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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
40/73

034 アキネルへの突貫

2015/12/27

修正を行っています。

避難民でごった返すアキネル市街の中で茶色のローブに身を包み三角帽子を被った女性魔術師が道具屋を探していた。モニカである。

避難民や籠城準備をしている兵士達に邪険にされつつも道具屋を教えてもらいモニカはやっと目的の店についた。


「いらっしゃいっ!」


店主が威勢良く迎えてくれたが・・・・・・


「あ、あのっ、ご主人は避難しないんですか?」


店構えがどう見ても避難するような状況ではないのだ。普通に色んな商品を展示している。しかも、道具屋でありながら新鮮なブドウやスイカまで・・・・・・


「ここって、道具屋ですよね?」


最初の質問の答えを待たずに思わず次の質問をしてしまうモニカ。


「正確には雑貨屋だなぁ。旬の時期には果物も売ってる。それと、客が居る以上は避難は出来ねぇなぁ」

「ご立派ですねぇ。私なんて逃げ出したいのに」

「逃げりゃあいいじゃねえか。さっきは格好つけたが、俺だって避難しねぇ理由は本当は違うんだ。仕入れ予定があって隊商がわざわざ来てくれることになってる。それを放り出しては逃げらんねぇな。商人が信用失っちゃあ駄目だからな」


 店主の言葉にモニカは顔が引きつった。

聞いてみるとやはり、待っている隊商はナドリスらしい。モニカは今朝までの事を話し、いずれナドリスが来ることを伝えると店主も喜んでくれた。


世間話に花が咲いたがモニカは本来の目的思い出し、いくつかの品物があるかどうかを確認を始めた。電気魚の干物はある。ウツボカズラの葉もある。しかし・・・・・・


「一番欲しい紅サンゴが、ナドリスさんが運んでくる荷物にあったなんて想定外でした」


 紅サンゴが届いた場合の買い取り予約を入れて、支払い方法については少し待ってもらい、とりあえず電気魚の干物のみを現金で購入。その後、モニカはナドリスが到着するまでの時間を有効にすべく、次の用事を済ませに一端移動するのであった。



 ナドリス・デヤニールがアキネル東門に到着したのは正午頃である。


元々、ナドリス達は西方の十二公国領の一つ、メセルティア自由都市から出発してきた。商人をしていた父が病気で急死したのが3年前、ナドリスが24歳の時である。それまでナドリスは冒険者をしていたのであるが、父の残した財産(負債も含む)を整理し従業員の解雇や閉店作業、住居の売却等を行い、ナドリスに残ったのは1台の荷馬車といくつかの品物のみであった。


 天涯孤独となったナドリスは、まずは残った商品を少しでも売ろうとメセルティアを出発、隣国デュラム王国に向かったのであるが、そこで出会ったのが馬車2台で旅をする12人の神官達であった。


 聞けば全員アイーシャ神の信徒であり、中には神魔法の使える神官級の者もいたが、シュナイエン帝国を脱出してきたとのこと。

 帝国ではアイーシャ教が正教であり教会数が多い。孤児院で育ちそのまま神官になるものも多いのだが、帝国の都市計画の一環で潰される教会もあり、そういった教会の所属者達は他へ移籍することも出来ずあぶれてしまうのだそうだ。


 ナドリスが出会った集団はそのような事情から当てもなく布教の旅に出たらしい。しかし、世間慣れしておらず初めての旅に難儀していたところに出会ったのであった。轍から抜け出せずにいた馬車の脱出を助け、冒険者流の野外技術を教えながら野営を一晩一緒にしたところ、慕われて共に行動をすることになり、期せずして隊商となってしまったのである。


 それからは女子集団の勢いのまま好きに移動しつつ、ついでに行商をする事に。

 しかしそれで商売が成り立ってしまうほど、ナドリス含めこの女子集団の売れ筋の品物に対する嗅覚が優れており、商業的には黒字を保ちつつ長旅を続けているのである。

 前回ラナエストに向かう前に立ち寄ったこのアキネルで、南方産の紅サンゴをラナエストから運ぶだけで利益が出るところに気づいたのも、その嗅覚のなせる技であった。



 アキネル東門に着いたナドリスは、神魔法を使える10人を馬車2台で義勇兵の招集所へ向かわせた。戦闘に参加は出来ずとも、後方支援で回復魔法が使える彼女らは充分に活躍できるだろう。ナドリス自身は商品を道具屋に卸した後は、都市内の物資輸送や炊き出しに協力出来るのではないかと考えている。とりあえず荷物を減らして身軽になるべく道具屋へ向かうと・・・・・・


「あら、モニカさん!」


 今朝、別れたばかりのモニカとの再会に驚くナドリス。


「お待ちしておりました、ナドリスさん。突然ですけど、積み荷の紅サンゴ、こちらのお店に全部卸してくださいな」

「紅サンゴ運んでること教えましたっけ?」

「いえ、店主さんが隊商待ちって言ってたのでタイミング的にナドリスさんだろうなって」


 なるほど、と納得しつつ、最初から紅サンゴは全てこの道具屋に卸すつもりだったので、ナドリスは店主と商談を決めて、品物を降ろそうとしたところで気がついた。モニカはなぜ“全部卸して”と言ったのだろうか?他のお店に卸す可能性もあったはずなのに。

