしまい、それまでの色眼鏡で見ていた自分を酷く恥ずかしく思い始めていた。
そんなミスティの心の内を知ってか知らずか、スフィが話しかけてきた。
「歌に魔力が込められる仕組みを知っているか?」
「いえ、判りません。芸術の神ウルシュナーと契約をしているとか?」
「いや、ウルシュナーが魔力を与えるのはむしろ踊り子の方だな。歌い手の魔力は、本人の只の精神魔力なのだ」
「それじゃ、誰でも同じ事が出来てしまうのでは?」
「騎士魔法と似た原理だな。精神魔力は心で操作できる。心が込められた歌は、音の波動といっしょに精神魔力も空間を伝わるのだ。それが、聞き手の精神魔力に作用して内面に影響を与える」
「と言うことは、ゴーレムとか精神構造の違う怪物には効かないのでしょうか?」
「そうなるな。しかし、魔力のこもった歌の凄いところは同族の聞く者ほとんどに良い影響を与えるというところだ。そして、この原理をもっと突き詰めていくと・・・・・・単なる言葉が魔力を放つようになる。これを言霊と言う。お主ら神職の使う神聖魔法の呪文は、言霊によって神々に声が届くのさ」
「そんな説は初めて聞きました。あくまでも私達は信徒として神がお認めになったから神聖魔法が使えると思っているのですが」
スフィの説明にミスティは納得がいかなかった。ミスティ達のような司祭や僧侶達は、特段、神と契約する儀式はしたことがない。日頃の祈りや神職の勤めによって神に認められているからこそ神聖魔法が使えるようになったと思っているのだ。
しかし、これまで不思議に思っていた事として、神聖魔法の使える者と使えない者との差が明確ではなく、教会に居た時にも何故信徒によってその辺が違うのか、疑問に思った事はある。
ミスティがその事をスフィに訪ねると。
「それがそのまま言霊説の根拠だな。日頃の勤めは心を神に向ける行為であるから、言霊を使うにしても個人差があるのだ。だから、優秀な神職ほど、思い込みが激しかったり意思が強い傾向にある」
「だとしたら、それは良い事ですよね?」
ミスティは特に疑問を抱かず当然の事として返したが。
「逆だよ。例えば、強欲な意思が強かったり精神魔力の操作に慣れたものであれば、信心深くなくとも神聖魔法が使えてしまうのだ。神々が制限を掛けない限り、な」
「そんなっ!?」
「現に、言霊だけで相手を操作する催眠術師も居るし、魔法使いの魔法の中にも、言霊によって神々から援助してもらう魔法があるのだ。高位魔法使いにとってはこの件は常識だ」
ミスティにとってそれは衝撃的な言葉であった。それこそ、魔力が込められているのではないかと訝しむくらいに。
「私は別にお前の常識を壊すつもりではないぞ。神職として上位を目指すなら覚えておくことだと言っているのだ。言霊が強くなればそれだけ神聖魔法も強くなるし、同じ精神魔力の操作であれば、信心の強い方がなお良いだろう」
「ああ・・・・・・確かに」
そのスフィの言葉でミスティは漸く落ち着くことが出来た。
「精神魔力の操作については騎士魔法に通じるものでもあるから、騎士魔法を習うのも良いかも知れんな。実際、それを上手く活用したのが武闘僧侶だ。ヴァルフィン神殿のブラームスが良い例か」
ミスティは筋肉がついていく自分の体を想像して何となく嫌な気になったが、一方で二の腕や腹部を弛ませたくない気持ちもあり。なんとはなしに踊り続けるリンネを見やる。
「そういえば・・・・・・ウルシュナー神が踊り子に魔力を与えるとか、さっき言ってましたね?」
「踊り子は一心不乱状態になると騎士魔法に似た状態となり、身体に魔力を帯びる。その状態で身体の動かし方により魔文字を体現するのだ。そういった点では剣聖の技術と一緒だな。神の力を下ろす分、歌よりも与える影響は強い。現にもう影響が出始めている」
