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異世界冒険戦記 ルイン・ブリンガーズ  作者: 都島 周
第二部 ラナート平原動乱編
39/73

033 アキネル開戦準備

2015/12/27

修正を行っています。

 野営明けて翌朝。

 アキネル~ラナエスト間の街道は東へ避難する荷馬車や避難民で混み合っている。そんな中を四騎の馬が逆送して西へ駆けていた。


「お尻痛い~~!ううう、早馬苦手なんですよぅ!」

「腰少し浮かせて、内股に力入れればいいよ!」

「内股の筋肉ないんですぅ!」


 泣き言を言っているのはナドリスの護衛をしていた魔術師のモニカ。励ましているのはレティシアである。二人は前を走るシャティルとバルフィードに遅れまいと必死であった。



 昨夜、野営を交代し女性陣が番をしていた明け方の事である。その頃にはモニカとレティシアも打ち解けて色々と会話をしていたのだが、街道を東へ進む馬車が連なって見えてきたため、何事かと話を聞くと、アキネルに西方からトロルや人狼達が押し寄せて戦争になるとのことで、東へ避難してきたのだそうだ。


 モニカがすぐさま、全員を起こそうと言い、隊商の構成員とナドリスやシャティル達を起こして説明すると、依頼主であるナドリスは即断したのであった。

「この状況では護衛はもう必要ないでしょう。依頼はここまでとします。あなたがたはアキネルへ急いでください」


 バルフィードとシャティルはすぐさま馬を用意し出発する準備を始めたが、モニカはレティシアにボソッとつぶやいた。


「これって・・・・・・戦争に義勇兵で参加しろって意味ですよね・・・・・・」

「う、うん。僕らは戦えるなら役に立てると思うけど」

「いや、何、当然のように言ってるんですか。私みたいに戦いが嫌いな人間もいるんですよ?でもこの状況って断れないじゃないですかぁ!」

「ま、まぁ、早掛けすれば半日掛からないし、アキネル着いてからどうするか決めれば良いんじゃないかな?元々護衛依頼(クエスト)の報酬もアキネルの冒険者ギルドでもらう予定だったのだし」

「そうなんですよねぇ・・・・・・この状況なのにやはり行くしかないんですよねぇ・・・・・・」


 トホホ~と変な嘆きをしつつ、モニカも結局馬に乗ったのであった。


 昨夜、レティシアがモニカから聞いた話によると、彼女は魔術師であるが、レドのようにラナエストの魔法学院で学んだわけではないらしい。身内に優れた魔術師が居てその人物を師として魔法を教えてもらっていたらしく、魔法学院で言うところのLv7相当の力はあるらしい。 

 師匠が就職して家を出たため、その後独学で勉強しながら、冒険者登録をして生活をしていたらしく歳は21際。レティシアの見たところ、どちらかというと自堕落なお姉さん、と言った感じであった。


 全員を起こすと決断した時とは随分とギャップがあり、ただ自堕落な人物とは思いたくないレティシアであったが。


「決めました!私、次はお尻の痛くない鞍の開発してみます!」


 どこかズレている憎めない女魔術師である。


 4騎の前方には、漸くアキネルの東門が見え始めており、バルフィードはまずは冒険者ギルドに行って馬の返却と依頼達成の報告をし、その上で義勇兵の招集所へ行くことをシャティルと話し合い、馬を進めた。



 一方、シャティル達が城塞都市アキネルの東門に向かっている頃、西門は外部から逃げ込んでくる旅人達と守衛騎士達でごった返していた。基本的には旅人をどんどん保護しなければならないのだが、敵がトロルと人狼であるため、万が一、人狼が人化して侵入した場合が困るのだ。


 アキネル騎士団は西門の上方に横棒を渡し、そこから目の細かい銀鎖をすだれのように垂らして、入場者がそれに触れるようにしていた。馬車の場合は、必ず全員降車させている。銀は人狼達の弱点であり、身体に触れると火ぶくれが生じるので、こうして判別に使っているのだ。

