04 国王からの依頼
2015/12/27
ナンバリングの変更。
前日譚を切り離したことによる捕捉修正。
今回のラナエスト武具品評会は、受賞者に例年、毎年300万コトスと年間につき武具2品の規定であったものを、毎年1000万、武具10品と規定が変えられた。
これを理由に、鍛冶ギルドの中でも大手商会と個人経営側との対立が発生しており、個人経営側では品評会不参加の話もあれば、個人経営主が集まって新たな協会を立ち上げる案も出ている。セキテツはこの新たな協会の長になるよう、周囲から懇願されているらしい。
シャティルの刀製作を依頼の際、最近の情勢と今後の相談をセキテツから受けたゴードは、ラナエスト王城へ行き国王エスフォート30世と話をしてきたのだそうだ。
「エスフォートとは昔からの知己でな、大森林からの帰還の挨拶のついでということで、邪魔の入らぬところで話が出来たのじゃ」
それによると、今回の規定改定案を出したのは開発担当大臣のカッツ・バルム。税をより効率的に使い、鍛冶産業の強化と交易収入の増加を見越した政策らしい。しかし、国王はこの政策の欠点を見抜いていたが、鍛冶ギルドからの反対も少なくその結果、否定しきれなかったそうだ。さらにセキテツの捕捉によると。
「鍛冶ギルドもな、五本指の大手3店、レナード、マイセン、トリントンのうち、賛成はトリントンのみじゃった。しかし、それ以外の大手、ビドーとラクサシャもトリントンと同意見でな・・・・・・新興勢力のビドーとラクサシャが新規定で問題無いと主張すれば、合併しない他の個人経営者が悪いと言われるのじゃ」
国王が考えていた欠点とは、技術開発よりも利益優先による武具の大量供給により、品質の低下、価値の下落、そして優秀な鍛冶師の流出の3点であった。
カッツ大臣は特にこの3点目が頭に無いようで、鍛冶師は必ずラナエストに集う者と思い込んでいるが、今回の新規定によって鍛冶師の流出は避けられず、いずれ他国が鍛冶技術においてラナエストを追い越してしまうであろうと国王は考えている。
「それなら何故大臣を止めないのだ?」
セキテツの疑問にゴードは答えた。
「参加者が少なければその時点で大臣を諭して、規定を元に戻す。または、そのまま実行されても品評の際に優秀な武具が揃わない、もしくは審査員の意見を元に諭す。そう考えていたらしい。大臣はともかく、鍛冶ギルドの改革派の目を覚まさせないと、今後もその火種はくすぶったままになるからのう」
「なるほど。それなら理解出来るわい」
「ところが、そうも言ってられない状況になってきおった」
ゴードは一息入れてから続けた。
「テオストラで異変が発生し、このタイミングの悪さに、一つの可能性が浮かんだのじゃ。もしかしたら、この一連の出来事は、ラナエストから鍛冶師を流出させて王国を弱体化させる狙いがあるのではないかとな」
「そこからは俺が説明しますよ」
レドが話し出した。それによると、レドも先日、シンガとエベラードから聞いた話で不信に思い、学院長のウォルスに相談したらしい。その結果、魔法学院として独自に調査を始めたのだそうだ。
「街の噂を拾ってみると、他国に行って鍛冶をやらないか、という話題が結構上がっている。特に、シュナイエン帝国で鉄の荷馬車を造っているので鍛冶師は引く手数多だ、という話が多いな。それと、カッツ大臣の屋敷も奥方がルモンズ方面へ旅行に行き、屋敷は大掃除したとか、商人への貸し付け金を前倒しで回収したとか・・・・・・」
「なにそれ。それってじゃあ・・・・・・」
ミーナの憤慨した表情が語っている。大臣は真っ黒ではないかと。
「ああ。シュナイエンの間者が裏で糸を引いている可能性がある。カッツ大臣は騙されたか王国を裏切ったのか・・・・・・ミスティ、シュナイエン帝国内の鍛冶師の事情は分かるか?」
「特に詳しくはありませんが・・・・・・でも、街に鍛冶師は居なくて、生活に必要な鍋や包丁など、売ったり修理したりしてくれる人がここ2年ほど居ないのです」
「それも変な話じゃのう」
ギルビーの相槌にミスティがさらに続けた。
「彫金師も居ませんよ。みんなどこかに集められているらしいです。仕事が終わるまで帰って来れないだとかで嘆いている奥さんとか居ましたから」
「それってやっぱり真っ黒じゃん」
「ダルスティンらの活動とも何か関係があるんだろうか」
ダルスティンとは、シャティル達が王都へ来る前に、旧鉱山で出会ったシュナイイエン帝国の調査隊のリーダーであった。
古代王国の遺物を探していた彼らは、ギルビーやミスティを無理矢理従わせて調査を行っていたのである。結果的に、彼らは遺物として巨人用の剣を持ち帰ったが、肝心の解放騎士とその中身であったレティシアやクアンには気付けなかったのは巡り合わせであろう。
それはまだ判らないと、レドがシャティルとギルビーの会話を一度区切ると、ゴードが再び話し出した。
「ウォルスからの情報もあって、大臣を諭すだけのつもりであったエスフォートも怒り出してのう・・・・・・早急にこの陰謀を叩きつぶす事に決めたのじゃ」
