038 それぞれの戦い
2015/12/27
修正を行っています。
「中々の腕前だが今宵は我らの力が最大になる夜ぞ。我らの再生力を甘く見るな」
狼頭人身のうちの1匹がニヤリと笑う。
シャティルはそれに応えて自らもニヤリと笑った。
「俺のルイン・ブリンガーも甘く見るなよ?」
太刀を水平に構えると、シャティルの意思に呼応して刀身から火炎がゆらりと立ち上る。そして次には灼熱の炎刃が伸び上がりその長さは1マトルを超えて、右方にいる人狼をブスリと突き刺した。
絶叫が上がり、人狼の上半身が炎に包まれる。最初に話しかけた人狼が明らかに狼狽した表情で脂汗を垂らすが、次の瞬間には胴体を上下に分断され炎に包まれる。
それだけではない。瞬速の1回転によって、周囲の人狼達は二重にも渡って両断されて火柱となった。
単なる進路上の障害物を蹴散らすつもりであった人狼達は、シャティルの脅威度を見誤った事に気がつき、じりじりと後ずさり始める。シャティルが踏み込んで前方の人狼達に襲いかかると、それ以外の人狼達は我先に周囲に逃げ始めた。
逃げつつも本来の目的を果たそうと、ある程度一塊に西門や北門を目指す人狼達であったが、いずれも前方に敵が立ちふさがる。
「ここから先には通さんよ」
路地裏を抜け出そうとした人狼達の前には、かがり火に照り返る赤い鎧。シュナイエン帝国騎士、アンジュ・ソリュウトが盾と剣を構え、人狼の首を切り払い、さらにあろう事か、まだ宙に舞う首を長剣で突き刺した。
「私の剣速から逃げられると思うなよ!」
剣を振ってかがり火の中にソレを放り込む事によって、人狼の再生力に対処するアンジュ。
襲い来る人狼の攻撃を盾で防ぐと、やはり人狼が麻痺したかのように挙動がおかしくなる。その隙を逃さず次々と首を刎ねてかがり火に放り込んでいくが、日中と違い首を失った人狼達の身体はまだ倒れず襲いかかってくる。
「炎を出せるのは剣匠だけではないのだよ」
アンジュが騎士魔法を発動させると、身体を青白い燐光が包み、そのうち右の小手が燐光を吸って赤く輝き出す。その赤光は右手の剣に纏わり付き炎を上げた。
「余剰魔力を炎熱の魔力へと変換する騎士鎧なのだよ。喰らいたまえ!」
騎士魔法を併用したアンジュの剣は赤い剣閃を夜闇に描き、人狼の身体を細切れにして燃え上がらせた。
「手の内は早々見せるモノではないのだよ。無論・・・・・・目撃者は消え去るのみ」
赤光、炎、血飛沫・・・・・・アキネルの街頭に赤い花が咲く。
「デュランダル、樹剣光刃」
トリスが宝剣デュランダルに命じると細い光の刃が樹形に連なり、さながら大木のような太さとなった。それを狭い通路で振るうだけで、人狼達は避けようもなく細切れにされてゆく。
しかし、しぶとくも蠢く肉片を見て、トリスは左手に剣を持ち替えると右手で眼帯をずらした。
本来右眼のあるはずのそこにはあるのは、何かの宝石だ。その宝石の中心が輝きだし宝石を黄色に染め始める。色からするとトパーズなのだろうか。
トリスは、右眼に見える、この世に平行した精霊界の中に視線を彷徨わせ、目的の存在を見つけると右手で手招きする。
精霊の中では低位ではあるが、ゆらりと燃える火の玉が世界の壁を越えてこの世に出現し、人狼達の肉片を焼き始めた。
「闇狩人のネイガだ。一族の使命、果たさせて貰う」
全身を被う、各部に防具の施された紺色の衣服に蜂のような仮面の戦装束“ジョルトゥー”に身を包みんだネイガは、両手に昼間にはなかった金属プレート付きの手袋を装備していた。
「満月だからな。こちらも奥の手だ、陽炎拳!」
ネイガが繰り出す圧倒的な物理力でも、満月の再生力はいつもなら絶命させるはずの人狼の肉片を滅しきれない。しかし、陽炎拳は火と聖の属性を持ち、人狼の再生力に効果的なのだ。
ネイガの前で、人狼達は砕かれると同時に焼かれ、かつ浄化されていった。
アキネルに侵入した飛竜は全部で10頭と言うことをアルティ達は知らない。