 城門の内側には騎士達が人狼が紛れていた場合に備えて隊列を組み、また、神官達が交代制で神魔法下位の「悪しき者の選別」を城門付近に掛け続けている。その結果、これまでは人狼も発見されず、代わりに何人かの犯罪者が見つかっている程度であった。


 そんな中、マントを背負い、荷物袋を左肩に担いだ軽装の男が一人、西門からアキネルに入った。

 ズボンは薄汚れた紺色で、上半身も特に鎧も着けていない。脛当てと籠手だけで武器は左腰に差した鉈が一本のみ。鈍色に光るバックルの腰のベルトだけがちょっと大きめに目立つ。30代に見える無精髭を生やした精悍な顔つきの男だ。


「参ったね・・・・・・結構間引いてたつもりなのに、あいつらこっちに戦争仕掛けるとは」


 独り言を言いながら男は街を歩き、義勇兵の招集所へ向かった。


「武闘祭を楽しむつもりだったけど、こりゃあ、一仕事するのが俺達一族の責任ってかぁ?」


 招集所で職業と名前等を聞かれた男は闇狩人ダークハンターのネイガと名乗った。



 ラナエストの武闘祭目当てでこの時期は西方からの旅人が非常に多い。アキネル騎士団を束ねる太守兼上級千人隊長フォラスは籠城策を考えていたが、それでも街道を来る旅人の保護のため、何度も強行出撃をする必要があると考えていた。そのためには、西門の安全な開閉が必要となる。開閉の度に門を守る必要があるため、そこに揃える戦力と何か戦術がないものかとフォラスは思案していた。


 そんな時である。伝令の兵が、義勇兵に名乗りを上げた者達の中に強者が居ると言うことでフォラスへ知らせてきた。この時期に実力者が来てくれるのは有難いし、相手の格によっては厚遇せねばなるまい。フォラスは彼らを執務室に案内するよう指示した。


 しばらくして室内に通されたのは―

 白いターバンを頭に纏い、日焼けした隻眼の、大剣を背負った男。

 銀髪の若い青年で、腰に太刀を提げた軽装の剣士。

 武器を持たず薄汚れた軽装だが精悍な顔つきの男

―の3人である。


 確かにそれぞれ風格を感じる者達であったが、何よりも目をひくのは、特徴的な風貌のターバンの戦士。予想どおりであれば、彼には部隊長を務めて欲しい位の人物だ。フォラスは3人に向き合い挨拶をした。


「この度の参戦に感謝する。私はアキネル太守兼上級千人隊長のフォラスだ」


 白ターバンの隻眼の戦士が口を開いた。


「アルハージアのバルフィードだ。偶々(たまたま)アキネルに来たのでな、参戦させてもらう」

「砂漠の獅子王殿が来てくれるとは何と言う僥倖!お会いできて光栄です」


 やはり彼は思ったとおりの人物であった。フォラスはバルフィードに握手を求め、手を握り合う。続いて挨拶をよこしたのは銀髪の青年。


「シャティル・ヴァンフォート。最近じゃ銀の剣匠なんて呼ばれてる。よろしく」

「テオストラ解放の!?噂は西方までも聞こえて居るよ。剣聖ゴード殿のお孫だとか。良く来てくれた!」


 最近話題の新たな剣聖候補、剣匠のシャティルの噂は市井の噂だけではなく、王国騎士団内部からも伝わってきているところだ。


「たまたまバルフィードのおっちゃんと護衛依頼受けてこっちに向かってたものでね」

 不遜に笑いながら握手してくる剣匠は、不思議と無礼にも嫌みが感じられない青年だった。そして。


「ネイガ・ゴルシャック。トルネスタンの闇狩人ダークハンターだ。ウォー・ヒルズの連中は俺の一族が定期的に間引いていたつもりなんだが、まさか今回、ここまで戦力を増やしているとは思わなかった。責任の一端は我が一族にもあるだろう。微力ながら手伝わせてくれ」