広場ではリンネに触発されたのか一緒に踊り出す若者が出始めていた。子供達は元気に騒ぎ走りだし、老人達は元気に笑い、働き盛りの大工が気合いを入れて仕事に向かう。ミスティも自分の身体に活力があふれてくるのを感じていた。昨日の旅の疲れや日頃からある肩こりが取れたような。
「みんなが元気になっている?」
「そうだな。軽い程度ではあるが、身体を活性化させているようだ」
辺りを見渡すミスティには笑顔の人々が居た。なんだか色々と難しい話をされたが、とどのつまり、歌と踊りを純粋に楽しんで皆が元気に幸せな気分になれる、それだけで良いような気がして、リンネの扇情的な踊りや男性達のいかがわしく思える視線はもう気にならなくなったミスティであった。
ブルフォス村在住のミターギは御年63歳。元は腕利きの狩人であったが、寄る年波には勝てず老眼が進み、引退して後身の指導をしている。
今日は広場で吟遊詩人と踊り子が演奏と踊りを披露しているというのを聞き、広場に足を運んで芝生に腰を下ろして楽しんでいたところであった。歌も踊りも非常に素晴らしく、身体も若さを取り戻したかのように軽く感じ、上機嫌で踊り子が持ち運び始めた寄附袋に銀貨二枚を入れたところで、ミターギは村の西方の青空に何か黒い染みのようなものを見つけた。
最初はますます目が悪くなったかと思ったが、不思議と今日はいつもより遠くまで目が見える。染みが、目が悪いことに因る病気などではなく、遠方に浮かぶ鳥のたぐいだと気がつく間にも、青空に浮かぶ染みはだんだんと数を増し、やがてその数は10を超えて見えた。
この時期に編隊を組む渡り鳥は居ないはずと思ったが、次第に違和感を増してゆくミターギ。
遠近感が違うのだ。あれくらいの距離で見えるにしては大きい。つまり、鳥よりもずっと大きな生物だ。あれは・・・・・・
「飛竜じゃとっ!?」
ミターギの叫びに周りが釣られ、西方の空に目を向ける。やがて、人々の戸惑いが驚愕に変わり始め、より近づいてきた飛竜の背に漆黒の乗り手がいることが見え始めた時点で、広場の人々は逃げるために駆け始める。飛竜が正門付近へ急降下し炎を吐き始めるに至って、広場には悲鳴が響き渡り人々は四散して逃げ始めた。
悪魔ランサルムが指揮する飛竜軍は渡り鳥のように中央を突出させた斜め横列に編隊を組んで飛行し、ブルフォス村を視野に入れると急降下滑降して家々の高さまで近づき、炎の息を吐きながら村上空を舐めるように進み始めた。
高温の炎の息とはいえ、飛びながら吐きかける分には家々がすぐ燃えるわけではない。しかし、外苑部には動物達を入れる厩舎が多く、積み重ねたわらや、作りの簡単な厩舎は燃え上がり始める。飛竜達は所構わず炎を吐き続けるが、魔竜兵達が広場を逃げ惑う人々に気がつくとその指揮の下、飛竜は直接人々を焼き払うべく広場に向かい始めた。
「むうっ、金具がさび付いて開かんわいっ!ちょっと待っておれ、ワシの荷物にさび取り油がある」
ギルビーが広場にある二基の対竜塔の内の一基の下で、荷物袋を漁り始めた。冒険者ギルドの職員が対竜塔を起動させようと駆けつけてそれをギルビーも手伝い始めたのだが、スフィの危惧していた事が現実となっていたのである。反対側の塔にも同様にギルド職員が張り付いているが、やはり扉が開かず苦心しているようだ。
一方、ミスティとラサヤ、リンネは人々を誘導して村の北側へ向かっていた。村そのものが襲撃されるならば、村の外側で遮蔽物のある山麓側へ行くしかない。村近郊であれば壁の外であってもまだ手に負えないようなモンスターは出ないであろうことを期待し、とにかく今は老人や女子供を非難させるしかなかった。街路は逃げる者、逆に戦いに向かう男衆や冒険者も交えてごった返すが、冒険者が多いのが幸いか、逃げる者を優先にミスティ達は導かれた。
ミスティ達が逃げる中、村の北側にある対竜塔がガタガタと音を鳴らして上部を旋回し始めた。比較的手入れされており、なおかつ近くに冒険者が居たのであろう。塔の上部から、槍ほどの大きさの炎の矢、もはや炎槍と言っていいであろう、それが一番近い飛竜目がけて撃ち出される。