 ナドリスがモニカに向き直ると、モニカが先に口を開いた。


「ナドリスさん、私、紅サンゴが欲しくてここのお店に来たので、入荷する分全部予約でお願いしたのですよ。そこで、ここからは私からの依頼です。積み荷を降ろさないでそのままお城まで運んでもらえませんか?」

「お城?まぁ、この後、後方支援協力に行こうかと思ってたので良いですけど、モニカさんは一体何をやってるんですか?」

「この戦争を早く終わらせる作戦があるので、それを。フォラス太守の協力も取り付けて来ましたので行きましょう」


 聞けば紅サンゴのお代も道具屋の店主には後でフォラス太守から支払われるらしい。

 アキネル城へ向かいながらナドリスは、モニカは一体何者なのだろうか?と思案するのであった。



 アキネルの城壁から西方を見ると、3ケリーほど離れた向こうにうっすらとうごめく線のようなものが見える。それが、ウォーヒルズから侵略してきたトロールや人狼、人熊達が連なる戦線であった。


「やつらはなぜ直ぐに攻めてこないんだろうな?」

「ライカンスロープ族は夜の方が力を発揮する。夜を待っているのかもな」


 アンジュの問いにシャティルが答えるが、さらにネイガが補足した。


「加えて、今夜は満月だぜ。奴らにしてみれば絶好調ってやつだ」

「とは言ってもそれだけではなかろう。奴らには指揮官が居るはずだ。戦力がそろうのを待っているのかもしれないし、こちらへの侵入工作をしてくる可能性もあるだろう」


 バルフィードが彼方を見据えながら言った。


「トロールや人狼達にそこまでの知恵があるかね?」


 アンジュが揶揄するが。


「トロールは知能は低いな。本能主体な奴らだ。でもライカンスロープは人間並に知能はあるぞ。むしろ、奴らは精神構造が独特なんだ。俺達が感じる悪どい事を奴らは正しいこと美しいことのように感じているんだ」

「さすが闇狩人ダークハンター。詳しいな」

「まぁ流石にうちの一族の生業だからな」

「で、ネイガはどうやって戦うんだ?」


 シャティルが興味津々に割り込んだ。


「その時まで秘密だ。まぁ、騎士魔法ナイトルーンを使うとだけ言っておこうか」


 シャティルは城壁の壁際に立ち上がって破顔しながら言った。


「じゃあ、今をその時にしようか!奴らに殴り込みに行こうぜ!」

「駄目でしょ!ちゃんと大人しくしてなさい!」


 思わず大声で突っ込んでしまったレティシアにナイス突っ込みだと笑うシャティル。周囲の男達はそんな二人の光景に微笑んでしまう。


『ううう、思わず突っ込みしちゃった。いつもはミーナとかレドがやってくれてるけど居ないからなぁ』

 

 今回シャティルと二人で行動してみて判った事が二つ。

一つはシャティルが結構ふざけることが多い事。もう一つは自分が結構突っ込みしがちな性格だった事であった。


『ミーナの気持ちが良くわかったよ・・・・・・』


 シャティルとふざけ合う事が出来ると言うことは、レティシアにとっては嬉しいことでもあるのだが、こういったやりとりはもっと、レティシア自身が強くなってシャティルと肩を並べて戦えるくらいになってからでも良いかとも思うのだ。それにしても、もしかしたら記憶を失う前の自分は結構きつい性格だったのであろうか?後でクアンに聞いてみようと思うレティシアであった。



「バルフィード殿!街道をこちらへ突破してこようとする一団が居ります!」


 遠方監視に当たっていた遠目の聞く弓兵が、報告してきた。

 城壁上に待機していたシャティル達の雰囲気が一瞬で凛としたものに変わる。


「旅人の一団が強行突破してアキネルへ逃げ込もうとしているのか?」

 ネイガの問いに、シャティルが一瞬だけ目を騎士魔法ナイトルーンで強化して遠方を見る。


「・・・・・・2頭立ての馬車が先頭だ。後方で戦ってる騎馬が2頭、追っ手のデカい狼どもを牽制しつつ後ろを守ってるな。影になって乗り手までは見えない。狼が集団でさらにその後方を走ってる」

「戦線を突破したのか!?相当な覚悟と腕に自信があるようだが、いずれ放ってはおけん!こういう時の為の俺達だ、救援に行くぞ!」

「作戦はどうする?おっちゃん?」


 バルフィードはシャティル達を見渡して言った。


「俺とシャティルが騎士魔法ナイトルーン使って救援に行く。門は開けといてくれ。内側の左右に重騎士で壁を、馬車が門潜った後に騎士達で塞いでくれ。アンジュ、ネイガ、レティシアは門の外側で待機。魔法使い達は俺達が戻ったら門を囲むように外側に土の壁を作ってくれ。壁内の残敵を5人で片付けたら撤収だ。弓兵と手の空いた魔法使いは援護だ。何か質問は?」