闇狩人ダークハンター!その戦闘術は極秘と聞いていたが、いいのか?!」

「まぁ、しょうがあるまいよ。見せても真似できるものでもないしなぁ」


 トルネスタンのウォー・ヒルズ地域内において、日頃からトロルや人狼達を狩りつつ古代遺跡の“阿時アンジ”を守る一族が闇狩人ダークハンターである。


 その戦闘術は無手であると言うこと以外謎の、しかしトルネスタン公国において重要な戦力とされている彼らは、ウォー・ヒルズ内において日頃、亜人達の間引きをしていることから、その度合いが足りなかったために今回の戦争が起こったとも言えなくもない。

 しかし、この頃には王都を介した魔法通信で、東方のハギスフォートにおいても巨人族が襲来してきているという情報が入っていた。アキネルとハギスフォート、東西が同時に戦争状態になるだなんて、偶然ではあり得ない。何者かが背後で策を弄している、と考えるのは自然な成り行きであろう。

 東西の連動した争乱を考慮すれば、闇狩人ダークハンターに責任を擦り付けて済むものとは違うのは明白だ。

 今回、ネイガが参戦してくれるだけでもラナエスト王国にとっては有難い。


 フォラスは早速、バルフィードに義勇兵からなる一個中隊18人の指揮権を与え、騎士の一人を補佐につけることにした。砂漠の獅子王の異名を取るバルフィードは、個人の武勇もさることながら、集団指揮能力に優れた名将であると有名なのだ。


 一方、シャティルとネイガについては、集団戦の経験は少ないため、そのままバルフィードの指揮下に入ってもらおうかと思ったのだが、西門の強行出撃の作戦を話した際に、それならば門の守備の方が闘いやすいとの提案があり、西門守備に着いてもらう事にした。

 西門守備は支援系の神官、城壁上からの弓兵、魔法使い、重武装の騎士達とシャティル達でなんとか目処が立ちそうである。


 一通り当面の作戦内容を確認し、それぞれが準備に各持ち場へ向かう事となった。



 レティシアはシャティルやバルフィードのように有名な訳ではないため、シャティルを待つ間にとりあえず義勇兵として登録したのであるが、そこでモニカとは別れることとなった。やはり、義勇兵として参加は出来ないというのだ。


「残念だけどしょうがないね。そこはそれぞれの考えが尊重されるべきだと思うから」

「意気地無しと思いでしょう、レティシア」


 モニカは申し訳なさそうな顔でレティシアに言ったが、誰もが強い訳ではないのだ。レティシアはモニカを責めるつもりはなかった。しかし、モニカが発した次の言葉に驚く羽目になる。


「残念ながら、今は(・・)まだ義勇兵として参加できません。私は戦闘が嫌いなので、少し準備をしてから参加することになると思います」


 そう話すモニカの目は、決して自堕落な風には見えない、強い意志が見える。それは、凶報を受けてナドリス達をすかさず起こそうとした時と同じ表情であった。


「なにか、考えがあるのね?」

「ええ。私にやれることがあるはずなんです。いずれ、また会いましょう。それまでご無事でいてくださいね」


 遠ざかっていくモニカの後ろ姿を見送り、レティシアがさて、シャティルはまだかと思考を切り替えた時である。


 視界に、深紅の鎧を着た騎士が入ってきた。

 つや消しの深紅の金属鎧に身を包み長剣と盾を装備した優男である。その盾にはどこかの国の紋章が描かれていた。


「お嬢さんも義勇兵かい?奇遇だなぁ?俺もたった今登録したところなんだ。どうだい?よかったら一緒に組まないかい?」


 気障ったらしい言い方にレティシアは虫酸が走った。前にもこんな事が・・・・・・ああ、ロンクーの剣匠レギンと一緒だ。このタイプは正直好きじゃない。


「連れが居るので結構です」

「あれぇ、そうなのかい?残念だなぁ。ああ、自己紹介だけさせてくれないか。俺はアンジュ・ソリュウト。シュナイエン帝国の騎士だ。武闘祭に参加するつもりできたんだが、その前にシュナイエン騎士の実力を披露出来そうなので、義勇兵として参加することにしたんだ」