不意打ちを食らった飛竜は片翼が撃ち抜かれて燃えだし、飛行不能となって武器屋に落下した。派手な激突音と金属の崩れる音をまき散らした飛竜は、落下の衝撃で店内にあった剣や槍が身体に突き刺さり死に体で暴れ始め、一方落下の衝撃で投げ飛ばされた魔竜兵は男衆や冒険者達に囲まれる。
若い冒険者の一団が指揮を執り始めた。
「こいつは俺達が押さえます。他の皆は長い武器で飛竜に止めを!」
冒険者のリーダーらしき若い男が両手剣で魔竜兵に打ちかかり、魔竜兵が槍で受け止める隙に仲間が周囲から斬りかかる。一方、飛竜本体はと言うと・・・・・・
「てめぇ!良くも村に火ィ付けてくれたなっ!」
「武器屋に落ちるとは良い度胸だ!ここの武器で切り刻んでくれるっ!」
「こらっ!うちの売り物で何勝手しやがるんだっ!・・・・・・まぁ、良い!その代わり後で買い取りだからなっ!」
「ええっ!それなら現物返すぜ!」
「御託はいいから、さっさとトドメさせっ!これ以上暴れられたら隣のウチが壊されっちまうよぉ!」
今ひとつ緊迫感が足りないのは既に飛竜が死に体だからだろうか。
一方、魔竜兵と戦う冒険者達は苦戦しつつも漸く倒すことが出来た。なにしろ、ある程度の傷はすぐ回復する特性を魔竜兵が持っており、最大の攻撃力を持つ戦士が槍を押さえるのに手一杯だったからだ。これは、魔竜兵の素体として再生力のある人狼が使われた事が理由であるが、無論、冒険者達は知るよしもない。魔竜兵は倒されると黒い炎を吹き上げて消えてしまい、後には禍々しい黒い槍だけが残された。
「これ、触って良い物かねぇ?」
「いかにも呪われそうだなぁ」
「直に触らないようにしてギルドに持って行こう。これだけの騒ぎだ。討伐証明があれば報酬がもらえるかも知れないしな」
冒険者達のリーダーがそういいながら、飛竜の方を見ると、武器屋とその周辺の親父達が、肉の分配がどうの、皮がどうの、牙がどうのと話し合いを始めているのであった。
一方、広場では。
ギルビー達がまだ対竜塔を動かせないで居る一方、スフィが広場中央に仁王立ちし、その冷酷ながらも美しい顔に珍しく怒りの表情を浮かべていた。
『私はあの時、奴と対話し初めて矮小なる人が愛おしい存在であることに気づいたのだ。それからは村を襲う事は止め、人になる手段を手に入れてからは、人に交わって生活してきた!この村には人々の日々の営みがあるのだ!』
それを乱すこの連中は一体どこの手の者なのだろうか?
スフィは大いに怒り、己に宿る膨大な竜の魔力を呼び起こした。
学問魔法の想念系Lv8「念動」だと普段は誤魔化している、竜魔法「見えざる竜の尾」を即座に発動し、近くを低空で向かってくる飛竜に手をかざして一撃で広場に叩き落とす。
竜魔法は氷帝竜としての自身の竜の魔力を使う為、詠唱は一切要らない。神々が直接魔法を行使するのと全く同じ原理なのだ。問題は人の姿の時には本来ほど多くの魔力を一度には使えないのだが。
スフィは続いて向かってくる2頭目と3頭目も同様に叩き落としたが、あまり竜魔法は乱発出来ない。叩き落とした飛竜もまだトドメを刺すにはほど遠く、しかも乗り手と思われる黒ずくめの兵士がこちらに向かってきた。
近くで見て、その正体にスフィも気がつく。邪竜神ロドン配下の魔竜兵であることに。
氷系Lv2「氷弾」を、本来ならば触媒として氷を使うところを自身の氷帝竜の魔力で代替えし、頭上に無数に浮かべて3体の魔竜兵に同時に放つ。そして被弾して出来た魔竜兵の隙に、今度は氷系Lv6「氷の槍」を唱えて、一体を地面に串刺しにしたが、氷弾が与えた傷が塞がりつつあることにスフィは気づいた。
「再生持ちかっ!やっかいな者を贄にしたようだな・・・・・・全く、こんな時に前衛役のあの馬鹿はどこに行ったのだっ!イアンめっ!」
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