「エスフォートからの依頼はこうじゃ。『内密にテオストラ鉱床に行き、現在発生している異変を調査・解決のうえ、鉱石を入手してシャティルの刀を造れ。その際に、練習刀を納品せよ』というものじゃ」
「練習刀?それに刀を造ることが今回の件にどうつながるの?」
ミーナの疑問に、セキテツが答えた。
「読めたわい。練習刀ってのはな、本打ちの前に練習として撃つ一振りなんじゃ。余程の武器でなければ普段はそこまで行わん。練習刀と言っても普通の武器と遜色はないし同じ材料も使うからの。陛下は、それを元に、他の連中におそらくプレッシャーを掛けるんじゃろう。数は撃てても、これだけの物を造る事は可能か?とな。それを元に鍛冶ギルドを翻意させ、あとは大臣を裁くのではないかな?」
ゴードがそのとおりと頷く。
「それに加えて、ウォルス魔法学院長からの情報だ。テオストラで幽霊が出る騒ぎが2ヶ月前にあり、3人の鉱山夫が死んでいる。最初は騎士団も単なる殺人事件として捜査していたが、そのうち、騎士達も何人も行方不明になり始めた。そのうえ、鉱床の鉱石が翌日には消え去ったり腐食していたり、という事も起き始め、これは“コボルドの呪い”だなんて言われている。これがテオストラ閉鎖の理由だったのさ。」
「エスフォートはこの依頼について、シャティルとレドを中心に極秘に動けと言っておる。大臣のみならず、どこに他国の間者がいるやもしれん」
「そんな訳で、またみんなに手伝ってもらいたいのさ」
「国王陛下の依頼なら、シャティルの奢りで宴会コースが付くわけではないのね」
とミーナがレドに返す。
「でもでも、この依頼こなさないと、鉱石無くて武器造れないんですよね?」
「じゃあ、やっぱり宴会コース追加?」
ミスティの前振りにレティシアが悪ノリして返し。
「だああああ! いい加減にしろ! 報酬は陛下から出るんだからいいだろうが!」
切れだしたシャティルに慌てて冗談だと弁解するミーナ達。
「そうむくれるな、シャティル。今回は暫定ではあるが、武器を用意したぞ」
オルフェルはそう言い、部屋の奥から一振りの剣を持ってくると、セキテツ、シンガも物珍しそうに身を乗り出した。
「おおっ! これは?」
「クアンの意見を元に、レドが作成し、仕上げだけ俺とギルビーが触った剣だ」
その剣は、暗緑色の輝きをした、無骨な片手長剣だった。ただし、刃が無い。充分鋭い刃筋ではあるが、研いだ形跡がないのだ。
シャティルが持ってみると、普通の鋼の剣よりも若干重い感じだ。
「なんじゃ、これは鍛鉄ではなく鋳造品か?」
セキテツの指摘にレドが答えた。
「この合金はタングステンと名付けました。強度・硬度のみを追求した、ある意味ばかげた合金ですよ。」
「靱性がなければ折れるぞ?」
「ならば絶対に折れない強度と硬度を、と追求してるのでばかげた合金なのです。その結果として、この合金は鍛鉄できません。鋳型に入れて冷えて固まったが最後、まったく加工出来ない性質なのです。魔法ならなんとか元素加工と整形で細かく造形できますが」
「・・・・・・まさか、だから刃も研いでないのか?」
「ええ。重量と剣速で叩き切る。ただし、炎の魔力付与をこれから追加しようかと考えています」
「ふむ・・・・・・シャティル。テオストラから戻った際には、その剣の使い勝手を教えてくれ。それと、鉄鉱石採取も忘れずに頼むぞ」
セキテツの依頼にシャティルは了承した。
「シンガ、先ほどの通り、材料が来れば次に陛下の依頼をこなすのはお主じゃ。しっかり準備するのじゃぞ」
「師匠・・・・・・それじゃ、品評会参加して良いので?!」
「許可しよう。他の若い連中にも、協会のことは置いて精進するよう勧めねばなるまいな」
セキテツの言葉にシンガの顔に笑みが浮かぶ。今までは品評会への参加を許して貰えなかったのだ。品評会への参加は、自分の腕試しでもあるが、何よりもシンガの場合、上手くいけばセキテツの一人娘サニアとの結婚まで掛かっているのである。
「ラナエスト印の鍛冶高炉を消す訳にはいきませんよ、師匠」
「うむ。だが、これとサニアの件とは別じゃからの」
「ええっ!?」
「邪念を捨てねば良い刀は撃てんぞ」
そう言ってセキテツは豪快に笑い出し、シンガはがっかりするのであった。
「それで、恒例の」とオルフェル。
「その剣の“銘”はどうする?」とレド。
旧鉱山では仲間の杖や鉈を借りてその場で武器を造っていたため、最初の槍は「無理槍」と名付けられ、次の薙刀は「泣き鉈」と名付けられていたのだ。
はいっ!と手を挙げたミーナに、先手を打つシャティル。
「誰も泣いてないぞ!」
「いや、こんな鋳鉄だけで出来ちゃう剣なんて“鍛冶師泣かせの剣”じゃない」
「そのネタはもういいっての!」
「じゃあ、どうするの?」
シャティルは剣を手にとってその重さや色艶を確かめた。
「そうだな・・・・・・炎の重合剣とでも名付けようか」
こうして、シャティルは新たな武器を手に入れ、一行は再び冒険に出ることになったのである。
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