 シュナイエン帝国の騎士と聞いて、レティシアは驚いた。これまで、レティシアは直接帝国と事を構えたことはない。ただし、シャティル達からはその因縁を散々聞いているし、自分の正体が帝国にばれたが最後、拉致されかねないと常々思っていた為、警戒すべき相手として認識してしまっている。レティシアの足下ではクアンも猫のフリをして毛を逆立てて威嚇していた。


「・・・・・・お嬢さん、シュナイエン騎士に何か憶えでも?」


 レティシアの警戒の仕方にアンジュはつい詮索してしまう。


「・・・・・・シュナイエン帝国ってこの辺から遠いでしょ。まさか会うと思ってなかったし、強いけど冷酷非道って噂を聞いてたから・・・・・・」


 もっともらしい嘘でレティシアは誤魔化すことにした。警戒から怯えへと心情を変化させて目を伏し目がちに感情を隠すと、アンジュは納得いったようだった。


「噂ってものは尾ひれがつくものだからねぇ!シュナイエン帝国騎士の強さとは正解だけど冷酷非道ってのは酷いなぁ、そんなことはないさ」

「勝手に怖がっちゃってごめんなさい。私はレティシア。冒険者よ」

「レティシア!良い名前だ!君に何かあったら俺が守りに駆けつけるとしよう!この戦争が終わったら一度食事をご一緒したいものだ!」


 正直、気障ったらしさがレギンと同質でレティシアは鳥肌が立ちそうだったのだが。そんな時、ようやく待ち人が来た。


「悪いがそのは俺の相棒なんでね。デートの誘いは俺を通してからにしてくれ」

「シャティル!」


 レティシアがシャティルを見て表情を明るくする。女性が目の前で他の男性に表情を良くするというのは、どの男性にとっても衝撃が多いものではあるのだが、それはアンジュも例外ではなかった。必然と、邪魔者を見る眼は厳しくなる。


「ほほう、君が彼女の連れか。では改めて」


 アンジュの目がシャティルを見据えて鋭くなった。


「この戦争が終わったら、レティシアを食事にお誘いしてもいいだろうか?」

「素直に申し込んでくるなっ!」

「言ったのは君じゃないか」

「却下だっ!大体、『この戦争が終わったら』って、そういうの死亡法則(フラグ)って言うんだろうがっ!」

「そう、だからこそだ!これは私の覚悟を上乗せした誘いなんだ。男なら君だって私の気持ちは判るだろう?」

「そこは判らないでもないが」

「ではオッケーということで」

「だが、断る!」


 大声で繰り広げられる掛け合いに、自然と周りの注目を浴びる男二人。

レティシアはどうしようとオロオロとしていたが、その均衡を破ったのは知った声だった。


「おいっ!そこの赤鎧と銀匠!作戦準備するからお前らも来い!嬢ちゃん、あんたもだ!」

「銀匠ってなんだよ、略すなよ!」

「赤鎧とは失敬なっ!それをいうなら貴殿こそ白ターバンではないか!」


 いがみ合ってた二人の男が共同してバルフィードに食ってかかるのを見て、レティシアは足下のクアンを拾い上げて半眼で話しかけた。


「こんな気分ってなんて言ったら良いんだろうね?」


“ぐんにゃりニャ~”


 念話で返すクアン。

 レティシアは脱力して溜息をつくのであった。


宜しければ応援、感想、レビュー、ブクマ登録等、よろしくお願いします!

お盆明けでまたしばらく忙しくなりますが・・・・・・週一は最低でも保ちたいです^^;

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