しかし、アキネル上空を飛ぶ光の翼は夜間には目立ち、戦い飛び続けるうちに寄ってくる飛竜は7頭から数が増えず、残りの飛竜は全て向かってきたものとアルティは判断した。そのうち4頭まで切り倒しており、残りは3頭。
飛竜の突進を回避し、背中に回り込んでその背に降り立ち、光翼から光の羽を飛ばして翼皮膜に穴を開ける。失速して墜落しながら自由の効かなくなった飛竜の首に剣を振り落として1頭倒すと、墜落する飛竜の背から飛び立とうとするアルティ目掛けて、別の1頭が仲間もろとも火炎の息を吹きかけてくる。
それを飛び立って回避し、息の裏側を遡りながら飛竜の顎の裏まで接近すると、アルティは剣を下から振り上げて首を斬り刎ねた。
「これだけ連続で飛竜と戦うのは初めてだ。おかげで倒し方のコツを覚えられたよ」
残り1頭となった飛竜に向かって不敵に呟いたアルティは、飛竜に斬りかかろうとしたが。
「誰だっ!?」
魔力の矢が飛んできた事を察知し咄嗟に回避行動を取るアルティ。
「飛竜共が空で遊んでるから何かと思えば、面白い。空を飛ぶ人間とはな。俺はダイグリル。お前達の言うところの悪魔だ」
墨色の男の裸体に皮膜の羽を付け、頭部ははげ上がり二本の角を生やした存在が宙に浮いていたのである。
「お前が黒幕か?」
「そうだと言ったらどうする?」
にやけながら言うダイグリル。
「なぜ、こんなことをする?」
「この世で生きる者達にはどんどん死んで欲しいんだよ。出来るだけ絶望を感じて死んで欲しいのさ。そう言った魂を魔界に連れ帰るのが我々の目的だな」
「ふざけた事をっ!」
アルティは猛然とダイグリルに飛びかかったが、ダイグリルは素早くアルティの背後に回り込み右手の掌をアルティに向ける。大量の蜘蛛の糸が噴出しアルティの四肢を拘束するが、アルティは墜落することなく飛び続け、身体の自由を奪う蜘蛛の糸を光翼で破り裂いた。
「ふむ、その翼は羽ばたかずとも身体を浮かべるのか。魔力による浮遊だな。では次はこれでどうだ?」
ダイグリルは左の掌をかざして火球を連続で4発射出する。
直接アルティを狙わず、あえて周辺に散らした火球はアルティの周囲で爆発した。
咄嗟に光翼と騎士魔法で防御するアルティ。
爆風と熱に耐えダメージはほとんど受けなかったが、アルティが顔を上げてダイグリルを見ると悪魔は一目散に逃げ出していた。
「逃がすかっ!」
光翼を展開し追跡しようとしたアルティに、残っていた飛竜が襲い来る。噛みつきを交わし数回切りつけて仕留めた頃には、ダイグリルの姿はもう見えなくなっていた。
「くっ、逃がしてしまうとは!」
悔しいが悪魔の情報を司令部に伝達しなければと、アルティは太守府へ向かうことにした。
太守府を出たバルフィードは猫を連れたレティシアと偶然出会い、そのまま2人で行動を取っていた。人狼や飛竜の討伐に向かうつもりではあったのだが、どうやらシャティル達の活躍で太守府前のフォラスまでたどり着く敵も居らず、それならばと西側の城壁に上がって敵軍の様子を見に来たのである。
トロールを中心とする集団が地響きを立てて進軍し、そろそろ城壁に近づき始めたところで魔法や弓矢により迎撃を受ける。しかし、元々トロールは巨人族としては身体が小さめであるが、人間から見ると充分に大きく耐久力も高い。そこに再生能力が加わると、多少の攻撃は効果がなくなってしまうのであった。人狼と違い常に再生能力が高いのも曲者である。城壁の存在が無ければアキネル軍は非常に苦戦していたことであろう。
「夜戦を凌いで明け方に打って出、その際にモニカが考えた作戦実行といきたいところだが」
「作戦ってどんなのですか?」
バルフィードはレティシアにモニカが考えた作戦を説明した。外部に掘を作って水を貯める訳だがその為には外に出ないとならない。流石に視界の悪い夜戦で大群が居る中に出るのは危険があるため、夜明けを待ちたいのだ。
そんな説明をしているバルフィードも、ダイグリルがアルティから逃げ出し、夜陰に紛れ高度を取って上空を飛んでいった事には流石に気づくことは出来なかった。