「救援が二人だけというのはなぜだ?」


 アンジュが問う。


「理由は二つだ。まだお前らの実力が把握できて居らん。それから、移動力と軽装が求められる」


 フン、とアンジュが腕組みをする。一応は納得せざるを得ないと言った顔だ。


「それじゃあ、作戦開始だ!おっと、その前に」


 バルフィードはシャティルを見据えていった。


「シャティル!お前、俺のことをおっちゃんと言うが俺はまだ32だからな!」

「「「「えっ!!」」」」


 その発言に周囲全員が驚き、その反応を見たバルフィードは無言で騎士魔法ナイトルーンを発動させて城壁から飛び降りた。


『いや~、てっきり40代後半だと思ってた。アハハハハ』

 騎士魔法ナイトルーンを発動させてバルフィードを追って飛び降りたシャティルは猛烈な勢いで走り出した。身体能力と騎士魔法ナイトルーンの技術の差か、あっというまに追いつくシャティル。城壁から二人を見送った者達はその速さに驚愕していた。


「見てないで城門組は降りましょう!」


 レティシアが周囲に促し、重騎士やアンジュ、ネイガ達は慌てて下り階段に向かった。



 バルフィードは向かってくる馬車が充分に視認できる程に近づいたところで足を止め、背中に背負った大剣を抜いた。突進からの急停止に砂煙が舞うが、それは瞬時にバルフィードの周囲に渦を巻き、前方へ剣撃の衝撃波として放たれる。


 バルフィードに並んで街道の反対側に止まったシャティルが見たのは、赤錆色の刃を垂直に構えたまま2回転して周囲の空気を巻き込み、遠心力を利用して振り下ろした剣筋から音速の衝撃波を放つ、騎士魔法ナイトルーンを使用した両手剣技“三旋暴風斬ドライ・テンペスト”だ。


 放たれた衝撃波は逃げ来る馬車の右側を走り抜け、追いすがる狼共を盛大に吹き飛ばす。


「次はお前だ!」

「おうよ!」


 バルフィードに答え、シャティルはルイン・ブリンガーを抜き放った。

 光の刃を伸ばすことも出来るが、ここは自分の技を示さねばなるまい。


 騎士魔法ナイトルーン状態のまま、中段青眼から右親指を下にして真下に下げた刀身を、手首で跳ね上げ上段から振り下ろすヴァンフォート流剣技“水断走波ウォルクレイブ


 真下から切り上げた初太刀と真上から振り下ろされた弐ノ太刀の衝撃波をぶつけて前方へ放たれた海をも断ち割る衝撃波は、バルフィードのそれよりも鋭く速く走り、馬車の左側の狼達を切り裂きながら肉片を吹き飛ばした。


 左右の敵が一時的に居なくなり、前方の馬車は速度を上げて、バルフィードとシャティルの間を走り抜ける。すれ違いざまに御者が目礼をするのを見送ると、続いて、馬車の後方に居た2頭の騎馬が見えた。


 バルフィード側の騎馬は二人乗りでバルフィードと同様に隻眼の若い戦士が手綱を握り、後ろには東洋系の神官のような装束の色白で黒髪の女性が掴まっている。

 そしてシャティル側の騎馬は白銀の鎧に身を包んだ立派な体格の騎士。短めな巻き毛の金髪でシャティルと視線が交錯すると、その目は驚きに見開かれた。


「そのまま行けっ!」


 シャティルは叫びざま、追っ手側に向き直る。


「バルフィードっ!先に戻ってくれ!一撃咬ましてから俺も行く!」

「すぐ来るんだぞっ!」


 バルフィードが身を翻して撤退するのと、シャティルがルイン・ブリンガーを一端鞘に収めるのはほぼ同時であった。


「へへへっ、嬉しいねぇ!やっとアイツが来やがった!」


 すれ違った騎士はレドと共に再会を誓っていた男、光翼騎士ウイングナイツを目指していたラーバスター・アルティレイオンだったのだ。


 にやけたシャティルは腰を低くして左腰の柄に右手を添えた。


『気合い入るぜぇっ!』


 前方からは大きな大人がそのまま四つん這いになった位の大きさの狼が6頭。そのうち先頭の2頭は飛びかかりながら頭はそのままで上半身が人間のものに変化し始め、前足は既に長い爪を持つ人間の手と化していたが。


 チンッ!


 鍔鳴りの次の瞬間、居合い切りによって扇状に横一文字の残撃が空を裂き、上下に両断された6頭の人狼。

 時が止まったかのような錯覚の呪縛が解け、慣性の法則のままシャティルを追い越して前方にすっ飛ぶ上半身と数歩歩いて転倒し臓物を放り出す下半身は、シャティルの技量の冴えを物語っていた。

 人狼の再生力は傷口の結合程度であり失った部位を生やす程ではない為、シャティルの一刀によってこの6頭は戦闘不能となったのであった。


 遠方からさらに狼の集団が向かってくることを確認し、城門前で迎え撃つべくシャティルは駆け出した。


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