ダイグリルはアルティという、空を飛ぶ騎士の存在には流石に驚いていた。何しろ、10頭居れば充分だと思った飛竜がことごとくやられてしまったのだ。敵は魔法耐久力も高く、1対1では勝つ事が難しそうであったために、早々に逃げの手を打ったのである。
『こんなことならランサルムに20頭も預けるのではなかったか。とはいえ、北は飛竜主体で攻める事になっているし、乗り手を用意しなかった事については俺が甘く見ていたな』
飛竜を失い、人狼の奇襲も敵軍に特に変化が見られないことから失敗と判断したダイグリルは、次の手を使う事にした。
城壁に攻め始めている自軍上空まで戻ったダイグリルは、呪文を唱え始める。
悪魔であるダイグリルの魔法は魔界から力を引き出す魔法である。大地の魔獣神ドスレトに願いを請う呪文を唱えたダイグリルの視線の先で、城壁前の大地がズズズッとせり上がり、なだらかな傾斜の幅10マトルにも及ぶ坂道が形成される。
城壁の価値を無効にする魔術により、トロール達が直接城壁上に雪崩れ込み始めたのであった。
王都ラナエストとブルフォス村を結ぶ馬車便はおよそ8時間の道程である。
吟遊詩人のラサヤの巧みな話術と歌や演奏に楽しませてもらいながら、踊り子のリンネ、ギルビー、ミスティ、イアン、スフィーの6人が乗る馬車は漸く、ブルフォス村が見える辺りまでたどり着いた。
ラナート平原の辺境とでも言える北の外れ、天険ウルスラント山脈の麓にあるブルフォス村は、獣よけの板塀を周囲に張り巡らし、街道を飲み込むかのように村門が道の終点部に構えられている。板塀に遮られて村の中は見えないが、村の各所に板塀を遙かに超えてそびえ立つ塔が見える。
「あの塔は何ですか?教会の塔にしては数が多いですが?」
ミスティの質問に、スフィが答える。
「あれはな、竜避けさ」
「竜避け?」
「その昔、天険ウルスラントから氷帝竜スフィルが度々やってくるものだから、竜に対抗するためにあれらは作られたのさ。竜と戦うための大型の武器を色々と仕込んであるらしい」
「その割には周りは板塀なのね。あんなので竜の攻撃を防げるの?」
ラサヤの質問にはイアンが答えた。
「竜相手には、石造りの壁も気休めにしかならないさ。板塀は主に狼や熊、猪避けだな。竜に対してはあれらの塔のみで対処するらしい」
「普段は誰が管理しているんじゃ?」
「冒険者ギルドが管理しているよ」
ギルビーとイアン会話しているうちに村門が近づいて来た。
村門には衛兵が見張りとして立っている。旅馬車はなんども行き来するため、衛兵とは顔なじみとなっていたが、乗客の顔は一通り見せることとなっていた。
「おっ!イアンじゃないか。もう帰ってきたのか?」
「ちげーよ!こっちに用事ある知り合いが居たので案内で来たんだ!」
「無駄口を叩いてないでさっさと中に通さぬか」
スフィの冷たい口調に、衛兵の顔に冷や汗が流れる。
「相変わらずの毒舌ですな、スフィさん・・・・・・」
スフィに冷たく射すくめられた衛兵を後に村に入った一行は、イアンとスフィの進めにより、まずは冒険者ギルドに行き宿泊の手配をすることにした。
スフィの住まいは山の中腹にある山荘のため、イアンもスフィもブルフォス村に居る間は冒険者ギルドに泊まっていたのだ。
それぞれが手続きを済ませて食堂に集まる中、イアンがギルドの職員と世間話をする。
「最近こっちはどうだい?変わりないかい?」
「イアン、それがさ、聞いてくれよ。最近山から地鳴りとも違う音が不規則に響いてくるんだ。冒険者に調べに行って貰ってるんだが原因がさっぱり判らない」
ラナエストに出立前にスフィが感じていた山の異変が、今や一般の住人達にも感知されるまで進行しているのであった。
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前書きで謝罪しといて何ですが、所用により約2週間執筆が出来ず、次回投稿は10月10日頃になると思います。しばらくお待ちください。




